『ヘルモード 2nd Season』第21話の副題は「ラポルカの魔族たち」。百万の魔王軍との防衛戦は、三十分もせずに魔石が尽きるという在庫の危機になる。ところが時間を稼ぐために倒した敵が、そのまま次の弾薬になっていた。そして後半の潜入で分かるのは、敵が総力で敗因を分析しても、召喚士というクラスにたどり着けないことである。アレンは目的を一度も隠さないのに、手札だけは誰にも知られていない。




副題は「ラポルカの魔族たち」だが、前半はまだ防衛戦
前話の引きは、四つの町から引いた魔王軍と北からの増援が合流して百万になり、二日後にティアモへ到着する、というものだった。この回はその防衛戦から始まる。
公式の紹介も、激戦の中、疲労と魔石不足が襲いかかる、という書き方だった。ラポルカという地名が副題に入っているのに、要塞へ着くのは次回以降である。
遅滞戦術で稼げるのは一日、と先に言ってある
作戦の説明が具体的で良い。魔王軍の襲来まで二日、七十万の市民を逃がすことは不可能、だからここで迎え撃つ。そのうえで石工三千人を借り受け、進行を遅らせる遅滞戦術を取りますが、伸ばせて一日と、成果の上限まで自分から申告する。
結果も数字で返ってくる。本来は昨日現れるはずだった敵軍ですという報告で一日ぶんの成功が確認され、その間に兵力は三十万まで持ち直した。宣言した数字がそのまま達成されるので、話が進むたびに信用が積み上がっていく。
エルフ側の動きも同時に描かれる。魔導船の稼働を急がせ、ティアモの市民と負傷兵をネストへ送り、ネストからは回復した兵を移動させて守りを固める。逃がす人と戻す人が同じ船で入れ替わる形だ。女王がソフィーに向けて言う、アレン様をお守りするのですよ、という一言も、この時点ではまだ軽く聞こえる。
三十分もせずに魔石が尽きる
戦闘中の緊張は、ほとんど在庫の管理から生まれている。三日で使ったBランクの魔石は十一万個、残りは二万を切っている。この時点でもう厳しい。
そこから状況はさらに詰まる。魔王軍は残り四十万、魔石は約九千個、消費は一分あたり二百九十個。計算して出てくるのが、やっべぇ、三十分もせずに魔石が尽きるである。
三日かけて回収させていたもの
そこへ届くのが、この事態に備えて三日間で倒した魔獣四十万体の魔石を回収してもらっていたという一手だ。穴に流し込まれた分で三十万個。召喚獣を削除して生成し直し、反撃が始まる。
この作品の気持ちよさは、こういうところにある。危機が数字で示され、その数字を埋める手が事前に打たれている。しかもその手は、遅滞戦術の副産物である。時間を稼ぐために倒した敵が、そのまま次の弾薬になっている。
召喚獣の扱い方も、そのまま在庫の運用である。やられるたびに補うのではなく、削除して生成し直し、まとめて召喚する。補充ではなく作り直しなので、消費は減るどころか増える。そのうえで、炎を連射している最中に、魔石まで燃えてしまったらもったいない、という心配が入るのが可笑しい。倒しながら回収する前提で戦っているから、燃やしすぎも損になる。
人が手にして良い力なのか
補給が届いたあとの戦闘は、もう戦闘ではない。六十万を押し返す様子に対して、味方の側から出る言葉がこれだ。これはもう一方的な虐殺だ。そして、人が手にして良い力なのか。
焼け野原の描写が妙にリアルで、その台詞に信憑性を持たせていた、という指摘が出ていた。勝っている場面を、勝っている側の言葉で怖がらせるという組み立てである。
戦果もきちんと数字で締める
締めの報告も律儀だ。魔獣百万体のうち四十万体を三日で倒し、防衛戦で四十万体を一日で撃破、残りは戦意喪失して逃げ去り、使った魔石は二十万個に及んだ。
それでいて本人の総括は、いえ、今回はギリギリでしたである。理由も具体的で、敵が攻めの速さより数を優先していたらどうなっていたか、と付け加える。勝った直後に、負けていた可能性のほうを数えている。
不落の要塞を、十日で取りに行く
副題のラポルカが出てくるのはこの会議である。この戦いでローゼンヘイムの魔王軍は百七十万まで減ったが、中央大陸付近には四百万が控えている。物量戦にも耐えられる体制を整えるべきです、として挙がるのが要塞の奪還だ。
ラポルカ要塞は首都を囲む山脈の中にあり、不落と名高い。ところが女王や市民の避難を援護したせいで、早々に敵の手に落ちている。つまり防衛力そのものは健在で、味方が守り切れなかった強さが、そのまま奪い返す側の障害になる。
見積もりも遠慮がない。部隊を編成して魔導船でティアモを発つまでに五日、ラポルカまでさらに五日で計十日。敵軍の再編とどちらが早いか、時間との戦いになりますね、と本人が言う。この作品は、勝った回の終わりに必ず次の締め切りを置く。
敵は敗因を分析するが、正解に届かない
この回でいちばん面白いのは、後半の潜入である。エリーが茶を運ぶ係になりすまして要塞に入り、魔族グラスターの会議を覗く。
潜り込み方が雑で楽しい。門番役の魔族が、機嫌が悪いからぐずぐずしていると殺される、と怯えて入れずにいるところへ通りかかり、お前が茶を届けるんだ、と押しつけられて堂々と中へ入る。語尾が独特な魔族たちの会議に、給仕の顔で同席してしまう。
議題は敗戦の理由を考えろ。出てくる仮説は三つで、精霊王が精霊神になった、精霊使いが実は大精霊使いだった、ドラゴンを味方にした上位魔獣使いが現れた、である。
召喚士の存在はバレてなさそうだ
しかも仮説は一つずつ潰されていく。精霊神が誕生したならエルフは誇示するはずだ、大精霊使いがいたなら我々がここまで押せた説明がつかない、魔王軍を跳ね返せるほどの魔獣使いなどいない。論理は正しいのに、答えだけが出てこない。
それを聞いたアレンの感想が、よしよし、召喚士の存在はバレてなさそうだ。当然である。この世界にそんなクラスがある、という前提を誰も持っていないのだから、どれだけ真面目に検討しても選択肢に入らない。
同じ場で、敵の次の手も丸ごと聞き取れる。予備兵力四百万を動かす命令はすでに魔神が下していて、方針は陸地を北から、海を南から侵攻し、ローゼンヘイムのエルフを根絶やしにする。南から回る理由も判明する。海の魔獣で軍勢を運び、ネストにいる二百万の避難民を食料にして腹を満たし、そのうえで北の軍勢と挟み撃ちにする、という筋書きだ。
さらに位置関係も判明する。学園で習ったとおり、魔王は配下に魔人や魔族を従えていて、目の前の連中は魔族。その上に魔神がいる。予備兵力の投入を決めたのがその魔神だと分かった時点で、アレンの反応が最悪だ、昨日の今日で予備兵力の投入を決めるとは。私が知る限りこの国に魔神が現れたことはない、という証言まで付くので、難易度が一段上がったことが数字ではなく相手の格で示される。
できる限界を決めるな、と言う人の限界
対策として要求されるのが、クレナとドゴラのエクストラスキルである。クレナの課題はリミットブレイク中にスキルを使えるようになること。本人の申告が、やろうとすると頭がうわーってなってぎゃーってなるから。
そこへの返しが強い。誰ができないと言った。神か。そうだろ、だからできる限界を決めるな。使えればクレナは勇者並みの戦力になる、という見立てまで添えられる。
無茶を通す理屈も、この人らしく身も蓋もない。エルフを救いたくないのか。魔族に魔人も控えているのだ。無茶でもなんでも鬼特訓だ、で押し切る。その直前に久しぶりの風呂を挟んで、休ませてから追い込む順番になっているのが芸細かい。
今は手持ちのカードで戦うしかない
ところが直後、同じ口から弱音に近いものが出る。戦争で大量の経験値を得てレベルは六十三、それでも未だに使えないスキルが存在する。レベル六十で解放されると思っていたものが、まだ開かない。
そして出る結論が、とにかく今は手持ちのカードで戦うしかないんだである。限界を決めるな、と言った直後に、自分の限界を認めて手持ちで戦うと決めている。矛盾に見えて、この二つは同じことを指している。決めるなと言っているのは上限の話で、今できることを数えるのは別の作業だ。
なぜ戦うのか、と聞かれて全部答える
ラポルカへ向かう道中、フォルマールが正面から尋ねる。アレン殿はなぜ戦うのか。絶望的ともいえる状況で力を尽くしてくれることには感謝している、が、と続けて核心へ入る。
総力戦だ、という感想が出るくらい、この時点で全員が全力を出している。だからこそ問いが出る。魔王軍を撃退したのち、ローゼンヘイムをどうするつもりなのだ。我々エルフに何か求めるものがあるのではないか。
出発前のやりとりも短いのに効く。大将軍は切り落とされた右腕を治してもらったばかりで、それでも自ら参加を申し出る。敵は強いぞ、おそらくAランク魔獣以上、という警告に対する返しが、魔族は廃ゲーマーに任せてください。腕を失った側と、腕を治した側が、そのまま役割分担になっている。
素直な奴なのよ、自分の欲望に
答えに一切のためらいがない。そりゃもちろん、精霊王にみんなを転職させてもらうんだよ。それからバウキス帝国でダンジョンの攻略、ローゼンヘイムに残りたいかもしれないけどもちろんフォルマールにも付き合ってもらうぞ、と、まだ相手の同意も取っていない予定まで並べる。
返ってくるのが、そうか、愚問だったな。求めるものがあるのではないか、という疑いに対して、あるに決まっている、と全部先に言われたので、それ以上疑いようがない。
締めるのはセシルである。もう分かったでしょ、素直な奴なのよ、自分の欲望に。そして、アレンは諦めないわ、絶対、信じてついていきましょう、みんな一緒に、で終わる。
次回は第22話「祈りが満ちて」。ここで一度、この回の形を整理しておきたい。アレンは目的を一度も隠していない。転職させてもらうため、ダンジョンを攻略するため、と見返りを毎回口に出す。ところが同じ回の裏側では、敵が総力を挙げて敗因を分析しても、召喚士というクラスにたどり着けない。
目的は全部言うのに、手札だけは誰にも知られていない。信用される理由と、勝ち続けられる理由が、この一話の表と裏にきれいに分かれて置かれている。フォルマールの問いに愚問だったなと結論が出るのも、セシルが素直な奴だと言い切れるのも、そのおかげである。





























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