この記事の作品:
『骸骨騎士様、只今異世界へお出掛け中Ⅱ』第八話の副題は「潮騒よ聞け、哀しきくノ一の想い」。第二期でただ一つ、命令形の入った副題である。ところがこの回、チヨメの過去を語るのは本人ではなくツボネで、当のチヨメが最後に、ラストは全然デタラメです、と線を引く。しかもその語られた過去の中では、サスケもまた後輩を安心させるために自分の失敗談を作っていた。人のために話を盛る行為が、二重に入っている回だ。




「聞け」と命じられているのは誰なのか
公式の副題は「潮騒よ聞け、哀しきくノ一の想い」。第二期の副題を並べてみると、命令形が置かれているのはこの回だけになる。白銀の騎士、エルフの花嫁、悪党散華、呪いの里、地底の死霊、龍王の泉、忍び里と、これまではすべて場所と出来事を並べる形だった。ここで急に、聞け、と誰かに命じる文になっている。
そして実際に見てみると、この回のチヨメの過去は、チヨメ本人の口からは一度も語られない。船の上で語るのはツボネで、チヨメはずっと離れた場所にいる。視聴者が受け取る過去は、全部ツボネという他人を経由して届く。副題が聞けと言っているわりに、そこで聞こえているのは本人の声ではない。
この構造は最後にはっきり回収される。語り終わったツボネの背後にチヨメが立っていて、いつから聞いていたのかと問われ、最初からです、この耳は伊達じゃありません、と答える。語られていた当人が、語りをぜんぶ聞いていた。潮騒に紛れて届いていたのは、本人が否定するための材料でもあった。
第二話とまったく同じ三人が作っている
公式サイトのクレジットを見ると、脚本が吉田伸、絵コンテが大原実、演出が矢口円。この三人がそろうのは第二期では第二話と第八話の二本だけである。その第二話は、領主の妻が毒を盛られたという事件が、実は毒見役の自作自演だったと分かる回だった。誰かが物語をこしらえて、他人に信じ込ませようとする回である。
第八話でツボネがやっているのも、規模こそ違うが同じことだ。実際にあった過去に脚色を足し、聞き手が喜ぶ形に整えて差し出す。同じ三人が二度とも、作り話をめぐる回を任されている。作画監督が十二人、総作画監督が鈴木光という布陣で、これは第七話の十一人を超えて第二期でいちばん多い。回想が長く、時期の違うチヨメを何度も描き分ける必要があった回だと考えると納得がいく。
助かったのはお前だけだ、から始まる過去
七年前、任務帰りのツボネとサスケが通りかかった村は、盗賊に襲われた後だった。崖下で倒れていた少女を里へ連れ帰り、目を覚ました彼女に告げられるのは、助かったのはお前だけだという一言だけである。名前も素性も聞かれないまま、生き残ったという事実だけが手渡される。
その後にツボネが補う説明が重い。村が襲われたとき母親は娘をかばって死んでいて、だからチヨメは母の死を自分のせいだと思っている。どうしようもないじゃない、子供だったんだから、というアリアンの言葉に、そうね、でも割り切れないんでしょ、と返る。割り切れないから強くなろうとした、という順番が、ここではっきり示される。
強さの動機が復讐ではなく自責である、という置き方は、この作品の中では少し珍しい。第六話でチヨメが龍王に、解放しても行き場がないと直談判したのも、第七話の里に人族から逃れた子どもが暮らしていたのも、同じ根から出ている。助けられた側が、次は助ける側に回ろうとする話として一貫している。
手裏剣の教え方が、いちばん下の子から始まる
修行の場面で目を引くのは、教える側の理屈のほうだ。的を外し続ける少女に、最初は威力を出そうと思うな、力を入れすぎると軸がぶれる、と教える。優しいじゃない、と言われた青年は、効率を考えただけさ、と答える。いちばん下の者が上手くなれば他の者も頑張らざるを得ず、結果として全員が向上する、という説明が続く。
ただしその直後に、というのは建前かな、と自分で崩す。あの子には特別なものを感じる、強い意志とでも言うのかな、と言い直し、助けられて目を覚ましたとき泣き言のひとつでも言うかと思ったが、真っ先に強くなりたいと言った、と続ける。どんな困難にも屈しない不屈の闘志、この里の未来を背負うほどに、という見立てまで並べる。回想の中で最初にチヨメを評価するのは、身内ではなく後の兄である。
兄さんと呼びかけて、すぐに言い直す一瞬
この回で個人的にいちばん短く、いちばん効いているのが襲名の場面だ。六忍に選ばれた青年へ祝いを言いにきた少女が、それまでの名で兄さんと呼びかけ、途中で止まる。そして、あ、いえ、と言い直して、サスケ様、と敬称をつけ直す。呼び方が変わっただけで、二人の距離がその場で作り替わる。
第七話で確認されているとおり、六忍は初代ハンゾウが定めた特別な名を襲名する制度である。名を継ぐというのは、それまでの名を降りるということでもある。兄と呼んでいた相手が、里の柱という役職になる。この一言の言い直しが、後半でチヨメが感情を表に出せなくなる理由の下敷きになっている。
強い武術者とは、相手の意表をつく者だ
そして同じ場面で、彼が語る教えの中身も変わっている。逃げる道筋に最適解を求めるな、敵に行動を読まれる。強い武術者とは相手の意表をつく者だ、意表をつければ心に隙が生まれる、そこに速さも力も関係ない。強ければ強い相手ほど心がけねばならぬ、という締め方は、後にサスケ自身が疑われる立場になることを思うと、少し嫌な響き方をする。
最初の任務で失敗した、という話も作り話だった
初任務を前に緊張している少女へ、彼はこう話す。僕も最初の任務の時は全然ダメだった、肝心な時に足を滑らせて転んだり、相手を前におじけづいてしまったり。最初から全部うまくできる奴はいない、手裏剣の時みたいに肩の力を抜けば程よい緊張感になる。だから最後まで絶対に油断しちゃダメだ、と続く。
ここでアークが、さぞかし手だれた御人かと想像していたが、そんな時期もあったのだな、と受ける。すると語り手のツボネが即座に否定する。違う違う、そんなの全部嘘。その間抜けは私だから、サスケは最初から完璧、と続けて、初任務に同行したのは自分で、焦って体が硬直したのも自分だった、と明かす。
つまりこの回には、人のために話を盛る行為が二重に入っている。ツボネはいま船の上で過去を盛っていて、その盛られた過去の中では、サスケが後輩を安心させるために自分の失敗談を捏造している。同じ行為でも向く先が違う。片方は聞き手を楽しませるため、もう片方は聞き手の肩の力を抜くためだ。
家族を失う痛みを僕に味わわせないでくれ
偵察だけのはずだった初任務は、雪山の巨人が現れて戦闘になる。倒したあとで気を抜いた少女が転びかけ、言ったろ油断するなって、と叱られる。ここまでは先輩と後輩の会話だが、次の一言で色が変わる。家族を失う痛みを僕に味わわせないでくれ。
血の繋がりがないのに兄と呼ぶ、という冒頭のアークの疑問に、この一行がそのまま答えている。村を失った少女を拾って育てた側もまた、失うことを恐れている。助けた側が、助けた相手を家族と言い切っているのがこの台詞の芯で、ツボネがこのあと恋愛の話に持っていこうとするのは、少なくともここまでの材料からは飛躍している。
前半はまあともかく、と本人が線を引く
案の定、ツボネの語りは途中から加速する。年頃になればお互いを意識しないわけがない、二人の中に燃え上がる底知れぬ感情、けれど忍びとしての立場が互いの心を抑圧していた。まだ続くのね、と呆れるアリアンに、ここからが本題よ、と返して、絶体絶命の場面で愛を叫び合う芝居まで演じてみせる。
そこへ本人が現れて、線を引く。前半はまあともかく、ラストは全然デタラメです。いくらなんでも無理ありすぎでしょう、と続き、ツボネは、ちょっと盛りすぎたかしら、と悪びれない。ここで重要なのは、チヨメが否定したのは終盤だけで、前半は否定していないということだ。母の死も、修行も、襲名も、初任務も、本人が黙って通した。
否定できたのは、事実の部分だけだった
そのうえで、心配していることまでは認める。確かにサスケ兄さんのことは心配です、心配ですけど、と言いかけて、ほら、と茶化されて口をつぐむ。否定できるのは事実の部分だけで、感情のほうは否定も肯定もされないまま残る。副題の哀しきくノ一の想いという言い方が、ここでようやく居場所を得る。
アークの答えは、語ることではなく体を動かすことだった
ここまで長々と、チヨメの心はツボネの言葉でほぐされようとして、うまくいっていない。放っておいてください、で終わっている。そこへクラーケンが現れて、アークが別の答えを出す。人生には二種類の心配がある、と切り出し、一つは自分でどうにかできる心配、もう一つは自分ではどうすることもできぬ心配だと分ける。
そして、どうにもできないことはなるようにしかならん、そんな時は我と共に体を動かしスカッとしようではないか、と誘う。あの化け物、どちらが退治できるか競争だ、という無茶ぶりに、チヨメは、その挑戦受け止まります、と乗る。言葉で解こうとして解けなかったものを、動くことで一度脇に置く。討伐後にアークが、どうだチヨメ殿、少しはすっきりしたのではないか、と確認するので、これは意図的な手当てである。
面白いのは、この回のアークが最初から海のモンスターを楽しみにしていたことだ。船の手配役から警告として聞かされた時点で、数多のゲームや映画に出てくる海を代表するモンスター、これぞ海洋ファンタジーの匂い、ぜひ見てみたいものだ、と喜んでいる。物騒なこと言わねえでくれよ、と止められている。本人の趣味と、仲間への気遣いが、たまたま同じ方向を向いたのがこの場面である。
討伐した怪物が、その日のうちに屋台になる
倒したあとの処理が、この作品らしい。イカの一夜干し千人分は楽勝だな、から始まって、炭火で焼いて塩で食べると美味しいらしい、と話が食べる方向へ進む。上陸した街に行列ができていて、その先ではアークがクラーケンのイカ焼きを売っている。
何やってんのよ、と呆れるアリアンに、大量のイカがあるのでな、どうせなら皆に振る舞おうと思ったのだ、と返す。何イカれたことを、いかつであろう、というやりとりまで込みで、脅威として紹介された魔物が、同じ回のうちに名物料理になる。船に乗る前の重々しい説明が、そのまま笑いに回収されている。
唐辛子が目つぶしで、トマトが毒である街
その街は、獣人族が治めるファブナッハ大王国。獣人族といっても種族がたくさんあるから、その分文化や風習が入り混じっている、というアリアンの説明どおり、屋台の並びも賑やかである。そこでアークが赤唐辛子とトマトを見つけて買おうとするのだが、チヨメの反応が食い違う。
レッドネイルは粉末にして目つぶしに、トマトは毒があるのでそのまま食べるとお腹を壊します、毒抜きをしないと。同じ食材が、忍びにとっては道具で、料理人にとっては材料である。逆に料理以外に何に使うのだ、というアークの返しが、この世界とアークのずれを短く見せている。地味だが、異世界に来た人間の視点が生きている場面だ。
そして、ダンカはこの街にいない
そして締めは、賑やかさとは逆を向く。療養しているはずのダンカの様子を見に行ったアリアンが戻ってきて、ダンカさん、もうこの街にいないみたいなのと告げる。襲われた本人が消えている。第七話の終わりに、里で探している人物と特徴が似ている、と言い添えられていた件が、ここで一段深くなる。過去編でサスケを丁寧に善人として描いた直後にこの引きが来る並びは、かなり意地が悪い。




関連作品:


















コメント