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『グロウアップショウ』第9話の副題は「その優しさは、ぜんぶ嘘?」。凛の情報漏洩も、皇七海の嫌がらせと買収工作も、全部が看病だった回である。麻利亜が倒れた原因は過労ではなく、子供の頃の事故による古傷のほうだった。そして体が小さいという設定が、一言で診断結果に変わる。反撃に出た瑞佳は、ずっと背負ってきた父の名前を自分から交渉材料にする。




公式あらすじの「という」が効いている
第9話の副題は「その優しさは、ぜんぶ嘘?」である。公式サイトのあらすじを読み直すと、書き出しが過労が原因で突然倒れてしまったという麻利亜になっている。倒れたことは事実として書かれているのに、原因のほうだけ伝聞の形になっている。放送前に読んだときは何気ない一文だが、見終わってから戻ってくると、ここだけが最初から嘘をついていなかったと分かる。
メロンの木箱が半分空いている
見舞いの場面はいつもの調子で始まる。豪華な木箱に入っているはずのメロンが半分しかない。理由の説明が、麻利亜は体が小さいからまるまるは食べられない、である。気遣いの形をした言い訳が即座に見抜かれる。病室で騒いだ結果、力が有り余っているならバスとテントの大掃除でもしてもらおうかしら、と凛に釘を刺されて全員が練習に戻る。
ここで凛が普段と違う剣幕になるのは、団員が思っているような理由ではない。ただし、その時点では誰にも分からない。この回は前半をまるごと勘違いの側から見せてから、後半で答え合わせに入るという作りをしている。だから見舞いのやりとりが軽いほど、あとで効いてくる。
逢い引きだと思って追いかけた電話が、姉妹の交渉だった
夕方、ランニング中の二人が電話ボックスで話し込む凛を見つける。追いかける動機が、逢い引きではないか、という疑いである。行き着いた先で見つかるのは、置きっぱなしになった収支決算の資料だった。なぜこんなところに置くのか、という問いへの答えが、みんなに見られたくないから。疑いの方向は外れているのに、隠していること自体は当たっている。
団長も同じ勘違いをして、面白がって見逃していた
面白いのは、麻利亜のほうが先に気づいていたことだ。凛が皇と連絡を取っていたのは知っていた、と言う。しかも最初は男と逢い引きでもしているのかと思って、楽しく見逃していたのだそうだ。追いかけた側と同じ誤解を、団長も一度は通っている。確信に変わったのは、こちらが決めた公演地の近くにブルーローズが来たときだった。
凛の返答も潔い。確かに情報を漏らしたのは私です、でもこれには理由があって、と言いかけたところに麻利亜が被せる。これも私の体を考えてのこと、と。裏切りの告白が、途中で本人以外の口から引き取られる。この時点で、この回の対立は最初から成立していなかったことになる。
倒れた原因は過労ではなかった
明かされる中身は重い。私が倒れた原因は過労じゃない、古傷が原因、私の体はもともと壊れているの。子供の頃の事故で脳下垂体に損傷を負っていて、そこはさまざまなホルモンを分泌する器官なのだと説明が入る。成長が止まっているだけではなく、体に重大な不調を引き起こしている。
体が小さいことの意味が、まるごと書き換わる
団員の反応が、ただの童顔だと思っていました、である。公式のキャラクター紹介にも、成人しているがよく子供と勘違いされるほど小さな体格、と書かれていた。ここまで一貫してギャグの側にあった設定が、一言で診断結果に変わる。第1話から積み上げてきた小柄な団長という絵づらが、全部この一点に繋がっていたことになる。
そして本人の総括が短い。私は激しい動きの演者は無理、だからこのサーカス団を作った、やりたいことがあったから。演者になれない体が、団を作る理由として説明されている。できないことの埋め合わせではなく、できないと分かったうえで別の形を選んだ、という言い方になっているのがこの人らしい。
拾われた人が、拾う人になっている
過去の話がここで開く。異国の地で大きな事故に遭い、家族と離れ、記憶喪失になった麻利亜を保護したのが瑞佳の父、ブラックロータスだった。記憶が戻るまでここにいるといい、ようこそロータスサーカスへ。本人いわく今にして思えばただの気まぐれだったのかもしれない、という拾われ方である。それが予想外に長くなり、このサーカス団が私の家族となった。
掃除、洗濯、小道具の整理、スケジュールの管理
ロータスサーカスでの麻利亜は演者ではない。担当は掃除と洗濯、小道具の整理、スケジュールの管理である。家族のためにできることは喜んでやった、全員の好みも全て覚えた。今ひまわりサーカスでやっていることと、そっくり同じ働き方だ。四年ほど働いたところで、サーカスバカのブラックロータスよりあんたの方が団長に向いている、と言われる。返しが、私は記憶喪失の上に体も成長しないのよ。相手の答えが、大事なのはハート。
飛べない体で、心のほうを飛ばす
記憶が戻って退団し、恩返しの気持ちが憧れに変わり、目標に変わる。そこで出てくるのがこの回いちばんの一文だ。私の体ではあの人みたいに飛ぶことはできない、でも心を高く飛ばせたら同じ景色が見れるはず。笑顔を失った子を救えるサーカスを作りたい、という願いがここから出てくる。
家を飛び出す踏ん切りがついたのは、帰国から四年後、ロータスサーカスの解散を知ったときだった。むしろそれが背中を押した、私がロータスの意志を継ぐんだ、と。継ぐ相手がいなくなったことが、継ぐ理由になっている。第8話までに描かれてきたひまわりサーカスという居場所は、全部この決意から派生していた。
嫌がらせも買収工作も、全部看病だった
では、なぜ皇なのか。話がこじれても困るから言う、という前置きのあとに出てくるのが皇七海は私の実の妹なのである。ここで全部つながる。七海が望んでいたのは、麻利亜が速やかに団を畳んで治療に専念することだった。
まったく姉想いの妹だわ
団員の口から出るのが、嫌がらせに買収工作、まったく姉想いの妹だわ、という総括だった。妨害として数えていたものが、全部そのまま看病だったことになる。第7話から続いていた皇側の不気味さが、悪意ではなく手段の乱暴さだったと分かる。同時に、七海のことを勘違いしていました、という一言も出る。
それでも凛の説明が、いちばん筋を通している。この団は麻利亜の夢で、命を燃やし尽くしても後悔のないものだ。単に体の問題なら無理してでも続けたはずだ、と。畳むと決めた理由は自分の体ではなく、続ければ団員をサーカスから引き剥がすことになる、という判断のほうだった。だから移籍先の手配まで先に進めている。皇には戻りたくないだろうと本人たちの意向まで確認したうえで、信頼できる団に移せるようにする、と。
つまりこの回に出てくる三者は、全員が黙ったまま相手のために動いていた。凛は麻利亜のために情報を流し、七海は姉のために嫌がらせをし、麻利亜は団員のために夢を畳もうとした。相手を思って黙ったせいで、全員が敵に見えていた。副題が問いの形をしているのは、そのどれも嘘ではなかったからだと思う。
そのうえで麻利亜が漏らす本音が重い。話し終えてすっきりしたと言い、謝られると、なんで謝るの、こうでもされなきゃ死ぬまでやるつもりだった、と返す。続けて、ほっとした、このままじゃあの子たちを潰すことになっていた、私の夢はここまで、と。止められた側が、止められてよかったと認めている。そのうえで契約内容を確かめ、あの子たちの未来を助けてほしい、大事にするように言ってほしい、みんな才能ある子ばっかりなんだから、と念を押す。畳む決断のあとでも、話題は最後まで団員の行き先だった。
父の名前を、自分から売り物にする
反撃は、理解したうえでの拒否から始まる。麻利亜さんの思いは理解しました、だからこそ納得できません。この団は麻利亜だけの夢じゃない、私たち全員も同じ思いだ、と瑞佳が言い切る。そこから出る結論が、皆さんお金を稼ぎましょう、である。感情論の次に金の話が来るのがこの作品らしい。
治療費という反論に、賞金で返す
七海の反論は正確だ。治療には多額の費用がかかる、気持ちでどうにかなる問題じゃない。それに対する返しが、その点は問題ありません、キルクスコレクションに挑戦する、日本代表になって世界大会で優勝する、優勝賞金なら治療費には十分です。出場資格がないはずだと突かれても、協会が特別枠を認めた、と用意がある。
その道を開いたのがミッチャーの推薦だった。第8話で協会側が、ミッチャーにこの公演は見る価値ありと言われれば興味がある、と話していたことがそのまま実る。前回は客足が変わらないまま終わったように見えて、動いていたのは大会を運営する側の目のほうだったわけだ。
腸がねじ切れる思いでした
ただし特別枠の取り方が容赦ない。協会の人物は、君がブラックロータス氏の娘であることは聞いている、だからといって彼のような活躍ができるとは限らない、と釘を刺す。そこへ瑞佳が返したのが、実の娘が参加することを宣伝すれば大きな話題になるはずです、それは大会にとって大きな利になりますだった。あとで、あの人の娘であることを利用するなんてね、と言われて出てくる本音が、腸がねじ切れる思いでした。
この回は継承の話を二重に置いている。麻利亜はブラックロータスの意志を継いで団を作り、瑞佳は父の名前そのものを交渉材料にして場所をこじ開けた。片方は志を継ぎ、もう片方は看板を使った。どちらも本人が自分で決めている点だけが同じである。
麻利亜の答えが、ナナミ悪いわね、私この子たちに乗るわ。理由がまだ馬鹿を続けたくなった。そのうえで出す提案という名の命令が、瑞佳が団長をやりなさい、私が退院するまで、というものだった。締めに置かれるのが、ブラックロータスの思いは私なりに受け継いだつもりだったけど、まさかそれを娘に託すことになるなんてね、そして私の、私たちの夢、あんたに預けるわ。返事は、はい、の一言である。




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