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第33話の副題は「水着本気温泉地獄めぐりのち天国」。前半は家族風呂が泡で崩壊する騒ぎで、後半は新しい彼女となる土呂瀞騎士華の登場回である。ところがこの二つは、同じことを裏表で描いている。前半では家族風呂と名づけられた場所で全員がばらばらになり、後半では家族に頼られ続けた人が、家族から隠れて一人で甘えていた。そして「触るな」と言った理由が、途中でひっくり返る。




家族風呂という名前がついた時点で、もう無理があった
貸切なので水着で入る、という前置きから始まる
第33話の前半は温泉回である。本気グループがオープンさせる温泉のプレオープン貸切招待券に当選した、という導入で、貸切だから水着でも許してもらえてよかった、という会話から始まる。恋太郎だけ男湯では寂しいという流れになり、これは家族風呂なのだと言い直される。ここで「家族風呂」という名前が与えられるのが、この回の仕掛けだ。全員で一つの湯に入るという形が先に宣言され、そのあと本編は延々とその形を壊しにかかる。今日は一日みんなで楽しもう、という号令の直後に事故が起きる。
副題の「地獄めぐりのち天国」が構成そのものになっている
副題は「水着本気温泉地獄めぐりのち天国」で、前半が地獄めぐり、後半が天国という配分になっている。温泉の湯めぐりに引っかけた題だが、実際に前半で起きるのは泡による遭難で、めぐらされるのは本人たちの意思ではない。行きたくて回るのではなく、流されて次々に別の場所へ運ばれる。後半の天国のほうも、静かな幸福ではなく、まったく別種の展開が待っている。一本の題で二つの話をまとめた回だと思って見ると、前半と後半の並べ方が効いてくる。
なお今回は本編前の映像でも一人ぶんの見せ場が用意されており、視聴者の反応はそこにも集まっていた。
泡に流され、助けに行った人から順に動けなくなる
危険だと分かってから、泡が増え続ける
事故の発端はボディーソープで、危険すぎると誰かが気づいた時点ではもう手遅れになっている。泡はどんどん増殖して、と説明が入り、そこから全員が流されて散り散りになる。この回の遭難がよくできているのは、助けに行った側から順に脱出できなくなるところだ。名前を呼んで助けに行った人が、今度は自分が動けなくなる。安心させようとして抱きついたら二人分の体重が一つになってしまい、水圧で持ち上がらなくなった、という理屈まで律儀に説明される。善意が一つ増えるたびに、身動きが取れない人が一人増えていく。
効能は、湯を出たら元に戻る
途中で判明する温泉の効能も、条件のつけ方が細かい。効いているのは湯の中で水圧を受けているあいだだけで、出たら元に戻ってしまう。そこで返ってくるのが、それなら一生この風呂から出ない、という宣言である。すかさず現実を見てくださいと止められて終わるのだが、この短いやり取りが前半の性格をよく表している。全員を一つの湯に集めるはずだった家族風呂が、今度は出たくない理由まで作り出してしまう。地獄めぐりというより、出口が遠ざかり続ける構造になっている。
効能そのものへの反応も、放送後のタイムラインではよく見かけた。
締めの一言が「一回くらいみんなで一緒に入りたいよね」
家族風呂と名づけた場所に、全員がそろう場面がない
前半を締めるのは、せっかくだし一回くらいみんなで一緒に入りたいよね、という一言である。ここが効く。家族風呂だと宣言して始まったのに、結局この回のあいだ、全員がそろって一つの湯に入る場面は一度もない。誰かが誰かを探しに行き、探しに行った人が行方不明になり、無事を報告し合っているうちに時間が過ぎていく。最後まで残るのは、まだ一緒に入れていないという事実だけだ。
全員が無事なのに、誰も目的を達していない
怪我人の報告があり、初めての温泉デートだったのにという嘆きがあり、それでも三人とも無事ですよという確認で場は収まる。死人も別れも出ないのに、来た目的だけがきれいに果たされないまま終わる。ギャグ回の後味としては珍しく、やり残しの感触が残る作りになっている。そしてこのやり残しが、後半の話とちょうど噛み合う。一緒にいるはずの相手と、その形になれない、という同じ形が繰り返されるからだ。
助けに入ったのは、名乗らずに去っていく先輩だった
十六人という答えが、まったく信じてもらえない
後半は街中の場面から始まる。限定キーホルダーを分けろと不良に絡まれた恋太郎が、何店も回ってやっと集めて彼女にあげるものだと説明する。何人いるんだ彼女、と聞かれて素直に十六人と答えるのだが、返ってくるのは転売屋だろうという決めつけだ。本当のことを言っているのに、嘘つけと処理される。この作品の主人公が置かれている立場が、一場面で分かるようにできている。そこへ割って入るのが、大の男が一人相手に寄ってたかって恥ずかしくないのか、と言い放つ先輩である。
「勝負の場で敵に背を向けることなどできない」
危険だから行きましょうと止められても、彼女は動かない。勝負の場で敵に背を向けることなどできない、と返し、相手が刃物を出しても引かない。何の誇りも持たない者ども相手に自らの正義も貫けないようでは、日々鍛錬をしている意味などない、というのがその理由だ。ここまで一続きで言い切られると、まるで物語の世界の女騎士のような人、という恋太郎の感想もそのまま受け取れる。そして彼女は、怪我はないかと確認するだけで、名乗りもせずに立ち去ろうとする。
恩を返させてほしい、という理屈だけが通る
お礼は必要ない、当然のことをしたまでだ
追いかけてお礼をさせてくださいと頼む恋太郎に、彼女は必要ない、当然のことをしたまでだと断る。食い下がると、貴様人としての誇りはないのか、とまで言われてしまう。誇りを盾にして断る人に、恋太郎が返したのも誇りの話だった。人から受けた恩も返せないようじゃ、俺を愛してくれる人たちに顔向けできません、という言い方をする。断る側の土俵に乗ったうえで、同じ言葉で押し返している。
「それが貴様の騎士道か。ならば付き合おう」
この返しに対する答えが、なるほど、それが貴様の騎士道か、ならば付き合おう、である。相手の理屈を否定せず、同じ格の言葉として認めた瞬間に話が動く。奢られる側になってからは、同じ高校の制服を着た後輩に奢らせるなんて気が引ける、と一転して普通の先輩らしくなる。三年の中で見たことがないから後輩だと分かった、という説明の仕方も律儀だ。六人兄弟の長女に生まれて、母の代わりに妹や弟の面倒を見てきたからか、精神的に大人っぽいと言われる、という話もここで出てくる。この一行が、後半でそっくり効いてくる。
「触るな」と言った理由は、誇りではなかった
急所である頭を人に許すのが屈辱でな
食事のあと、頭に食べかすがついていると言われた彼女は、触るなと制する。理由として挙げるのが、急所である頭を人に許すのが屈辱でな、という一言だ。剣道部の部長らしい、いかにも筋の通った説明に聞こえる。恋太郎もなんて誇り高い人なんだと受け取り、不用意だったと謝る。ここまでは、強く勇ましく誇り高い先輩という像が一枚岩で積み上がっていく。実際この場面まで、彼女の言動には一つも綻びがない。
後から分かる、まったく違う理由
ところが終盤で、この一言の意味が丸ごと入れ替わる。頭を撫でられると甘えるスイッチが入ってしまうので、人前で入れられないよう細心の注意を払ってきた、と本人が明かすからだ。誇りの表明に見えていたものが、正体を隠すための防御だった。急所という言い方も嘘ではない。ただしそれは戦いの急所ではなく、隠しごとの急所だった。一度目に見せた強さが、二度目には弱さの裏返しとして読み直される。同じ台詞を二回使わずに、一回の台詞の意味だけを反転させる作りが上手い。
家族と友人から隠れた場所で、一人だけで甘える
頼られ続けた人が、頼る側になれなかった
彼女が語る事情は、性格から始まっている。プライドが高く勝ち気な性格のせいか、人を捨ておけない性分のせいか、幼い頃から家族からも友人からも頼られてばかりだった。でも本当は私も誰かに甘えたかった、子供扱いされたかった、赤ん坊扱いされたかった、と続く。六人兄弟の長女で母の代わりをしてきた、という前の場面の説明が、ここで理由として立ち上がる。周囲がその人を頼れる人だと扱った結果、その人だけが誰にも頼れなくなったという筋道になっている。
十八歳にして、自分で自分を甘やかしている
そのまま引きずってこの年まで来てしまった、というのが本人の総括で、その果てが十八歳にして家族や友人たちから隠れた場所での一人遊びである。ボイスチェンジャーで変えた自分の声と、手袋で作った母や父に向かって甘える。相手役まで自分で用意しているところがきつい。こんな生き恥、と自分を責める言い方まで出てくる。前半で家族風呂に全員が入れなかった話を見た直後にこれが来ると、同じ形が二度置かれていることが分かる。一緒にいる相手とだけは、望んだ関係になれない。
「先輩のパパになることはできませんけど」
できないことを先に言ってから、できることを言う
恋太郎の返し方が、この回でいちばん見どころだと思う。まず、先輩にだって誰かに甘えたい時はありますよね、と事実として置き直す。そのうえで、俺なんかにその役目が務まるかは分かりませんけど、と自分の側を下げてから、それでもよければいつだってこうさせてほしい、と申し出る。相手の秘密を否定も肯定もせず、必要としている中身のほうだけを引き受けている。そして撫でられた彼女は、その場で赤ちゃんになってしまう。
「彼氏ですですから」で押し切る
告白の言い方も独特だ。先輩のパパになることはできませんけど、と最初に断ってから、ずっと一緒にいて毎日甘えさせてあげることならできます、と続け、俺を先輩の彼氏にしてくださいと言う。役割の名前は辞退して、中身だけを引き受けると宣言している。彼女のほうはまだ甘えたままで、パパじゃないならママか、と返してくる。それに対して彼氏です、ですから、と食い下がるのがおかしい。求められている役をそのまま演じるのではなく、自分の立場を最後まで訂正し続けているのがこの主人公らしい。
前半の落差と合わせて、放送直後はこの振れ幅そのものが話題になっていた。
まとめ、名乗りがいちばん最後に置かれている
前回と、ちょうど裏返しになっている
第32話は、周りから子ども扱いされていたのが実は恋太郎のほうだった、という回だった。今回は逆に、子ども扱いされたかったのに誰もそうしてくれなかった人が出てくる。扱われ方と本人の望みがずれている、という点では同じ話を裏返して置いている。本人の望みは、周囲が親切に接している限り永久に見つからないという点も共通している。頼れる先輩として扱われ続けたことが、そのまま彼女を隠れさせていた。
名乗りが三度に分けて出てくる
最後に構成の話をしておきたい。彼女は助けた直後、名乗りもせずに去ろうとした。次に食事の席で、三年で剣道部だという所属だけを告げる。そしてフルネームを名乗るのは、正体を明かして受け入れられたあと、いちばん最後である。名前を出す順番が、そのまま心を開く順番になっている。恋太郎のほうが早い段階で一年の愛城恋太郎ですと名乗っていたことを思うと、この差は意図的だろう。強い人ほど、名前を最後まで出さない。地獄めぐりのち天国という副題が、湯めぐりだけの話ではなかったことがここで分かる。




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