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「なんで洞窟の中に草原があるわけ」という突っ込みから始まる回だった。二層は幻影魔法と空間魔法で作られた無限回廊で、魔力だまりを潰すたびに景色が剥がれていく。途中でダンジョン肉祭りを挟み、たどり着いた三層は雪原。冷え切ったアリアのために、リンが黒よもぎからもぐさを作るところまでが今回である。




「なんで洞窟の中に草原があるわけ」
でかすぎる牛と、熟成された肉
第5話は、ダンジョンの常識の説明から始まる。「ダンジョンは現実から隔絶された異世界と言われている。そこに現実の法則は一切当てはまらない。だからダンジョン内に草原があっても決しておかしくは」という前置きに、リンが「いやおかしいでしょ。なんで洞窟の中に草原があるわけ」と食い気味に突っ込む。
しかも草原にいたのが巨大な牛型の魔物で、「それにしてもでかすぎでしょ、あの牛」と言うほかない。倒した結果がドロップした肉である。
そのお肉を前にしたリンの第一声が「下ごしらえして後で美味しく食べるから待っててね」で、ごまみそに「いい子だからマテ」と言い聞かせている。
パーティー側も「熟成までされた状態のお肉がドロップするなんて助かりますね。丸のままだとさすがに解体する自信がないですもん」と評価していた。ダンジョン産の肉が最初から食べ頃という設定が、この作品らしくて良い。
「このパーティー、思ったより食に関する闇が深い」
そこで手を挙げたのがセノンだった。「解体だけなら私できますよ」。驚くリンに返した理由が「森の守り手とも言われるエルフですから。狩りは生活する上で重要なスキルですよ」である。
ところがリンが「解体ができるなら、その延長で料理もできるのでは?」と踏み込んだ瞬間、ヴィルの制止が入る。「やめとけ。焦げた生肉なんて代物を作ったのはそこのエルフだぞ」。
リンの反応が「焦げてるのに生? なんですかその矛盾の塊は」。しかも犯人はセノンだけではなく、エドもアリアも、そして「そこでしれっとしてるヴィルだって作ってましたからね」と全員に飛び火した。
極めつけがそのあとである。リンが「ごまみそなら焦げたところそぎ落とせば食べられそうだけど」と言うと、ヴィルが真顔で「何を言ってるんだリン。俺たちも焦げをそぎ落として食べたに決まってるだろ」。リンの「生の?」という声にならない確認で場面が終わる。
そして出てくる結論が「このパーティー、思ったより食に関する闇が深い」だった。飯番として加入した意味が、ギャグとして一発で説明されている。
幻影と空間魔法でできた無限回廊
「一枚の紙っ切れみたいな空間」
買い出しから戻ったエドとアリアの報告が「久しぶりのデートだったからさ、楽しくてついつい時間を忘れちゃった」という平和なものだったが、内容は物騒だった。「やっぱりこの階に出る連中も、あのファイアベアと同じだったよ」。
つまり見かけ倒しである。「じゃないと、さすがに二人じゃここまで勝ってこれないしね」という説明に、セノンが「やはり魔物の不自然な弱さが気になりますね」と応じた。
次に説明されるのが空間そのものの仕掛けだった。「ここが洞窟の中だなんて」という感想に対して、「実際はそんなでもないんだと思うよ」「幻影の魔法と空間魔法がかかってる感じ」。
詳細も丁寧である。「幻影魔法で俺たちの周囲だけマテリアライズさせつつ、空間魔法で無限回廊化してる」。もとは「一枚の紙っ切れみたいな空間」で、その端と端をくっつけて円環というか球のようにしてある、という説明だった。
リンの理解が「つまり、歩けども歩けども元いた場所に戻っちゃう感じですか?」。攻略の鍵は魔力だまりで、何か所かを潰していけば下への階段が見つかる。「うちはアリアがいるおかげで道に迷うことはないんだが、初見では厳しいかもしれない」というのも効いている。
「結論。食べ物の恨みは怖い」
魔力だまりへ向かう途中、リンが襲われる。正体は魔道カラクリで、ヴィルの評は「面倒なもんを配備してくれたな」。リンはスキルで駆け込んで無事だった。
ここからのパーティーの反応が今回いちばんの見どころである。ヴィルの第一声が「てめえ、よくもうちの飯番を狙ってくれたな。後悔させてやる。死をもって償いやがれ」。
セノンの指示も冷静に見えて温度が高い。「ヴィル、白い方を狙ってください。関節部分はやばいようです」「エド、アリア、赤い方を網で絡め、雷魔法を」。そして「我らが食卓の希望を蹂躙する者には、相応の報いを」。
それを眺めるリンの内心が実況になっている。「片手で振り回してるけど、あれ両手剣だよね」「エドさん相当高電圧だけど、高圧特別高圧電気取扱者教育とかはないのか?」「セノンさん、ニコヤカなのに青白い怒気が見えるのは気のせいかな」。
締めが「結論。食べ物の恨みは怖い」。飯番を狙われたというだけで全員が本気になる、という一点で、リンがこのパーティーにとって何なのかが示されている。
ダンジョン肉祭り
「俺の見通しが少し甘かった」
戦闘後、ヴィルがリンに言ったのが「リン、俺の見通しが少し甘かった。怖い思いをさせてすまなかった」だった。リーダーが素直に頭を下げる。
リンの返しも良い。「結局怪我もなく無事でいますし、終わり良ければ全て良しですよ」「むしろこっちはダンジョン攻略中に素人を守ってくれることに感謝しているわけで」。
そのうえで空気を変えにいくのがリンのやり方だった。「魔力だまりを解消したなら、この辺りは安全ですよね。そろそろご飯にしませんか。腕によりをかけますから。英気を養いましょう」。
全員がぴたりと止まって「ご飯」と反応する。リンの内心が「食いしん坊は美味しいものに弱い」で、謝罪の場を食事に転換してしまった。
この作品の食事は、単なるご褒美として置かれていない。気まずさや不安を処理する手段として使われているのが、他のグルメ作品と違うところだと思う。
「外はカリッと、中はしっとり」
そして肉祭りが始まる。「本日も糧を得られたことに感謝します」「いただきます」からの評が並んだ。「絶妙な火の入り方ですね。外はカリッと焼けているのに、中はしっとりと柔らかい」。
ヴィルの驚きが具体的だった。「ヒレなんて焼いたらパサつくだけかと思ったんだが、こんなにしっとり焼き上がるとは」。ほかにも「バターのコクがしみます」「甘い脂身が舌の上でとろけるよ」と続く。
そのなかでアリアだけが黙々と食べていて、理由がエドの口から説明される。「美味しいものを食べてる時に口を開くと、美味しいオーラが逃げちゃう」。ところがセノンが「喋ってる間に美味しいものを人に取られるのが嫌とも言っていましたが」と、ヴィルが「おしゃべりしてる暇があったら、いっぱい食べておいた方がいい」と、次々に別の証言を出してきた。
そのアリアが自分から口を開いて言うのが「リンのご飯も大好き。来てくれてありがとう」である。前回まで野菜嫌いとして描かれていた人物からこの一言が出るので、加入がちゃんと効いているのがわかる。
食べ方の話も楽しい。「薄い肉を同時に噛みしめる感覚がたまらんな」「俺はね、ちょっと厚めのやつをくるくる巻いて、さらに厚くして食べるのが好き」。肉の焼き方ではなく食べ方で個性を出しているのが芸細かかった。
幻影が消えた二層と、三層への階段
「幻影が消えればこんなもんだ」
食後は魔力だまり潰しが進む。「周りの風景、だいぶ変わりましたね」という感想の理由が「魔力だまりを潰してってるから、幻影が維持できなくなってるんだろうね」だった。
そして最後の一つを潰したところで、ヴィルの一言が出る。「幻影が消えればこんなもんだ」。草原は消え、本来の洞窟が姿を現した。
残っていた厄介ごとが強制ワープである。「転送されている感じはしませんけど、いつの間にか別の場所へ飛ばされるんでしたっけ」「ああ、厄介な罠だ」。
これにリンが反応してしまう。「ゲームとかだと、そういう時に限って奇襲攻撃くらったりするんだよな」。顔色が悪くなったのを心配され、「なんかちょっと嫌な想像しちゃって」と白状した。
フォローする仲間に対してヴィルが釘を刺すのも良かった。「そうは言うが、慢心は命取りだ。索敵と罠感知はしっかりやりながら進むぞ」。ふざけているようで、要所は締める。
「ギミックは面倒なのに、敵はそんなに強くない」
階層の整理も行われる。一階が洞窟、二階が草原というか室内タイプ。それを踏まえて「次の階はどうなってるんでしょう」という問いが出た。
ヴィルの答えが「正直なところ、進むたびにランダムで空間が変わるダンジョンは珍しいんだ。予測は難しい」。攻略のベテランでも読めない、という言い方になっている。
そして違和感が言語化される。「ギミックは面倒なのが出てくるのに、敵はそんなに強くない」。それを受けたセノンの見立てが「殺意は低めと判断すべきなんでしょうか」だった。
この言い換えが不気味で良い。殺す気がないなら、このダンジョンは何のためにあるのかという問いに、そのまま裏返るからである。前回からの「魔物が見かけ倒し」という違和感が、ここで一段深いところへ進んだ。
雪原と、もぐさ作り
「何この手、氷みたい」
三層は雪原だった。第一声が「寒い」で、慎重に降りることになる。
リンが救われたのはごまみその体温だった。「でもごまみその体、すごくあったかいよ」「体があったかい分、風が冷たく感じるのかな」に、「なるほど、猫はこたつで丸くなるだもんな」と返るのが可笑しい。
問題はアリアである。動けなくなったところをモーちゃんで休ませ、リンが手を取って「何この手、氷みたい」と驚いた。逆にリンのほうは「万年常夏体温なんです。パイ生地とかスコーン作るのに向いてない手の温度なんですよね」という体質で、揉んでもらったアリアが「こうやって揉んでもらうと安心する」と言う。
ここでリンが使っているのが鍼灸の知識である。「私のスキルが活かせて何よりですよ」という言い方をしているが、元の世界で持っていた資格がそのまま効いている場面だった。
原因についての推測も出る。「すっごい偏見で申し訳ないけど、昆虫系は寒さに弱いって聞くし、クモ人さんも寒さに弱いのかな」。アリアが網を使って戦うことと合わせて、種族の設定がここで効いてきた。
黒よもぎからもぐさへ
雪が止みそうにないと分かると、リンが動く。「それなら皆さん、ちょっとお時間もらってもいいですか。温熱アイテム作りましょう」。
取り出したのが黒よもぎだった。「森に行った時集めておいたんです。もぐさが作れるかもと思いまして」。前の回で拾ったものが、ここで効いてくる形になっている。
説明も丁寧だった。「体を温めるのに使う医療品ですかね。お灸に使われる材料なんですが」。セノンが「エルフの里でも町の方でも聞いたことのない名前ですね」と言い、「長生きのセノンさんでも知らないのか」と驚かれている。
作り方も具体的である。使うのは葉の裏毛だけで、「素人じゃそこまで綺麗に生成できないと思いますけどね」と断りながら、葉を粉砕してザルにかけ、ゴミと仕分けて布に集める。出来上がりを見た反応が「あの山のような黒ヨモギからこれしかできないとは」で、リンも「まあコスパは悪いですよね」と認めた。
仕上げが「岩塩とオレンジの皮、それと野草も混ぜてレンジで加熱しましょう」「厚手の布に包めば、これでよし」。使い方の指示も「ツボがあるあたりを温めるといいですよ」と実用的で、「これあったかいし、いい匂い」と好評だった。
出発前にはもう一つ、甘いホットミルクまで用意される。そして進んだ先で見つかったのが神殿らしき建物で、「立派な建物ですが、これはまた雪の中で見ると不気味ですね」「怪しい雰囲気がプンプンだよ」「注意して入ろう」というところで第5話は終わった。
「野郎ども! ダンジョン肉祭りだあっ!」まとめと考察
食事が全部「対処」になっている回
今回のサブタイトルは「野郎ども! ダンジョン肉祭りだあっ!」。肉づくしの食卓は確かに回の中心だが、この回の面白さは食事の置かれ方にあったと思う。
肉祭りは、リンが襲われた気まずさを吹き飛ばすために提案されたものだった。もぐさは、寒さで動けなくなったアリアへの処置である。ホットミルクは出発前の準備だ。今回の食べ物は、どれも問題を解決するために出てきている。
しかも解決しているのがリンだという点が効いている。戦闘力はゼロで、罠にかかって助けられる側なのに、パーティーが止まる場面では毎回この人が動かしている。「素人を守ってくれることに感謝している」と言えるのも、自分の役割が分かっているからだ。
ネットの反応には「ずっと車の中にいれば良いのでは」という指摘もあった。確かに理屈としてはそうだが、車から出てこないとリンは何もできないので、そこは構造として折り合いがついているように見える。
次に見るところ
まず雪原の神殿である。「これはまた雪の中で見ると不気味ですね」と言われたところで終わったので、次回はここから始まるはずだ。ダンジョンの三層に神殿がある時点で、自然発生した空間とは考えにくい。
次に「殺意は低めと判断すべきなんでしょうか」という見立てだ。ギミックは面倒なのに敵は弱い、という組み合わせは、侵入者を殺すためではなく足止めするための設計に見える。何を守っているのかが問題になる。
三つめがアリアの体調である。今回は寒さのせいで済んでいるが、「これ、尋常じゃない気がするんだよな」という言葉も出ていた。四層以降で環境がまた変わるなら、彼女の対応力が先に限界を迎える可能性がある。
そしてごまみそだ。今回は主に暖房として活躍していたが、体が異様にあたたかいという描写が丁寧に置かれている。雪原でこそ役に立つ従魔という形で、少しずつ存在意義が積み上がっていた。
















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