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殺生石が眠る地下空間で、弐郎と零司の前に立ちはだかったのは「最強の物ノ怪になる男」を名乗る咬牙だった。羅睺を自分のものにすると言い放つ相手に、弐郎が返したのは「俺たちは俺たちだ」という一喝。外では特務一課の久澄と時枝が結界に挑み、司場の仕込んだ保険が明らかになる。そして去り際、咬牙は弐郎の名を聞いて笑った。第5話「Young Gunz」を振り返る。




最強の物ノ怪を名乗る男
「俺の名は咬牙。最強の物ノ怪になる男だ」
殺生石の眠る地下で対峙した相手は、開口一番こう名乗った。「そういや、まだ名乗ってなかったね。俺の名は咬牙。最強の物ノ怪になる男だ」…そして続けて言う。「けど、それにはまだ力が足りねぇ。だから羅睺、お前を俺のものにする」。弐郎の反応が最高だった。「おい、なんか告白されてんぞ、お前」…緊迫した場面のはずが、羅睺の「ああ!?」という返しで一気に力が抜ける。
先に頭を切り替えたのは零司だ。「何か裏があるようにも思えないが…もしかしてこいつ、本物のバカか?」「だったら好都合だ」…そこから情報を引き出しにかかる。「なぜ羅睺が必要なんだ? そこまで羅睺にこだわる理由は何だ?」…咬牙は「本当に人間ってのはバカだな。そんなもん決まってるだろ」と得意げに答え始めるのだが、その様子を見て零司が漏らす。「まさかこいつ、弐郎と同等の知能レベルか」「どういう意味だよ」。
この掴みが実にうまい。強敵として登場した相手を、まず「話が通じないほど賢くない」と規定してしまう。おかげで、この後に語られる物ノ怪の生態という重い設定が、するっと頭に入ってくる。視聴者からも「このアニメを楽しむ視点、間違ってませんよね?」と笑いまじりの声が上がっていたが、そう思わせておいて戦闘が始まると容赦がないのがこの回だった。
半不死という限界と、尽きない妖気
咬牙が明かした理屈は、シリーズの根幹に関わるものだった。「俺らはお前らと違って寿命なんかじゃ死なねぇ。いわゆる半不死ってやつだよ」…ただし万能ではない。「でも全身バラバラにでもされりゃ死ぬし、飯を食わなきゃ妖気も落ちる」。物ノ怪にも燃料が要るのである。
そこで羅睺が特別な理由が出てくる。「でも羅睺はそうじゃねぇ。飲まず食わずでも、ずっと妖気を生み出し続けられる。その力があれば、俺らは完全な不死になれる」「そうなりゃもう怖いもんなんてねぇ。俺が全てのてっぺんだ」…なぜ物ノ怪たちが羅睺を欲しがるのか、その動機がここでようやく具体的な形になった。ネットでも「咬牙のように栄養を取らないといけないものもいれば、羅睺みたいに特に何もせずに生き続けられるものもいるのね」と、この設定に唸る声が並んでいる。
交渉は当然決裂する。「俺のもんになれ、羅睺」「心配すんな、すぐにそいつから解放してやる。その後で俺と一つになれ。そうすりゃ俺たちは無敵になれる。不死身の物ノ怪の王に」…返ってきたのは一蹴だった。「笑わせんな。俺は誰のものにもならねぇよ」「物ノ怪の王? んなもんこれっぽっちも興味ねぇよ。なりたきゃてめぇ一人で勝手にやってろ」。羅睺という存在の芯が、たった三言で伝わってくる。
箱でもカバンでもない
時枝の杭と、司場が仕掛けていた保険
戦闘は一方的だった。咬牙は弐郎を「とりあえずお前はいらねぇよ。死ね」と切り捨て、零司には「お前も邪魔。っつっても一応羅睺の入れ物だしね。箱はそこで黙って寝てる」と言い放つ。零司が放った、かまいたちのような遠当ての一撃も決め手にならない。「まっ二つにするつもりで撃ったんだがな」「あいつ相当強いぞ」…そのうえで零司は腹を括る。「いずれ課長たちが異変に気づくだろうが、今は僕らだけで何とかするしかない」。
一方、外の様子も並行して描かれた。結界を調べた時枝の見立ては「乱雑ですが、なかなか強力な結界ですね。少々時間がかかるかと」…そこへ一華が申し出る。「私にも何かできることはありませんか。二人が危ない目に遭っているかもしれないのに、ただ待っているだけじゃ」。時枝が渡したのは杭だった。指示された場所へ打ち込んでいく彼女の手つきに、待てない性格がよく出ている。
そして、この回いちばんの食えない場面が来る。久澄が司場に詰め寄るのだ。「司場、貴様。私たちを保険にしたな。最初から我々が来ることも織り込み済みで、あえて今日ここに来たんだろう」…司場の返答が振るっている。「大事な部下たちの初任務だからな。万一の事態に備えるのは頂たる者の責務だろ」。窮地の割に余裕だと突かれても、「だな。信頼してるのさ、あいつらと君らをね」…減らず口だと言われて「本心だよ」と返す。この人が味方でよかったと思う一方で、部下も他部署もまとめて盤上に乗せる手つきに、視聴者から「他の課や部下を嵌めるようなやり方は普通に問題しかない」という声が出ていたのも分かる。
「俺たちは俺たちだ、バカヤロー」
咬牙の憎悪は、はっきりした形をしていた。「嫌いなんだよお前ら。ただ数が多いってだけで調子づいて、まるで自分たちがこの世の支配者みてぇなツラしやがって」…そして宣言する。「まずお前。お前はさっさと殺す。そっちのお前は殺さねぇ。手足ぶった切って、羅睺を入れたカバンとして持って帰る」「その前にきっちり刻んでやる。どっちが上でどっちが下か。物ノ怪と人間の」。
倒れた弐郎に、咬牙はさらに追い打ちをかける。「悲しい。俺は悲しいよ羅睺。せっかくのお前の力が、人間なんかに入っちまってるばっかりで。待ってろ、すぐにそいつから引き剥がしてやるからな」…ここで弐郎が爆発した。
「うるせえよ、この情緒不安定野郎が。使うだの使えねえだの、タコだのカバンだの、人のこと物扱いしようって、何様だてめえは。人間? 物ノ怪? 知るかボケ。しょうもねえカテゴリーで勝手にくくんじゃねえよ。俺たちは俺たちだ、バカヤロー。違うか、羅睺」…第3話で羅睺が吐き捨てた「隠密局も物ノ怪どもも大差ねえ。俺らを物だと思ってやがる」への、これが弐郎からの回答である。器だの箱だのカバンだのと呼ばれ続けた二人が、まとめてそのラベルを蹴り飛ばす。羅睺の返しもいい。「ガキが、知ったようなこと抜かしやがって。だがまあ、確かにてめえの言ったことに違いはねえ」…力を貸す理由としては十分だった。咬牙は咬牙で「これだよこれ。こういうのを期待してたんだよ」と嬉しがるのだから、本当に噛み合わない相手である。
「あの男のガキかよ」
名前を聞いた咬牙が笑った理由
決着はつかなかった。増援の気配を察した咬牙が退くのである。「あ、てめえ逃げんのかよ」「逃げるんじゃねえ。帰るんだよ」「同じだろが」…この期に及んで漫才が成立してしまう。そのうえで咬牙は理屈を並べる。「調子乗んな。お前なんぞすぐ殺せんだよ。だけどここで俺がお前を殺したら羅睺が手に入らねえ。それじゃだめだ。だから今は殺さねえ」「次やったら手足と舌と目玉をちぎって持って帰ってやる。羅睺は必ず俺がもらう」。
そして去り際、彼はふと立ち止まって尋ねた。「お前、名前なんつうんだよ」…「なんだよテンポ悪いな」と言いつつ、弐郎は名乗る。「弐郎。我妻弐郎だ。よく覚えとけクソ野郎」。ここで咬牙の様子が変わる。「アズマ? そうか、アズマ…隠密局のアズマか」…そして笑い出し、こう言い残した。「お前、あの男のガキかよ」。
弐郎には何のことか分からない。「親父?」…彼にとっての親父は育ててくれたジジイであり、それが当たり前だった。「今になってなんで」…物ノ怪の側に名を知られている「あの男」とは誰なのか。第4話で示された画面越しの勧誘者といい、敵側は弐郎や羅睺の来歴を、当人たちより詳しく知っているらしい。ここまで賑やかだった回に、最後の最後で冷たい石を落としていく引きだった。
「ど新人二人で撃退したんだぜ」
弐郎の反応は分かりやすい。「なんだか知らねえが上等だ。やってやろうじゃねえか」「やってやるって何を?」「隠密をだよ。ついでにブラックトーチとかいうやつもな」…零司に「今更何言ってるんだ、それも決定事項でしょ」と冷たく返され、「うるせえな、気持ちの問題だよ、気持ちな」。
そこへ司場が言葉を継いだのが、この回の白眉である。「確かに気持ちってのは大事だ。お前らはすでにチームのメンバー同士だ。何かあれば全員で協力して同じ方向に向かなきゃならない。だが、だからといって全員が同じことを思う必要はない。それぞれが考え、それぞれが感じ、それぞれの思いを抱えとけ。それがお前ら一人一人の根になり、力になっていく」…そして締めがこうだ。「ケツは俺が持ってやる。お前らは悩んで迷って前だけ見てろ。それこそがお前らガキの特権なんだからな」。副題の「Young Gunz」が指しているのは、まさにこの三人のことだろう。
上への報告に向かう久澄との別れ際も見どころだった。独断専行の始末はきっちりつけると釘を刺されて、司場は「そりゃもちろん俺への批判や罰則はいくらでも受けるが、あいつらは多少評価してくれてもいいんじゃない?」と食い下がる。「あのレベルの結界を張れる物ノ怪を、ど新人二人で撃退したんだぜ」…返ってきたのは「くだらん結果論だ。評価には値しない」という一刀両断。「相変わらず手厳しいね」と笑う司場の後ろで、部下の手柄だけは通しておこうとする姿勢がはっきり見えた。
芙蓉登場、そして妖術対抗訓練へ
後半は空気ががらりと変わる。「案の定、上からこってりお叱りを受けたわけだが、とりあえず今日は新しく食らった指示をこなそうか」…連れてこられた先で告げられたのは「上から受けた指示は演習。つまり訓練だ」。そこへ助っ人が現れる。「ガン首揃っとるな、ひよっ子ども」…小柄で、口調だけがやたら大きい。
司場の紹介はこうだ。「こいつの名は芙蓉。今ので察しはついたと思うが、物ノ怪だ」「以前、隠密局は物ノ怪の監視と排除を行っていると話したが、友好的な物ノ怪に対しては、こうして協調路線を取っている」…芙蓉本人は「わしは人間に屈服したわけではないからな」と胸を張る。羅睺を見つけるや「お前が噂の羅睺か。ずいぶん愛らしい姿をしとるんじゃな」と煽り、「てめえみてえなチンチクリンに言われたかねえよ」と即座に喧嘩が始まる始末で、零司の「もう何でもいいから早く始めてよ」がもっともである。演じているのは大空直美で、視聴者からも「最初の笑いですぐ分かった」という声が上がっていた。
訓練の中身は妖術対抗だった。「物ノ怪の中には催眠や幻覚などの妖術を操る者がいるんだが、実戦で直面する前に訓練で体感した方がいいだろう」…芙蓉の説明は簡潔きわまりない。「訓練内容は単純だ。とにかく術を破って出てくること」「健闘を祈る」。宇佐美が「よかったんですか、どういうものかちゃんと説明してあげなくて」と気にすると、司場は「なるべく実戦に近い形の方が訓練の効果も高いからな」「まあ、あいつらはあれで結構タフだし、多分大丈夫だよ」と涼しい顔だった。
「Young Gunz」まとめと考察
兄、石化した母、そして見覚えのある化け物
そして幻術の中で、三人はそれぞれ別のものを見せられる。零司の前に現れたのは兄だった。「兄さん…兄さんはもう…」「久しぶりだな零司。少しは強くなったか」「どうしたお前の力は、こんなものか。こんなんじゃ俺は殺せないぞ」…桐原家の跡継ぎである彼に兄がいること、そしてその兄を「殺す」という言葉が出てくること。第4話で丁寧に語られた斬術の家の背景が、一気に不穏な色を帯びた。
一華が見せられたのは、母との日々である。花を活ける手ほどきを受けながら「一華もお父様やお母様と同じ隠密になるの」「だって一華はお父様とお母様の子供だもん」と笑っていた頃。出動要請が来るたびに交わした「心配しなくても大丈夫よ。だって母様は強いから。だからいい子で待っててね」というやりとり。そして「通夜やお葬式のことはよく覚えていない。お母様がいなくなったという事実を理解するのに、ずいぶん時間がかかった」という述懐。走り続けた理由も明かされる。「たくさん走れば、昨日よりも早く走れば、いなくなったお母様に近づけるような気がして」。
ところが、その先に置かれていた事実が重かった。入局が正式に決まった日、迎えの者に連れて行かれたのは隠密局研究施設の地下。そこにあったのは「作り物ではなく、正真正銘本物の奥様」だった。父の伝言はこう告げる。「お前の母は死んだわけではない。おそらく任務中、何らかの術により石化したと思われるが、いまだに術者の物ノ怪は捕捉できていない」「この10年あまり、あらゆる技術を用いて解除も試みたが、成功には至っていない」「規定により隠密ではない者には公開できなかったのだ」「何を思い何を成すかは、お前次第だ」…そして一華の答えが「待っててね。私が必ず元に戻してみせるから」。彼女が隠密であり続ける理由が、ここで完全に言語化された。
対して弐郎の幻術は、まったく毛色が違った。目の前に現れたのは正体不明の化け物である。「ここはあのガキの術中。別の物ノ怪がいるわけねえ」…しかし違和感が残る。「だが、なんだこの妙な感覚は。俺はこいつをどこかで」。視聴者からも「主人公がこの手の類でトラウマじゃないタイプの幻覚なのは珍しい」と指摘されていたとおり、彼だけが過去ではなく見覚えのある何かを見せられている。咬牙の「あの男のガキかよ」と並べて置かれれば、弐郎自身の出自に何か仕込まれていると考えるのが自然だろう。
Aパートは咬牙との殴り合い、Bパートは笑いを挟みつつ三人の内側へ。同じ回とは思えないほど振り幅が大きいのに、「それぞれの思いを抱えとけ」という司場の言葉が真ん中に置かれているおかげで、きれいに一本の線でつながっている。兄を殺すと言う零司、母を取り戻すと誓う一華、そして自分の来歴すら知らない弐郎。抱えているものはばらばらで、それでいい、というのがこの回の結論だった。締めの「ああもう面倒くせえ。どうせ出口もないみてえだし、やるしかねえな。腹くくってやる。行くぜ、羅睺」が、いかにも弐郎らしい。




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