この記事の作品:
『乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です2』第8話の副題は「愛を数値ではかるなんておかしいよ!」。王家の船を動かす鍵は愛の力で、そのために愛を数値化する装置が持ち出される。ところがその装置を作った夫婦は二年で離婚している。前半は測れないものを測って人間関係が壊れ、後半は戦争の理由もまた一方の言い分では測れないという話になる。そして人は殺せないチキンと言われた男が、初めて引き金を引く。




総司令官になった男の第一声が「終わってる」
第8話は前半と後半で温度差が激しい回である。まず前半だが、開幕からこの作品らしい自己申告が飛び出す。
「この国はどこまで人材不足なんだよ」
総司令官の任を受けたリオンの第一声が、最悪だ、俺が総司令官とか終わってる、である。続けて国の人材不足を嘆く。ルクシオンの返しも容赦がなく、確かに最悪ですね、しかし全てはご自身で招いた結果かと、と切り捨てる。マスターのブーメラン芸は神業ですという追撃まで付く。
状況は切迫している。超大型に速度を合わせているのか進みは緩やかだが、到着まで二十四時間を切った。市民の避難を最優先とし、飛行船を動かせる者は誰でも使えという指示が飛ぶ。友人のダニエルたちを救助に回してくれと頼み、あいつらを前線に送るのは気が引けると漏らすと、代わりに別の人間が死ぬだけですが、と返される。言うなよ、で終わるこのやり取りが、後半への伏線になっている。
切り札は「愛の力だけ」で動く船
勝つために必要なのが王家の船で、これを動かせなければ負ける。ところが起動条件が特殊で、動かせるのは愛の力だけだという。ゲームでも攻略対象との親密度が一定数値以上でないと起動できなかった、とマリエが補足するが、真に愛し合う者同士が立てば持ち主と認められる、という装置の存在まではゲームになかったらしい。
王家の船に認められるのは英雄の末裔だけとされていて、建国に尽力した英雄たちの子孫がこの場に揃っているのも運命だろう、と国王が言う。リオンには出る幕がないとまで言われるが、その物言いが刺々しいのは息子をぼこぼこにして妻を口説いた前科があるからで、本人も心当たりしかないと認めている。
装置の正体が、この回のすべてを要約している
愛を数値で表示する装置が持ち出され、まずは国王夫妻が使い方を示すことになる。ここでルクシオンが調べた出自が明かされるのだが、これが今回いちばん効いている情報だった。
「おそらくジョークグッズに近い装置でしょう」
旧人類の資産家が自宅で作った飛行船で、ルクシオンの本体より前に建造され、新婚旅行で一度だけ使われた後に廃棄された。なぜ王家にあるのかは不明。そして最後に一言、ちなみにその夫婦は二年で離婚したとのことです。
この情報の置き方が見事で、愛の力で動く船を作った当人たちが、二年で別れている。つまり装置は最初から、測ったところで何の保証にもならないものを測っている。副題が示す結論を、開始十分で装置の来歴だけで言ってしまっているわけだ。国王夫妻の結果が五十八点だったことも、この文脈だと妙に説得力がある。
測る前から結論は出ていた
それでも全員が測りにいくのが、この作品の面白いところである。生易しい装置ではないと前置きされ、我こそはという者はいないのかと煽られ、次々に名乗り出る。装置の信頼性より、自分の順位のほうが気になってしまうという人間の弱さが、そのまま笑いになっている。
視聴者からもバラエティ番組の企画のようだという声が出ていて、実際そういう画になっている。シリアス展開に入る直前の清涼剤として置かれていることも含めて、構成としては計算されている。
五人が全滅し、なぜか国王夫妻の喧嘩に発展する
ユリウスたち五人が順番にマリエと挑むくだりが、今回の笑い所の中心である。全員が負けるのに、全員が同じ台詞で締める。
「いつか必ず振り向かせてみせます」の連鎖
先頭のユリウスは、いつも不甲斐ない自分たちに不満を抱くのも当然だと理解を示し、逆境でこそ愛は輝くと宣言してから挑む。結果は十七点。それでも、いつかお前を振り向かせてみせる、と言い残して退場する。リオンの内心が十七点の男が何を言っているんだ、になるのも当然だ。
問題はここからで、後続が全員同じことをする。殿下に負けたのは悔しいが必ず振り向かせてみせる、次は俺だ、俺は諦めない、今度は私の番だ、最後は僕の番だね。負けたあとの一言だけがきっちり全員分ある。挙げ句、マリエが申し訳なさそうにしているのがまた良い。もういいんだ、と言いながら私たちは諦めない、きっとお前の愛を手に入れると続くので、収拾がつかない。
飛び火する国王夫妻
そして飛び火するのが国王夫妻で、出会った時でさえ四十点なかったと責められ、ただの政略結婚に愛を求めるのかと返し、だったら私も愛する相手と結婚したかったという応酬になる。口先だけのキザ男、若作りのただのおっさん、と互いの評価まで飛び出す始末である。
リオンの評が、こっちは修復不可能だな、なのも身も蓋もない。数値を出しただけで、その場の人間関係が片端から壊れていく。装置は誰の愛も証明しないまま、隠れていた不満だけを全部掘り起こした。
「愛を数値で測るなんておかしいよ」
副題になっている台詞が出るのは、この惨状のさなかである。言い出すのがリビアだというのも収まりがいい。
誰も否定できない正論
ねえ二人とも、愛を数値で測るなんておかしいよ。喧嘩している国王夫妻に向けられた一言だが、この時点で装置に振り回されている全員に刺さる。正論なのに、誰もそれで手を止めないのが今回の構造で、直後にはリオンが引きずり出されている。
リオンの抵抗も情けなくて良い。自分はユリウスたちのようにメンタルが強くないから残酷な結果に耐えられない、数値が高すぎても恥ずかしいし低くても気まずい、全員が悲惨な可能性もある。断る理由を三つも並べているのに、どれも装置を否定していない。ルクシオンに助けを求めれば、他人は良くて自分は嫌など人としてどうかと思いますよ、と正論で返される。
動かないルクシオンを蹴る
この前後で、動かないルクシオンを蹴った相手に去り際のビームが飛ぶ場面がある。悪口を言われた程度で倍返しは酷いという指摘も出ていて、確かにやりすぎではある。ただこの容赦のなさが後半でそのまま牙を剥くので、ここだけ切り取って笑うわけにもいかない。
測ってみたら、想定していない組み合わせが出た
結果がどうだったかは伏せておくが、判明したのはリオンが期待していた組み合わせではなかったということである。
「盲点でしたが、正解の一つなのでしょうね」
ルクシオンの評が、同性同士は盲点でしたが正解の一つなのでしょうね、である。リオンの側は、正直少しは期待していた、殿下たちみたいな結果にはならないと思っていた、と正直に落ち込む。二人からの言葉も、なんて言っていいか分からない、という気遣いの形で返ってくるので、余計にこたえる。
締めがどうせ俺はお笑い担当のモブキャラだよなのが、この作品のタイトルを踏まえるとよくできている。モブに厳しい世界だという看板を、装置が数字で追認した形だ。視聴者からも予想外の展開として受け止められていて、リオンが不憫だという声が並んでいた。
結局、船は動かない
そして誰の組み合わせでも王家の船は起動しない。うんともすんとも言わなかった、で片づけられる。あれだけ人間関係を掘り返しておいて、目的だけは一つも達成していない。切り札を諦めた状態で後半の戦闘に入るという運びが、この回の緊張を作っている。
後半、歴史もまた一方の言い分では測れない
後半で温度が一気に下がる。前半が愛を測る話だったのに対して、こちらは戦争の理由を測り直す話になっている。
ヘルトルーデが聞かされてきた歴史
囚われの身のヘルトルーデは、公国は独立のため、不当な扱いをする王国と戦ったのだと信じている。妹が命と引き換えに呼び出した守護神は命令をやり遂げるまで止まらない、今度はあなたたちが蹂躙される番、と言い切る立場も揺らがない。
そこへ資料が突きつけられる。ねじ曲げられた事実を聞かされてきたのですね。公国の王は元をたどれば王国の大公で、地位を振りかざして暴虐の限りを尽くし、多くの地方領主が土地も財産も命も奪われた。力を増した大公家が公国を名乗り、各地への侵攻を繰り返した。近年の王国側の侵攻も、かつて奪われた土地を取り返すためだった、と。
「人が武器を取るのには、それなりの理由があるのです」
違う、公国は独立のために戦ったのだ、と反論するヘルトルーデが、最後は黙れとしか言えなくなる。それを受けた相手の言い方が落ち着いていて良い。紅茶が冷めてしまいましたね、入れ直しましょう。そのうえで、確かに王国は公国に攻め込みました。ですがそこに至る経緯を忘れてもらっては困りますと続ける。
締めが人が武器を取るのには、それなりの理由があるのです。前半で愛を一つの数字に還元しようとして失敗した回が、後半では戦争を一つの言い分に還元してはいけないという話をしている。測れないものを測ろうとするな、という主題が二度形を変えて出てくる構成になっている。
まとめ、「人は殺せないチキン」と言われた男が撃つ
別動隊の奇襲で王都に敵が侵入し、そこから今回の後味が決まる。この作品がどこまで踏み込むのかを示した場面だった。
逃げなかった学園の面々
市街に残っていたのが学園の先輩たちで、大臣の娘だから困っている人たちを置いて逃げられない、貴族の我々だけ逃げるのは民に顔向けできない、と言って避難を続けている。跪いて命乞いをしろと迫られても、ローズブレイド家の娘に命乞いなど似合わないと返す。
そこへ学園の男子たちが割って入り、周辺の市民は別の船に乗せたと報告する。学園の男子も捨てたものではありませんね、という評が付くのだが、ここまで散々ネタにされてきた面子が、まとめて株を上げるのが今回の裏の見どころだった。
友の船が落ちる
第三地区で味方の救助艦が落ちる。ダニエルの船だった。冒頭で、前線に送るのは気が引けると言って救助に回した相手である。安全な役目に回したはずの友人が、その役目の途中で落とされる。気を失っているだけだと告げられるが、リオンには十分だった。
敵の側の煽り文句が決定的で、一人で艦隊と黒騎士を抑えたという評判に続けて、とはいえ人は殺せないチキンらしいがなと言い、落とした者には下の女二人もつけてやると笑う。ここでリオンが撃つ。パイロットが死にます、という警告に対する返答がゲームじゃ散々やってきたじゃないか、今でもやってることだ、気にすんなよである。
「俺をここまで追い込んだのはお前らだからな」
チキンだと名指しされた直後に、その一線を越える。しかも越えた理由を、自分の変化としてではなくゲームでは散々やってきたこととして処理しようとする。落ち着いて聞こえるが、これは納得の言葉ではなく言い聞かせの言葉だろう。
締めの独白が、これなら婚活で悩んでいたほうがマシだった、である。逃げれば戦わずに済んだのではと問われて、そしたらもっと嫌なことになるから戦うんだろうが、と怒鳴り返し、最後に俺をここまで追い込んだのはお前らだからなと吐き捨てる。装置では測れなかった感情が、後半では一つの引き金として発射されている。前半のバラエティ企画が、そのための助走だったことになる。




関連作品:






















コメント