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ソルコクタニは『原論』の指南をシタラに求め、「世界は草原よりも広い」と知を欲する。だがその本は奪われたものであり、施しとして与えられる屈辱にシタラは「この怒りを忘れちゃいけない」と誓う。やがてチンギス・カンが崩御し、末子相続でトルイが遺産と軍事力の大半を継ぐも、二年に及ぶクリルタイの末に即位したのはオゴタイだった。「8年。私はまだここで何もできていない」と焦るシタラに、ソルコクタニは「今日限りで私の元を離れて欲しい」と極秘命令を下す。




『原論』の指南役と、飲み込んだ憎悪
草原の外を知りたい、ソルコクタニ
第4話は、ソルコクタニがシタラに『原論』の指南を請う場面から動き出す。この本はあなたたちにとっては奪われたものでしょう、と前置きしたうえで、彼女は言う。「だけど、私たちにとっては始まりの本よ。この草原にはない知識を取り入れるためのね」。
語られるのは夫トルイの立場だ。トルイはオッチギン、すなわち炉の主でありかまどの火を守る者。他の兄弟が独立して自分の牧地を持っても、末の弟だけは親元に残って一族の財産を守り受け継ぐ。「オッチギンであるトルイは、いずれ皇帝になります」。だが同時に「ちょっと気の利かないところがある人でしょ」「ここの人たちの多くは、草原での生き方しか知らないまま」とも漏らす。
だからこそ彼女は知を求める。「世界は草原よりも広いわ。私は知りたいの。モンゴルの馬蹄が及ぶ限りの色々な土地のことを」。幾何学だけで大地の大きさを割り出す学問に目を輝かせ、「当たり前のことがなぜ当たり前なのか、一つ一つ事例を重ねて普遍的な定理を証明するの」と噛みしめる。「知識を得て、後の世代に伝えていくこと。それは、未来の皇后たる私の務めです」という言葉に、彼女の聡明さが凝縮されていた。
「この怒りを忘れちゃいけない」
だが同じ本を挟んで、シタラの内心は正反対だった。「その本がそこに届くまでに何があったのか、何も知らないの。全てを奪ったあなたたちに施しを受けて、それに感謝する私たちがどんなに惨めか」。顔色の変化に気づいたソルコクタニは体調を気遣い、「君もきっと私たちに必要な賢者です」と労わる。
その優しさが、かえってシタラを苦しめる。「あの時、一瞬でも気持ちが揺らいだことが恥ずかしい。この怒りを忘れちゃいけない。あの人には屈しない」。国の未来を案じて知を求めるソルコクタニは為政者として正しい。だが奪われた側には怒りしかない。その両立しなさを、この作品は片方に寄りかからずに描いてみせる。
凱旋の宴と、巨星の落日
エミル川の狩りと、フレグとクビライ
砂嵐の季節、シタラは母を気遣いながら暮らしていた。「ペルシアの春が恋しい」と漏らす母は、まだこの地に馴染めずにいる。それでも「もうここでの冬も二度目ね」「やっとモンゴルの暮らしにも慣れてきた」と、時間は確かに流れていく。
指南役となってから3年後、モンゴル軍は中央アジアの大国ホラズムの王を破り、草原へ凱旋する。ソルコクタニとトルイはアルタイ山脈の南西まで出迎えに出向き、エミル川の流域で勝利を祝う宴と狩りを催した。フレグは鹿を、狩りが初挑戦のクビライはすばしっこいウサギを仕留め、トルイは「さすが俺の息子たちだ」と目を細める。
トルイに「あの娘は?」と問われたソルコクタニは、「あなたが連れてきてくださった原論の指南役ですわ」と答え、「よく尽くしてくれています。賢くて気も利いて。ああして笑っていると可愛くて、歳相応に見えますね」と評する。初めて狩りに出た子は指に油を塗ってもらうのが習わしで、それは大ハン自らの手で施されるのだという。
チンギス・カン崩御と、二年に及ぶクリルタイ
だがその宴の光景も、長くは続かない。この3年後、チンギス・カンという巨星が落ち、草原に立つ人々の運命の星は大きく動き始める。
末子相続の習慣に従い、トルイは父の広大な遺産の大部分を継承した。土地や財だけでなく、モンゴルの軍事力のほとんどまでもがトルイの一族のものとなる。しかし次の皇帝を決めるクリルタイが開かれるまでには二年もの時間がかかり、その間トルイは軍事にとどまらず全ての国政を代行し続けた。
8年、そして「まだ何もできていない」
血を抜く肉と、抜かない肉
時の流れを静かに示すのが、家畜を解体する場面だ。腹を裂くモンゴル式に眉をひそめるシタラへ、女たちは悪気なく言う。「あんたたちイスラム教徒は、喉を切った家畜しか食べないんですってね」「それじゃ大地を血で汚してしまうし、血が抜けて肉の味が薄くなっちゃう。もったいない、血が美味しいのに」。
ファーティマは「大丈夫、私もう慣れましたわ。モンゴルへ来てもう8年ですよ。血の残った肉だって好きになりました」と笑ってみせる。だが胸の内では「喉を切る解体方法にもちゃんと理由があるんだけどな。これが動物が一番苦しまない方法なの」と反論している。命と食の扱い方という、埋まらない文化の差が、日常の手つきから静かに滲む。
「取り返せてはいないの」
そして、この回の題が背負う独白が訪れる。「8年。私がトゥースで過ごした時間と同じ年月を、このモンゴルで過ごしてしまった。私はまだここで何もできていない」。
本はいつだって彼女の手の中にあった。指南役として、毎日のように開いてきたのだから。それでも「取り返せてはいないの。手では取り返したことにならないの」と、シタラは自らを追い詰める。笑顔の下に押し殺した怒りと、進まない復讐。その苦さが視聴者にも重くのしかかった。
オゴタイ即位と、下された極秘命令
カンではなく“カアン”を名乗る新皇帝
クリルタイが始まって41日。占いによれば41日目が吉日であり、まさにこの日、王子は一族の推挙を受け入れて即位する。新たな皇帝はカンではなく「カアン」を名乗るという。チンギス・カンさえ使わなかった、いにしえの称号の復活だった。「これからはモンゴルが世界の中心になっていくぞ」と人々は沸き立つ。
玉座へ導かれ、万歳の声に迎えられたのはオゴタイ。慣習であればトルイが継ぐはずの座である。当のトルイは「これで親父の遺言にも添えたし、俺も政務から解放される」とさっぱりしたもので、ソルコクタニには「お前を皇后にしてやれなかったのだけが心残りだ」と詫びるのだった。
「たくさんの頭を持つ蛇は」、そして極秘命令
トルイは、父の言葉を明かす。「たくさんの頭を持つ蛇は、寒さをしのぐために穴に入りたくとも、お互いに争って入れず死んでしまう。しかし一つ頭の大蛇は、穴に入り生き延びるだろう」。だからオゴタイよ、その賢さで皆の頭になれ、と。
「俺はオッチギンだから、自分が一番優遇されてると思ってきた。でも親父の考えはそんなことじゃなかった。俺たち兄弟の結束こそモンゴルを真に強くする。それが親父の願いで、俺の一番の願いだ」。権力の分配ではなく結束を選ぶ、この作品らしい人物造形である。
そして幕切れ。ソルコクタニはファーティマを呼び、思いもよらぬ言葉を告げる。「今日限りで、あなたには私の元を離れて欲しいの」。戸惑うシタラに返されたのは、「ファーティマ、極秘命令よ」という一言だった。8年、何も動かせなかった彼女の前で、ようやく盤面が動き出す。




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