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第3話。手に入れた目録に求めていた秘密がなく、洋輔は「偽物だ」と喚いて投げ捨てる。それもそのはずで、この目録を書いたのは清六ではなく、子供の頃の喜八本人だった。だが稲子が紙から亡き母の造った酒の匂いを嗅ぎ取り、灰をかけると清六が喜八に宛てて残した隠し文字が浮かび上がる。「フィラメントは月の姫」という謎かけの答えは、かぐや姫から辿って竹。喜八は仲間とともに電氣満月を作り上げ、洋輔に招待状を送りつけた。




「偽物の目録だと言ってるんだ」
借りていったのは、兄のほうだった
第3話は回想から始まる。机に向かって目録を書き進めているのは幼い喜八で、それを清六が覗き込んでいる。「順調に書き進んでるじゃないか」「あと一つで二十になる」「次はどんなの思いつくかな」。そして頼み事が切り出される。「喜八、頼みがあるんだ。電氣目録を貸してくれないか」。
つまりこの目録は、洋輔が思い込んでいたような清六の頭脳の結晶ではない。喜八が子供の頃に書いていた夢のリストで、清六はそれを借りて戦争に持っていったのである。「もしかして戦争に持っていくの?」と聞かれて言いかけた「もし俺が」を飲み込み、清六はこう言い直した。「戦争から帰ったら、一緒に目録を全部実現しようぜ」「うん、約束だよ」「ああ、約束だ」。
もう一つ、洋輔と清六の回想も差し込まれる。「僕はこんなだから、まだ家からの信用がないけど、でも信用を勝ち取る。三添商店の力を自由にできるくらい、絶対。だから僕に手伝わせて、清六君」「ああ洋輔、一緒に未来を見よう」「二十世紀を電氣の時代にするぞ」。同じ約束が、二人の少年それぞれと交わされていたことになる。
「単なる子供の願望だ、落書きなんだよ」
現在に戻る。手に入れた目録をめくる洋輔の口から出たのは、「違う、絶対違う。ありえない。これは偽物だ」だった。喜八の「何言ってやがる、これが本物の目録だ」に、「この目録には清六君の頭脳が。この目録があれば二十世紀は電氣の時代になると清六君は言っていた。重要な情報を清六君が書いていたはずなんだ」と返す。
そして中身を一つずつ突きつけていく。「何が電氣満月だ。電球はフィラメントが焼き切れてすぐに消えてしまう。満月どころかガス灯の代わりにもならない。この次もこの次も、どれもこれも単なる子供の願望だ。落書きなんだよ」。「違う、これは俺とあいつの」と食い下がる喜八に、「こんなくだらないものが清六君の夢なわけないだろ」。
捨て台詞も洋輔らしい。「本物だと言うのならいいんだよ。そしたら、その落書きを実現でもしてみればいい。僕はもうそんなものいらない。君たちで捨てておいてくれたまえ」。そして稲子へ、「それからマイハニー、二度と今日みたいな真似は許さないよ。君は必要なんだ」。皮肉なことに、この投げやりな一言が喜八たちに目録を取り戻させることになる。
目録は戻り、また捨てられかける
父の焦りと、洋輔が婚約した理由
桃川家では父が激昂していた。「なんてことをしてくれたんだ」。違うんですと言いかけた稲子は「黙っていなさい」で遮られる。「うちはもうまずいんだ。この縁談がもしうまくいかなかったら」——父の強引さの裏にあるのが酒蔵の窮状だということが、ここではっきりする。
喜八を引き取ったのは陸健吾だった。「彼を警察に突き出してきます。あとは私に任せてください」と言って連れ出し、外であっさり解放する。「逃がしていいのかよ」という喜八の問いには答えず、「酒蔵の娘を誘拐だなんて真似をしたんだ。今日はおとなしく帰りなさい」とだけ返した。「あんたたち、清六兄ちゃんの何なんだよ」という問いも宙に浮いたままである。
一方の洋輔の側では、婚約の本当の理由が明かされる。本家が大変お喜びですと報告する伊蔵に、洋輔はこう言う。「今の立場を守り続けるために、格のある家との繋がりが必要だっただけだ。君との約束のために」。「君」とは清六のことだ。目録を手放したことを問われても「ただの落書きに興味はないよ」と切り捨てる一方で、「この目録にはとんでもない力がある。本当に二十世紀を電氣の時代にする力が。君が僕に嘘を言うはずがない」と、彼の中では矛盾していない。
原島すずと大倉ケイト
そこへ新顔が二人訪ねてくる。「私は原島すず、こっちは大倉ケイト。桃川稲子の同級生」。「昨日、凧で空飛んどったやろ」と言われて「見られてたのか」と返す通り、前回の巨大凧を目撃していたのが彼女たちで、稲子の姉に場所を聞いて来たのだという。
用件は「稲子な、入院してん」。慌てて駆けつけてみると、本人は「足をくじいただけなんですけど、お父さんがすごく心配して」と平然としていた。「結婚が決まったんやもん。嫁入り前なんやから、そりゃ心配するで」「なんでケイトちゃんたちが知ってるの?」「稲子ん家のご近所さんが、みんな言うてた」。嫌なのかと聞かれた稲子の答えは「お父さんの決めたことだから」だけだった。
稲子は「それより、電氣目録が戻ってきてよかったです」と話を変える。見せてやと迫られて開いた目録には、「電氣の明かりが満月のように夜を照らす。誰でも安心して夜道を歩けるようになる」——電氣満月の項目や、電氣を貯めて持ち運び、誰でも簡単に買えるようにするという構想が並んでいた。だが喜八の口から出たのは「やっぱりくだらない。ただの落書きだ。キザ野郎の言う通りだ」。「こんなもんに意味なんてない。邪魔したな、帰るよ」と背を向ける。
灰の中から浮かんだ「喜八へ」
紙に染み込んだ、古い酒の匂い
引き止めたのは稲子だった。「目録から、うちのお母さんの匂いがするんです」。稲子の母はもう亡くなっている。それでも彼女は言い切る。「当時だった、お母さんの作ったお酒の匂いを感じます」「かすかですけど間違いありません。紙に染み込んだ、古いお酒の匂い」。酒蔵の娘である彼女の鼻が、この回の突破口になる。
そして稲子が求めたのは灰だった。大事な目録に灰をぶちまけられて「うわー、俺の目録が!」と喜八が悲鳴を上げる横で、紙の上に文字が浮かび上がっていく。「なんで灰で文字が出るん」「忍者の術」という会話が、この作品の軽やかさをよく表している。
浮かんだ文字は「喜八へ」だった。「これ、喜八さんに向けてお兄さんが書いた文字ですよ。きっと電氣のことが書いてあるんですよね」。稲子の結論は明快である。「やっぱりこれは、お兄さんの思いのこもった本物なんです。意味がないなんてことなかったんですよ」。
「だったら証明すればいいんです」
それでも喜八は素直に頷かない。「騙されないぞ。約束を破ったやつの書いたもんなんて信じられねえ」。戦争から帰らなかったことを、彼はまだ約束を破られたと受け止めている。「俺をバカにするために、いい加減なことが書いてあるのかもしれない。見ろよここ、なんだよ『フィラメントは月の姫』って。意味がわからない」。
「人を疑うことはいけないって言ったじゃないですか」「なんでも信じ込む方が問題なんだ」という言い合いを経て、稲子が出した答えがこの回のもう一つの山である。「だったら証明すればいいんです」「そんなの証明しようがないだろ」——「できます。喜八さんが作るんです。ここに書かれているものを。それができれば、お兄さんの本気の気持ちを証明できます」。信じるか疑うかの水掛け論を、作れば分かるという一手で終わらせてしまった。
竹のフィラメントと、まだ昇らない満月
「フィラメントは月の姫」の答え
こうして電氣満月づくりが始まる。材料は清六が作った電球。「これを使って、ガスやロウソクより明るくて長持ちする明かり、電氣満月を作ってみる。それで目録が本物かどうかを確かめる」。作業場は矢倉弥治郎の店で、「フィラメントって何ですか」と覗き込む稲子に「電球が実際に輝く一番大事なところだよ。でもすぐに焼き切れるから、長く光ってられない」と説明が返る。
問題の謎かけは、雑談から解ける。「そんな昔話なかった?」「かぐや姫。竹から生まれて月へ帰っていくお姫様」。そこで喜八の目の色が変わる。「かぐや姫、竹。フィラメントの素材を竹にするってことか」。答えに辿り着いた彼のぼやきがいい。「相変わらずだ。あいつ全部は教えてくれないし、わざわざ裏書きには隠すし。あとは俺自身で考えろってことなんだろうけどさ」。
手伝いも増えていく。稲子の志願理由は「うちは、喜八さんがお兄さんを信じるお手伝いがしたいんです。喜八さんだって、本当はお兄さんを信じたいはずなんですから」。そこへ「おもろそうやから、うちも手伝う」「じゃあ私も」と同級生二人も乗り、喜八の「騙されないぞ」だけが取り残される格好になった。
昇る電氣満月
さらに陸健吾と規子まで現れる。健吾が明かしたのは、自分と洋輔は同じ学校に通っていて、清六とは同級生だったという関係である。規子も「私も清六さんと知り合いだったの」と言い、だからこそ目録を預かっていた。「本当にあいつの字かどうかも分かんないけどな」と斜に構える喜八に、健吾は「君は疑り深いんだな」と返し、あんたは信じてるのかという問いには「それを確かめたいんだ」と答えた。
そして灯がともる。「光りましたよ」と喜ぶ稲子の横で、喜八の返事は「騙されないよ」のままだ。ただし続く言葉は、もう疑い深い少年のものではなくなっている。「あいつが目指した電氣の明かりはこんなもんか。もっと長く明るくできるんじゃないか」「フィラメントはもっと高温で炭化させて、ガラスの質も見直してみるか」。稲子が母の縁のガラス工房を差し出し、竹を採り、炭にし、硝子を焼く工程が積み重なっていく。
やがて洋輔のもとへ届いたのが、桃川のお嬢様からの招待状である。「電氣満月実現セリ」。「あの目録が偽物ではないだと。そんなわけがないだろう。ありえない」と否定しながら、「あの目録には彼の痕跡を全く感じられなかった。直接見たんだ。僕が彼の痕跡を見逃すはずない」と自分に言い聞かせ、それでも漏らしてしまう。「なのになんだ、この胸騒ぎは」。
会場で告げられたのは「もう何百時間も光ってる」という数字だった。「そんなに長く光るフィラメントがあるものか」という洋輔に、答えは「竹で作ったフィラメントだ」。それでも彼は認めない。「この光は僕と彼とで作るはずのもので」「豆粒みたいな明かりがなんだ」。その言葉に喜八が返す。「まだ満月は昇ってない」。夜空に昇る光の下で重なるのは、あの日の「一緒に、この目録の内容を実現しようぜ」である。ネットでも、夜空に咲いた満月の花のようだったという声が上がっていた。




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