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『リゼロ』第80話は、目が覚めたスバルが名前を呼べるかどうかを確かめられるところから始まる。そして塔の外では、会話からエミリアの名前だけが抜け落ちていた。ライ・バテンカイトスにレイドまで加わる三つ巴の末に、スバルは死に戻る。ところが目覚めた先が違っていた。やり直しの起点がずれ、見えるはずのないものが見えるようになる。副題どおり、片づく前に次が増える回だ。




目が覚めて最初にされるのが、名前を呼べるかの確認
第79話でスバルは記憶の回廊へ落ち、暴食のルイと向き合って戻ってきた。第80話の入りは、その帰還の直後である。
挨拶の形をした安否確認
呼びかけに応えて名前を返したスバルへ、ベアトリスが言うのがこれだ。「ベティの名前が呼べたってことは、うっかり記憶を落としてきてはいないみたいなのよ」。
第74話「オマエハダレダ」から続いてきた暴食の被害が、この一言に凝縮されている。目覚めて最初にやることが、相手の名前を呼べるかどうかの検査になっている。この確認がこの回の全部を先取りしていることは、十分後に分かる。
報告は失敗から始まる
スバルの説明は身も蓋もない。「レイドの本を読んだが、あいつの過去を探る作戦は失敗した」「邪魔が入ったんだよ」「暴食の大罪司教だ」。第79話で死者の書をレイド攻略の極意書に使う方針が決まったばかりだったので、その方針は一話で潰れたことになる。
その間に外では別のことが起きていた。エキドナの報告が「アウグリア砂丘の魔獣が大挙して、この塔に押し寄せている」「中に入った第一波は私が退けたが」「シャウラが外の魔獣に対処するのも限界がある」。
前回の予告が、そのまま起きている
スバルの反応が早い。「暴食め」「手段を選ばないってのは、こういうことか」。第79話でルイは出口の前でこう警告していた。「後悔するよ」「お兄ちゃんと兄様は食欲旺盛で手段を選ばないから」。
つまりこの回は、前回の別れ際に置かれた一行を、そのまま実行するところから始まっている。魔獣の群れも、この後に起きることも、全部あの警告の中身だ。
防衛の割り振りにも前回が効いている。シャウラとメィリィに外を任せる場面で、スバルは「今度は不慮の事故で欠場したメィリィ先輩がいる」と言う。第79話でレイドの本を見つけ「偉いぞ、メィリィ」と褒められた子が、今回は前提として数えられている。
会話からエミリアの名前だけが抜けている
この回で最初に来る本当の打撃は、戦闘ではなく報告の中にある。
「銀髪の知らない女」
合流したラムの報告はこうだ。「向こうで暴食の大罪司教を名乗る相手と出くわしたわ」「そうよ、銀髪の知らない女が戦っているわ」。ユリウスも同じで、「一度も見たことのない相手です」と続ける。
気づくのはスバルだけだ。「待ってくれ!」「エミリアは?」「お前らの会話にエミリアの名前が抜けてる!」。返るのが「エミリアって、誰のこと?」。
冒頭でベアトリスがやった名前の確認が、ここで意味を持つ。検査に通ったのはスバルだけで、外にいた側が落ちていた。
同じ目に遭った人がいる
ここでユリウスが引き受ける。「そんなことが起こり得るのだろうね」「他ならぬ私自身が味わった思いだ」。すでに名前を食われて周囲から忘れられている本人が、今度は忘れる側に回っている。第72話「ユリウス・ユークリウス」は、その状態のまま彼が名乗りを上げた回だった。
ラムのほうは体に来る。頭痛を訴える彼女についてベアトリスが説明するのが「暴食の権能のずさんな部分が出ているのよ」「記憶が成立しない部分が多すぎて、頭がショートしているかしら」だ。忘れさせられた側は、忘れたことの穴で苦しむという描き方になっている。
それでも判断は速い。ユリウス「僕たちの仲間の一人が、名前を奪われながらも戦っているなら、なおさらだ」。誰かは分からないが仲間だ、という一点だけで動く。ラムも「暴食の命は残しておきなさい」「生まれてきたことを後悔させてやるわ」と続ける。
忘れられた側が、いちばん揺れていない
現場に着いたスバルが叫ぶのが「エミリアちゃん!」「俺は忘れてねえ!」「たとえ何があっても、俺は君を忘れないから!」だ。
エミリアの返しがこの回の白眉だと思う。「大事なのは、私がみんなをどう思ってるかよ」「それに、覚えててほしい人は覚えててくれたもの」「今、すごーく元気だわ!」。
忘れられて折れるのではなく、自分が覚えている側であることを根拠にして立っている。第79話でルイはエミリアを「その生まれがかつての魔女と同じというだけで誰からも忌避される」と憐れんでみせたが、その決めつけがここで一番きれいに外れる。呆れる敵に対してユリウスが「だが、私も彼女に同意見だ」と乗るのも良かった。
食った記憶で他人の名場面をなぞる、という最悪の手
ライ・バテンカイトスの戦い方は、能力の説明そのものが人格になっている。
技を食べて、その場で返す
エミリアの氷の技を受けたライは、それをそのまま撃ち返す。添えるのが「自分の技を食らってみるのって、どんな気分かな?」だ。
理屈も本人が語る。「忘れないとか、あれこれ言ってたけどさ、結局最後には経験がものを言う」「つまり最高なのは、優れた知見を食い溜めた僕たちってわけだよ」。積み上げた側ではなく、積み上げたものを奪った側が最高だと主張している。
名場面まで再現しにくる
スバルに向けてくる言葉が、ただの挑発では済まない。「俺たちに向けられるはずのない芳醇な憎悪を」「匂い立つ執着」と味わったうえで、こう続ける。「今こそ、あの感動の時を再現しようか」「ここから始めようよ、お兄さん」「一から…」。
食った記憶の中から、よりによってその場面を選んで、その顔で言い出す。相手が一番大事にしている記憶を、正確に狙って踏みにいくのがこの敵の悪辣さだ。反応は視聴者の側でも激しく、ネット上でも怒りの投稿が並んでいた。
止めるのはラムだった。妹の姿を借りた再現を、姉が途中で断ち切る。「死になさい」「私もいるから!」。第79話でスバルを立たせたのがレムの「立ちなさい」で、第78話で同じ言葉を言ったのがラムだった。その二人を一度に汚しにきた相手を、姉のほうが黙らせている。
続く応酬も容赦がない。エミリアの顔を評したラムの一言が「顔は、エミリア様の数少ない、文句なく優れたところなのよ」で、それを受けたライが「さすがだよ、姉さま」と喜ぶ。ラムを姉と呼び、レムを真似る敵という構図が、この場面でようやく気持ち悪さの形を取る。
そこへ二階から降りてくる規格外
副題の「五つの障害」が示すとおり、この回は敵が片づく前に次が増える。数えると、ライ・バテンカイトス、砂丘から押し寄せる魔獣の軍勢、そこへ割り込むレイド、サソリの姿になったシャウラ、そしてスバルが倒れる間際に広がる黒い靄で五つになる。しかも増え方が理不尽だ。
「全部俺のためにある言葉なんだからよ」
ライの自慢に噛みついたのはスバルではなかった。割り込んできた声が「最高なのが、おめえみてえな根性曲がったガキなわけねえだろ」「最高も、最強も、最上も、最良も、全部俺のためにある言葉なんだからよ」。
ライの反応が、この敵らしくて面白い。「レイド・アストレア」「獲物としちゃ極上だね」。そして名乗りを上げる。「魔女教大罪司教、暴食担当」「ライ・バテンカイトス!」「いただきまーす!」。初代剣聖を前にして、真っ先に食欲が出る。
大罪司教が瞬殺される
結果は一方的だった。「めんどくせえな、おチビクソ野郎」「こんな程度で喚いてんじゃねえ!」「貧弱になったもんだな」。
見ていたスバルの確認が効く。「あいつ、エミリアちゃんとユリウスが二人がかりで苦戦してた強敵…だよな」→ベアトリス「それ以上に、あれが規格外ってだけなのよ」。強敵の格を落とさずに、その上をもう一段見せるやり方になっている。
誰も味方をしていない三つ巴
助けに来たわけでもない。エミリアが「あの子をやっつけてくれてありがとうって…仲直りするんじゃダメ?」と持ちかけても、返るのは「気ぃ抜けること言ってんじゃねえよ」だけだ。
ユリウスの参戦理由も理屈でできている。「私があなたに勝てなくては、こちらの計算が狂ってしまうのでね」。そこへライまで戻ってきて「いつもいつも、また独り占めかい? 兄さま」「ずるいねえ」と混ざる。三方向とも目的が違うまま同じ場所で戦っている状態で、スバルの側だけが守るものを抱えている。
やり直しの起点がずれた、というこの作品で一番大きな変化
混戦の末にスバルは死ぬ。最後に画面を覆うのは敵の一撃ではなく黒い靄で、副題が数えた五つ目はこれにあたる。そして目を覚ました先が、今までと違っていた。
戻った場所が違う
起きたスバルの独白が短い。「死に戻りして」「リスタート地点が…違ってる?」。続けて「なんでリスタート地点が…」「なんで変わった? どういう条件で?」と、条件を探しにいく。
この作品の主人公が持っている力は、失敗を巻き戻す代わりに戻る場所を選べないという制約とセットだった。その制約が動いた。しかも本人にも理由が分からない。味方が増えたのでも敵が減ったのでもなく、ルールのほうが変わっている。
起点がずれた分、失われたものもある
前へ進んだ以上、巻き戻せない範囲も増えている。魔獣の群れも、暴食の襲来も、もう起きた後の地点から再開することになる。やり直しの回数券が一枚安全になった代わりに、取り返せない被害がその内側に固定された。
ベアトリスの言葉が、こういうときに効く。「スバル、本の中で何があったのか話すのよ」「ちゃんと話して考える」「それが、ベティたちの強みかしら」。第79話で暴食に「都合のいい連中だけ周りにはべらして」と決めつけられた関係が、ここでは分担として機能している。
同じ言葉が内と外で鳴る
立ち上がるところで置かれるのが「立ちなさい」だ。そしてスバル自身が言う。「本の中でも外でも同じこと言われてるって再確認したんだ」。
第78話でラムが「立ちなさい、バルス」と言い、第79話でレムが同じ言葉でスバルを立たせた。第80話では死に戻りの直後に同じ言葉が鳴る。三話続けて同じ二文字で立たされていることになる。
二周目は、情報を持って動く
同じ会話を繰り返しながら、スバルは配置だけを変える。ユリウスに向けて「レイドが降りてくる」「あいつの横槍を、お前に止めてもらいたい」と先回りする。
当然「その情報の出どころは?」と訊かれ、答えが「暴食から聞いた話だよ」。ただし暴食は何も教えていない。レイドが割り込んでくるのを見たのは一周目のスバル自身で、本当の出どころは口にできない。死に戻りを明かせない代わりに、敵の名前を借りて情報だけを配っている。
受けるユリウスの返事も良かった。「いいだろう、レイドのことは私が引き受ける」→スバル「任せた」「お前がレイドに勝つのが絶対条件だ」→「心得た、としておこう」。勝てるとは言わない言い方で受けている。
見えるようになったものと、サソリの正体
戻る場所が変わっただけではなかった。この回はもう一つ、スバルに手札を渡している。
言えるはずのないことを言っている
戦闘の合間にスバルが口にするのが「魔獣のスタンピードは抑えてる」「レムたちには異変なし」「ユリウスが苦戦してやがるな」「相手はやっぱりレイドか」だ。全部、その場から見えるはずのないことばかりである。
指摘するのはラムだ。「スバル、何を言ってるのよ」「どこを見て、何を…」。本人も戸惑ったまま「みんなが見える」と答える。後で説明を求められて出るのが「詳しくは分からないけど、どうやら塔の中にいるみんなの位置がぼんやり分かるんだ」で、ベアトリスが「権能かしら」と名前をつける。
権能は魔女教の大罪司教たちが振るってきた力の呼び名で、ベアトリスが迷わずそう呼ぶこと自体には理由がある。それでも、どこから来た力なのかは説明されない。死に戻りの起点がずれたのと同じ回に、同じくらい理由の分からない変化が起きている。この二つが無関係だとは考えにくい書き方になっている。
助けに入ったサソリが、味方に見えない
食われかけたスバルを救ったのは巨大なサソリだった。「あぶねえところだった」「とにかく助かったぜ、シャウラ」と礼を言うスバルに、ラムが噛みつく。「シャウラ?」「何を根拠に、あれをシャウラなんて」。
根拠は権能だ。位置が重なって見えたから分かった。もらったばかりの力の最初の使い道が、味方の変わり果てた姿の同定になっている。しかも本人は「これ以上痛い思いをしたくなかった」と言うだけで、事情は説明されない。
勝っても取り返せない
ライは倒れた。それでも空気は晴れない。ラムは「大きな声で叫ばないで」と言うのが精一杯で、ベアトリスが「ラムの戦える時間には限りがあるかしら」と補う。
記憶の話も同じだ。「レムのことなら思い出せないわ」→「暴食をただ倒しても、奪われたものは取り戻せない」「厄介な敵だわ」。倒すことと取り返すことが別だと、勝った直後に確認させられる。
推理も進む。「メィリィは今もバルコニーで戦ってくれてるな」「だとしたら、あの娘はシャウラに襲われなかったってことになるのよ」。姿が変わったシャウラが誰を襲い誰を襲わないのか、条件がまだ分かっていない。
まとめ、朗報と悲報が同じ一人の名前だった
締めは、この回でいちばん短くて、いちばん重い会話になっている。
降りてきた側の言い分
再びレイドが現れる。「女どもが揃ってお迎え」「分かってんじゃねえか」「おめえらで俺の相手すっか?」。ラムの感想が「最悪な展開ね」の一言だけで、実際そのとおりになる。
同じ答えが、朗報でもあり悲報でもある
ユリウスの切り出しが「スバル、朗報と悲報がある」。スバルが「じゃあ、朗報から聞かせてくれ」と選ぶ。
朗報は「行方の分からない暴食の一人の居場所を知っている」。第79話でルイが「お兄ちゃんと兄様」と数えていた三人目が、ようやく所在で捉えられたことになる。
そして悲報が来る。「それが悲報の答えだ」「レイド・アストレア」「彼が、暴食の大罪司教、ロイ・アルファルド」「その人だ」。探していた相手と、勝てない相手が同一人物だった。朗報と悲報を分けて訊いた意味が、答えの側で消える。
増えたものと減ったもの
この回でスバルが得たものは、死に戻りの起点が前に進んだこと、塔の中の位置が分かる力、そして暴食の三人目の正体だ。失ったものは、エミリアの名前が周囲から消えたこと、シャウラが人の姿でなくなったこと、ラムの戦える時間が残り少ないこと。得たものが全部「分かる」で、失ったものが全部「戻らない」なのが厳しい。
脚本は中村能子で、担当は第71話からの三人交代が今回も崩れていない。十話続けて同じ順番が守られているのは、この長さの物語では珍しい。絵コンテは頂真司で、第78話では監督との連名だった人が今回は単独名義になっている。演出は川部真也。
第79話でルイが残した「これで終わったと思うなよ」という言葉は、脅しではなく予定表だった。魔獣も、兄も、そして名前を食われた仲間も、全部あの一行の中身として並んでいる。残っているのは、まだ数えられていない障害があと何個あるのかという問いだけだ。

























コメント
細かいようですが、ユリウスが名前を食われたのは72話ではなく、3期で暴食の大罪司教ロイと戦った時ですよ
それにスバルは死に戻りで得た情報を「暴食から聞いた」と誤魔化してるだけで、本当にルイから聞いた情報だけを根拠にしてるわけじゃないですよ
だから二度目では、ショートカットができて、エミリアが名前を食われる前に間に合いました
てか、リゼロ世界の『権能』は魔女因子による異能だって覚えてないんですか?
一期からペテルギウスとかが使い続けて来たでしょうが
ベアトリスはペテルギウスの前身のジュースと友達だったし、スバルの『インビジブル・プロヴィデンス』を見た事があるからからわかるんですよ
あと「五つの障害」って、ライ、レイドに則られたレイド、ライとロイが引き連れてきた魔獣軍団、蠍の怪物になったシャウラ、何故か現れる嫉妬の魔女
と、この回で全て出てますよ
ありがとうございます(‘ω’)ノ
確認して書き直しますね