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第5話は、ゼートゥーアが東部へ飛ばされるところから始まる。講和は頓挫し、最高統帥府はさらなる戦果を求めてアンドロメダ計画を動かす。呼びつけられたターニャは計画を「無謀の一言に尽きるかと」と切り捨てるのだが、その口から出た囮作戦の囮役に、そのまま自分が指名されてしまう。ソルディム528陣地で死守命令を受けたところに、連邦の大軍が押し寄せてくる。




ゼートゥーア、東部へ飛ばされる
「凱旋将軍閣下として戻ってこい」
第5話は、参謀本部の二人が別れる場面から始まる。見送りに来たルーデルドルフの第一声が「貴様の情けない姿は滅多に見れん。こんな機会を逃すものか」である。
ゼートゥーアの側も淡々としていた。「最高統帥府に立てついたのは私だ」、「戦務次長の解任も覚悟していたが、飛ばされるだけとは拍子抜けだ」。第4話で講和を潰したのはルーデルドルフなのに、処分はゼートゥーアだけに降りている。
「揃って上へ反対したというのに」「不条理極まりない」と言いながら、「我々は軍人だ。国家の意に従わざるを得ん」で終わらせてしまう。碁の相手がいなくなるという話まで挟んで、「凱旋将軍閣下として戻ってこい。高い酒と葉巻を用意しておいてくれ」で送り出す。
問題はそのあとの独白だった。「一度の失敗すら帝国の屋台骨を揺るがす。だが連邦は失敗を繰り返しても立ち上がってくる。不公平だな」。そして東部での影響力は制約され、「実質的に手駒はゼロか。いや、一つだけあった」と続く。この時点で、今回の題が誰に降りるのかはもう決まっている。
アンドロメダ計画
殴るのがA、守るのがB
東部方面軍に呼び出されたターニャは、理由が分からず戸惑っている。「もしや講和関係か。だとしたら、どうして停戦命令が出ない」と考え、イルドアの観戦武官が停戦は時間の問題だと言っていたことまで思い出す。
現れたのはゼートゥーアだった。「久しいな、デグレチャフ中佐」「参謀本部から島流しされてな。当分よろしく」。そのうえで「実は講和が頓挫した」「反対して不興を買った私は飛ばされた」と続く。
そこから計画の説明に入る。アンドロメダ計画の大目的はより良い講和条件の獲得で、手段として連邦軍の資源地帯の制圧が選ばれた。
編成の説明が身も蓋もなくて良い。東部軍を主攻のA集団と戦線保持のB集団に二分し、「殴るのがA、守るのがBだ」。ゼートゥーアが向かうのはB集団の監査と指導で、本人いわく「実質は左遷だがな」である。
「無謀の一言に尽きるかと」
この回でいちばん面白いのは、上司が部下に率直な評価を求める場面だった。「率直に問う。貴官はアンドロメダ計画をどう見るかね」。返ってきたのが「正直に申し上げれば、無謀の一言に尽きるかと」である。
根拠も具体的だった。B集団の戦線はすでに広漠すぎ、兵力は過小すぎる。そこにA集団の攻撃が進めば守るべき側面がさらに伸びるので、「これではB集団は伸びきったゴムです。ハサミどころか、針の一突きで決壊しかねません」。
そのうえで蛇足のように付け加えるのが良い。「さらに言うならば、計画名からして癪に障ります」。名が含意するのは遥か彼方の銀河の星々で、「ロマンは感じますが、遠大すぎる目標かと」。
受けたゼートゥーアの返しが効いていた。「いい指摘だ。命名者は武骨に見えて意外と繊細な奴でな」。誰のことかは言わないが、直前まで見送っていた相手を思えば察しがつく。そして「貴官の異議申し立ては合理的だ。が、不幸にも変更は許可されていない」で終わる。
餌になる者、狩る者
「私にも持ち札が一枚はある」
防衛計画の案を求められたターニャは、まず前提から答える。防御に必要なのは「主導権です。主導権なくしては防衛もクソもありません」で、劣勢側の選択肢として囮で敵を誘引して撃滅するカウンターを提案した。
難点も自分で挙げている。「敵が食いつくに足る囮が必要です」、しかも「餌に食いついた魚が針を飲み込むまで耐える根性も必要かと」。
ここでゼートゥーアが被せてくる。「その点については心配いらん。私にも持ち札が一枚はある」。ターニャの内心が「どこのどなたか存じ上げないが、お可哀想なことだ」である。今回いちばん笑ったのはここだった。
落とし方も容赦がない。狩人役は勘弁してやると言われて礼を述べた直後に、「礼には及ばん。何しろ貴様には餌になってもらわねばならんのだ」。抗議には「貴官の発案だ。貴官に実行させるのが当然だろう」、そして「連中の首都を焼いた部隊が餌だ。さぞかし敵が釣れるな」と続く。自分で出した案で自分が刺される構造が完成している。
中隊を一つ、置いていけ
さらに追い打ちが来る。手札が足りないと零したゼートゥーアが、「貴官のところの中隊を使おう」と言い出すのだ。聞き返されて「魔導中隊を回せ。それで事足りる」と繰り返す。
ターニャの抵抗は真っ当だった。「僭越ながら、私のはただの中隊ではありません」、「まして篭城ともなれば魔導部隊は死活的に重要です。これは手足をもがれるのと同等で」。
返事が「なに、一本程度は構うまい」である。手足をもがれるという比喩をそのまま受けて指の話にしてしまう。食い下がると「出ないと、包囲される貴官を救いに行けんぞ」という脅しまで飛んでくる。
観念したターニャが差し出したのが「グランツという若い忠義の隊でよろしいか」だった。第4話まで丁寧に育てられてきた若手が、こういう形で供出される。上から下へ順に押し付けが降りていく構図が、この時点で三段目まで積み上がっている。
ソルディム528陣地、死守
釣り場は連邦の旧整備拠点
指定された釣り場がソルディム528陣地である。もともとは連邦の車両整備拠点で、先の鉄槌作戦で帝国軍が占拠したものの、戦力が引き抜かれて半ば放置されていた場所だという。
選定理由が明快だった。「鉄道沿線に位置し、補給地としては申し分ない」、だから「敵が再奪還を目指すにおいては最適な拠点だろう」。餌として過不足がない土地を、わざわざ半端に放置してあったことになる。
任務は「貴官の戦闘団には敵の来襲を歓迎してもらう」、そして「友軍による解囲まで断固防衛だ」。歓迎という言い方に、この人の趣味がよく出ている。
餌の役目としては筋が通っているのだが、預ける側の言い方が軽すぎる。この時点でターニャの顔から表情が抜けているのが、いちばん雄弁だった。
「許可できない。死守だ」
さすがに食い下がる。「お待ちください。さすがに状況次第では、将官の判断で撤退を」。帰ってきたのが「許可できない。死守だ」だった。
撤退の裁量が最初から潰されている。囮として耐えろという命令に、退く選択肢が含まれていない。「餌に食いついた魚が針を飲み込むまで耐える根性」と自分で言った条件が、そっくりそのまま自分の任務条件になっている。
この回の作り方は徹底していて、ターニャの発言がひとつ残らず自分に返ってくる。無謀だと評した計画の一番危ない場所に、無謀だと言った本人が置かれた。
しかも背景では、この計画の前提そのものが崩れ始めている。連邦軍の航空戦力は鉄槌作戦で撃滅したはずが、合衆国による武器供与で再建済みだと報告されていた。
敵側の思惑
「もし戦場で目にすることがあれば、殺せ」
今回は敵側の場面がしっかり取られている。連合王国では、ウィリアムと呼ばれる将校が密輸されたスコッチを差し入れられ、「読んだら燃やせ」と一通の情報を渡される。
出所はウルトラ、帝国中枢に潜んでいるスパイだという。「コードはアンドロメダでしたが、我々も対応にあたれと」、さらに帝国軍と行政府の対立が背景にあるところまで筒抜けになっていた。
そのうえで、東部に飛ばされた将軍の名が出る。ハンス・フォン・ゼートゥーア中将。「有能なのですか」に対する答えが「有能だ。恐ろしくな」だった。
続く指示が今回いちばん重い一言である。「もし戦場で目にすることがあれば、殺せ。何としてもだ」。左遷として東部へ送られた人物が、敵からは最優先の排除対象として扱われている。評価のねじれ方が、この作品らしくて良かった。
「逃がさず殺さず、何としても」
連邦側にも動きがある。第4話で名前を伏せたまま「愛しの妖精さん」に執着していた人物が、今回同志ロリアとはっきり呼ばれた。
報告は「ラインの悪魔なる反動が、当該陣地を占拠していると」。反応が「なんという不埒な。もしや私は誘惑されているのかな」で、この人物の危なさが一息で伝わってくる。
指示も普通ではない。軍に任せようという進言を「バカを言うな。我々で生け捕りだ」と却下する。理由が「戦死すればただの英雄ではないか。見せしめ裁判で殴り倒すのだ」、そして「逃がさず殺さず、何としても」。
一方の帝国では、ルーデルドルフが外務省との不調と国籍不明船団の増加に苛立っている。行政との接触はゼートゥーアが非公式に回していたと知らされ、夜間爆撃の被害報告を持ってきたウーガ中佐には「貴官はクソ真面目か。口を開けばつまらん報告ばかり。冗談の一つもどうかね」と当たる。上のほうから順に、余裕がなくなっていくのがよく分かる。
「貧乏籤」まとめと考察
砲弾を叩き落とせ
包囲は想定通りに始まった。ただし規模が違う。「包囲は想定通りですが、まさかこれほどの数とは」、「やはりモスコーで暴れたツケが回ったか」。前線陣地はあっさり突破されかけ、「早すぎるぞ」という声が飛ぶ。
面白かったのがトスパン中尉の意見具申だった。規定では大軍と接した際に後退を要求されるので、部隊指揮官の権限で死守を通達してほしいと願い出てくる。ターニャの返事が「結構結構。気に入ったぞ中尉。直ちに死守命令を書類で運ばせる」である。死ぬ気で残るための書類仕事という、この作品でしか成立しない場面だった。
戦術面では、敵砲兵が味方ごと撃ってくる状況に対して「却下だ。魔導部隊で防ぐ」「ヴァイス少佐、敵の砲弾を叩き落とす」と命じる。「本気ですか」「二個中隊ではカバーしきれません」と渋る副長には「古参の貴官がそれでは困るな。再教育を望むのかね」で黙らせてしまう。
そして最後に「連邦に魔導部隊」という驚きが置かれる。「まさかティーゲンホーフでやりあった義勇軍部隊か」という一言で今回は切られた。囮の役目を果たしている最中に、想定外の戦力が出てくる引き方である。
貧乏籤は上から順に降りてくる
今回のサブタイトルは「貧乏籤」で、一話まるごとがその受け渡しの話になっていた。最高統帥府に逆らったゼートゥーアが東部へ、そのゼートゥーアが唯一の手駒としてターニャを、ターニャが中隊の供出先としてグランツを差し出す。
巧いのは、ターニャの籤が自分の口から出た案だという点だ。囮が要ると言ったのも、耐える根性が要ると言ったのも本人である。正しい分析をしたせいで、正しくいちばん危ない場所に置かれた。
同じ構図が敵味方の両方に置かれているのも効いていた。ゼートゥーアには「殺せ、何としてもだ」、ターニャには「逃がさず殺さず、何としても」。帝国が押し付け合った二人が、そのまま敵の最優先目標として名指しされている。
そして「貴官はクソ真面目か」という台詞が、ルーデルドルフからウーガへ、そしてもう一度別の場面で繰り返される。文字起こしの最後にはレルゲンとの短いやり取りも置かれており、「たまには飲みにでも」という誘いは「あいにく、まだ仕事が」で断られていた。
計画の前提はもう崩れ、囮は死守を命じられ、退路の裁量は最初から取り上げられている。アンドロメダという名前が遠大すぎると言った本人が、いちばん近い場所で押し潰されかけているところで終わる。題の付け方として、今期でいちばん意地が悪い一話だった。




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