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第2話は、二十世紀電氣目録を持つ喜八のもとへ三添洋輔が迫るところから幕を開ける。人違いの抱擁、秘書・鱒淵伊蔵の鮮やかな手際、川へ投げ出された箱、蔵に閉じ込められた稲子、そして巨大凧で空へ——めまぐるしい一日の果てに、ようやく目録を手にした洋輔が叫んだのは




目録再発見と追跡劇の始まり
凝ったオープニングと、人違いの抱擁
第2話は、オープニングから恐ろしく凝った映像で幕を開ける。二十世紀電氣目録を手にした坂本喜八のもとへ、三添洋輔がじりじりと迫ってくる。もうこの時点で追跡劇は始まっているのだと、台詞ではなく画で叩き込んでくる導入だ。
ところが洋輔は、あろうことか喜八を百川稲子と取り違え、背後から抱きしめてしまう。気づいた瞬間の突き飛ばしっぷりが見事で、張り詰めていた空気が一息に喜劇へ転げ落ちる。第2話はこの「緊張と脱力の落差」を、最後までずっと武器にしてくる。
当の稲子は稲子で、いきなり「いいなづけ」と言われて困惑するばかり。しかも相手は蒸気機関で財を成した三添商店の御曹司、つまり京都の老舗酒造の娘が真っ向から突っぱねられる相手ではない。
それでも稲子は、嫌悪感まで隠さずにきっぱりと断ってみせる。「自分に自信はないが、人を信じることに長けた素直な少女」という第1話の印象が、ここで一段はっきりと輪郭を持つ。信じる相手は自分で選ぶ、という芯の強さだ。
そして洋輔が、ひっきりなしに吹かしている煙草。会話の合間にゆらりと立ちのぼる紫煙が、この男の掴みどころのなさをそのまま形にしているようで、どこか不気味だ。
ネットでも、車内で煙を吸い込む洋輔の背後の壁紙が重なって、まるで頭から蝶の羽が生えているように見える——という指摘が上がっていた。EDでも蝶が舞っていることを思えば、あの演出はただの気障ではないのかもしれない。
秘書・鱒淵伊蔵の手際と、川へ落ちた箱
騒ぎを一瞬で片づけたのは、洋輔の秘書・鱒淵伊蔵だった。鮮やかな手さばきで喜八と稲子を昏倒させると、稲子を抱えたまま車へ運び去ってしまう。
この男がとにかく怖い。冷徹な知性と鍛え上げた肉体を併せ持ち、主の暴走にどこまでも生真面目に付き合ってしまう。洋輔ひとりなら騒がしいだけで済むところを、鱒淵がいるせいで本当に事が運んでしまうのだ。
意識を取り戻した喜八は、走り去る車に縄をかけて食い下がる。臆病なはずの少年が、それでも縄一本で車に食らいついていく。だが引きずられるばかりで、結局は無情に振り切られてしまった。
一方その車内では、稲子が激しく暴れていた。その拍子に、目録の入った箱が窓から外へ——そして川へと投げ出されてしまう。奪ったはずの目録が、奪った当人の手からもこぼれ落ちる。ここから第2話は、誰も掌握できない追いかけっこへ雪崩れ込んでいく。
川面を流れていく箱。その光景を目撃したことで、陸健吾までもが目録探しに加わることになる。元軍人で、亡き清六の同級生。目録の名を知る男が動き出したことで、奪い合いの輪がまた一人ぶん広がった。
蔵の中の稲子と、袖に隠された目録
連れ戻された稲子と、父に食って掛かる姉・規子
百川家へ連れ戻された稲子は、そのまま蔵に閉じ込められてしまう。望まぬ結婚から逃げ出した娘への、家としての処遇ということなのだろう。娘を守るはずの家が、娘を閉じ込める側に回る。この作品が向き合っている「前時代」の重さが、蔵の扉ひとつで伝わってくる。
黙っていなかったのが、姉の規子だ。妹の結婚を勝手に決めてしまった父に、真正面から食って掛かる。武術に長けたしっかり者、という人物像がそのまま行動に出ていて頼もしい。
とはいえ、規子が声を上げたところで家の決定がひっくり返るわけではない。それでも黙らなかったという事実だけが、蔵の中の妹に届く唯一の味方の印になっている。
家のしきたりと、娘たちの意思。派手な追跡劇の合間に、この家が抱えている息苦しさをきっちり描いてくるのが第2話の巧いところだ。喜劇の顔をしていながら、根っこにあるのは「決められた人生から逃げられるのか」という重い問いなのである。
袖から出てきた目録と、稲子の“ドヤ顔”
そして、蔵に閉じ込められた稲子のもとに喜八が現れる。すると稲子はおもむろに袖へ手を入れ、二十世紀電氣目録を取り出してみせた。
川へ投げ出されたはずの箱——その中身を、稲子は投げ出される前に抜き取っていたのだ。連れ去られる車の中、暴れながら、あの土壇場で。派手な発明も蒸気の力もない少女が、機転ひとつで全員を出し抜いてしまった瞬間だった。
問題は、それを得意げに語るときの稲子の“ドヤ顔”である。見事なまでに崩れていて、可愛げより先に笑いが来る。第2話は本当に顔芸の宝庫で、キャラクターが格好つけた次の瞬間に必ず顔を崩してくる。この容赦のなさが、本作の距離感の近さを作っている。
一方その頃、川を流れる箱を追いかける三人。必死に追いすがり、ようやく箱に追いつき、勇んで蓋を開けてみれば——中身は空っぽ。
稲子のたった一手が、洋輔も鱒淵も陸も、まとめて空振りさせていた。追う者たちが総出で川を下っている間、目録はずっと蔵の中の袖の中にあったのだ。この構図の可笑しさが、そのまま第2話の骨格になっている。
兄の思い出と、巨大凧で空へ
目録に託された、兄・清六の思い出
稲子から二十世紀電氣目録を受け取った喜八は、蔵の中で、目録と兄・清六の思い出を語り始める。電氣の時代を二人で作ろうと誓い合った兄。周囲を魅了するカリスマで、喜八にとっては世界そのものだった人。
その兄は、目録を持って戦争へ行き、帰らぬ人となった。喜八が疑り深く臆病になってしまった理由も、それでも発明をやめられない理由も、結局はこの一冊に全部結びついている。奪い合いの的でしかなかった目録が、ここでようやく「誰かの形見」の顔を見せる。
語り終えた喜八は、一人で蔵を出ていこうとする。ところが持ち込んだ機械は、どうやら二人がかりで使うものだったらしい。結局は稲子に手を借りて、二人で屋根へ上がることになる。
目録さえ手に入れば用は済むはずだった少年が、気づけば稲子と組んでいる。しかも、道具の仕様の都合で。噛み合っているのかいないのか分からないこのバディ感こそ、本作のいちばん楽しいところだ。
家に戻るのか——しきたりと、姉の下手すぎる演技
屋根の上で、喜八は稲子に問いかける。家に戻るのか、と。
戻れば、望まぬ結婚が待っている。それでも家のしきたりを思えば仕方がない——稲子はそのジレンマの中にいた。逃げたいと言い切れない娘と、連れ出すと言い切れない少年。この歯切れの悪さが、かえって二人の距離を近づけていく。
それでも喜八は、稲子を連れ出す。ところがそこへ、蔵に食事を運んできた父と規子、そして年配の女性(乳母だろうか)が現れ、あっさり見つかってしまった。
激高しかけた父を止めたのは、規子のあまりにも下手な「よろけてみせる」演技である。棒読み同然、動きもわざとらしい。それでも父を抑え込んでしまうのだから恐れ入る。第1話から一貫して、この姉は妹の味方だ。
その隙に喜八が荷物から取り出したのは、巨大な凧だった。ところが、肝心の本人が飛び出せない。高所恐怖症なのか、それとも臆病な性分が出たのか、縁でぐずぐずしている。
痺れを切らしたのは稲子のほうだった。後ろから抱きついて——二人はそのまま、夕暮れの空へ飛び出してしまう。町では稲子の同級生が、頭上を横切っていく二人を呆然と見上げていた。
墜落と猛追、そして「偽物だ」の叫び
空の美しさと、傾いていく凧
凧で舞い上がった二人は、眼下に広がる町と、空の美しさに息を呑む。前時代的なしきたりも、望まぬ結婚も、この一瞬だけは足元に置き去りにされる。
昼と夜が入り混じる夕暮れという時間帯に飛ぶ、というのがまた効いている。まだ何も解決していないのに、電氣の時代が本当に来るような「兆し」だけが確かに見える。第2話でいちばん美しい数十秒だ。
だが、感動は長くは続かない。凧はやがて不安定に傾き、じりじりと高度を落としていく。上がったものは落ちる——身も蓋もない物理が、二人を地上へ引き戻していく。
最後は木に不時着し、なんとか一命は取りとめた。しかし運が悪い。よりにもよって落ちた先を、目録を追ってきた洋輔たちの車に見つかってしまう。
蒸気を噴き上げる陸健吾と、奪われた目録
ここで洋輔は、陸健吾に「稲子の誘拐だ」と焚きつける。真に受けた陸は、全身から蒸気を噴き出しながら走行中の車から飛び降り、猛然と二人を追いかけ始める。人が蒸気を噴いて走る画の異様さと迫力が、この作品の世界観を一発で押し広げてくる。
喜八と稲子は廃墟の屋敷へ逃げ込む。だが、そこを抜け出したところで、ついに捕まってしまった。
稲子は百川家へ連れ戻され、目録を奪われた喜八は叫ぶ。陸はといえば、そもそも何が起きているのか呑み込めていない。そしてようやく目録を手にした洋輔は、中身を確かめるなり——「偽物だ」と喚き散らすのだった。ここで第2話は幕を閉じる。
第2話が残した謎は重い。喜八が兄から託されたあの目録は、本物なのか、偽物なのか。
少なくとも喜八は中身を知っていて、あれを本物だと信じている。ならば「偽物だ」と叫んだ洋輔は、どこかで“別の目録”を見たことがあるのではないか。比べる相手を持っていなければ、あの断定は出てこないはずだ。
そして、目録の名を聞いたときの陸健吾のあの反応。坂本清六と陸健吾、そして三添洋輔——この三人の間には、まだ語られていない何かが横たわっている。目録が誰の手にあるかより、目録が誰と誰を結んでいたのかのほうが、たぶんずっと重い謎だ。




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