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第8話の副題は「トレーニング デイ」。訓練の日という題のとおり、この回には教える人が三人出てくる。恋愛を教える六道さくら、魔法を教える鳴神流星、そして訓練場で教育してやると言い出すOZのエリート。当たったのは真ん中の一つだけで、しかもその流星が特訓を引き受けたのは、俺自身も特訓が必要だったからだと言う。仕上げに教わる側だったはずの勇者が、先生を諭す。




「トレーニング デイ」に、教える人が三人も出てくる
第8話の副題は「トレーニング デイ」。この番組の副題が実在の映画の題を借りているのはもう恒例で、恋人たちの予感、オズの魔法使い、ミッドナイトラン、許されざる者、から騒ぎ、パルプ・フィクション、セブンと続いてきた並びの八本目になる。細かい話をすると、公式の表記で二語の間にきちんと空きを入れているのは今回だけだ。
そして訓練の日という題のとおり、この回には教える人が三人出てくる。恋愛を教える六道さくら、魔法を教える鳴神流星、そして訓練場でいきなり教育してやると言い出すOZのエリート。同じ「教える」でも中身がまるで違い、当たったのは一つだけだった。
第1話の二人が、役職を入れ替えて戻ってきている
公式に載る各話スタッフを並べると、この回が第1話と対になっているのが分かる。第8話は演出が天沢美、演出助手が西片康人。第1話は演出が西片康人、演出助手が天沢美。同じ二人が、役職をそっくり入れ替えて組み直している。
しかも演出助手の欄が載るのは第1話、第3話、そして第8話の三本だけで、同じ二人組が二度出てくるのはここしかない。第1話は流星がニートから高校教師になる回、第8話は流星が魔導士に魔法を教える回。流星が人に教える立場へ回る二本を、入れ替わった二人が受け持っている。脚本は八話とも菅原雪絵、絵コンテは八話とも山本秀世で、総作画監督は奥田陽介、松岡謙治、西尾淳之介の三人が一度も乱れずに回り続けている。
公式のキャラクター紹介が、最初から答えを書いていた
今回の膝枕は六道さくらの入れ知恵から始まる。公式のあらすじも「賢者にそそのかされ」と書いていて、本編で流星も「悪い賢者に騙されたな」と言う。ここで公式のキャラクター紹介を開くと、六道さくらの欄にはこう書いてある。恋バナ大好きだが、アドバイスは絶対あてにならない。
面白いのは、同じページのミーティア側のコメントが六道を「何でも知ってる学園の賢者だわ」「憧れる人グランプリ優勝だわ」と持ち上げていることだ。同じ一枚のページの中で、あてにならないと書かれた人が、あてにしている本人から賢者と呼ばれている。第8話はその二行が正面からぶつかる回になっている。
膝枕も肉じゃがも、方向がそろって逆だった
ミーティアは膝枕してほしいと二度言い、実際にやってみて「ごつごつしてる」と言われる。流星の反応は「普通逆だろ」で、誰に聞いたと問われて出てくる名前が六道先生。膝枕は男のほうがされる側だ、という当たり前の一点で崩れる。
続けて六道が「あと男性が好きなのは肉じゃがですよね」と足すと、そのたびに「あれ?」が返ってくる。恋愛知識をどこから仕入れたのかと問い詰められる流れまで含めて、公式紹介の一行が丁寧に実演されていた。
助言の出どころが、この回だけで二人いる
流星が「今度は誰に吹き込まれた」と聞き直す場面もある。返ってきたのは多岐川眠兎の名前で、六道だけが情報源ではないと分かる。そこで流星が出す注文が「仲間は選べ」。魔法でも戦い方でもなく、誰の話を聞くかを直そうとしているのが、この回の流星の立ち位置をよく表している。
10億円という値札と、二度出てくる「重い」
パンドラちゃんねるの回。出題は、すべてのローゼンリッターには愛称がついており、すべてが高額取引をされている、ではこのローゼンリッター・メサイアは闇オークションでいくらの値がついたでしょうか。8000万くらい、という当てずっぽうに返ってきた答えが10億円だった。
この直後の見せ方がうまい。今日は普段見かけない人がたくさんいると思った、という一言があって、あれは民間軍事会社の特別警備員、あの人は保険会社の偉い人、と説明が付く。値段が分かった瞬間に、それまで背景だった顔ぶれが全部意味を持ち直す。推理ものの手つきで金額を見せている。
魔王が勇者に、自分を倒した剣と同じものを渡す
流星がミーティアに差し出すのは「お前が使ってた剣と同じものだ」。愛称はローゼンリッター・ステラで、星のような輝きからそう呼ばれた剣だという。気高い勇者である君のためにあるような剣だ、俺は君に使ってほしい、と続く。自分を殺した道具と同型のものを、殺した相手に自分から渡している。
受け取ったミーティアの第一声が「重すぎる婚約指輪だわ」。値段の話としても、渡され方としても重い。ここまではギャグの重さだ。
同じ「重い」が、後半で責任の話に化ける
後半、流星は異世界のアイテムが流出していることを気にしている。偶然この世界に迷い込むようなものではない、何か異変が起きている可能性がある、次元を歪めた原因があるのかもしれない。そこへミーティアが「それってさ、私たちの転生が原因なのでは」と割り込む。返事は「責任か」「重いな」。
同じ回のうちに、重いという語が10億円の値札から自分たちの責任へ移っている。剣が重いと笑っていた話が、そのまま次元を歪めた責任の話に着地する。副題どおりの訓練回に見えて、実は世界の異変が動き出す回でもあった。
流星の指導は「直す」ではなく「伸ばす」だった
OZの訓練場で流星が挙げた要点は、詠唱と動作、あとは集中。動作については、杖にも振り方があるだろう、これの素手版ってとこだな、と説明する。ついでに、この世界では杖のほうが発展しているのだろう、とも言う。転生してきたくせにこの世界は遅れているとか言わないのか、と聞かれても乗らない。異世界のほうが上、という定番をきちんと外している。
白眉は眠兎への指導だ。適当な呪文だと言われ続けてきた彼女に対して、流星は詠唱をやめさせない。無詠唱もできるが効果が弱まり不発の危険もある、ただし詠唱速度は武器になる、だからリズムをつけて詠唱してみろ、と伸ばす方へ振る。欠点として扱われていたものを、そのまま個性の入口に変えている。
公式紹介が、この指導方針を先に書いていた
ここでも公式のキャラクター紹介が効いてくる。眠兎の欄に置かれた流星のコメントは「呪文は適当だが多彩な魔法を使いこなす魔導士だ」。適当だからだめだ、ではなく、適当だが使いこなす、という並べ方になっている。第8話の指導は、その一行をそのまま実行しただけだ。
摩那についても同じで、紹介文は戦いには向いていないが才能はピカイチだと書く。本編で摩那は、チームプレイに向かないから重要な作戦に参加させてもらえず、魔力操作を学んでこいと言われたのだと打ち明ける。それを聞いた流星の返しが魔法の話ではなく「それが君の本当の望みなのかい?」で、出てきた答えがラブアンドピースだった。第5話でミーティアにやりたいこと全部やれと言ったときと、聞き方がまったく同じである。
教えている本人が、いちばん訓練を必要としていた
副題の答えが出るのは終盤だ。ミーティアに、眠兎たちともうまくやっているようだと言われた流星が返す。特訓を引き受けたのは、俺自身も特訓が必要だったからだ。訓練の日に、いちばん訓練を要ると思っていたのは先生のほうだった。
その先で明かされるのが、魔王のデタラメな魔法能力の正体である。人体改造によるもので、声帯の代わりに魔力で音を振動させ、複数の魔法を同時に扱えるようにしていた。そこまで語った流星が、ならばこの手にも同じ機関を作り出せば、と言い出す。
見張り役が、八話目にして仕事をする
止めたのはミーティアだった。だめよ流星、それはまた人の域を超えてしまう。流星の返事が「お前に諭されるとはな」で、この一言で立場が入れ替わったことがはっきりする。魔法を教わっていた側ではなく、教えていた側が諭される。
公式のキャラクター紹介には、転生して心を入れ替えてやり直すつもりらしいけれど、悪いことをしないように見張っておくべき、という一行が置かれている。第8話は、その見張り役が初めて実際に働いた回だ。訓練場で伸びたのは眠兎の詠唱と摩那の魔力操作で、いちばん大きく効いたのは、教わる側だったはずの勇者の一言だった。
三人目の「教育してやる」だけが、教育になっていない
最後に現れるのがOZのエリートたちだ。落ちこぼれコンビが連れてきた新顔だな、俺たちOZのエリートが教育してやるか、やっちまうか、不運な事故ってやつ。教育という言葉を口にしながら、中身は事故に見せかけた暴力でしかない。
結果は返り討ちで、分解するカウンタースペルはマスタークラスにしかできない技術だと驚かれ、威勢は良いが腕はまだまだだなと切り返される。この事は上に報告させていただきます、と言い残されて終わるのも冷たくてよかった。落ちこぼれと呼んだ相手のほうが、名前の付いた技術をきちんと持っていたわけだ。
三人の教える人を並べ直すと、順番がきれいに効いてくる。あてにならない賢者の助言があり、欠点を伸ばす方へ振る先生がいて、最後に教育を口実にした暴力が来る。同じ動詞が三度使われ、そのたびに中身が下がっていく構成になっている。
この回でミーティアに付いた呼び名は二つ
締めの台詞も面白い。命拾いしたな、彼女を怒らせたらお前の顎の骨は粉々だったぞ、彼女は魔王の女だ。この一連で、今回のミーティアには10億円の女と魔王の女という二つの呼び名が付いたことになる。公式紹介にある本人の自称は金持ち、美少女、モテモテなので、まわりが貼っていく値札のほうが本人の申告を追い越していく。
しかもその二つは、どちらも本人が取りに行ったものではない。10億円は闇オークションが付けた値で、魔王の女という言い方は敵側の忠告から出ている。第7話で闇の指輪に飲まれたときと同じで、この作品はミーティアの立ち位置をいつも他人の口から先に決めさせる。それを本人がどう受け取るかで話が進む。
締めの噂話も気が利いている。本物の勇者が現代に転生したらしいですよ、と話す人たちの目の前に、その本物が10億円の剣を提げて立っている。訓練の日は、教える人が三人いて、いちばん教わったのが先生だった一日として終わった。




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