この記事の作品:
『コードギアス 奪還のロゼ』第8話の副題は「銀兎 -Ginto-」。この回のクリストフは、超常の力に超常の力で対抗しない。観察と推論だけでギアスの仕様を割り出し、既製品の機械で無効化してみせる。さらにアーノルドはアッシュの暗示を解き、サクヤは自分の口からロゼという嘘を降ろす。三つとも解除の場面なのに、解けた先にあるのは自由ではない。忘れていた弟の死と、返しようのない負い目だけが戻ってくる。




ギアスは破られたのではなく、仕様書に落とされた
第8話でクリストフ・シザーマンがやってみせるのは、超常の力に超常の力で対抗することではない。観察と推論だけでギアスの仕様を割り出し、既製品の機械で無効化するという、まったく地味な手続きである。捕らえたロゼを前にして、彼はまず自分の見立てを読み上げる。相手の秘密を暴くのではなく、自分の推理が合っているかを本人に確認させる形になっているところが不気味だ。
四つの材料が、一つの結論になる
組み立てはこうだ。まず過去の資料から、ギアスには様々な能力があると押さえる。次に「お前さんの能力は他人に命じて意のままに操るというもの」と当たりをつける。そこから「人に命令を伝えようとすれば、視覚または聴覚情報を使わざるを得ぬ」という一般論を挟む。最後に、ギアスを解除された者の証言として「命じる時はボイスチェンジャーを通さず、女の声に戻していた」という事実を置く。
四つ並べれば結論は自動的に出る。「そのことから、一度でも機械を通せば無効化されることが推測できる」。ここには魔術も超能力もない。目撃証言と論理だけで、王の力の使用条件が特定されてしまう。しかも本人はそれを誇らない。ボイスチェンジャーの類は「すでに実用例もある技術だ。自慢にもならん」と切り捨てる。
対策が魔法ではなく設備であること
導き出された対策も、装備の仕様として説明される。防音と防弾を施したコックピットにカメラとマイクを積み、会話には不自由しないようにする。声も視線も、必ず一度機械を通ってから相手へ届く。ギアス対策の装備一式を含めて「お前さんのために用意した」と言い、続けて「まったく金のかかる女だよ」と付け加える。ここでロゼの正体が女であることが、経費の話のついでに確定してしまうのがきつい。
力を使うたびに、正体のほうが漏れていた
この回で残酷なのは、ロゼの正体を割ったのがギアスの使用そのものだという点だ。命じる瞬間だけボイスチェンジャーを切っていたということは、力を使うたびに素の声を外へ出していたことになる。弟のふりを支えていたのは機械であり、その機械を最も外していたのが、いちばん隠さなければならない場面だった。
第7話の付けが、そのまま回ってきている
第7話の終わりで、不用意に街中でギアスを使っただろう、おかげで色々なことが明らかになった、と告げられて拘束されたのがロゼだった。第8話はその続きにあたる。あのとき指摘されたのは使った場所の不用意さだったが、今回明らかになるのは使い方そのものに穴があったということだ。場所を選んでいても、いずれ同じところへたどり着いていた。
ロゼが思わず聞き返すのが「ギアスを解除した?」の一言である。かけた側が、解除されうることも、解除された人物がいることも知らないまま使い続けていた。隠すための道具が、使えば使うほど手の内を渡していたわけで、この回のギアスは万能の力というより、記録の残る道具として扱われている。
使っても使わなくても、人が死ぬ道具になる
公式サイトのあらすじは、この場面を「ロゼの目の前でイレヴンに非情な尋問を執り行う」と書いている。実際に行われるのは尋問というより実演で、ロゼには見せるだけでなく、手を下す側に回るよう命じられる。
実験室で突きつけられる二択
そいつらにギアスをかけてみろ、さあやれ、と迫られたロゼは動けない。言われた通りにかければ、この者たちは殺される。それが分かっているから断る。ところが拒否したところで話は終わらない。返ってくるのは「実験がお気に召さなかったかな。では仕方がない」であり、続く提案が「やはり次はお嬢ちゃんのお気に入りの人間でも連れてくるか?」である。
使えば目の前の人間が死に、使わなければ知っている人間が連れてこられる。ギアスという力が、ここでは相手を操るための力ではなく、持っている本人に人質を作らせるための装置として働いている。私のせいでこの人たちを、という言葉が漏れるが、彼女に選べる正解は最初から用意されていない。
欲しいのは力ではなく、製法である
目的も隠さない。ロゼを調べ尽くし、自分の手でギアスを生み出す。それが自分のプロジェクトだと言い切る。手順は、実験体にギアスをかけて体に起きる変化を観察し、そのうえで「0.1ミリ単位でスライスして」全身を調べ尽くす、というものだ。奪うのでも真似るのでもなく、量産できるところまで持っていこうとしている。
第1話から続いてきたギアスの扱いが、ここで完全に変質する。王の力でも呪いでもなく、開発対象になった。研究者としての一面も持つ、と公式サイトのキャラクター紹介に書かれているとおりの動きだが、その一面が主役の秘密と正面から噛み合ったのがこの回である。
物に頼るなと言われた男が、自分を物にした
もう一人の因縁が戻ってくる。アーノルド・レンクは、第2話のアバシリでアッシュに敗れた相手で、第7話の回想では戦場で武勲を上げるのはこの私だと名乗っていた人物である。ナナシの傭兵どもを殺すために戻ってまいりました、と現れた彼は、同席していた者に本当にアーノルドなのかと驚かれるほど姿が変わっている。
敗北から戻ってくる形が、あまりに歪んでいる
アッシュと向き合った彼が口にするのが「やっとお前を殺せるんだな。嬉しい、嬉しいぞ私」であり、続けて理屈を語る。「お前は物に頼るなと言った。だから頼るのではなく、私そのものが道具になったんだよ」。助言を守るために、守る主体のほうをやめている。公式サイトのキャラクター紹介も、アバシリでの戦いの後にアッシュを倒すためクリストフの改造を受けて復活し、ギアスの力を無効にするギアスキャンセラーを持つ、と明記している。
第7話で描かれたリューネベルク家の教育は、使えない奴は必要ない、辛いと感じるなら自らの心を殺せ、というものだった。アッシュはその教育に耐えて生き延びた側だが、アーノルドは同じ価値観の別解として、体のほうを差し出している。同じ家の理屈から、心を殺した子供と、体を捨てた騎士が出てきたことになる。
解除されて戻ってきたのは、自由ではなかった
アーノルドはアッシュに、貴様にかかったギアスを解除してやる、と宣言する。そのとおりに解除は起こる。ところが解けた直後にアッシュから出てくるのは、なんでニコルのことを今まで忘れていたんだ、という声である。ギアスが解けて戻ってきたのは自由ではなく、忘れさせられていた弟の死だった。
追い打ちもある。ギアスが溶けてすっきりしただろう、と言われ、あの娘は弟のふりをして騙していた、本物の弟の死に様も知らないままだったのだ、と突きつけられる。かけられたままなら散々使い倒された末に捨てられていた、そうなる前に真実が知れてよかったではないか、とまで言われて、アッシュは黙れとしか返せない。解除は救済の形をとりながら、実際には最も痛い記憶を返してきただけだった。
戦場のほうは、誰も守り切れていない
同時進行でレジスタンスの拠点が落とされる。捕らえた団員から場所が割れ、キャサリンら部隊が襲撃をかける、というのが公式サイトのあらすじどおりの流れだ。命じる側は殲滅してこいと言い、受ける側はちょうどストレス発散したかった、と応じる。片方にとっては作戦で、もう片方にとっては娯楽である。
一騎打ちは、勝敗ではなく満足で終わる
七煌星団のエースであるハルカが白のクイーンに挑む場面は、最初から噛み合わない。速さでは負けていないと踏み込んでも、もう終わりなのかな、と受け流される。強い人が好きだと公式サイトに紹介されているとおり、キャサリンは相手の強さを測ることに関心があり、勝つことにはあまり関心がない。
だから撤退の理由も戦況ではない。なんだかしらけちゃった、十分楽しめたし、という言い方で戦場を離れていく。倒し切られなかったのは勝ったからではなく、飽きられたからである。第5話でナラ・ヴォーンの部隊が統率で押してきたのとは対照的に、この襲撃は最後まで個人の気分で回っている。
エースが戦線を離脱した理由が、偽物だった
その最中に一通の通信が届く。ナナシの傭兵の弟がシザーマン卿に捕らえられ、監禁場所は彼の研究施設である、という内容で、しかも七煌星団だけに送られている。罠かもしれない、という判断はきちんと出る。それでもアポロは戦線を離脱する。同じころ、ギアスという力を疎ましく思う者の独白が短く挟まるが、誰の声かは示されない。
結果として、若い者に向かってこの場から逃げなさいと告げる声が上がり、直後に北狼軍と東の暁旅団の信号が途絶えたと報告が入る。助けに行った弟は最初から存在せず、その間に本物の仲間が消えていく。しかも囮に使われたのは、アッシュがギアスによって信じ込まされていた弟という設定そのものである。
嘘を解いたのは、暴かれた側ではなく本人だった
締めはサクヤの謝罪である。ギアスの力を使ってあなたを騙し、弟のふりをして利用し続けてきました。あなたが抱えていたニコルさんへの思いも知らずに。申し訳ありませんでした。ここまでは謝罪だが、続きが謝罪ではなくなる。
差し出しているのは命で、決めているのは順番
これ以上ロゼで居続けることはいたしません、と役割を降りると宣言したうえで、ノーランドからサクラを奪還した後なら好きにしてくれて構わない、その腰にある銃で撃ってもらっても構わない、と続ける。そして最後に、サクラを助けるまで力を貸してもらえないでしょうか、と頼む。命は無条件で差し出しているのに、使う順番だけは自分で決めている。
この形は第7話で見たものと同じである。牢の中の皇重護は、約束を破ったことがないと言ったな、ならその約束を果たしてくれ、と持ち出し、さらに、ならば君に預けよう、この命、と自分の命のほうを渡してアッシュを動かした。父も娘も、自分の命を担保にしてこの男に頼みごとをしている。相手が断れない頼み方を知っているという一点で、二人はよく似ている。
第8話だけ、副題の英語が訳されていない
最後に副題の話をしておきたい。公式サイトが並べる第1話からの副題は、雪解がMelting Snow、氷壁がIce Wall、紅霞がRaspberry、蛍火がAlliance、光芒がDamocles、薫衣がLavender、朧月がHazy Moonである。意味を訳すか、その回の鍵になる固有名詞を置くかのどちらかだった。ところが第8話は「銀兎 -Ginto-」で、英語側が日本語の読みをそのままローマ字にしただけになっている。ここまでで訳されていない副題はこの回だけだ。
まとめると、第8話は解除の回である。ギアスは仕組みごと解かれ、アッシュにかかった暗示も解かれ、ロゼという嘘は本人の口から解かれた。ところが解けた先に出てきたのは自由ではなく、忘れていた死と、返しようのない負い目と、それでも先に片づけなければならない救出だった。この作品で何かが解けるとき、必ず抱え直すものが増える。




関連作品:


























コメント