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前後半の二本立てで、三組の関係が同時に動いた第16話。前半は突然の霰の帰り道、傘とカイロを差し出す東に、平が「ずっと応援してんだよ」の一言の意味を知る。後半は図書室で、鈴木のお節介からフルネームで呼び合ってしまう山田と西。そして仲良しの本田が胸の内を明かし、西は自分の本当の気持ちにようやく気付いていく。カイロのように温かい30分を振り返る。




前半:霰の帰り道、平と東
突然の霰と、傘の押し問答
前半の主役は平だ。毎朝、北改札から入ってホームの一番端に降り、一番後ろの車両で通学する。「こっちの方が座れるし、知り合いに会うこともないし」「ただ、なんとなくそうしてるだけ」。人と会わないルートを選んでしまう自分を、彼はまだ卑屈さだと自覚していない。新学期の放課後、空は夜のように暗く、やがて霰が降り出す。
「傘ねえし、最悪すぎる」とうつむく平に、追いついてきたのは東だった。「歩くの早すぎ。遠くから見つけて、追いつくかなって思って歩いてたけど、全然追いつかん」。そして自分の傘を差し出す。「私、上着防水で平気だから、それ使いな」。受け取れない平と押し問答の末、「じゃあ、せめて俺が持つから」で決着し、ふたりはひとつの傘で駅へ走った。
「これ、まだおもろい」「笑いすぎだろ」「平もちょっと笑ってたじゃん」のやり取りが最高に瑞々しい。真っ赤になった平の手にカイロまで持たせる東の距離感は、もう優しさというより自然体だ。
「私はずっと応援してんだよ」
駅までの道すがら、東は「次、髪色暗くして、ウェット系のスタイリングとかしてみんのはどう?」と提案する。「ああいうの俺がやったら、頭洗ってないやつみたいに思われるだろ」と返す平に、東は「卑屈すぎんだろ」と一刀両断。「もっと今の自分に自信持てばいいのに。おしゃれに興味あるから変わったんじゃん? 楽しまなきゃ損じゃない?」と畳みかけ、こう言い添えた。「ていうかさ、もったいないじゃん。努力してて自信ないとか。私はずっと応援してんだよ」。
そこで平の中に、去年の記憶がよみがえる。「眉毛、変えてみない?」「私、いじってもいい?」「いいわけねえだろ!」という騒動も、「あ、髪セットしてる」「おー、リュックいいじゃん」のいちいち引っかかる一言も、内心バカにされているとばかり思っていた。「勘違いしてた」。あれは全部、東なりの応援だったのだ。
視聴者と一緒に平の記憶が反転していく、この見せ方が実にうまい。東の応援の仕方は確かに独特だが、ずっと前から平の変化だけを真っすぐ見ていたことになる。
じんわり滲んだ、平の涙
「もっと適当でいいじゃん、友達なんだし」
帰りの電車で「おー、この電車、足ホカホカで眠い。駅着いたら起こして」と先に眠った東につられ、結局ふたりとも寝過ごしてしまう。ホームで平が切り出したのは「東、ごめん」。乗り過ごしのことだけではなく、「いろいろ。傘とかカイロとか、他全部」だ。
東の答えはあっけらかんとしていた。「変に遠慮されたり、ごめんって言われるよりかは、やったーとか、ありがとうとか、そんぐらいがいいけどな。平から言われるなら」「もっと適当でいいじゃん、友達なんだし」。
謝罪より感謝がいい、しかも「平から言われるなら」とさらりと付け足すのがずるい。施しではなく対等な友達の言葉だからこそ、この後の平に効いてくる。
一人の夜、反芻される嬉しさ
一人の静かな時間は、頭の中で記憶がぐるぐる回る。人の目に映った自分ばかり気にするくせに、傷つきたくないから無駄に距離を置くところ。卑屈さ、思い込みの激しさ。今日自覚しただけでも反省だらけなのに、それよりも、バカみたいに全力ダッシュしたことや、その状況が実はちょっと面白かったこと、そして対等に思われていたこと。なぜか些細な嬉しさばかりが反芻されていく。
「嬉しいのか、情けないのか、安心したのか、自分でも分からないまま」、平の目にはじんわりと涙が滲んだ。制作の公式アカウントも「じんわり滲んだ平の涙」とこの場面を挙げている。
反省点を数え上げる夜のはずが、嬉しさの方が勝ってしまうのが人間らしくて沁みる。自己嫌悪ごと受け止めてくれる相手がいると知った夜の涙は、間違いなく前向きな涙だ。
後半:図書室の西と山田
鈴木のお節介、発動
後半の舞台は図書室。今週は谷と西が図書委員の当番で、それを聞きつけた鈴木が「ほーら、いいじゃん、山田も行こう」と山田を連れ出す。「いや、それはいいけど、お前絶対露骨に態度出るだろ」「大丈夫大丈夫。意外とその辺、ナチュラルに振る舞えるから」「もう顔ができてねーんだよ」という道中から、彼女のたくらみは隠せていない。
西は西で、「お久しぶりです。今学期もどうぞよろしくお願いします」と谷に挨拶しながら、内心は落ち着かない。山田が日々あれこれを共有してくれるおかげで、そんなに会話したことのない谷まで勝手に身近な人っぽく感じちゃうからだ。そこへ当の山田が現れ、「敬語、また出てんじゃん」「え、いやでも、今のは鈴木さんにだから」と、ふたりだけの約束が顔を出す。
鈴木は「どうかね、順調かね」という顔で見守り、「本棚戻すの手伝うよん」と谷を連れ出して、ちゃっかりふたりきりの時間まで作ってしまう。「なんか嘘くさくない?」「あ、あれー? 本心なのにー。その他雑念もあるだけで」という谷とのやり取りまで含めて、今回の鈴木はお節介の天才だった。
フルネームで呼び合う、貸出カウンター
「これ読み切れなかったから借りてーんだけど」「やっぱ俺、本読むの遅ぇわ」と本を差し出す山田。貸出処理で学年とクラスを確認するうち、西はうっかり山田のフルネームを読み上げてしまう。「はーい」「あ、なんか呼んだみたいになっちゃった」「な、呼び捨てで呼ばれたわ、今」「わー、違うのにー」。
すると山田は、お返しとばかりに委員のファイルから西のフルネームを見つけて呼び返し、「今日なんか借りるもんない? 俺もピッてやつ、やってみたいんだけど」と貸出係まで交代してしまう。頭の中で自分の名前がぐるぐる回る西がかわいそうで、かわいい。別れ際の「本、また返しにいくわ」に、西は心の中で答える。いつでも返せるんだけど、そういうことじゃないって、さすがに分かる。
そして帰り道、谷がぽつりと「山田君と西さん、いつの間にか仲いいな」。かつて山田が話していた「好きになりに行ってる」相手の意味にようやく思い当たり、「あ、そっか」と静かに合点する。「やっぱ嘘じゃん」「いやー、それもまた本心なんだって」という鈴木との精算まで含めて、外堀は静かに埋まりつつある。
本田の独白と、西の答え
「最初、西のこと嫌いだったんだ」
翌朝、本田のモノローグが始まる。「私は一つ、西に隠していることがある」。それは「私、最初、西のこと嫌いだったんだ」という告白だ。困っている西に一度声をかけたら、「助けてくれる優しい人」と思われてしまった。けれど本人いわく、そこに問題があると解決しないと自分が落ち着かないだけで、思いやりのような優しさじゃない。「いつも私は、実際の自分よりも優しそうに思われる。いやだなあ」。
寄り添いを期待して近づかれるのが苦手で、かつては愚痴をぶつけてくる同級生に「自分のコンプレックスから生えてきた棘を、他人に向けるな。ごめん、声に出てた」とやってしまった過去もある。だから西とも距離を取るつもりだった。なのに西は、きつい言い方さえ「言ってくれてありがとう」「なるほど、そういう考え方もあるんだね」と受け止め、「ほんちゃんと友達になれてよかった」と笑うのだ。「受け入れられてるのは、私の方だった」。
西がいい子であるほど最初の自分の態度を思い出す、という後ろめたさを、「だから、せめて背中を押したい」に変換するのが本田という人だ。ネットの反応でも、このタイミングでの本田の掘り下げを称える声が相次いだ。
「後悔しない?」と、西の気付き
本田は西に静かに切り込む。「西と山田って、今どういう関係なの?」。修学旅行中に呼び出されて、ふたりで遊びに出かけて、年末にも会って、そこからまめに連絡を取り合う仲。それでも「友達…そうとしか言いようが」と口ごもる西に、「西はそのままでいいの? 進展したいとか、そういうの」と問いを重ねる。心の中では「はよ付き合え」と悶えながら、焦らずじっくり見守ると決めているのが実に本田らしい。
西にも自覚はある。「好きだなって」。けれど自分が彼女をしている想像がつかなくて、望むのもおこがましい気がしてしまう。そこで本田は逆から聞いた。「もし、このまま友達でいたとして、そのうち山田が他の誰かに恋しちゃったら、それを応援できる? 後悔しない?」。他の誰かの隣に立つ山田を想像した途端、西の中で答えははっきりする。こんなことを思う日が来るなんて、考えてもみなかった。
押しつけず、けれど逃げ道は塞ぐ、完璧な背中の押し方だ。締めは「ちなみに吉報。山田、チョコ好きだよ」。「それは恋愛イベントすぎるというか」と慌てる西と、「界隈って何」のゆるいツッコミで幕を引くバランスも心地よい。
「新学期」まとめと考察
三組の関係が、同時に動いた回
公式が「じんわり滲んだ平の涙、名前を呼び合う山田と西、西を見守る本田の心」と自らまとめたとおり、前半と後半で三組の関係が同時に一歩ずつ進んだ回だった。平は受け取る側として応援の意味に気付き、西は踏み出す側として自分の気持ちに気付く。どちらも劇的な事件ではなく、傘やカイロ、貸出カウンターといった日常の小道具で進むのがこの作品らしい。
きっかけが「気づいたら」であることのリアルさ、コンプレックスを肯定してくれる人がいる安心感。ネットの反応で「文法が違うだけの純文学」と評されていたのも大げさではなく、台詞の外側にある心の動きを丁寧に拾う30分だった。
フルネームと、バレンタインの予感
お互いのフルネームを知ってしまった山田と西、「友達なんだし」と言い合えるようになった平と東。呼び方の変化は、この作品では関係の変化そのものだ。だんだんみんなのフルネームが明らかになっていくのを楽しむ声も多く、鈴木の髪色がまだ少し暗いままという前回からの地続きの細部にも気付きの声が上がっていた。
そして最後に飛び出した「バレンタイン」の単語。自分の気持ちを自覚した西が次にどう動くのか、本田の見守りがどう実を結ぶのか。次回が待ち遠しい締めくくりだった。




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