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第3話「エルナ襲来」。皇帝が数十年ぶりに復活させたのは、各近衛騎士隊が狩ったモンスターを競う「騎士狩猟祭」だった。優勝者に与えられるのは全権大使の座。レオを勝たせたいアルノルトにとっては好機であり、同時に兄姉の誰かが取れば脱落という危機でもある。そんな折、シルバーとして受けたケルベロス討伐で鉢合わせたのが、天敵の幼馴染エルナ。しかも彼女は自ら志願してアルノルトの担当騎士隊に就いてしまう。




騎士狩猟祭の復活
皇帝の招集と、居並ぶ皇子皇女
第3話は重臣会議の場から始まる。呼ばれたのは皇帝の子供たち全員だった。外務大臣を務める第二皇子エリク、第二皇女ザンドラ、第三皇子ゴードン、第四皇子トラウゴット。カルロス、コンラート、そして第七皇子アルノルトと第八皇子レオナルト。さらにヘンリック、第三皇女クリスタ、ルーペルトと続き、国境警備にあたっている帝国元帥・第一皇女リーゼロッテだけが欠席している。
空気は最初から不穏だ。要件を問われた皇帝に対し、ゴードンが「戦争なら、ぜひ俺に行かせていただきたい。帝国の意を余すことなく、敵国に叩き込んでみせましょう」と切り出す。ザンドラの「口を開けば戦争、戦争。脳筋にも程があるわ」に対して「軟弱な魔導士には分からんだろうな。戦場で活躍し、戦場で散るのが武人の誉れ」。そんなに誉れが欲しいなら私が今ここでプレゼントしてあげましょうか、というところまで行って、ようやく止まった。
皇帝の反応が一番怖い。「競い合うのはいいことだ。わしも、そうやって皇帝になったからな」。そのうえで、皆には競い合ってもらおうと思う、と続けた。
顔ぶれを一度に並べる回なので説明が多くなりそうなものだが、兄弟げんかを一往復させるだけで力関係が伝わってくる。止めるどころか肯定してみせる皇帝の一言で、この帝位争いの土壌がどこから来たのかもはっきりした。
賞品は皇太子ではなく「全権大使」
復活させるのは騎士狩猟祭だという。各近衛騎士隊が狩ったモンスターのレア度や大きさを競う祭りで、モンスターが多かった時代には頻繁に行われていたが、冒険者が増えるにつれて行われなくなっていた。冒険者ギルドの仕事を奪うのでは、という懸念にも手当てはされている。すでに本部の許可は取ってあり、各地の支部では対処しきれていないので、むしろ開催してほしいとのことだった。
問題は賞品である。何がいただけるのか、というゴードンの問いに、皇帝は「お前は何が欲しい」と聞き返す。返ってきた「次期皇帝に一番近い皇太子の座です」に、レオが「頭に馬鹿がつきますがね」と混ぜっ返して一悶着。そして皇帝の答えが「皇太子の座をこんな祭りでは決められん」だった。諸外国から笑い者にされるわ、とザンドラも同意する。
代わりに提示されたのが全権大使の座である。どの騎士隊を誰に割り振るかは皇帝自らが公平に行い、共に出撃してもよし、陣地に留まって吉報を待つもよし。大いに祭りを盛り上げてほしい、と会議は締められた。
皇太子の座を出さないことで、この祭りが「決着」ではなく「前哨戦」だと明示される。望むものを先に言わせてから却下する運び方も、この皇帝が子供たちをよく見ていることの証明になっていて面白い。
好機であり、危機でもある
「お前がやるしかないんだ」
会議の後、兄弟が言葉を交わす。全権大使か、僕は兄さんがなるべきだと思うけどね、というレオに、アルは「俺が他国と良好な関係を築けると思ってるのか?」と返す。思ってるよ、と即答が返るのがこの弟である。
それでもアルの結論は変わらない。「けど、俺じゃ狩猟祭を勝ち抜けない。お前がやるしかないんだ」。戦う相手が身内ってのは気がめいる、と漏らしたレオに「じゃあ諦めるか?」と水を向ければ、「ううん」と首を振ってこう続けた。母上や兄さん、僕なんかについてきてくれる人たち全員を背負わなきゃいけない。僕が勝ち抜かなきゃ、ろくな未来が待ってないだろうから。
そのうえで「僕だけじゃ力不足だ。兄さんの力、フィーネさんの力、みんなの力を貸してほしい」と頭を下げる。
弟が兄を推し、兄が弟を推す。譲り合いに見えて、二人とも自分の役割から目を逸らしていないのがいい。とくにレオが「背負わなきゃいけない」を義務として口にするので、次期皇帝候補という肩書きが飾りでないことが伝わってくる。
開催地は帝国東部という読み
陣営の作戦会議は、セバスの「厄介なことになりましたな」から始まる。俺たちにとってはピンチだぞ、というアルに、フィーネが「むしろチャンスだと思うのですが?」と食い下がる。レオ様の優秀さはアル様が一番知っているのでは、という理屈である。
アルの整理はこうだ。チャンスはレオが全権大使になる可能性があること。ピンチはライバルであるエリク、ザンドラ、ゴードンのうちの誰かが全権大使になれば、自分たちが帝位争いから脱落すること。騎士隊にとっても寝耳に水で、皇帝と側近だけで決められた話らしい。勝敗は候補者の実力とレアモンスターに遭遇する運次第、そして開催地は帝国東部だという予想が出る。モンスターの被害が最も甚大で、冒険者の討伐が追いつかず、騎士隊も派遣されていない地域だからだ。
ここでアルが漏らす読みが不穏でいい。「あえてモンスターを残しておいて、祭りの開催地にする、か。確かに父上ならやりかねない」。ならばこちらも同じ手を、とシルバーとしてモンスターを東部へ追い込む案が口に出るが、フィーネの「ダメです、そんなこと」で即座に潰れる。祭りが始まるまで東部の民が被害を強いられるから、というのはアル自身も分かっていた。君の意見は常に正道だからな、という言葉に、セバスが「そのままのフィーネ様がお好きだという意味ですよ」と横から茶々を入れる一幕もあった。
暗躍する主人公が自分で出した手を却下される場面として、この短いやり取りは効いている。フィーネが理屈で勝ったわけではなく、単に正論を言っただけというのがいい。アルの側も止められる前から答えを持っていて、確認のために口に出した、という運びになっている。
SS級冒険者シルバーと、第三騎士隊隊長
突然変異のケルベロス
そこへギルドからの依頼が舞い込む。討伐対象は突然変異のケルベロスで、AAA級の賞金首。すでにいくつかのパーティーが返り討ちにされていて、もうSS級のシルバーに頼るしかないという。
引き受けたアルの独り言が本音である。「この忙しい時期に帝国領に迷い込んでくるなよ」。現場でも「確かに普通の冒険者なら手こずるだろうな。さすがAAA級、一撃では倒せないか」と評したうえで、「なら、討伐完了だ」で片づけてしまった。
AAA級を二手で終わらせる手際が、そのまま実力の説明になっている。帝位争いの話が続いた後なので、ここで一度戦闘を挟む構成も効いていた。
エルナとの初対峙
爆発を聞きつけて現れたのが、近衛騎士団所属・第三騎士隊隊長のエルナ・フォン・アムスベルグだった。ケルベロス出現の知らせを受けて来たが、もしかしてあなたが討伐したのかしら、と問う相手に、シルバーは「見て分からないのか。勇者家の御令嬢はあまり目がよろしくないようだ」と返す。
そこから舌戦になる。少し活躍しているだけで随分と調子に乗っているようね、最近じゃ帝都の守護者なんて言われているようね、帝国の守護者と称されている我がアムスベルグ家への挑戦ということ——というエルナに、シルバーは民が勝手に言っているだけだ、その異名には興味がない、と取り合わない。勇者家はよほど名声が大事と見える、誰かが称賛されるのも許せぬとは小さいことだ、と切り返す始末である。
収めたのは部下だった。冒険者ギルドから依頼が出ていたとなれば非は我らにあります、それに我らは帝都に急がねばなりません、と諫められ、エルナも矛を収める。去り際の「帝国を守るのは我が勇者家であり、騎士たちであり、兵士たちよ。覚えておきなさい」に対する返事が、「一応覚えておこう。すぐ忘れるかもしれないがな」。そして仮面の下の内心が「幼馴染のエルナを生まれて初めて手玉に取れた。今まで一度も口喧嘩でも腕力でも勝てたことがなかったのに」——直後に我に返って「何やってんだ俺は」。
正体を隠している利点を、権力でも情報でもなく口喧嘩に使ってしまうのが可笑しい。勝ち逃げした直後に自己嫌悪へ落ちる緩急で、この二人の力関係が説明抜きで分かるようになっている。
エルナ襲来
7歳の「軟弱者」
騎士隊の割り振りを待つ場面で、アルの願いは一つだけだった。「エルナだけは来るなよ」。セバスの評価は高い。勇者の末裔でもあるアムスベルグ家の中でも、11歳で近衛騎士団に入団し、14歳で隊長になった神童で、当たれば神引きもいいところだという。アルの返事は「実力だけはな。人間的に無理だ」。品行方正で将来の近衛騎士団長と言われておりますが、と重ねられても「外面だけはいいからな」で終わりである。
理由は7歳まで遡る。いじめられていたアルを助けたエルナが、その場でかけた言葉が「軟弱者」だった。しかもその後、稽古と称して一方的に打ちのめされている。傷心の子供にかける言葉か、というぼやきの通り、アルはその日からエルナに出会わないように遊ぶ羽目になった。苦手意識を植え付けられたのだ。
あいつは悪魔みたいな女なんだ、なぜこの感情が伝わらないんだ——と力説している背後から「誰が悪魔みたいな女なのかしら」。セバス、騎士を呼べ、悪魔が現れたぞ、と叫んでも「残念ながら誰も来たりはしないでしょう。この場に最高の騎士がいますので」と返されて逃げ場がない。
トラウマの中身が、暴力ではなく「助けてもらった記憶ごと台無しにされたこと」なのが上手い。本人不在で悪口を言っている最中に本人が現れる、という古典的な段取りも、この二人の場合は必然に見えるのがいい。
スパルタ特訓と、転がり込んだ最強のカード
案の定、アルに就いたのはエルナ率いる第三騎士隊だった。しかも本人の希望である。相方はアルがいいって皇帝陛下に頼むの、大変だったのよ——余計なことするなよ兄上姉上に睨まれるだろうが、というやり取りの後、「陛下にアルをちゃんとさせますって宣言したんだから」という宣戦布告が飛び出す。だからこれから特訓よ、魔術の腕がどれくらいになったか見てあげるわ、と修練場へ連行された。
頭が痛くなってきた重い病かも、という仮病も「それは仮病という重大な心の病です。心身を鍛えれば治るかもしれませんぞ」で通用しない。裏切り者、と言い残して引きずられていったアルは、当然のようにボロボロで帰ってくる。薬を塗るフィーネに種明かしをするのがセバスだ。アルノルト様は古代魔法に特化しているので基礎体力は一般人以下、魔術も剣術も現代魔法も稽古をさぼり続けているので大した腕はない。本人も「古代魔法で身体能力の低さをごまかしてる」と認めている。
ところが、ここでセバスが「物は考えようですな。レオナルト様には好機となりました」と言い出す。アルの説明はこうだ。エルナは最強騎士と言っていい。だから自分が優勝しても、誰もそれを自分の力だとは思わない。無能を演じたまま本気を出せるカードが、向こうから転がり込んできたことになる。それでもベストはレオが優勝することだ、と譲らないあたりは相変わらずで、セバスに「もっともらしいことを言っていますが、全権大使が面倒なだけでは」と見抜かれていた。
嫌々従っているように見せて、実は一番おいしい形に収まっている。この回のアルは終始振り回される側なのに、結論だけは自分の望む場所へ着地しているのが可笑しい。フィーネが漏らした「親身になってくれる幼馴染がいるのはうらやましいです」に対して「面倒なだけだぞ」としか返せないのも、いかにもこの人らしかった。
まとめ——天敵が、最強のカードに変わった回
動き出した盤面と、変わらないアルの方針
第3話は、帝位争いの舞台装置が一気に出そろった回だった。皇帝が騎士狩猟祭を復活させ、賞品として全権大使の座を置き、開催地はモンスターを残したままの帝国東部。エリク、ザンドラ、ゴードンという競争相手も顔を見せ、誰かが取れば脱落という条件が全員に等しくかかった。
その中でアルの方針だけは一貫している。表では無能を演じ、裏ではシルバーとして動き、勝たせるのはあくまでレオ。東部にモンスターを誘導する案を自分で出して自分で捨てたように、暗躍の範囲から民を巻き込むことは最初から外れている。その線引きがあるからこそ、この主人公の「暗躍」は安心して見ていられる。
狩猟祭本番と、最後に現れた老人
次回に向けた楽しみは三つある。エルナの特訓がアルをどこまで引き上げるのか、レオを勝たせるという建前とエルナが優勝させるという宣言をどう両立させるのか、そしてフィーネとエルナが初めて顔を合わせたこと。レオの部屋ではなくアルの部屋であなたに会うことになるとは思わなかったわ、という一言には含みがあった。
そして最後に、古代魔法の研究をめぐる短いやり取りが差し込まれて終わる。相手は小柄な老人で、この回では正体も立場も明かされない。狩猟祭の本番を前に置かれた思わせぶりな一場面として、次回以降に効いてくることになりそうだ。




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