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出産の季節、猫竜の洞窟に二組の夫婦猫がやってくる。だが若い猫がよかれと思ってかけた回復魔法でお産が早まり、洞窟は大騒ぎ。生まれたのは七匹だ。猫竜は狩りと電気の魔法を教え、王子の訪問や冒険者の見学を経て子猫たちは育っていくが、「先輩らしいところを見せる」と七匹で作戦を立て、あろうことかクマを狩ってしまう。巣立ちの日には「人間の冒険者になる」と言い出す子まで現れた。「彼らが皆、満足する生を歩めるように」と願う猫竜の一年を描く、可笑しくて温かな第3話だ。




出産の季節、洞窟にやってきた二組の夫婦
羽のおじちゃんと、母猫が遺した約束
第3話は、この物語の原点をなぞるところから始まる。森の小さな洞窟に産み落とされた一個の竜の卵は、出産のため偶然そこへ来た母猫に温められ、子猫たちと兄弟のように育てられた。だがある日、母猫は人間の魔法によって召喚されてしまう。「みんな仲良く過ごすこと、決して喧嘩はしないように」という言葉を残して。
立派に成長した竜は、今もその言葉を守り、森の猫たちを家族として守り続けている。森の猫たちから「羽のおじちゃん」と慕われるこの洞窟には、出産の季節になると猫たちが集まってくる。今年やってきたのは二組の夫婦だった。
毛皮を狙う人間と、猫竜が説いた我慢
ところが片方の母猫は足を負傷していた。「毛皮を取ろうとする人間たちにやられちゃったの」。食うためでなく毛皮のために、しかも身重の猫に手を挙げる。その事実に猫竜は静かに怒りを燃やす。
すでに若い猫たちが密猟者を捕らえ、電気の魔法でお仕置きを始めていた。だが猫竜は一喝する。「馬鹿者。人間を痛めつけるよりも先に、怪我をした猫のことを気にかけぬか」。捕らえられたのは森の近くの王国とは無関係の人間で、遠い国の王へ森の猫を送るつもりだったという。それでも猫竜は「この人間たちを殺したら国同士の争いの火種になる。そうなれば町に住む猫たちに迷惑がかかる」と諭し、町へ連行して罰を受けさせる道を選ばせた。
回復魔法が招いた、ドタバタのお産
よかれと思った魔法で、出産が早まる
猫竜が洞窟へ戻ると、母猫が産気づいていた。足の傷はきれいに治っている。心配のあまり若い猫が回復魔法をかけてしまい、母体だけでなくお腹の子まで元気になって、出産が早まってしまったのだ。「いくら心配でも後先を考えて」と猫竜は嘆くが、後の祭りである。
さらにもう一組の母猫までつられて産気づき、洞窟は大混乱に陥る。慌てふためく父猫たちに「お前たちの方が慌ててどうする」と呆れつつ、猫竜は「一年前はお前たちもこうだったぞ」と笑う。こうして生まれたのが、七匹の子猫たちだった。
爪にご執心の子猫と、子守りの日々
生まれた子猫の一匹は、なぜか猫竜の爪に夢中になった。「将来は狩りの名人になるかもね」と母猫たちは笑う。やがて乳離れの時期が来ると、母猫たちも狩りに出るようになり、「子供たちはおじちゃんが見ていてくれるから安心よ」と、猫竜はすっかり子守り役を任される。
後ろ足だけで立つ子を見て「人間みたいだ」「この子も王子様やお姫様のところに行くかもしれないね」という声が上がると、猫竜の表情は少し曇る。これまで人間のもとへ行った子たちは、ごくわずかにいるいい人間を選んで友人になってはいる。それでも「わざわざ危険の中に飛び込んでいるようなものだ」と案じ、「お前はきちんと森の中で暮らすのだぞ」と言い聞かせるのだった。
羽のおじちゃんの“子猫学校”
変身と、先祖代々の電気の魔法
子猫たちがある程度育つと、いよいよ狩りと魔法の授業が始まる。猫竜は呪文を唱えて姿を変えてみせ、「このように体を小さくすることもできれば大きくすることもできる。それが魔法だ」と説く。この姿を見せるのは子猫たちには初めてのことだった。
狩りとは獲物を取ること、爪や牙でとどめを刺して食べること。だが獲物とて簡単に食べられたくはない。必死に抵抗し、魔法で反撃してくるものもいる。それに対抗するにも魔法が有効だ。そこで教えられるのが、森に住む多くの猫が先祖代々得意にしてきた「電気の魔法」である。洞窟は二年かけて狩りと魔法を仕込む、学校であり実家のような場所なのだ。
王子の訪問と、初めての遠出
そんな折、人間の国の王子スタンが森の奥深くまで訪ねてくる。ここまで足を踏み入れた人間は王子が初めてだという。子猫たちは「人間の国の王子様だ」と大騒ぎしつつ、「見てもブルッとしないぞ」「あの人間は友達だからかな」と物怖じしない。猫竜は「人間は本当に色々な奴がいるんだ。怖いやつもね」と釘を刺す。
だが効果は逆で、子猫たちは「やっぱり一度は人間の街を見に行きたいな」と言い出す始末。「ほらまた人間の街に行きたがる子たちが……王子の訪問は断りたかった」と、猫竜のぼやきが可笑しい。
続く初めての遠出では、木に登って身を隠しながら人間を観察する。現れたのは狼と戦う冒険者だ。「人間たちは爪や牙がない代わりに、手に武器というものを持って戦う」「中には魔法を使う者もいる。連中は個体差が激しい」と猫竜が解説する。冒険者が魔法で狼を仕留める光景に子猫たちは大興奮し、その夜は「魔法使うやつ見た」と話が尽きず、なかなか寝てくれなかった。
クマ討伐と、それぞれの旅立ち
兄猫姉猫の巣立ちと、七匹の“大成功”
季節はめぐり、一つ上の世代が巣立ちの日を迎える。「お前たちはもう一人前だ。好きなように生き、好きなように暮らせ。それがこの森にいる猫たちの生き方だ」。人間の町へ行く者、湖の近くに縄張りを持つ者。「何かあったら私のところへ来なさい」と猫竜は送り出す。
先輩になった七匹は「先輩らしいところを見せなきゃ」と奮い立ち、とんでもない行動に出た。作戦を立て、役割を割り振り、七匹がかりでなんとクマを狩ってしまったのである。「クマと人間には、まず見つかるな逃げろと、私は教えなかったかな。この、この愚か者」と猫竜は頭を抱えるが、森では「七匹で協力して倒したって」「信じられない」と噂が駆けめぐった。
「オイラはね、人間の冒険者になるんだ」
そして翌年、七匹にも巣立ちの日が訪れる。「夫を見つけてここで子供を産むわ」「湖の方に行くよ」「少し離れたところに縄張りを持つんだ」「僕は人間の国に行ってみるよ」。人間の国を選ぶ子の多さに「やっぱり今年も多いな」と猫竜がこぼしたところで、最後の一匹が言い放つ。
「オイラはね、人間の冒険者になるんだ」。絶句する猫竜に、クロタマは「すっげえ練習したんだ」と二本足で立ってみせる。「人間のとはなんだ。お前は猫の子だろう」と説教が始まる気配を察するや、子猫たちは「怒られる前に逃げるか」と一目散。街へ向かう子たちは兄猫姉猫の頭や肩、腕に収まって旅立っていった。
「こんな旅立ちは初めてだよ」と母猫たちは笑い、猫竜も「私もこんな風に旅立って行った子たちは初めて見たよ」と目を細める。その願いは、幸せというより「彼らが皆、満足する生を歩むことができるように」というものだった。「この年育った子供たちは問題児ばかりだった。それぞれが他にはない猫生を歩むことになるのだが、それはまた別のお話」。締めの一言までが心地よい。




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