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『ポケットモンスター』第147話の副題は「激エモ!ポケモンコンテストざます!!」。結果は規定により失格で、それなのにその場で作られた審査員特別賞が同じ舞台の上で出る。そもそも出場のきっかけになった技からして、狙って出したものではなく、偶然重なったものだった。この回の中身は、ほとんど全部が記録の外側にある。そして最後まで、エモが何なのかは説明されないまま終わる。




偶然重なった技に、その場で名前がついた
この回は技の名前から始まる。技が偶然重なったんだね、という説明が入り、それを見ていた誰かが、エモいって思って、と言い出す。そして、名付けてエモスペシャル、と命名まで済ませてしまう。すかさず、お前が名付けるのかよ、という声が飛び、さらに別の声が、エモってなんだよ、と聞き返す。
名前は決まっているのに、その名前の意味だけが誰にも共有されていない。この妙な状態が、そのまま副題の激エモまで引き伸ばされる。
大事なのは、この技がどうやって出たのかがはっきり言葉になっていることだ。狙って出したのではなく、重なった。以前アカデミーであったバトルでも技がぶつかり合っていて、同じことを思い出していた、という会話も添えられる。つまりエモスペシャルは、二度目があるかどうか分からないものとして最初に置かれている。
作ろうとして作れるものではない、という受け取り方が出ていた。冒頭の技の成り立ちを見れば、その通りである。
見てもらいたい、という理由だけで出ることになる
出場の動機も勝ちたいではない。私たちのももっといろんな人に見てもらいたいな、という一言である。そこへ、可愛さ美しさかっこよさ、そういうのを競う大会なんだ、という説明が乗る。
順位を取りに行く話ではなく、見せに行く話として始まっている。この入り方を覚えておくと、終盤の失格の扱いがまるで違って見えてくる。
一人で三体に指示を出す、という条件
続いてコンテストの決まりが説明される。トレーナー一人がポケモンに指示を出す、という条件だ。ここで最初の問題が出る。ウェーニバルとマスカーニャが揃わなければエモスペシャルはできない。ところが三人と三体では出られない。
抜け道はすぐ見つかる。代表一人が他の人のポケモンを連れて出るのはアリだ、という。じゃあ代表はリコで決まり、と話は一往復で決まってしまう。ラウドボーンに向かって、リコの言うことをよく聞くんだぞ、と声がかかり、ウェーニバルにも同じ念押しが飛ぶ。
そして本人の心の準備が整う前に、話は先へ進んでいる。よしエントリー完了、えっもう、まだ心の準備が、という三往復である。出ると決めたのも、申し込んだのも、リコ本人ではない。
難しいのは他人のポケモンのほう、のはずだった
練習で出てくる壁も、はっきり言葉になっている。自分のパートナー以外に指示を出すのって難しいよね、という言葉があり、ラウドボーンもウェーニバルもリコとのコンビネーションに慣れてないから、と続く。
心配されているのは、借りてきた二体のほうである。本番で予定を壊すのがどちらだったかは、後で見ることになる。
コーチは昨日、動画を見ただけだった
ここにナヴィが入ってくる。公式の案内でも、コーチを自称するナヴィの特訓を受け、と書かれている。自称、である。
中身もすぐ割れる。お前詳しいのか、と聞かれて、昨日動画で見たから、と答え、見ただけかよ、と返される。コーチの資格は、前の日に動画を一本見たことだけである。
そのうえ、練習が行き詰まった場面でも同じことをする。コーチ、何かいいアイデアない、と振られて、急に言われても、と一度詰まり、困った時は動画を見るざます、で締めるのだ。助言の中身が、助言の探し方に置き換わっている。
ざますの出どころは、あとで分かる
引っかかるのは語尾だ。だからそのキャラ何なの、と作中でもきちんと突っ込まれている。この時点では、なりきっているだけに見える。
答えは会場に着いてから出る。審査員が同じ喋り方をするのである。私とブニャットさんを感動させるにはまだまだざます、という具合だ。それを見て、人の影響だったのか、という納得の声が漏れる。ナヴィが動画から持ってきていたのは、指導の中身ではなく喋り方のほうだった。
笑いどころとして処理されているが、この回の構造をそのまま小さくした形でもある。見たものを真似して、真似しきれずに別のものになる。エモスペシャルの再現も、結局は同じ道をたどる。
華やかなステージを見てから、不安が来る
会場には実力者が集まっている。公式の案内にもあるとおり、ピカチュウのアイドルグループ、キューティーピカピカもそこにいる。
実況つきで見せられるステージは丁寧だ。チルタリスが歌うからコットンガードへつなぎ、これはまるで雪、幻想的な雰囲気です、と評される。アママイコの甘えるが加わり、綿毛が織りなすパフォーマンスとして、かっこよさ、美しさ、可愛さ、どれも高得点が期待されます、と締められる。採点の三つの軸が、実演つきで観客にも視聴者にも示される。
見終わったあとの感想は素直だ。ポケモンの技であんな演出ができるなんて、チルタリスの歌よかったな、心がふわふわした、と続く。そのすぐあとに、私同じステージに立つんだよね、が来る。感心と不安が、同じ一言のなかで入れ替わる。
なんでもできる人だと思われている、という不安
なんだか急に心配になっちゃって、と漏らしたリコに、ナヴィが素で驚く。リコでも心配になるんだ、と言い、だってしっかりしてるし、いつも頼りになるし、なんでもできる人だし、と理由を並べる。
年下の子から率直に評価される場面として受け取られていた。ここは確かに、旅を重ねた分がそのまま出ている。
ただ、言われた側からするとこれは重い。不安の中身が、失敗することそのものではなく、なんでもできる人だと思われている状態のほうに移っているからだ。そんなことないよ、という短い返事に、その重さがそのまま出ている。
返ってくる励ましも、まっすぐではあるが独特だ。じゃあナヴィがいてよかったね、だってナヴィは怖いもの知らずだから、二人が組めば最強じゃない、という理屈である。不安の解消法として提示されるのが、怖いもの知らずを一人借りてくることなのだ。ここでも借り物が答えになっている。
衣装は任され、チーム名は勝手に決まる
ステージ衣装は、と話が出たときに、僕に任せて、と請け負う声がある。上がってきたものは、放送前の公式カットでも解禁されていた。
黒を基調にしたパンツスタイルで、可愛いとかっこいいを一人で担っている、という見方が出ていた。技の名前を借りて、これこそがエモスペシャル、とまで言われている。作中で意味が共有されなかった言葉が、視聴者の側で先に使われはじめているのは面白い。
衣装そのものが、この回のいちばん分かりやすい見どころになっていた。実際、本編でも、てか、ステージ衣装は、という形で、代表が決まった直後の会話に割り込んでいる。
三年分の八月末を並べた人がいる
衣装が話題になったところで、少し離れた角度から並べてみせた投稿もあった。
一昨年、去年、今年と、同じ八月末のリコを三枚並べた投稿である。作品の外側で、記録としての成長がきちんと積み上がっている。本編がこのあと記録に残らない結末を選ぶことを思うと、この並べ方は効いてくる。
本番直前の楽屋も賑やかだ。大丈夫、リコならできるよ、あんなに練習したんだから、と励ましが飛び、衣装のお披露目にも声が上がる。そこへ、もしリコの悪口を言うやつがいたらウルトにやっつけてもらうから、という物騒な援護まで乗る。そりゃダメだろ、と当のウルトに止められ、ウルトがまともなこと言ってる、と驚かれてしまう。この回のウルトは常識の側に回っている。
そしてスタンバイの声がかかった直後、出場者の紹介で、ニャンニャンリコリコとその仲間たちです、とチーム名が読み上げられる。名前を聞いた瞬間のジト目は、この回でいちばん引用された表情になった。自分で決めた名前ではない。衣装も申し込みも同じで、周りが先に決めてくれている。
予定を壊したのは、慣れていないほうではなかった
本番で起きたのは、練習で心配していたのとは違う種類の事故だった。エントリーしていないポケモンがステージに出てしまうのである。
飛び入りの正体はナヴィのメタモンで、マスカーニャに化けて舞台に上がっていた。本家をそのまま縮めたような姿で、目が点になっているところが違う、という観察が出ている。
ここが重要なところだ。指示に慣れていないと心配されていたのはラウドボーンとウェーニバルで、実際に予定を外れたのはリコの相棒のほうだった。しかも終演後の会話を聞くと、メタモンもマスカーニャに誘ってもらえてよかったね、という言い方になっている。事故ではなく、招待だったのだ。
別人に同じ格好をさせたい、という声
化けたポケモンが舞台に上がったせいか、放送後には別方向の要望も出ていた。
偽ライジングボルテッカーズの面々に今回の衣装を着せてほしい、という要望が出ていた。本編で偽物が舞台に上がった回に、別の偽物の再登場を望む声が並ぶのは、偶然にしてはできすぎている。
審査員はそれを、あえての表現だと読んだ
飛び入りを見た審査員の反応が、この回でいちばん面白いところだ。気づきましたかブニャットさん、これはアクシデントではありません、と切り出し、マスカーニャというポケモンのやきもちや気難しさ、それをあえて表現しようとしている、と読み解いてみせる。
そして、予定調和を壊すハプニング、これぞライブの醍醐味、と持ち上げる。事故が、その場で演出として読み替えられた瞬間である。
視聴者の側にも、マスカーニャがメタモンの気持ちを汲み取って一緒に出る方法を探していたのではないか、という読みが出ていた。こちらの読みのほうが、終演後の会話とはよく噛み合う。審査員はやきもちだと言い、本編はマスカーニャが誘ったという言い方をしている。読みは外れているのに、心が震えたという評価だけは正しく着地している。
失格と特別賞が、同じ舞台の上で出る
結果発表は容赦がない。ニャンニャンリコリコとその仲間たちチームは、規定により失格となります、である。エントリーしてないポケモンが出ちゃったもんな、と納得する声も出る。
ところが審査員は、そこで終わらせない。ルールはルールざます、と一度突き放したうえで、ですが私の心は震えたざます、と続ける。理由は二つ挙げられている。友達と一緒にステージに立ちたいという純粋なパッションと、即興で合わせたチームワークだ。
そして、審査員特別賞を差し上げるざます、と宣言する。そんな賞ありましたっけ、と聞かれて、今作ったざます、と答える。失格という記録と、前例のない賞が、同じ舞台の上で同時に出る。
記録に残らないものばかりでできていた
並べ直すと、この回の中身はほとんど全部が記録の外側にある。名前は偶然の技に後からつけたもの、コーチは前日に動画を一本見ただけ、チーム名は読み上げられた本人がジト目になるもの、結果は失格、賞はその場で作られたもの。
だから締めの一言が効く。記録には残らないけど、記憶には残るステージになったんじゃないか、である。この回は最初から、記録に残る形を一つも用意していなかった。順位ではなく見てもらうことを目的に出た以上、これで筋は通っている。
終演後の労いも良い。ラウドボーンの歌声かっこよかった、ウェーニバル今日も最高に映えてたよ、と、三体それぞれに別々の声がかかる。ステージで指示を出したのは一人だったのに、褒める声は三方向に分かれている。イベントの後ってやり遂げた感じとちょっと寂しい感じがあるよな、という一言まで含めて、後片付けの空気が丁寧に描かれている。
キューティーピカピカにはゲストの声が当てられていて、放送後にはその話題も出ていた。番組の締めでは、フリードが出てくるメガスタディのコーナーでピカチュウが取り上げられ、オスとメスの見分け方が出題される。答えはしっぽで、メスのしっぽはハート型なのだという。見た目を競う回の最後に、見た目で見分ける話を持ってくる並びである。
エモが分かった人と、分からないままの人
最後に、冒頭で置かれた宿題が回収される。それよりリコのステージでしょ、激エモだったじゃん、と言われて、ハプニングだらけだったけどね、と返る。そのあと、ああ、あれがエモってことなんだ、と納得する声が出て、すぐ隣から、わかんねぇ、が来る。
分かった人と分からないままの人を並べたまま、この回は説明を放棄して終わる。副題に激エモと掲げておきながら、最後まで定義を出さないのだ。
ただ、これは投げ出しではないと思う。冒頭で示されたとおり、エモスペシャルは狙って出せない技だった。説明できるものなら、そもそも失格してまで見せる必要がない。分からないままの一人を残すことで、この回は自分の題材に対して誠実な終わり方をしている。




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