この記事の作品:
切り札を破られた夜一と浦原に、滅却師完聖体「神の毒味」と化したアスキンが迫る。毒の変質にすら適応する相手へ、浦原がついに切ったのは卍解だった。そして「脱出不可能とは言ったが、侵入不可能とは言わなかった」…備えに次ぐ備えが、思わぬ助っ人を呼び込む。一方、真世界城の最上階では一護と織姫が玉座の男と対峙し、「我が闇の子よ」と迎えられた。第2話「SON OF DARKNESS」を振り返る。




神の毒味という名の適応
「1秒で48パターン全て食らえるってことだ」
前回、夜一の切り札が通用した理由は、その霊圧が1秒に48回も変化するせいでアスキンの免疫獲得が追いつかない点にあった。ところが第2話、アスキンはその前提をあっさり裏返してみせる。「1秒に48回変化する霊圧。それは言い換えれば、1秒で48パターン全て食らえるってことだ」「つまり滅却師完聖体になって1秒間だけ攻撃を受け切れば、全48種コンプリート。あとの解析と免疫獲得に必要なのは時間だけだ」…弱点を攻略法ごと反転させる理屈が実に嫌らしい。
さらに彼は、聞かれてもいないのに手の内を明かす。「あんたが無駄に手間取らなくて済むように、親切心から俺の性能を教えとく」…そして告げたのが完聖体の名だった。「俺の完聖体、神の毒味は、毒の変質に適応する」「毒の表層がどれだけ変化しようが、ベースが同じなら免疫の方を変化させて瞬時に無効化する」。前回ラストの名乗りが、ここで能力の説明としてきちんと回収される。
結論も容赦がない。「こっから先、あんたもそいつもどれだけ霊圧を変化させようが、俺に傷一つ負わせることもできねえって話さ」「さあどうするよ、浦原喜助。まさかあんたの打つ手を1から10まで潰したくらいで、万策尽きたわけじゃねえだろ」…煽っているようでいて、これは期待でもある。この男が浦原という人間をどう見ているかが、たった一言で伝わってくる。
ギフト・ベライヒと、忠誠心ではない動機
逃げ道も先に潰される。「そんなびっくりするな。念のためさ、ベライヒを区切った」…そして自分の流儀を語る。「俺はきつい言葉を使うのが好きじゃなくてね。きつい言葉を使うやつってのは余裕がなく見えるだろ。余裕のある男でいたいもんでね」「その俺が言うぜ。このギフト・ベライヒからは絶対脱出不可能だ」。言い回しの選び方にまで美学がある敵は、それだけで魅力的だ。
ここから、この回でいちばん面白い会話が始まる。浦原が探りを入れるのだ。「そんなにあたしたちを逃がしたくないんすか」「当たり前だろ、何の確認だよ。俺たち敵同士だぜ」「いえねえ、あなたは忠誠心で動いてるようには見えなかったもんで」…アスキンは笑って否定しつつ、認める。「失礼なこと言うねえ。忠誠心ならポメラニアンの倍ほどもあるつもりだぜ。だが見立ては間違ってねえ。確かにそれが全てじゃねえ。俺は陛下に興味があるのさ」。
そして彼が語った動機は、忠誠でも憎悪でもなかった。「現世、虚圏、尸魂界。世界を3つも潰して、その後に何かを作ろうとしてる。そんな人が陛下の他にいるか」「例えばここで陛下を逃して、その次に誰かそんな奴が出てきてくれると思うか」…つまり彼は、この世で最も大きな見物を取り逃したくないだけなのである。滅却師の理想でも復讐でもない、ただの好奇心。だからこそ底が知れない。
それが科学者ってもんす
「3つの世界を潰した後に、陛下が何を作るのか」
アスキンの誘いは、浦原に向けられる。「浦原喜助、あんたは物知りだ。この世の全てを見てきたって顔してる。そのあんたが思わねえのか。3つの世界を潰した後に陛下が何を作るのか。それを見たいと思わねえのか」…同じ探究心の持ち主だと踏んでの勧誘である。実際、この二人は驚くほど似ている。
返事は即答だった。「思わないっすねえ」…「そりゃ残念だなあ。あんたはてっきりこっち側だと思ってたんだが」と食い下がる相手に、浦原はこう続ける。「涅隊長ならあるいは、新しい何かを見たいと言ったかもしれません」「だけどそれでも、ユーハバッハの作ったものを見たいわけじゃないんす。誰も見たことのないものを作るなら自分の手で。それが科学者ってもんす」。
この答え方が見事だった。好奇心そのものは否定しない。むしろ後任の男なら乗ったかもしれないと認めたうえで、それでも自分は違うと線を引く。見るのではなく作る側でいたい、という一点だけが譲れないのである。アスキンの反応もいい。「なるほどねえ。嫌いじゃねえぜ、その答え。それでも俺は陛下の方を見たいけどな」…殺し合いの最中に、思想の違いをきちんと確認し合う。この余裕が二人の格を上げていた。
ギフト・リングと、卍解「観音開紅姫改メ」
会話が終われば、あとは殺しにかかるだけだ。「なあ、ギフト・リング」…用途の説明がまた恐ろしい。「ギフト・リングはとんでもなく強くて、デスディーリングがろくに効かないヤバい奴に使うんだ」「効果はデスディーリングの能力を一点に集中させて、貫いた敵の部位をピンポイントで即死させる」「あんたが強すぎるから悪いんだぜ」「手段を全部消してもダメ。それなら死んでもらうしか手がねえんだ」…実際、浦原はこれで目を潰される。
追い詰められた浦原が、ついに切り札を出す。「まいったなあ。本気で殺しに来てるじゃないすか。仕方ないっすねえ」…そして名乗るのが「卍解、観音開紅姫改メ」である。アスキンの驚きようが可笑しい。「なんだそりゃ」「卍解だって? 聞いてなかったぜ。陛下にいただいた中には、あんたの卍解の情報なんかよ」…浦原の返しがまた飄々としている。「私も、生きてる人たちの前で使うのは初めてっす」。
能力の開示も一筋縄ではいかない。「で、一応聞くけど、どういう能力なんだ」「そういうの聞くんすか。言うわけないでしょう」「聞かずに向かってくのも業腹だからなあ」「いいんすよ、でもまあ、言わなくてもそろそろわかるころっすけどね」…そして種明かしが来る。「観音開紅姫改メの能力は、触れたものを作り変える能力っす」。アスキンが「何見えてんの? あんたの目は即死させたはずだぜ」と戸惑うと、返事は「見えてますよ。それも作り変えたんすから」。即死という結果すら書き換えてしまう。ネットでも「触れたものを敵の領域まで改変するってありなんか」「チートが過ぎる」と驚きの声があふれた。
1000の備えで1使えれば上等
「脱出不可能とは言ったが、侵入不可能とは言わなかった」
それでもアスキンは崩れない。「やだやだやだ、やだねえ。これじゃ俺の嫌いな力対力の戦いじゃねえか。せっかく自分のフィールドに引きずり込んで自分のペースでやろうってのに、なんやかんやでうまいことずらしてきやがる。悪い奴だぜ、浦原喜助」…そのうえで釘を刺す。「忘れちゃいねえだろ、これは脱出不能の毒の要塞。この中であんたが息ができてんのは、俺がまだ加減してるからなんだぜ」。
浦原は「勘弁してくださいよ」「今だって地面を這い回ってるので精一杯なのに」と嘆いてみせる。アスキンも見抜いている。「言うじゃねえか。分かってんだぜ。あんたの卍解は地面を這い回ってるだけでも危険だってな」…そこで浦原が静かに告げた。「さすが、よく理解してる。ただ、もう遅いっすけどね」。
種明かしはこうだ。「気になってたんす。これをあなたは脱出不可能とは言いましたが、侵入不可能とは言わなかった」「だから試しに、外から一息に侵入できる道を作ったんです」…そして礼を言う相手が最高だった。「お手伝いありがとうございました、グリムジョーさん」。突き破って現れた助っ人に、ネットも「グリムジョーの登場は素直にうれしい」と沸いていた。言葉の穴を突く、という詰め方がいかにも浦原らしい。
「あんたが怖ぇ理由が、ようやくわかった気がするぜ」
アスキンの疑問はもっともだった。「なんだ、心臓潰してもまだ息があんのかてめえ」…答えたのは浦原である。「私が直したんす。ここに来る途中に」。なぜ助けたのか。理由がまた凄い。「藍染の手によって仮面を剥がれた破面たちは、帰刃によって破面の霊圧から虚の霊圧へと完全に変化する。このことが戦いの役に立つかもしれないと思ったんです」。
「そんなことまで読んでたってのか」と問われて、浦原は否定する。「いえ。言ったでしょう、役に立つかもしれないと思ったんす。だから備えた」「1000の備えで1使えれば上等。可能性のあるものは全て残らず備えておく。それが私のやり方です」…読み切っていたのではなく、読み切れないから全部用意しておく。これが浦原喜助という人間の正体だった。
「むちゃくちゃだな」と呆れるアスキンへ、返ってきた言葉がこの回の芯である。「何がです? 戦いですよ。負けたら死ぬっす。死なないために死ぬほど準備することなんて、みんなやってることでしょう」…当たり前のことを言っているだけなのに、桁が違う。そしてアスキンがこぼす。「あんたが怖ぇ理由が、ようやくわかった気がするぜ」。前回、陛下が彼を特記戦力に数えた理由が、ここで敵自身の口から言語化された。
アスキンの最期と、置き土産
決着をつけたのはグリムジョーだった。「しぶとい野郎だ。とっとと死ねえ」…そして浦原へ向けて言い放つ。「てめえの敵を殺すところまでがてめえとの契約だ。これで契約も終わりだぜ」。助けられた恩義を、あくまで契約として処理する。この距離感がグリムジョーらしくて格好いい。
だがアスキンは、倒れながら最後の置き土産を残していた。「俺が死ぬとギフト・ボール・デラックスは威力を増す。俺がビビって自分を巻き込まねえように無意識にかけてたロックが外れるからだ」…つまり彼の死そのものが最大の攻撃になる。しかも本人にその意図はなく、ただの生理現象として起きてしまうのだ。
そのうえでの言葉が、この男の格を決めた。「あんたには敬意を表してえが、こればっかりはどうしようもねえ。あんたらにはもう逃げる力なんか残っちゃいねえだろ。すまねえな」…そして最後にこう付け足す。「とはいえ、あんたならきっと、なんとかしちまうんだろうな」。殺し合った相手を最後まで信頼して逝く。好奇心だけで陛下についた男が、いちばん人間らしい台詞で退場していった。
「SON OF DARKNESS」まとめと考察
「よく来た。待ちわびたぞ、我が闇の子よ」
場面は真世界城の最上階へ移る。一護は「二対一で卑怯かもしれねえけど、防御は任せた。頼むぞ井上」と告げて扉を開ける。待っていた男の第一声が、そのまま副題だった。「よく来た。待ちわびたぞ、我が闇の子よ」。
ユーハバッハは刀を抜かない一護を眺めて評する。「抜かぬのか。随分と無防備なことだ。と言いたいところだが、どうやら無防備なわけではないな。みなぎる霊圧が形となって見えるようだ。強くなったな。いや、それこそが本来のお前の力だ」「さあ来い。右から来るか左から来るか。楽しみに待とう」…そして挑発する。「どうした、切りかからぬか。久しぶりの親子の対話を楽しみたい」。
一護の答えは短い。「俺の親はあんたじゃねえよ」…「黒崎一心か。あれは仮初めの父親にすぎぬ。お前はすでに聞いたはずだ、自分の力の根源について」と返されても揺るがない。「聞いたさ。それがなんだ。あんたは俺の親じゃねえ。俺の親を殺した男だ」…この一往復が、副題「SON OF DARKNESS」を真っ向から突き返す形になっている。闇の子と呼ばれた側が、誰を親と呼ぶかを自分で決めるのだ。
それでもユーハバッハは崩れない。「母のことか。女々しいぞ、一護」…そして最も不穏な言葉が置かれる。「そう逸るな。お前はいずれ私に喰らわれて死ぬが、そう死に急いではつまらんだろう」「一体どれほどの時間と奇跡を費やしてお前を作ったと思っている」「自らの命を軽んじるな。お前の体は、お前の力は、お前一人のものではないのだ」「力の全てを吐き出し尽くして死ね」…一護という存在そのものが、この男の作品として設計されていたと明言してしまう。全知全能を失ってなお余裕が消えない理由が、ここにある。
並行して描かれた石田雨竜とハッシュヴァルトの対決も見逃せない。「未来が見えるだけで戦いに勝てるわけじゃない。分かっていても防げない攻撃をすればいいだけのことだ」「お前に宿る全知全能をお前ごと葬ってやる」と挑む雨竜に、返ってきたのは冷たい訂正だった。「貴様の無知を正してやろう、石田雨竜。戦場のすべてを把握するだけでは、戦局を見るとはほど遠い」「全知全能の力に着目したのはいい選択だった。だが、おごりが過ぎたな」「私の何を知った気になっていた。ここからが絶望だ」…そして公式が明かしたところによれば、二人の力は夜の間だけ入れ替わるのだという。第1話で示された「全知の穴」が、どこでどう開くのか。浦原とアスキンが見せてくれた「備えた者が勝つ」という一戦のあとだけに、この情報の重さが際立っていた。




関連作品:














コメント