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北条の残党を狩ろうと足利勢が各地に目を光らせるなか、信濃守護・貞宗は、犬追物などで頭角を現す少年「長寿丸」に不審を抱く。あの小僧の正体は、北条一族か。貞宗は返礼の使者として、時行がただ一人で己の陣へ赴くよう求める。冷静沈着で並外れた眼力を持つ貞宗との、逃げ場のない「言葉の戦」。第14話を振り返る。




諏訪大社の返礼、単独の使者
貞宗の「小さな願い」
諏訪大社の御射山祭を終え、信濃守護・貞宗への返礼が交わされる。領地を争い合う間柄でも礼は尽くす。そんな折、貞宗の使者が「小さな願い」を口にした。返礼の使者として、少年「長寿丸」ことを、ただ一人で寄こしてほしい、と。
護衛は自分たちが務めるゆえ、彼一人で来い。断ればなおさら怪しまれる。正体を隠す工作は完璧だったはずだが、貞宗は切れ者。時行は、敵陣の只中へ単身乗り込まざるを得なくなった。
礼を尽くし合う体裁の裏で、じわじわと退路をふさいでくる貞宗の駆け引きがいきなり不穏で引き込まれる。逃げの達人・時行が「逃げられない場所」へ追い込まれるという構図が、この回の緊張感を最初から高めていて上手い。
亜也子の同行と、雫の猛特訓
交渉の末、供として付き添うことになったのは亜也子。その怪力とああ見えて利く機転を頼りに、「これしきで若さまを守れねば巴御前になれない」と意気込む。かつて信濃で一族を失いながら天下を取った武将・木曽義仲。己と同じ境遇に、時行も静かに重ねる。
問題は、貞宗との問答だ。娘の雫は、答えを誤れば命が危ういという未来を視ていた。そこで彼女は、問答を恋愛ゲームさながらに見立てて解説し、誤答という名の爆弾を踏まぬよう、時行に一晩かけて知識を仕込んでいく。
命がけの問答を「ときめきメモリアル」風のゲームに見立てる演出が軽妙で、思わず笑ってしまう。巴御前へ憧れる亜也子の一途さも微笑ましく、シリアスとコメディの緩急のつけ方がこの作品はやはり達者だ。
言葉の戦、開幕
礼を正せ、そして偽りの素性
陣に着いた時行は、まず座り方を正される。敵の前だからと大きく構えた時行に、貞宗は説く。「逆だ。命を奪う敵だからこそ、奪う命に敬意を払え」。後に一般化する正座が小笠原の礼法に基づくという史実もさりげなく差し込まれ、時行は「言葉で逃げねば、言葉で射抜かれる」と気を引き締めた。
探りが始まると、時行は諏訪大社の氏子の遺児「長寿丸」だと名乗る。火事で親子ともども死んだはずという食い違いも「親を置いて一人逃げ、それを恥じた」と淀みなく返し、郎党が名門の血筋である謎も「鬼ごっこに勝ったから主君と呼ばれているだけ」とかわしていく。
敵にこそ礼を尽くせと説く貞宗の武人らしさが格好よく、彼の株がぐっと上がる導入だ。問うたびに返しが流暢になり、怯えが消えて問答を楽しむ表情に変わっていく時行の“逃げ上手”ぶりにも痺れる。
赤沢新三郎の証言と、「貴様は北条か」
貞宗が呼び入れたのは、家臣の赤沢新三郎。かつて鎌倉に長く駐在し、北条一族や重臣の住む界隈にも通じていた男で、「そこで、この子を何度も見た」と時行を指し示す。だが時行は動じない。半端な地方武士に見られる隙などない、「下手なハッタリは、下手な追撃と同じ」と、逃げながら鋭く打ち返して証言を崩した。
しかし、ここからが本番だった。礼儀と戦には線を引く、これは戦だ——貞宗の最終手段は、至近距離で相手の表情を読み切ること。並外れた眼力が時行の心の乱れを捉えようと、確信の問いを放つ。「貴様は、北条か」。
蛇のように執拗な赤沢の証言を逆手に取る時行の反撃が痛快で、逃げのスキルが“言葉”でも活きるのが心憎い。そして礼から一転、冷徹に踏み込む貞宗の切り替え——この緩急こそ、逃げ若が誇る心理戦の醍醐味だと思う。
亜也子の田楽、大逆転
目と耳を奪う舞
その刹那、場が一変する。厠へ立つと見せて席を外していた亜也子が、突然、楽器を奏で田楽を舞い始めたのだ。身分の垣根も忘れ、人々は次々とその舞に夢中になっていく。
これは雫の策だった。異能の耳を持つ家臣・市川を崖崩れで足止めし、亜也子が貞宗の目か、市川の耳のいずれかを封じる。亜也子を子供と侮った隙を突いた撹乱は見事に成功し、あろうことか時行自身までその姿に魅了され、動悸を高鳴らせてしまう。おかげで貞宗は心底を読み切れなかった。
敵の眼力を、力ではなく“芸”で無力化するという発想が最高に痛快だ。しかも撹乱するはずの時行までまんまと見惚れてしまうオチが可愛くて、亜也子の魅力を最大限に引き出した名場面だと思う。
疑惑は疑惑のまま、亜也子の忠義
結局、貞宗は引き下がる。正せと言えば素直に従い、どんなに追い詰めても崩れなかった時行の素直さは、疑う乱世においてこそ怪しい。だが、ああも素直では「疑うほうが野暮になるわ」と、疑惑を疑惑のまま残し、次に邪魔をすれば容赦はしないと釘を刺した。
帰り際、面目を潰された赤沢新三郎が薙刀を手に襲いかかるも、得物を選ばず戦う亜也子が難なく撃退。とどめの一撃は、事が荒立つのを嫌う時行が制止した。「いつでもお手つきしてね」と過激な忠義を向ける亜也子に、時行は思う。曇りなき忠義を持つ彼女に、自分はふさわしい主君になれるだろうか、と。
冒頭で見せた亜也子の怪力を、終盤の戦いできっちり回収する構成が丁寧で気持ちいい。過激すぎる忠義の言葉に戸惑いつつ、彼女を思う時行のまなざしも温かく、二人の関係の尊さがしみる締めだった。
「亜也子の底力」まとめと考察
全篇まるごと、“亜也子回”
第14話は、まぎれもなく亜也子のための回だった。怪力だけの豪傑かと思いきや、機転と芸で敵の眼力すら封じてみせる——武と知と愛嬌を兼ね備えた彼女の底力が、これでもかと描かれた一話である。
懐かしいキャラソンまで流れる大盤振る舞いで、アニメがヒロインとしての亜也子をぐっと押し出してきたのも印象的。力押しでなく“撹乱”で勝つという逃げ若らしい勝ち筋を、彼女が体現してみせたのが何より痛快だった。
好敵手・貞宗と、これからの逃走劇
この回でもう一つ大きいのは、貞宗という好敵手の魅力が確立したことだ。礼を重んじ、敵にすら敬意を払い、それでいて戦となれば冷徹に踏み込む。疑惑を晴らせぬまま引いた彼とは、これからも様々な形でやり合うことになりそうだ。
正体を暴かれれば即、死。その綱渡りを、逃げと仲間の力で切り抜けていく緊張感が第二期の見どころになっていくのだろう。言葉の戦を制した時行と亜也子の次なる一手に、大いに期待したい。




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