この記事の作品:
洞窟の奥にいたのはゴブリンロードだけではなかった。たった一人でそれと斬り結んでいた獣人の少女シア、その奥で待っていたヴァンパイア・ロード、通じない魅了、灰の中から出てきた呪いのメダル。そして最後に待っていた、この回いちばんの絶体絶命。




洞窟の奥、ゴブリンロードと「であります」の少女
「逃げるであります」——先に逃がされたのは、新人二人のほう
第2話は前回の続きから始まる。新人冒険者のアリオとジニーを連れてゴブリン退治に来ていたロックは、洞窟の奥で強力なゴブリンロードと出くわす。ところが、その場には先客がいた。たった一人でゴブリンロードと斬り結ぶ、獣人の少女である。
少女はロックたちに気づくなり、逃げるよう促してくる。自分が食い止めるから先に行け、というわけだ。タイトルを思えば、この作品でその台詞を言うのは本来ロックの役目のはずなのだが——今回は言われる側に回っている。この配置からしてもう可笑しい。
ロックはアリオとジニーを先に逃がし、自分だけ残る。二人にとってはただのゴブリン退治の依頼だったはずが、いつの間にか格の違う戦場になっていた。
剣を抜いた瞬間には、もう終わっていた
少女は善戦するものの、次第に押されていく。ゴブリンロードは並のゴブリンとは格が違う。そして戦いながら喋る彼女の語尾が、なぜか「〜であります」なのだ。緊迫した場面のはずなのに、口調のせいで妙に和んでしまう。
このままでは勝てない——そう見て取ったロックが、剣を抜く。抜いた、と思った次の瞬間には、もうゴブリンロードが崩れ落ちている。文字どおり一瞬だった。
呆然とした少女は、我に返って名乗る。「東の獣人族、族長の娘シアであります」。Bランク冒険者だという。対するロックの自己紹介は、いつもの「通りすがりのFランク冒険者」。Bランクが手こずった相手を一瞬で片づけた通りすがりのFランク、という字面の破壊力がすごい。
シアが本当に追っていたもの
さらに奥にいる“何か”と、下手なごまかし
ロックは、洞窟のさらに奥にいる強大な気配にとっくに気づいている。当然のようにそれを口にするロックに対し、シアは知らないふりをしてごまかそうとする。だが、ロックが本当にそちらへ向かおうとすると、あっさり観念して白状した。奥にいるのはヴァンパイア・ロードだ、と。
シアの一族は、代々ヴァンパイアを狩ってきた家系だという。先日、父がヴァンパイア・ロードに重傷を負わされ、その居場所をようやく突き止めたのが今回だった。ゴブリンロードとの死闘は、彼女にとってあくまで通過点でしかなかったわけだ。
たった一人で挑もうとしていた理由も、これで腑に落ちる。これは依頼ではなく、彼女が背負っているものだった。
武器を失った少女に、剣を貸す
ゴブリンロードとの戦いで、シアは武器を失っていた。そこでロックは、自分の剣を貸してやる。俺は武器がなくても戦える、と言い添えて。
シアはこれを、剣を貸すための方便だと受け取る。気を遣って強がっているのだろう、と。ところが実際、ロックは素手でも滅法強い。方便でも何でもなく、ただの事実だった。言っていることが全部本当なのに誰にも信じてもらえない——この主人公の可笑しさが、ここに全部詰まっている。
王座の間——魅了は、最初から効いていない
「よく人間を連れてきた」
二人が踏み込んだ王座の間には、圧倒的な強者の空気が満ちていた。ヴァンパイア・ロードである。格が違うということを、登場しただけで納得させてくる。
ところがヴァンパイア・ロードは、シアを見るなり褒め始めた。よく人間を連れてきた、と。獣人には効かない魅了が、人間には効くからだ。つまりこの魔物にとって、ロックは戦力ではなく餌でしかない。
案の定、ロックは魅了にかかり、ふらふらとヴァンパイア・ロードのほうへ引き寄せられていく。シアの顔が凍る。
十分に近づいたところで、殴る
そして距離が詰まりきったところで、ロックはヴァンパイア・ロードを殴りつけた。
驚くシア。混乱するヴァンパイア・ロード。当たり前だ——魅了は最初から効いていなかった。おびき寄せられたふりをして、殴れる間合いまで歩いていっただけである。
あとは一方的だった。ロックは繰り出される攻撃を次々といなし、ドレンタッチでヴァンパイア・ロードを追い詰めていく。切り札の魅了が通じない相手に対して、この魔物は結局、何の手も持っていなかった。
逃げ場を失ったヴァンパイア・ロードは、蝙蝠に姿を変えて逃走を図る。だが、そこへシアの一閃。ロックから借りたあの剣が、逃げる蝙蝠を捉えた。トドメを刺したのが、武器を失っていたはずの彼女だというのがいい。
呪いのメダルと、次元の狭間の予告
灰の中から出てきたもの
灰になったヴァンパイア・ロードの中から、シアが取り出したのは一枚のメダルだった。呪いのメダルである。
そして、頭だけになったヴァンパイア・ロードが死に際に語り出す。このメダルに溜め込んだ力で次元の狭間を引き起こす、そうなれば魔人や暗き神々がやってくる——と。第2話にして、この作品が相手にするものの規模が一段跳ね上がる瞬間だ。
ところがロックは、その口上の途中でメダルを真っ二つに割ってしまう。せっかくの大物の遺言が、最後まで喋らせてもらえない。断ち割られたメダルからは呪いが放出されるが、それをロックの剣がまとめて吸い込んでいった。
その剣は魔神王の——と気づいたところで、斬られる
そこでヴァンパイア・ロードは、ようやく気づく。ロックが持っているその剣は、魔神王のものではないか——と。だが、言い終わる前にロックに斬られて今度こそ終わる。ここまで徹底して最後まで喋らせてもらえない魔物も珍しい。
一方、その場に居合わせたシアのほうも、気づいてしまった。目の前にいる通りすがりのFランク冒険者が、伝説の大賢者ラックその人であることに。
ロックの返答は、ひとこと「内緒だぞ」。世界を救った英雄が、正体を知られた相手に頼み込むのがそれである。ネットでもこの一言と、そのときの顔が刺さった人が多かったようだ。
ギルド帰還——ラック像に祈る二人と、くすくす笑うシア
冒険者ギルドに戻り、洞窟で狩ったゴブリンの魔石を差し出すと、受付嬢に多すぎると言われてしまう。目立たずに生きたいのに、成果物の量が毎回それを裏切っていく。
そしてギルドでは、先に逃がされたアリオとジニーが、無事に帰れたのは大賢者ラック様のおかげだと、ラック像に感謝を捧げていた。実際に助けたのは目の前にいるFランクのロックなのだが、二人は像に向かって手を合わせている。
事情を知ってしまったシアは、その様子を横で見てくすくす笑う。ロックは落ち着かない。この居心地の悪さこそ、この作品のいちばん美味しいところだ。
別れ際、シアはロックに、モートン卿への報告を頼む。ヴァンパイア・ロードが出たこと、そして呪いのメダルのこと。メダルは半分に割れているので、ロックはその片割れを預かることになった。
おかんみたいなゴランと、「パパの隠し子でしょ!」
報告に向かったモートン卿——ゴランは、ロックの顔を見るなり怒り出す。三日も無断で空けたことを心配していたのだ。世界を救った英雄を捕まえて、である。旧友との再会というより、もはやおかんの説教でしかない。
ひとしきり叱られたあと、ロックは預かったメダルの片割れを渡し、暗き神々の話をする。呑気だった空気が、ここで一気にきな臭くなる。
そして別れ際、ゴランからもう一つ頼み事をされる。娘のセルリスが冒険者登録できる年齢になってしまった、冒険者になると言い出しそうで心配だから見守ってやってほしい——という、これまた親としての頼みだった。
ところが、そのセルリス本人が、食事中のロックの向かいに仏頂面で座る。じっと睨まれている、と思ったら、彼女は叫んだ。「パパの隠し子でしょ!」
戦いの影響で15歳ほどの姿に若返っているせいで、父の旧友が父の隠し子に見えてしまったわけだ。今回の絶体絶命の危機は、ヴァンパイア・ロードではなくむしろこちらかもしれない。























コメント