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『BLACK TORCH』第9話の副題は「ONE」。三文字で、全九本の副題のなかで飛び抜けて短い。ところが本編でいちばん強く言われるのは、一人でどうにかしようとするな、という説教のほうだった。会議が弐郎を器と呼び、祖父が人間と言い直し、留守番の側が自分にしかできない役目を語る。そして頼れと教えた本人が、最後の一手だけは誰にも相談せずに仕組んでいた。




副題「ONE」は、全九本でいちばん短い
公式サイトに並んだ第9話の副題は「ONE」。三文字で、これまでの九本のなかで飛び抜けて短い。「未来は俺等の手の中」「The Choice Is Yours」「WHAT’S MY NAME?」「たりないふたり」「Young Gunz」「Turn Up」「3 ON THREE」「Under dog」と続いてきて、九本目でついに単語ひとつになった。
数字が題に入るのは「3 ON THREE」とこの「ONE」の二本だけだ。片方は三人と三人がぶつかる回で、もう片方は一人になった少年の回。並べると対になっている。
ところが本編は「一人でやるな」と言い続ける
面白いのは、題が「ONE」なのに、この回でいちばん強く言われるのが一人でやろうとするなという説教だという点だ。弐郎は単独行動を宣言し、祖父はそれを叱り、留守番の側は自分にしかできない役目の話をする。ONEという語が、孤立の意味と唯一の意味の両方で使い分けられている。
そして最後には、その説教をした当人が「ここに一人で入ってもらう」と送り出す。三文字の題は、思っているより広い範囲を指している。
一人でやると言った側に、組織は一人で当たらない
目を覚ました弐郎には妖気を抑える装置が付けられていて、外にも出してもらえない。「羅睺を失い、その妖気だけが人体に留まるなど想定外の事例だ」という説明はもっともだが、返ってくる言葉は「納得できるかどうかなど関係ない」「判断はこちらで行い、お前はそれに従う」「組織とはそういうものだ」である。
てめえのケツはてめえで拭く
押し問答は「大人の言うこと聞いてろクソガキ」「ガキで上等だバカヤロー」まで行き、弐郎の結論はこうなる。「お前のためでもある? そんなもんてめえらの都合だろうが」「だったら俺も俺の勝手にやってやる」「てめえのケツはてめえで拭く」「天鬼は俺がこの手でぶっ飛ばす」。この回の弐郎は、最初から最後まで単独行動を主張する側にいる。
足止め役の言い分も筋は通っている。「いくらでかい力があっても、使い方が分からないんじゃ意味がない」。そして刀で喩える。「今のお前は、こしらえのない刀みたいなもんなんだ」「今の状態じゃ、自分自身も含めて何を斬っちまうか分からねえ危険な代物なんだ」。前回まで鞘の役をしていたのが誰だったのか、一言も名前を出さずに言い当てている。
時間稼ぎと説得は、別の人間が担当する
その足止めを見ながら、別室では「本当によかったんですか、あいつ一人に任せて」というやりとりが交わされる。答えはあっさりしていて、あれは時間稼ぎで「説得には別の本命を手配してやる」。
つまり組織の側は、一つの仕事を一人に背負わせていない。腕づくの担当と、話をつける担当を最初から分けている。一人でやると言い張っている少年の周りで、大人たちは正反対の段取りを踏んでいるわけだ。
上は器の話をし、祖父は人間の話をする
この回の会議は短いが、言葉づかいがはっきりしている。上層部が弐郎を何と呼んでいるかを聞いておくと、あとの一言が効いてくる。
器が死んでも力が消えるとは限らん
処遇の候補は「安全を期するならば即時抹消が最善ではないか」から始まる。それを退ける理屈も、命の話ではない。「器が死んでも羅睺の力が消えるとは限らんだろう」「リスクが大きすぎる」。殺さない理由が、人道ではなく採算になっている。
この空気を一言で切ったのが祖父だ。処遇を尋ねて「殺さぬ理由はリスクがあるからか」「相変わらずじゃな」と返し、最後にこう釘を刺す。「事態の重要性は理解しておる」「じゃがこやつも一人の人間じゃ」「勝手な都合で一方的に物扱いすることはわしが許さん」。会議で「器」と呼ばれていたものを、身内が「人間」と言い直している。
うぬぼれるな
ただし、身内だから甘いわけではない。暴走中に何を見ていたかを弐郎が語る場面がいい。「体の自由は利かなかったけど、全部見てた」「殺しちまうところだった、この手で」。それに対する祖父の返しが一発の拳と「うぬぼれるな」だった。
続く言葉は「借り物の力に振り回されて、それで強くなったつもりか」「そんなものにやられるほど、わしはやわではないわ」。罪悪感まで自惚れの一種として却下されているのがこの人の厳しさで、直後に「戸惑いや憤りも分かるが、少しは落ち着かんか」と続くのでよけいに効く。
「私にしかできない役目」の直後に「お前じゃなきゃダメなこと」が来る
戦いから離れた場所で、この回いちばん静かな会話が置かれている。しかも直後の展開が、その会話の答え合わせになっている。
待っているだけでいいのか
一華がこぼすのは「みんな大変な状況になってるのに、私だけただぼーっと待ってるだけでいいのかなって」。さらに「私にできることなんて大してないんだなとか、そう思うんだよ」まで落ちていく。前回、任務をきちんと完遂したのはこの人なのだが、本人の自己評価はこうなっている。
受け止めたのは宇佐美だ。まず「一応私もいるよ」と軽く受け、それから自分の話をする。「私なんて、ほら、みんなみたいに戦ったりできないし、いつも事務作業とかお留守番ばっかりだけど」。
留守番の側が答えを持っていた
続きが白眉だった。「でもだから、今こうして一華ちゃんの話を聞けてる」「それは特別大したことじゃないかもしれないけど、でも多分それが私の、私にしかできない役目」。落ち込んでいる相手の役目を数えるのではなく、自分の役目をいま実演してみせることで答えている。締めが「なんちゃってね」なのも良い。
そしてこの直後、司場が一華にこう切り出す。「お前にも頼みたいこと、っていうかお前じゃなきゃダメなことがあるんだが」。捕らえた物ノ怪が、名前以外は本人を連れてこないと話さないと言い張っているためだ。私にしかできない役目という話の五分後に、お前じゃなきゃダメな仕事が届く。副題のONEには、一人という意味だけでなく唯一という意味も入っている。
敵側でいちばん正直だったのは、野望に興味のない一体
尋問の相手は呂蓮。妖力を封じる手枷は付いているはずなのに、あっさり見せかけだと明かして「枷をはめられたように見せかけるなんて楽勝っすよ」と笑う。そのうえで出てくる要求が「あんたにはここで俺の嫁になってもらうっす」である。
野望とかどうでもよかったんすけどね
ふざけた場面に見えて、ここで敵陣営の内訳が一つ埋まる。「長い間生きてると、どうしても薄れてくるんすよね」「生の実感、刺激ってやつが」「だから俺はボスの誘いに乗ったんす」。そして「正直、野望とかどうでもよかったんすけどね」。
前回までに、敵側についた理由は理念への共感や打算といった形で書き分けられてきた。ここに退屈しのぎという一つが足される。「生を彩るのは刺激的な恋なんだ」まで言い切るので、たちが悪いというより清々しい。
一華が色仕掛けに切り替えるくだりも良かった。「もしちゃんと話してくれたら、その、デートくらいならしてあげてもいいわよ」に対する答えが「ああ、なんつーか、そういう感じのはいらないんすよね」。惚れている本人が、惚れた相手からの誘いを即座に断る。欲しいのは好意ではなく刺激だという理屈が、ここでも一本通っている。
群れを語った男が、手駒をまとめて押し込めている
天鬼側の場面も、前回と並べると見え方が変わる。連れ帰った猫を殺そうとする理由は「それは私の求めた羅睺ではない」「羅睺の力は未だ我妻弐郎の中にある」。咬牙の「妖気がなくなってたって、俺らと同じ物ノ怪だろうが」には「俺らと同じか」「青いな、咬牙」と返し、「空箱にもまだ使い道はあるかもしれん」「それはお前に預けておく」で置いていく。
前回、群れをなす力について長々と語ったのはこの男である。ところがこの回で手駒に対してやっているのは、結界を閉じて外へ出さないことと、事情を説明しないことだけだ。咬牙の口から出るのは「予定に支障はないってなんだよ」「羅睺と一緒に全員で隠密ぶっ殺すんじゃなかったのかよ」で、しまいには自分たちの状態を「まとめて押し込めたってわけだ」と言う。「こいつらにも伏せてる別の目的があんのか」という呟きまで付く。
頼れと言った本人が、誰にも相談せず仕組んでいた
この回の説教でいちばん大事な一節は、たぶんここだ。「何でもかんでも一人でどうにかしようとするな」「人間一人にできることなどたかが知れとる」「もう少し周りを頼ってみろ」。そのうえで「ここからはわしも手伝ってやる。じゃから安心せい」と続く。
入ったら殺す、だが入るなとは言われておらん
その手伝いの中身が、一人で森に入れ、である。処遇を避けるには「まずお前が一人でその力を御せるようになる必要がある」。方法は「人と物ノ怪は陰と陽」だから「そこでお前には人間をやめてもらう」。正確には「人間性を極限まで希薄にした状態」で「力との融和を図る」。行き先は物ノ怪の縄張りで、先に使いを出して意向を聞いてある。
返ってきた答えは「入ったら殺す、だそうじゃ」。それでも「よし、では行け」と送り出す理屈が良い。「じゃが、入るなとは言われておらん」「本当に拒否するならはっきり入るなと言うはずじゃ」。断り文句の書式から相手の本音を読むという、交渉ごとの読み方をしている。
ケツという言葉が、二度出てくる
結界は片道切符で、中に入れば祖父の妖気も届かない。それを聞いたうえでの返事が「こんなとこでケツまくれるかよ」だった。冒頭で単独行動を宣言したときの「てめえのケツはてめえで拭く」と、同じ言葉が二度出ている。一度目は誰にも頼らないという意味で、二度目は送り出されたうえで引き返さないという意味。単語は同じで、立っている場所だけが違う。
そして最後に効くのが、送り出した側の告白だ。「わしは卑怯者じゃ」「すべてわかっておった」「ああして煽れば弐郎は必ず行くことも」。周りを頼れと言った本人が、この一手だけは誰にも相談せず、孫を焚きつける形で決めていた。
その背中に返ってくるのが「要はこれが最善手なんじゃろ」「ならばあとは信じてやればよい」「なんせあいつは、おぬしの自慢の孫なんじゃろうが」である。頼れと教えた側が、最後に他人から頼ることを教わっている。三文字の副題が指しているのは弐郎一人ではなく、この構図まで含めた「ONE」なのだと思う。




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