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『魔入りました!入間くん』第20話の副題は「チームデビムス」。作中の時間は魔界の年越しにあたる月越しで、大運動会はその日の風物詩だ。アメリ改めメリーがあらゆる種目で大活躍する回だが、本人はアクドルとしてではなく、生徒会長として出場している。さらに面白いのは、アクドルたちが可愛く見せるためにわざと全力を出さない競技であることだ。そこへ助言を一つも破らないまま全力で走る悪魔が来てしまう。




月越しの夜、魔界じゅうがテレビの前にいる
第20話は競技場ではなく、テレビの前から始まる。第16話で説明されたとおり、魔界の一年は十三か月あり、その切り替わりが月越しである。人間界の年越しにあたるその日の風物詩がアクドル大運動会で、毎年欠かさず見ている者もいるとされていた。つまりこの回で描かれているのは、年に一度の特番を家族や同僚と見る夜である。
見るなと念を押された家が、真っ先につけている
出かける入間は、今日はテレビを見ないでください、特に夕方は絶対につけないでくださいね、と二度も念を押す。この時点で結果は決まっている。悪魔は面白いことが大好きですからね、という一言とともにテレビはつけられ、録画まで回っていて、しかも画質のいいテレビを買ってこいという追加注文まで出る。禁止が念入りなほど視聴環境が整っていくのが可笑しい。
アリスのほうは、一刻も早く駆けつけなくてはと飛び出しかけて、月越しは一緒に過ごす約束だと母に止められる。ところが結局、応援に来た客が次々と招き入れられ、部屋がまるごと応援団になってしまう。会場に行けなかった者ほど、テレビの前で装備を固めていくという流れになっている。
知らんと言い張る教師に、個人的な恨みだけがある
職場のほうでも同じことが起きている。月越しでも出勤している教師が二人、抹茶を挟んでテレビを眺めている。カルエゴは仮にも出勤中だぞ、音は小さめにしろ、と釘を刺すが、画面に映る相手について問われると一貫して知らんと答える。チャンネルを変えろとまで言う。
ところが後半、同じ調子で知らないと言った直後に、今度会ったら燃やす、と付け足してしまう。知らないのに、と突っ込まれて終わる。知らないはずの相手に対してだけ、具体的な予定が入っている。否定が一秒で裏返るところまでが様式になっている。
警備のボランティアが、そのまま競技のボランティアに横滑りする
アメリが会場にいる理由は、数日前にさかのぼる。大運動会の警備にボランティアとして参加しなさい、現場での実戦に勝る経験はなし、と言い渡されたのである。会場なら予想外の悪魔との接触もないだろう、という判断まで添えられていた。本人も、職務を果たす、そうボランティアとして私は、と気合いを入れている。
その数日後の姿が、衣装を着せられて踊らされているところである。何をしとるんだ、私は、という自問が入る。警備の実戦経験を積みに来たはずが、舞台の上で手を振っている。しかも周囲の評価は、さすが会長、空気が読める、である。
寸劇が、アクドルの基本スキルとして扱われている
事情の説明も普通ではない。くろむは自分の正体がアブノーマルクラスのクロケル・ケロリであることから、ギャリーの妨害でメンバーを一人失った経緯、そこへアメリが現れて四人揃ったところまでを、寸劇にして演じてみせる。アメリの反応は、キラキラじゃない、今の寸劇は何だ、いや分かりやすかったが、である。そして返ってくるのが、自己紹介です、アクドルなら誰でもできます、という一言だ。身の上話を寸劇で説明できることが、この業界では基本スキルということになっている。
出場を渋るアメリへの説得も、これもボランティアです、警備局には連絡しておくわ、という手続きの話で来る。職務であるという建前を一度も崩さないまま、警備員が選手に書き換えられていく。恥ずかしいのは服のほうだ、というアメリの抵抗も、僕らのほうが恥ずかしいです、という返しで潰される。
引き受けた理由が、アクドルのものではなく生徒会長のものだった
くろむが最後に持ち出すのは、勝ちたい理由である。勉強で負けたっていい、魔術で負けたっていい、でもアクドルと名のつく者では絶対に負けたくない。それが最強無敵に可愛いアクドル、クロムのプライドなのだと言う。第19話の締めでギャリーに突きつけた宣言が、そのまま今回の依頼文になっている。
受ける側の理屈は、最後まで学校のものである
これを受けたアメリの返事が、この回でいちばん大事なところだと思う。まずクロムの曲には闘志をもらった恩があったな、と借りを認める。そのうえで、野望を追う生徒がいるなら全力で手助けしよう、私は悪魔学校バビルスの生徒会長だからな、と言って引き受ける。アクドルとして参加するとは一言も言っていない。生徒の野望を助けるという生徒会長の職務が、たまたま競技場で果たされているだけである。
直後に、とは言ったものの、なんという布面積、と衣装に怯むあたりも含めて、アメリの立ち位置は最後まで一貫している。第4シリーズが入間の野心を軸に進んでいることを思えば、野望を追う生徒を全力で助けるという一文は、そのまま生徒会長というポジションの定義になっている。
アクドルたちは、可愛く見せるために全力を出さない
第一種目は六十六メートル走である。ここでアメリが受ける助言が、この回の芯を作る。ただ走るだけではダメなのか、という問いに、そりゃそうだよアクドルだもん、と返される。とにかく可愛く、走るときのポーズも意識して、と教えられる。ここまでは見せる商売なのだから当然だ。
走るだけの種目で全力とか出さない
問題はその先である。走るだけの種目で全力とか出さない、途中でわざと転んじゃおうかな、遅く走るって難しいよね、と会話が進む。理由も並ぶ。全力で走って変な顔になったら嫌だし、可愛いところを見てもらいたい。早く走っても逆にインパクトがない。全力を出して負けるのも恥ずかしい。負けるためではなく、可愛く見せるために手を抜くことが正解として共有されている。
アメリはこれを否定しない。だがレースなんだろ、それでいいのか、と一度確かめ、それも一つの作戦か、と受け入れる。そのうえで置かれるのが、だが全力の悪魔の姿が恥ずかしいとは思わないかな、という問い返しだ。手を抜く側の理屈をひとまず認めたうえで、前提だけを突く。第19話で二つ名が強欲と傲慢だったこと、つまり人間界なら悪口になる言葉が売り文句になっていたことを思い出すと、この業界の物差しが可愛さ一本であることがよく分かる。
言われた通りに走って、ぶっちぎった
そして号砲が鳴る。実況が伝えるのは、ぶっちぎり、目にも止まらぬ速さ、電光石火、他の選手は走行不能、である。ここで本人が漏らす感想が、言われた通り可愛く手を丸めて走ってみたが、ちょっと可愛すぎちゃったな、というものだ。助言は一つも破っていない。守ったうえで、助言の前提のほうが壊れている。
以降は崖登り競争でも大玉投げでも同じことが続き、強い、強すぎる、一体何者なんだ、会長だな、という反応になる。並のアクドルでは生徒会長の相手にならない、という身も蓋もない解説まで付く。面白いのは、本人の自己評価と周囲の評価が最後までずれたまま噛み合うことで、アメリは頑張って可愛さを重視したのだがと言い、周囲は可愛い、最高でした、と返す。ただし、興味がなさそうだった解説役が唯一食いついたのは、可愛さではなく、しっかり鍛錬を積んでいるようですね、のほうだった。
リードは、ありがとうを受け取らない
アメリが活躍しすぎたことで、チームには別の空気が生まれる。ここまで頼れると逆に不安になる、という話になったところで、リードが出る。会長にばっかり頼ってもいられない、クロムちゃんは後半のために温存しておいて、僕だってチームデビムスなんだから、と言って自分から前に出る。助っ人が強いことが、当事者の動機になっている。
感謝を返そうとすると、感謝で押し返される
その前に、入間が改まって礼を言う。ありがとう、ここまでついてきてくれて、本当に感謝してるんだ、と。リードの返しがいい。改まってどうしたのか、ひょっとして悪いことをしたと思っているのか、と先回りしたうえで、僕はもう、イルマ君と一緒に巻き込まれたほうが楽しくなると知っているのだと言い切る。そして最後に、ありがとうなんていらない、むしろ僕のほうが、と続ける。感謝を渡そうとした側が、感謝で押し返されて終わる。
第19話でリードが一言で参加を決めたことを踏まえると、この場面は巻き込まれ役の答え合わせになっている。巻き込まれているのではなく、巻き込まれるほうが楽しいと知っていて付いてきている。入間が負い目に思っていたことが、当人にとっては最初から選択だった。
笑顔が武器になる競技で、下心が勝つ
リンディとして挑むのは尻尾綱引きである。対戦相手は輝きの貴公子と紹介される男性アクドルのビーバで、公式アカウントによれば演じているのは増田俊樹さん。相手が見惚れて負けてしまうほどの笑顔が武器という設定で、本人も、尻尾が触れても僕に恋しちゃダメだよ、と余裕を見せる。笑顔で相手を無力化する競技なのだから、この会場では可愛さが本当に戦闘力である。
それに対してリンディは、すみませんね勝負なので、本当にありがとうございます、と丁寧に前置きしてから引く。実況には、何やらニヤニヤしております、と拾われ、解説からは、なぜか彼女とは仲良くなれそうな気がしますな、と評される。周囲が可愛さで消耗していく競技で、一人だけ役得として楽しんでいる。
快進撃の裏で、期待だけが正しく置かれている
尻尾綱引きと同時進行で、どんな方法でも当てれば勝ちというぐるぐる的当てが始まり、ようやくイルミが出陣する。ここで画面の前から飛ぶ一言が効いている。よそ見しないで、この会場のみんなが度肝を抜かれるからよく見てなさい、そして、あの人は期待したらその分だけちゃんと返してくれるんだから。会場にいない者が、いちばん正確に結果を予告している。
勝負ありと言われたチームが、快進撃と呼ばれるまで
第19話の実況は、競技が始まる前から結論を出していた。メンバーは無名の新人ばかり、直前に変更もあった、これはすでにチームの差で勝負ありか、残念な結果になってもいい思い出を作っていってほしい、と。その同じ実況席が、第20話では控え席の得意げな様子を中継し、大注目ですと言っている。一話ぶんで、憐れみが注目に入れ替わった。公式アカウントの視聴御礼も、チームデビムスの快進撃という言い方をしている。
最後まで沼にはまっているのは、見ている側である
締めの次回予告コーナーも、この回の構造をそのままなぞる。大運動会を録画し、テレビ画面の写真まで撮り、このままではスクラップブックを作ってしまいそうだ、これが沼というものでしょうか、という報告で終わる。冒頭で録画を回していた面々と、まったく同じことをしている。競技場の中で起きているのは勝負だが、画面のこちら側で起きているのは供給と沼で、この回はその両方を等しく描いている。
まとめると、第20話は可愛さを競う場に、可愛さ以外の物差しを持った人物が入ってしまった回である。しかもその人物は物差しを持ち込んだ自覚がなく、可愛く走れという指示を最後まで真面目に守っている。守ったまま全部勝ってしまうから、周囲は強さのほうを褒めることになる。助言に従うことと、助言の前提を壊すことが、同時に成立しているのがこの回の気持ちよさだと思う。




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