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第2話「ここで、暮らすのですか?」。獣人の儀を無罪で切り抜けた玲琳(中身)に下されたのは、雛宮の最果て、元・食糧庫への部屋替えだった。供につけられた女官・莉莉は、慧月に虐げられてきた恨みから世話を拒否して出ていく。だが玲琳は草をむしり、捨てられた食糧が芽吹いた芋やウリを収穫し、黒穂菌の働いたマコモダケまで料理してみせた。一方、玲琳の身体を得た慧月は、冬雪が届けにくる「鍛錬の品」に、胡蝶の正体を思い知らされていく。




部屋替え——雛宮の最果てへ
「この一年おそばでお仕えしてまいりましたが」
第2話は部屋替えから始まる。粗い朱色の衣をまとって現れた女官が告げたのは、「後宮をこのように騒がせた者に、たとえ無罪であれ、これまで通りの待遇はできない」という朱貴妃の意向だった。獣人の儀で無罪を勝ち取っても、朱慧月の身体で戻った玲琳の立場は少しも良くなっていない。
ここで一つ、痛い場面がある。「えっと、あなたは」と名を尋ねた玲琳への答えが「莉莉でございます。この一年おそばでお仕えしてまいりましたが、あなた様にはその程度の認識でございましょうね」。玲琳は入れ替わったばかりなので当然知らないのだが、莉莉にしてみれば、一年仕えて名前も覚えられていなかった証拠が積み上がった形になる。
朱貴妃への挨拶を願い出ても「謹慎せよと通達をいただいております」で遮られる。玲琳の「朱貴妃と雛女は後宮において母と子にも等しい縁を結ぶはず。おばさまでしたら、まずは話を聞こうとなさるのに」という反応は、皇后に育てられた側の常識である。しかも続けて「もっとも私が罪を犯していたら、自らの手で私の首を落とされるでしょうけど」と言うあたりが、この人らしい。
無罪を勝ち取った直後に部屋替えという落差の付け方が容赦ない。そしてその第一撃が「一年仕えた女官の名前を知らない」という小さな形で来るのが、入れ替わりものとしてよくできている。
元・食糧庫、雛宮の最果ての地
案内された新しい部屋は元は食糧庫だった建物である。「廃棄された今では虫や菌の温床となっている場所でございますが」という説明つきで、道の向こうは藍家。つまりここは雛宮の最果ての地だった。「追放されたのですね」という玲琳の理解は正しい。
そして莉莉が本性を出す。「そうだよ、殺そうとしたんだろ。そんな大馬鹿女がだからこんなところに追い入れたんじゃ、廃屋で世話をしろ、私まで死ねと言われてんのと一緒だ」。積年の恨みも噴き出す。「私のことを卑しい踊り子の娘だからって散々バカにしてきたくせに」「どんなに取り繕っても、男を誘う母親の血は消えないわね」——後半は慧月に言われた言葉の引用である。
玲琳の観察が的確だ。琥珀色の瞳、赤みの強い髪、下町の住人のような話し方。朱家のどなたかが移民の踊り子と、という出自こそが、側付き女官でありながら最下位の粗い朱色の衣しか与えられない理由なのだと察している。莉莉は「掃除も洗濯も全部あんた一人でどうぞ」「虐げられてきた女官たちも、誰一人協力なんかしないだろうしね」と言い残し、七日後の中元節の儀にも出なくていいという通達だけ置いて出ていった。
莉莉の罵倒が、よく聞くと慧月自身が言ってきた言葉の引用になっている。玲琳は身に覚えのない分まで浴びる位置に立たされていて、それを恨むどころか相手の出自を読み解いてしまうのがこの主人公である。
「塩を賜われます?」
賭けをしに来た鷲官長と文昂
様子を見に来たのは、後宮の風紀を取り締まる鷲官長・辰宇と、部下の宦官・文昂である。「獣人の儀で無罪になったとはいえ、朱慧月のために我々が監査に行く必要ってあります?」という文昂に、答えは「殿下が心配なさっているからだ。今後再び玲琳を害することのなきよう、警戒を怠るな」。「殿下は玲琳様命だからな」という補足つきである。
文昂の側にも事情がある。「宦官は決して雛女を傷つけてはならない、その掟を笠に着た彼女に、どれだけ皆苦しめられたか」。だから今の境遇を「いい気味ですよ」と言い、本人はまだ元の部屋を出たくないと騒いでいるだろうと賭けまで持ちかけた。
ところが当の本人は、庭で草をむしっていた。「ご覧の通り草むしりよ。こちらで快適に過ごせるように整備しようと思い立ちまして」。側仕えの女官はと聞かれれば「所要で出かけております」と庇い、お茶も出せずに申し訳ないと詫びる。宦官風情に茶を出すという発想自体が、文昂には理解できない。
監査に来たはずの二人が賭けの話をしている軽さと、庭で黙々と草をむしっている本人の絵。この落差だけで一場面が成立している。
願いはたったひとつ、塩だった
鷲官長の「何か用立ててほしいものはあるか?」に、文昂は身構えていた。「この一連のしおらしい振る舞いは演技ですよ。がっつり要求してきますよ。女官か金か、貴妃様への取りなしか」。そこへ返ってきた答えが「塩を賜われます?」である。
理由も理にかなっている。「大変幸運なことに雨水も芋も確保できそうなのですが、塩はさすがに一朝一夕には生成できそうになくて」。自力で調達できないものだけを最小限に求めた、という話でしかない。文昂の「あれは本当に朱慧月ですか?」に、辰宇は「獣人の儀の後、本人も以前の自分とは違うとは言っていたが、牢で大いに反省でもしたのだろう」と応じ、賭けは文昂の負けに終わった。
「別人になった」ことを、要求の大きさではなく小ささで伝えてくる。文昂が身構えて並べ立てた予想が長いぶん、返ってきた一言がよく効いている。
金家の誘いと、廃墟の食卓
「朱慧月をいたぶってくれればよいのです」
啖呵を切ったはいいものの、莉莉も食べていかなければならない。「朱家の恥さらしの雛女と踊り子の娘に与える食料なんてない」と追い払われ、「食料を手に入れられなきゃ、飢え死にするのは私も一緒だ」という現実に突き当たる。
そこへ声をかけてきたのが金家の上級女官だった。踊り子の娘とはいえ望んで生まれついたわけではないでしょうに、我が姫・金清佳様は心を痛めておいでです——と情に訴えたうえで、金家の中級女官がまとう白練の衣を与えると持ちかける。その条件が「簡単なことです。お前の主人、朱慧月をいたぶってくれればよいのです」だった。
莉莉が「なぜ玲琳様の仇討ちのようなことを」と問うと、答えは「玲琳様は殿下の胡蝶。殿下の寵愛を得たいならば、進んで玲琳様に忠誠を誓えばいいのです」。つまり朱慧月を弾圧して、金家が黄玲琳派だと演出するための駒として使われるということだ。報告のたびに褒美を与えると言われ、莉莉はそれを受け取ってしまう。「これは悪いことなんかじゃない。生きるためなんだ」。
先に情へ訴えてから条件を出す、という金家の女官の順番が不気味だ。莉莉が追い詰められる過程を丁寧に見せられた後なので、取引を受け取った選択を簡単には責められなくなっている。
黒穂菌とマコモダケ
莉莉の予想は明快だった。朱慧月はきっと今頃、草と虫に囲まれて泣き崩れているはず。額を擦り付けて詫びるなら一口分けてやろう、これまでの分をまとめて吠え面をかかせてやる、と。戻ってみると、揚げ物と油菜の炒め物ができていた。
種明かしはこうである。ここは元食糧庫なのだから、捨てられた食糧が密かに芽吹いていた。多種多様な実を科目ごとに仕分ければ芋、ニラ、ウリが揃う。木を祀る藍家との境でもあるから、植物を育む気に満ちているのかもしれない。「本当に楽園のような場所です」という感想まで出てくる。
極めつけが菌の扱いだった。恐ろしい菌が湧くという噂に対する返事が「菌、そう菌。黒穂菌がまた素晴らしい働きをしてくれました。マコモが立派なマコモダケになっていますの」。書物で溜め込んでいた知識を次々実践できる機会に恵まれて幸せだ、と本気で言っている。塩と油の出どころを問われれば「親切な鷲官長様たちに賜りました」、しかも「塩はね、いざとなれば涙で賄えればとも思ったのですが」と付け加えるので、莉莉の「いや、そのたくましい発想どこから来たの?」も無理はない。
何か企んでいるなら吐けと迫られた玲琳の答えが、この回の締めの一つになる。「乞巧節の夜を最後に、私すっかり別人になったのです。今私の口からお話しできるのはこれだけのようですわ」。嘘を言っていないのに真実も言えない、という第1話からの制約がここでも効いている。莉莉の内心は「この女を絶望させることなんてできるの?」だった。
廃墟を「楽園」と呼ぶまでの理屈が全部通っているので、ただの無双話になっていない。「涙で賄えれば」に莉莉がすかさずツッコむ形になっていて、視聴者と同じ位置に立ってくれている。
胡蝶の身体を手に入れた慧月
甘やかされる心地よさと、その来歴
一方、玲琳の身体を得た慧月は、女官たちに手厚く世話をされていた。「頼ってもらわなければ私どもも切のうございます」「どうかわずかな異変であっても遠慮なくお訴えくださいませね」。内心の呟きが「これだけ大切にされたなら、どぶねずみだって優雅で繊細な蝶になろうというわけですよ」である。
ここで彼女の来歴が明かされる。一年前、術師崩れの父と朱家末席の母が借金を重ねた挙句に自殺し、本家の次女となった慧月は、里帰りしていた朱貴妃に見初められて雛女に指名された。だが適性もなく、哀れみの心を持って選ばれただけで、幸運はそこまでだった。女官たちに蔑まれても貴妃はオロオロするばかり、他家の雛女たちからも嘲笑される。「あの女だけは違った。だからこそ憎い」という結論に至る過程が、短いカットで手際よく積まれる。
見舞いに来た尭明に「お兄様にご心配をおかけしてしまうことだけが心苦しゅうございます」と甘えてみせ、「甘えてくれるとは珍しいな」と喜ばれる。そして内心で確認するのが、この作品の要である。「万が一入れ替わりが露見しても人質にすればいい。元の体に戻せるのは私だけなのだから」。
慧月の来歴が短いカットで手際よく積まれるので、憎悪の理由がきちんと腑に落ちる。そのうえで、手に入れた身体で最初に確認するのが人質としての価値だというのが、この人の立ち位置を示している。
冬雪が届けに来た「鍛錬の品」
そこへ冬雪が現れる。用件は「玲琳様が熱を出されてからもう二日となりますゆえ、鍛錬の品をお届けに」。献立は、夜を徹しての刺繍、写経百本、舞踏稽古、各種楽器練習、基礎体力作り。「今宵はどれになさいましょう」と真顔で聞かれて、慧月は絶句する。
相手は病人よ、という抗議に返ってくるのが玲琳自身の言葉だった。「命の危機に瀕しているときこそ、体は最も貪欲に知識技術を身につける。熱で朦朧としているときこそ、限界の向こう側を垣間見られるのだ」。初めて看病したときに事もなげにそう言った玲琳を思い出すたび、この冬雪、身に震えが走ります——と、感動の方向がすでにおかしい。努力を尊ぶ黄家の血を誰よりも濃く継いだお方、皇后陛下まで巻き込むようになった鍛錬、と讃辞も止まらない。
「起き上がるのも苦しいほどの熱があるのよ」には「理想的な状況ということで、これまでにない高みに登れそうでございますね」。たまらず「これは移る病のような気がします。下がってちょうだい、即座に」と追い払おうとすれば、「なんと、これほどまでに体調を崩されていたとは。すぐに侍医をお呼び致しましょう」と逆効果になる。気遣いの言葉すら、玲琳らしさの証明として回収されてしまうのだ。
そして慧月がたどり着いた結論が、第1話からの見え方をひっくり返す。黄玲琳は皆に守られ甘やかされた繊細な胡蝶ではなかったのか——まさか過保護に扱われているのは、あの女が物理的に死ぬほど無茶をするから、心配せずにはいられないということ。欲しかった身体を手に入れた側が、その身体の意味を思い知らされていく。
笑わせにきている場面が、そのまま第1話の見え方を裏返す仕掛けになっている。守られる胡蝶ではなく守らせる側だった、という反転が、鍛錬の献立という馬鹿馬鹿しい形で差し出されるのが上手い。
まとめ——入れ替わったのは、身体だけではない
同じ「与えられる場面」で、二人の差が出た
第2話は、玲琳と慧月の境遇がそっくり反転した回だった。最果ての廃屋に落とされた玲琳は、そこを「楽園のような場所」と呼んで畑と食卓を作り出す。憧れの身体と手厚い待遇を手に入れた慧月は、その手厚さの理由を知って青ざめる。境遇が人を作るのではなく、その人が境遇をどう扱うかで結果が変わる——二つの場面を並べるだけで、それが示されている。
わかりやすいのが、どちらも「何かを与えられる場面」を持っていることだ。玲琳が鷲官長に求めたのは塩ひとつ、それも自力で作れないものだからという理由つき。慧月は尭明の見舞いに甘えてみせながら、内心で人質としての価値を確認している。同じ状況に置かれたときの反応の差が、この回でいちばんはっきり出た。
中元節の儀までに、莉莉がどちらへ動くか
残された糸は三本ある。莉莉が受け取った白練の衣と「報告のたびに褒美を」という金家との取引、七日後に控える中元節の儀、そして玲琳が「乞巧節の夜を最後に別人になった」までしか言えない制約である。
莉莉はまだ味方ではない。金家の駒として動くことを選び、実際に取引を受け取っている。ただ、廃墟の食卓を見せられた後の内心が「この女を絶望させることなんてできるの?」だった。いたぶれと命じられた相手が、いたぶりようのない人間だったわけだ。出席を禁じられた中元節の儀までのあいだに、この関係がどう転ぶのかが次回の焦点になる。





















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