『なのはEXGV』第9話の副題は『EXCEEDS』。九本の副題で括弧が付くのはこの回だけで、実際に組織名はこの回だけ二度、声に出して名乗られる。一度目は追われている四人を支局へ迎え入れるため、二度目はラボへ踏み込むためだ。そしてトワが持っていった力は一つも通じず、置いていったものだけが届く。冒頭でマナが漏らした自慢が、そのまま終盤の住所になる回でもある。




副題『EXCEEDS』は、この回で二度声に出される
公式サイトに載った第9話の副題は「『EXCEEDS』」。二重かぎ括弧まで含めて副題である。第1話からの九本を並べてみると、括弧が付いているのはこの回だけだ。人名だけの回もあれば、作戦名や地名がそのまま題になった回もあるのに、名前をわざわざ括弧でくくった回は他にない。
くくった理由は、本編を最後まで見ると分かる。この回で「EXCEEDS」という組織名は、二度はっきりと声に出して名乗られる。しかも一度目と二度目で、名乗りの使いみちがまるで違っている。
迎え入れる名乗りと、踏み込む名乗り
一度目は極東支局の応接室だ。「改めまして、ようこそEXCEEDS極東支局へ」「EXCEEDS総督の八神はやてです」。指名手配の仲間として追われている側を建物の中へ通し、こちらの組織名を先に差し出す。迎え入れるための名乗りである。
二度目はラボの正面。「国連危険生物調査機関EXCEEDSです」「侵略種調査のため強制捜査を行います」。同じ名前が、今度は踏み込むための名乗りになる。副題が括弧付きなのは、この回で名前そのものが二回使われる道具だからだと読める。
第2話ではスラッシュで隔てられていた
この題を面白くしているのは、第2話の副題が「国連調査機関EXCEEDS/魔人狩り」だったことだ。同じ語がすでに一度使われていて、そのときは斜線の左側でしかなかった。右側には魔人狩りがいて、二つは並記されるだけの関係だった。
第9話の題に斜線はない。魔人狩りの四人は自分の足で支局に入り、名乗り、頼み、そしてEXCEEDSの側が動く。斜線で隔てられていた二つが、七話ぶんかけて一語に畳まれた形になっている。
頼みに来た側が先に罪を認め、頼まれた側が先に謝る
支局での場面は、一見するとただの説明パートだ。ところがここでのやりとりは、頼む側と頼まれる側の順番がことごとく逆になっている。
用件を言い直したのは、頼みに来たほうだった
八神はやては用件を法律の言葉で確認する。「夜海トワさんの冤罪を晴らし、不当な拘束から解放すること、ということでよろしいですか」。組織が受けられる形に整えた、きれいな要件定義である。
返ってきたのは「それもありますが」だった。「私たちは何より、トワさんを助けたいんです」「このままじゃトワさんが死んじゃうんです」。整えられた用件を、頼みに来た側が押し戻して言い直している。この一往復が、後で効いてくる。
彼女たちは自分の側の罪も先に差し出す。「薬の流通ルートから売人を潰して、力をつけながら探してったんです」「それが犯罪というのは承知の上ですが、そうしなきゃもっとたくさん人が死んでたもん。大人も子供も」。最後は「全部終わったら逮捕でも何でも」「頼める筋じゃないのはわかってます」まで行く。
思っていることを全部そのまま言っていただいて
怒りをぶつけたのはアオイだ。「あんたら国や警察が魔人化薬なんてものを放置してるからじゃない」。仲間に名前を呼ばれて止められかけるが、はやては止めさせない。「大丈夫です」「思っていることを全部そのまま言っていただいて」。
そのうえで先に頭を下げるのも、頼まれた側である。「そこから派生する被害を防げなかったことは、本当に申し訳なく思います」。続く一言が、この作品の立て方をはっきり見せる。「過去は取り戻せません。ですが未来は望む形に変えていけます」。取り戻せないと認めたうえで、変えられるものだけを約束している。過去のために動いているトワと、ちょうど裏返しの構えだ。
トワが手放したものだけが、ちゃんと届いている
前回のトワは、仲間の魔人能力を取り上げて一人で出ていった。持っていったものは全部、この回で通用しない。逆に、置いていったもののほうが確実に働いている。
置いていったスマホに、言えなかったことが全部あった
「トワちゃんが置いてったスマホ、見たらダメかなって思ったんだけど、なんか見ちゃったの」。中身は写真とメッセージ、そして日記のように書かれたカレンダーだった。「今日もシイナと話せた。楽しかった」「シイナみたいに優しい子が不幸な目に合わずに済むようにしたい」。
仲間についての記述も読み上げられる。「食事や洗濯みたいな些細なことへの感謝とか」「私たちが楽しそうにしているのが見ていて微笑ましかったとか」「魔人狩りなんて早く終わりにして普通に生きていってほしいとか」「アオイやユズにも友達ができるといいなとか」。本人が誰にも言わずに済ませたことが、そっくり残っていた。
面白いのは、それを読んで国連の前で明かしているのが、能力を取り上げられて何もできなくなった四人だという点だ。戦う手段を全部奪われた側が、代わりに持ち主が隠したかった中身を差し出して交渉している。行儀のいい行いではないが、この回でいちばん効いた一手でもある。
ユズの生い立ちだけ、本人の口から出ない
四人の生い立ちは順番に語られる。魔人に襲われて薬を打たれた者、魔人の食料として売られて薬を打たれた者と続き、それぞれ自分の言葉で話す。ところがユズのぶんだけは、本人ではなく仲間の口から出る。「ユズなんて」と始まり、薬のブレンド実験に使われていたこと、ひどい状態のところをトワに助けられたことが代わりに説明される。
この四人が、悪党以外にも手をかけざるを得なかったことも同じ場面で明かされる。「そういうのを相手にするとき、トワさんはいつも私たちを関わらせたくないって、全部自分で背負おうとしてて」「私たちの前では平気な顔をしてたけど、きっとすごく大変だったし、辛かったと思う」。庇い合いの方向が、ここでも一貫している。
能力を取り上げた者が、取り上げられる側に回る
後半は篠宮マナとの一戦だが、勝敗そのものより、勝ち方の説明のほうが重い。
勝てない理由は能力ではなかった
マナは自分から選択肢を並べて、全部消してみせる。「なんで勝てないと思う?」「鎮静薬がまだ効いてるから?」「私が何か特別な能力を使ってるから?」「違うんだな」。残った答えが「私が純粋に強いから」だ。搦め手も切り札も持ち出さず、地力の差だと言い切る。
そのうえで、トワが一人で出頭した理由まで否定する。「トワちゃんの友達も子分たちも、全部私に殺されちゃうかもね」「トワちゃんが弱いから」。仲間を狙わせないために単身で来たのに、負けた瞬間、その理由ごと成立しなくなる。
強さの中身が、トワの憎んでいるものそのものだった
努力の中身も本人が説明する。「トワちゃんがラボからいなくなった頃から、私も努力したんだよ」「実験体の子たちをたくさん食べて、新しい薬を作って使ったから」。つまりマナの強さは、トワが根絶すると誓った当のもので出来ている。憎む対象を潰しに行ったら、その対象が育っていて負けた、という構図になる。
連れ帰る際の指示も並べて聞くと効いてくる。「いろいろバラして、血と内臓をもらって、実験しまくってあげる」「能力抽出テストの準備をしといて」。前回のトワは仲間から能力を取り上げて出ていった。この回のトワは、取り上げられる側として運ばれていく。同じ動作が一段上から重ねられている。
冒頭の自慢が、そのまま住所になっていた
この回でいちばんきれいに閉じているのは、実は冒頭とラストの因果だ。しかも仕掛けたのは、負ける側ではなく勝っている側である。
あの場所であの素材がないと作れない
冒頭、蔵木エイジからの電話で特急薬を求められたマナは、こう答える。「特急薬は私のラボでしか作れないからね」「あの場所であの素材がないと作れない、超高級品」。値打ちの説明のつもりだが、言い換えれば薬の一本ごとに製造場所が刻まれている、という自白である。
その特急薬を、魔人狩りの四人は保管していた。「ものすごい価格で取引されてる特別な薬で、手がかりになるかもって保管してたんです」。差し出された薬は遺伝子データになり、「なのはさんの予想通りで間違いないと思います」「情報が繋がりました」へつながる。
アジトが早く見つかったのではない
場所の割れ方が早すぎるという声も出た回だが、順番を追うと早くはない。唯一の場所でしか作れないと本人が言い、そこでしか出ない薬が一本手元にあり、照合できる機関が動いた。必要な材料は冒頭で全部そろっている。
とどめは、ラボへ運び込んだ直後の指示だ。「エイジ君に特急薬を1ケース届けといてね」「ゲートは開けっぱにしてあるから」。足がつく薬を外に出す指示と、門を開けたままにする指示を、同じ息で出している。その直後に爆発音が入る。
逮捕と発表された四人が、保護と発表し直される
支局で作戦が決まったあと、はやてが最初に出した指示は出動ではなく広報だった。「今回の事件についてマスコミと警察に連絡を」「マスコミにはヨルミトワ氏の協力者4名を保護したこと」。
名前はやはり読まれない
前回の締めで流れたニュースは、国連調査機関の発表として四人を「緊急逮捕」と伝えていた。今回、同じ組織が同じ四人を「保護した」と発表し直す。一話またぎで、同じ人数の扱いが逮捕から保護に書き換えられる。
ただし、書き換わったのは扱いだけだ。今度も「協力者4名」であって、名前は一つも読まれない。支局では四人とも自分の名を名乗っていたのに、外へ出る文面では人数に戻る。前回の「4名のうち3名は10代の少女」と、扱いだけが違って形は同じである。
警察側の反応も短い。「面会できないってどういうことですか」に対して返るのは「お答えできません」。詰められても同じ一言が二度出るだけで、そこで「では帰れませんね」と切り返される。言葉が通じない相手には、居座るという手段しか残っていない。
最後の一行は、手続きの言葉ではなかった
なお、第8話のエンディング後に出た「盤面を進めるよ」「出動準備よろしくな」は、この回の本編に台詞としてそのまま置かれている。先に見せられていた一行が、二十分すぎに着地する形だ。
そしてラボの正面で読み上げられる文面が、この回の答えになっている。「国連危険生物調査機関EXCEEDSです」「侵略種調査のため強制捜査を行います」までは、組織が言える範囲の言葉だ。ところが本編の最後の台詞は、その後ろに足された一行のほうだった。「それから、誘拐された友達を引き取りに来ました」。
冒頭で用件を「冤罪を晴らし、不当な拘束から解放すること」と整えたのは、この組織である。それを「何より、トワさんを助けたい」と押し戻したのは、頼みに来た四人だった。押し戻された言い直しが、そのまま強制捜査の口上の末尾に一行足されて返ってきている。副題が組織名だけになっているのは、たぶんそのぶんの意味だ。
































コメント