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『ヒロイン?聖女?いいえ、オールワークスメイドです(誇)!』第9話は、中間試験の順位表から始まる。ルシアナが3位に入り、ゲームでヒロインに固定されていた席を埋めてしまう。本来の中ボスが代役のヒロインになり、嫉妬の視線を向ける役は別の令嬢へ移る。一方メロディは学園で仕事が足りず、「世界一素敵なメイド」が何だったのかを見失う。副題どおり、騎士との再会とメイド魂の揺れが同時に来る回だ。




順位表から始まる回、3位という数字が席を決める
第9話は戦いでも事件でもなく、中間試験の結果発表から始まる。学園生活の何気ない一場面に見えて、この回で起きることの全部がここで決まっている。
1位から10位までが並ぶ
「ルシアナ、あなた学年3位ですって」から始まり、ルーナが10位、王太子が1位、アンネマリーが2位と並べられる。ルシアナの返しが「アンネマリー様や王太子殿下にはかないませんわ」だ。
表向きは「必死にガリ勉した甲斐があったというものね」で流れる。だがアンネマリーの内心はまるで違う。「もともと特別優秀でもないただのオタクだし」「ゲームのアンネマリーの成績もこんなに上位ではなかったもの」。そして本音が「あのバカに負けるなんて悔しすぎる」。
第5話で明かされたとおり、ゲームのアンネマリーは「無力なくせに傲慢」な当て馬だった。その位置から2位まで自力で上がってきた人が、1位に届かなかったことを悔しがっている。転生者であることが有利にも不利にも働いていない、という描き方になっている。
ヒロインの席は3位に固定されていた
分析はすぐに始まる。「3位ってことは、学園の代役ヒロインはルシアナちゃんってこと?」「ゲームではヒロインの中間試験の結果は3位に固定されてた」。
そして仕組みの説明が続く。「ヒロイン不在の中、その時々で誰かがヒロインの代役になっていた」「今後はルシアナちゃんを中心にシナリオが進むってこと?」。物語は主役がいなくても止まらず、空いた席を誰かに埋めさせる。順位は成績ではなく配役として読まれている。
本来の中ボスがヒロインの席に座っている
ここで思い出されるのが裏設定だ。「でもルシアナちゃんって、本来最初の中ボス、嫉妬の魔女なのよね」。第5話で語られたとおり、ゲームのルシアナは貧しさと蔑みから魔王に付け込まれ、ヒロインに返り討ちにされて死ぬ役だった。
その人物が、いま3位の席に座っている。しかも直後に視線が向く。「そう、あなたがそんな目を向けるの」。向けられた先が、公爵令嬢オリヴィア・ランクドールだ。
そしてルシアナ自身が、何気なく置いていく一言がある。「だけど私、魔法は使えないのよね」。この回はこの台詞で終盤まで引っ張られる。
誘われなかった側にも、ちゃんとした理由がある
この回のオリヴィアは、一度も意地悪をしない。それでも立場だけが着実に悪くなっていく。
生徒会の席は3位に回ってくる
マクスウェルが生徒会の説明に来て、その場でルシアナを誘う。「もう一つ生徒会役員の席が空いているんだが、よかったら役員にならないかい?」。理由も明かされる。「中間試験の結果は3位だったと聞いたから」。
誘いは押しつけがましくない。「まあ、強制するものでもないから」「残念だけど、無理には誘わないさ」で引く。順位を理由に声がかかり、断ってもとがめられない。ルシアナ側から見れば、ただ良いことが起きただけの場面である。
「私にはお聞きにならないのですね」
同じ場にいたオリヴィアが口を開く。「私にはお聞きにならないのですね」。返るのが「理由はあなたもご存知でしょう」だ。
説明は明快で、しかも公正だ。ランクドール家からはすでに兄が役員になっており、公平性のため同じ家から役員は一人までという規則がある。恨む先がない。オリヴィアの答えも「なるほど」の一言だけである。
誰も悪くない理由で、席は隣の令嬢に回っていく。第4話の舞踏会で注目を奪われ、第8話でその家の使用人たちがルトルバーグ家に冷たくなり、今回は生徒会の席が規則で塞がれている。三回とも、オリヴィア本人は何もしていない。
「代役ヒロインならぬ代役中ボス」
分析はそこまで見ている。「オリヴィア、やっぱりルシアナちゃんを敵視しているわよね」から始まり、ゲームでの配置が並べられる。本来のオリヴィアの順位は2位で、ヒロインを褒める王太子に腹を立てる側だった。そして当時のアンネマリーは、責める側に立つ当て馬だった。
ところが今のオリヴィアには、その雰囲気がない。「今の彼女は」「彼女にそんな雰囲気はない」と確かめたうえで出るのが、「まさかあなたが、代役ヒロインならぬ代役中ボスなの」である。
この回で、誰ひとり本来の役をやっていない。ヒロインは聖女の力をメイド業に注いで学園にいない。中ボスだった令嬢がその席を埋め、当て馬だった令嬢が味方の位置に立ち、2位だったはずの令嬢が中ボスの側へ押し出されている。物語は空いた席を必ず誰かに埋めさせる、という仕組みが、四人ぶんまとめて見える。
順調なお嬢様と、暇になってしまったメイド
場面がメロディ側に移ると、対比がはっきりする。この作品でいちばん忙しいはずの人が、手持ち無沙汰になる。
報告は全部、良い知らせだ
「学園生活5日目。お嬢様はとても順調そうです」と始まり、仮受講の中身が並ぶ。応用魔法学、薬学、騎士道、礼儀作法。友人ごとに科目を分け、入学前からの友人を通して他のクラスとも交流が生まれている。
そして落差が来る。「それに比べて私は」「お仕事終わっちゃった」「メロディは暇だった」。第8話では食堂で相席を全部断られ、洗濯場も無人だった。あの疎外が、この回では仕事量そのものの不足に変わっている。
送り出した側に残るもの
臨時の助手募集を勧めるのはルシアナのほうだ。「本当に暇なら面接受けてみたら」。送り出すときも快い。「いいわよ」「メロディ、暇してるんじゃないかなって、ちょっと思ってたし」。
ところが独白が続く。「でも、なんでモヤモヤするんだろう」。第4話で「私のメロディに手を出すな」と牽制した人物であり、この回の昼食では「うちのメロディに色目を使う男がいたら、相手が騎士だろうとなんだろうと八つ裂きにするって決めてるの」とまで言っている。
面白いのは、その直後に「一体どこの騎士様が好きなの?」と混ぜ返されて話が流れることだ。本人はまだ独占欲の正体を言葉にできていない。そして、よりによってその「騎士」が助手先で待っている。
再会の騎士、そして「旦那様」で持たなくなる
副題の前半がここで回収される。ただし、再会が起きた理由のほうがこの回では重い。
襲撃事件が、授業の枠を変えていた
「メロディ、まさか君が来るとは」「私としては、レクトさんがここにいることが予想外ですが」と互いに驚く。理由を尋ねると答えが返る。舞踏会での襲撃事件を受けて危機感を募らせた者たちにより、騎士道の授業枠が拡張された。正式な講師が見つかるまでの臨時講師が、レクトである。
第4話から第5話にかけて起きた襲撃は、まだ犯人が捕まっていない。第8話ではレギンバース伯爵が「衛兵は全員眠っていた」と困惑していた。解決していない事件が、時間割という形で学園に残っている。日常回の中に、片づいていないものが制度として置かれている。
呼び方ひとつで崩れる
採用が決まった直後、メロディが確認する。「助手をしている間は旦那様ですね」。返ってくるのが「そ、そんなにうちの助手をするのが楽しみなのか」で、初日にはこうなる。「メロディ、すまないが、いつも通りで頼む」「とても持たない」。
笑える場面だが、事情を知っていると笑いにくい。レクトは第4話の時点で、メロディが失踪した令嬢セレスティだと確信している。伯爵に伝えるべきか決めかねたまま黙っている相手から、雇い主として呼ばれることになった。持たないのは照れだけではない。
仕事の中身も具体的だ。授業の準備と補助、そして図書館からの資料集め。この世界の書物は高価で、平民が滅多に読めるものではなく、ルトルバーグ家にも蔵書は多くなかったという説明が添えられる。伯爵家でも本は贅沢品だという一行が、第8話の学生寮の話と地続きになっている。
「世界一素敵なメイド」が、何だったのか分からなくなる
副題の後半、揺れるメイド魂はここから始まる。きっかけは、悪意のまったくない一言だった。
好意的な感想が、いちばん深く刺さる
レクトが漏らすのはただの感想だ。「メロディは以前、世界一素敵なメイドになると意気込んでいたから、それに夢中で暇なんて感じたりしないのかと思っていたんだ」。続けて「だが時間が空けば暇に感じて当然か」と自分で引き取ってもいる。
それでも残る。独白が「世界一素敵なメイド」「少なくとも、仕事が早く終わって暇を感じているメイドのことではないと思う」「私が目指している世界一素敵なメイドって、なんだっけ」だ。
第8話でレギンバース伯爵に王城の侍女を勧められたとき、彼女は「亡くなった母に誓ったんです。世界で一番素敵なメイドになるって」と言い切って断っている。実の父の申し出を退けた根拠が、一話またいで足元から崩れている。
掃除のしすぎで見抜かれる
週末の帰省で、メロディは魔法まで使って屋敷中を磨き上げる。そして家族に注意される。「まさか掃除のしすぎで怒られるだなんて」。
気づいていたのがセレーナだ。「普段のお姉さまなら、掃除も最適な仕上がりなはずですもの」「それに帰ってきた時の表情が少し」。第8話で作られたばかりの人形のメイドが、仕上がりの過剰さから内心を読んでいる。
相談への答えも迷いがない。「世界一素敵なメイドってなんだと思う」「世界一素敵ですか」「私はお姉さまのことだと思います」。だが本人は受け取れない。「でも私なんて、まだまだだよ」。
頼んでいない言葉が、先に出てくる
そこでメロディが持ち出すのが、母の最後の手紙だ。「お母さんの最後の手紙の言葉、そっくりのセレーナから言われれば、勇気をもらえるかもしれない」。頼み方も具体的で、「世界一素敵なメイドになってちょうだい、メロディ」と言ってほしいと伝えている。
ところがセレーナの口から出たのは別の文だった。「頑張ってね、メロディ」「ずっと応援してるわ」。直後に「すみません、間違えました」と言い直し、今度は頼まれたとおりの文を読み上げる。
メロディの反応が短い。「どうして違う言葉を」「そうじゃない、そうじゃなくて」「さっきのセレーナはまるで」。言いかけて自分で止め、「きっと気のせいだわ」で片づける。
第8話でセレーナに人格を与えたのはメロディ自身で、しかも「どうしてセレーナはお母さんそっくりになっちゃったのかな」と本人にも分かっていない。作った人形が、指定されていない励ましを先に出してくる。気のせいで片づけたぶんだけ、そこに何かがあることがはっきりする場面になっている。
締めは前を向いている。「ありがとう、セレーナ」「おかげでちょっと頑張れそうな気がする」。答えは出ていないのに、背中は押されている。
メイドではない仕事に全力を出し、ナレーションに迷走と言われる
助手業務が始まると、答えを探している人がいちばんまずい方向へ全力で走り出す。
仕事の中身は、確かにメイドではない
レクトの説明はこうだ。「生徒たちの様子をよく見てやってほしい」「必要な人間に水分を取らせたり、タオルを渡したり、怪我人がいたら応急手当を頼みたい」。そして「メイドの君ならそういった気配りは得意だろ」。
本人も気づいてはいる。「それはメイドというよりマネージャーでは」。ところが結論が逆に振れる。「わかりました。レモンのハチミツ漬けを作ってきますね」。
言い訳の理屈も用意されている。「メイドじゃない。けど、奉仕の心あふれる素敵なお仕事」「これもまた世界一素敵なメイドになるステップに」。そこへナレーションが割って入る。「前向きなのはいいが、おそらく迷走である」。
語り手が、はっきり迷走だと言う
この作品のナレーションは、第6話でも「人はこれを自問自答と言います」と突っ込みを入れていた。今回は突っ込みではなく診断だ。前向きさと正しさが別物であることを、本人の代わりに言葉にしている。
続く提案が振り切っている。「ところで私、三つ編みでセーラー服にした方がいいでしょうか」「メガネもいりますか」。返しは「何を言っているのかよくわからないが、必要ないと思うぞ」だった。前世の記憶にある部活のマネージャー像を、そのまま持ち込もうとしている。
生徒側の感想も同じところに落ちる。「これ、メイドというよりマネージャーよね」。やっていることは有能で、喜ばれてもいて、それでも目標からは遠ざかっている。この回の面白さと苦さが、いちばん濃く出ているのがここだ。
まとめ、魔法の稽古が届いてはいけないところまで届く
終盤は、冒頭で置かれた「私、魔法は使えないのよね」の回収に充てられる。日常回のまま終わると思っていると、最後の数分で温度が変わる。
受講できない科目という、ささやかな心残り
ルシアナが漏らす悩みは小さい。「興味のある選択科目が受講不可で残念だなって」「応用魔法学よ」「あの授業は魔法を使える人しか参加できないの」。仮受講期間の今は見学できるが、それだけだ。「うちの家系って、魔法の才能があんまりないのよね」。
メロディの返しが効く。「私も最近まで魔法を使えなくて」。第5話で示された設定どおり、聖女は入学時点では魔法を使えないが魔力は強大だった。本人にとっては励ましのつもりの経験談が、この世界でいちばん危険な前例になっている。
測定の手順は、ちゃんと理屈が通っている
稽古の段取りは丁寧だ。倒れてもいいようにベッドの上で行い、カーテンをきっちり閉める。理由が「私の経験に基づく予防策です」で、初めて明かりの魔法を使ったときの話が続きかける。第5話で街ごと眠らせてしまった人の言うことなので、この用心には重みがある。
測定の方法も説明される。「お嬢様の体内に私の微弱な魔力を注ぎ込み、それに反発するお嬢様の魔力を検知しました」。結果は「確かに少ないですが、お嬢様の魔力を確認しました」「技術さえ習得できれば、簡単なことならできると思います」。
次の段階が自覚だ。「魔法を使うにはご自身の魔力を把握する必要があります」。ところがルシアナは、検査中の反発をまったく感じ取れていなかった。「え? 何もなかったわよ」。
少しずつ増やした先で、別の場所に届く
ここからが怖い。流す魔力を段階的に増やしていくのだが、反応がない。独白が「想定よりかなり流してるんだけど」「お嬢様は思った以上に魔力に鈍感みたい」「これ以上は私も集中しないと」と進む。加減している側が、加減の枠を自分で外していく。
そして場面の外から声が差し込む。「銀の魔力」「聖女の力」「銀の聖女を魔王は許さない」。第5話で聖女の残滓に一撃を受けて撤退した側が、稽古の余波を感じ取っている。ずっと魔力を完全に抑え込んで隠し通してきた人が、教える側に回った瞬間に位置を漏らしている。
ルシアナの側の体験も、ただの失敗ではない。「私って本当に、魔法の才能がないのね」と落ち込んだ後で、「なぜか優しい気持ちになる不思議な光の花」「でも、こんな光を私はどこかで」と続く。第4話の襲撃で意識を失っていたはずの本人が、覚えていないものを思い出しかけている。
断ったはずの指輪が、変わっている
就寝前、アクセサリーを外すところで手が止まる。「メロディにもらった指輪」「こんなの、ついてたっけ?」。第7話で贈られ、第8話で首から下げて持ち歩くことにした、あの指輪だ。
思い出したいのは第8話のやりとりである。メロディが守りの魔法を付けようと申し出たのに対し、ルシアナは「いいえ、やめておくわ」「学園での人間関係の構築も勉強の一つだもの」と断っていた。断ったはずの品が、本人の知らないうちに変わっている。
締めは軽い。「翌日もう一度試すと、ルシアナは簡単に自身の魔力に気づくことができた」。あれだけ通じなかったものが一晩で通るという結果だけが置かれ、理由は説明されない。
第9話は、事件らしい事件が一つも起きない回だった。それでいて、配役が総入れ替えになり、主人公が目標を見失い、隠し通してきた力の在処が漏れ、断ったはずの守りが勝手に働いている。順位表と昼食と掃除と稽古しか映っていないのに、動いていないものが一つもない。日常回の顔をした、いちばん危ない回だったと思う。
なお各話スタッフを見ると、この回の絵コンテは総監督の石平信司で、演出は高山秀樹。第1話から第9話まで、絵コンテは総監督か監督のどちらかしか担当していない(石平信司が1・3・5・6・7・9、監督の村川直哉が2・4・8)。脚本は根元歳三で、シリーズ構成が自分で書く回にあたる。エンドカードは梅渡飛鳥が担当した。

























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