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『うちの弟どもがすみません』第9話の副題は「誕生日プレゼントのおまけ」。祝われる側の回なのに、おまけを付けようとするのは糸のほうである。恋心は洛にあっさりバレ、源にも聞かれるが、源が聞いたのは会話の最後のほうだけで、姉さんは洛に振られたという筋書きが組み上がる。そして言いたいことは全部言え、と迫る当人が、その直前に告白を止めている。




副題が「誕生日プレゼントのおまけ」である
公式の副題は「誕生日プレゼントのおまけ」。祝われる側の回なのに、おまけを付けるのは糸のほうだ、という時点でもう可笑しい。
前話で恋心を自覚し、弟への恋はそう簡単にはいかない、というところまで来ていた。この回はその気持ちを、隠しきれずに二人へ知られ、そのうえで本人が自分から言おうとするまで進む。
隠すために、掃除を始める
導入からして分かりやすい。ぼーっとしている糸に、文化祭のことでも思い出してたんじゃないの、と当てられ、そんなことないよ、と否定しながら内心でこんなことじゃすぐみんなにバレると焦る。
その対処が家中の掃除である。年末並みに掃除したのは誰だ、という騒ぎになり、何かに打ち込みたくて掃除モードに入ったのだと説明される。頭から余計なことを払拭するために何かしてたいのかも、という言い方が本人の耳に痛い。何でもいいから磨きたいの、そういう気分なの、と弟の部屋まで漁りに行くところまでが一連の流れだ。
そもそも動揺の引き金も軽い。明日のご飯のことを考えよう、と気を逸らそうとしたところへ、お前が作ったもんなら何でもうまいし、何でも食えるぜが飛んでくる。本人にはまったくその気がない一言で完全に持っていかれるので、この回の糸はほとんど自爆で忙しい。
洛には、あっさりバレる
誕生会の相談中、洛が何気なく言う。好きなやつの誕生日だもんね。文化祭のとき、面白い会話を偶然聞いてしまった、というのが種明かしである。
胸にしまった気持ちが速攻でバレる、という公式の要約どおりの展開だ。隠すと決めた回の次の回で、もう二人に知られているのだから展開が早い。
誰かを好きになるのは罪じゃない、という返し
糸の弁明が、この子らしくて痛々しい。せっかくできた家族の形を壊したくはないのでと前置きし、どうか黙っててください、これからも家族としてやっていくつもりです、源とみんなに差をつけるようなことも致しません、と一気に並べる。最後は、それでも気になってやっていけないと思うなら、どうぞ煮るなり焼くなり、である。
対する洛は、まず前提から崩す。あのさ、何か勘違いしてない。俺別に姉さんを責めようとしてるんじゃないんだけど。弟を男として見ているのは問題だと言い張る糸に、本当の兄弟ならねと返し、自分たちもそう見られているんじゃないかと気まずくならないのか、パンツまで一緒に洗うような間柄だよ、そこは今更でしょ、と続ける。
そして本題が来る。この人が心配していたのは恋のほうではなかった。姉さんがいろいろ思い詰めちゃって、こんなとこにいられないとか言い出すんじゃないか、である。誰かを好きになるのは罪じゃないんだし、姉さんには家にいたいだけいてほしいと思ってるよ。
恋を認めるのではなく、その恋を理由に出ていかれることのほうを止めている。この家に入ってきたのが糸のほうだからこそ効く言い方である。
聞かれていたのは、最後のほうだけだった
翌朝、源が不機嫌である。昨日、洛と話してるの聞いたぞ。俺に隠し事とか、いい度胸だな。糸は最悪の想像をして、話題をドラマだの特売だのへ逸らそうと必死になる。
想像の中身も出てくる。うちの中で恋愛はなしだろ、出てけ、とか言う、である。前の場面で洛が心配していたのはまさにその逆で、家にいたいだけいてほしい、と言われたばかりだった。同じ家の同じ立場の二人に対して、この子の想像はここまで開きがある。
次男にバレて応援されたと思ったら、源のほうは次男との仲を応援している、という整理が的確だった。源が聞いたのは会話の最後のほうだけで、そこから独自の解釈が組み上がっている。
本人が、自分への恋を、弟への恋だと思って応援する
源の脳内で成立していたのは、姉さんは洛を好きになったが、家族だからという理由で振られたという筋書きだった。洛の説明を聞いた糸が、独自の解釈が斜め上すぎる、と漏らすのも当然である。
問題は、その勘違いのうえで源が全力の兄をやってしまうことだ。諦めんなよ。俺は、お前ならあいつを幸せにしてやれると思ってるぞ。好きになったもんは仕方ないよな、俺たち兄弟だろ、何でも言えよ、としみじみ語ったという。
自分に向けられた気持ちを、自分で弟のほうへ押し出している。洛の評が、身内には話の分かる長男でいたいんでしょ、で、糸の感想が、なんか源が可哀想な子に見えてきた。可哀想なんだよ実際、可哀想が過ぎて何も言い返せなかった、と洛が受けるのが上手い。
サプライズを用意していた側が、される側だった
この回の構図がいちばんきれいに出るのが誕生会である。糸はもともと、源のためにドッキリでお誕生会をやるつもりでいた。ところが帰宅すると、おかえり、そしてお誕生日おめでとう、で自分が迎えられる。
用意していた側が用意される側になった、という指摘のとおりだ。しかも僕が前からやろうって計画してたんだよと言われ、今日は源のサプライズの準備をしようと思っていた、と返したところで、引っかかったな、と落とされる。
プレゼントはお手伝い券一年分
贈り物の設定も効いている。うちはプレゼントに金かけるの禁止で、昔、金額の差で喧嘩になって以来、大体肩たたき券で済ませているのだという。
今回は四人でお手伝い券一年分。四人で割れば一人三ヶ月分になる。誕生祝いにしては代償が大きくないか、という声も出るのだが、そこで並ぶ理由がいい。その前に俺らは散々世話になってるし、実際三ヶ月でも足りないくらいでしょ、である。いいって言ってるのに毎日毎日飯は作るし、何かというと人の心配ばっかりしてるし、と続く。
つまりこの家では、糸が普段からやっていることが、そのまま贈り物の単位になっている。ろうそくを前にした本人の心の声が、お父さん、お母さん、ありがとう、私、十七歳になったんだ、なのも効く。
そのあとの遊びの場面でも、源は一人で忙しい。糸が末っ子と遊ぶのを選んだだけで、照れてんのか、いくらなんでも人前じゃイチャつけねえか、と勝手に読み解いていく。あげく、まさかあいつ弟ならどれでもいいんじゃとか思ってそうまで到達する。勘違いは訂正されないと、放っておくだけで枝が伸びる。
誤解を解こうとして、嘘が伸びる
パーティー中も源の勘違いは続く。記念写真で、こうしてみるとお前らってお似合いだよな、と言い出し、糸に、この人、何をどう言えば納得してくれるんだろう、と嘆かれる。
見かねた洛が、誤解されたままじゃ姉さんがあんまりだから、と口を開く。ところがそこから出てきたのが、姉さんが好きになったのは俺じゃない。今人気の恋愛ドラマだという話だった。
一つ嘘をつけば、その嘘を守るためにまた新しい嘘をつく
題名まででっち上げられている。しかも、そのドラマが動画配信サービスでしか見られず、見たさに高い月額料金を払って毎月の出費を増やすのは家計的にいかがなものかと誰にも言えず一人思い悩んでいた、という設定まで足される。本当の悩みより手が込んでいる。
ここで糸が止めるのが、この回の一番大事な場面である。理由がはっきり言葉になっている。一つ嘘をつけばその嘘を守るために、また新しい嘘をついちゃうだけだもん。そのうち嘘だらけになって、自分で自分の気持ちも分からなくなっちゃわないかな、そんなのは嫌だな。
そして、これはやっぱり私から言わないとダメなやつだからと続く。恋を叶えるためではなく、嘘に飲まれないために告白するという動機である。ここまで積み上げてきた、家族の形を壊したくない、という理屈を、自分の側から一度降ろした形になる。
言いたいことは全部言え、と言う人が止めている
切り出し方も律儀だった。一日早いけど、誕生日プレゼントのおまけに伝えることにするね。副題がここで回収される。
恋も気持ちも大きく動き出す誕生日回、という触れ込みどおりの場面だ。ところが本人が、今更後には引けない、決心が揺らがないうちに、と踏み切った瞬間に横槍が入る。
熱あるぞ、風邪でもひいたか
額に手を当てられて、ほら見ろ、やっぱり思った通りじゃねえか。熱あるぞ。どうせ寝るとき腹でも出してたんだろ、ガキかよ、で今日はお開きになる。言おうとした側の決心が、心配する側の手のひらで止まる。
そのうえで源が続ける台詞が、この回の落としどころである。この際だから俺も言っとくぞ。ドラマがどうとか知らねえけど、二度と遠慮すんな。言いたいことは全部言え。理由は、黙ってられると信頼されてないみたいでへこむんだよ、俺らせっかく家族になったのに。
言いたいことを全部言え、と迫っている当人が、その直前に言わせなかった。本人にまったく自覚がないまま、この回でいちばん高い壁として立っている。糸の、言う前から盛大に振られた気分、という感想が正確すぎる。
悔しいから、本当のことはまだ言ってやらない
締めの一行が、この回の全部を引き取る。寝込んだ糸のところへ源が入ってこようとし、映るから入ってくんなって、と追い返される。そのあとの心の声だ。
この人、一ミリでも私を一人の女子だって思うことあるのかな、と嘆いたうえで、悔しいから本当のことはまだ言ってやんないで終わる。
言えなかったのではなく、言わないことにした
大事なのは、これが言えなかった、ではなく、言ってやらない、になっていることだ。前話までの糸は、家族の形を守るために黙ると決めていた。この回の終わりで黙っている理由は、悔しいから、に変わっている。
制作側が節目ごとに原画を公開しているのも、この作品の楽しみ方を広げている。同じ黙るでも、抱え込むための沈黙から、仕返しのための沈黙へ変わった。次に口を開くとき、糸はもう言い訳を用意しないだろう。




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