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ジェフリーに頼まれ、ビクトリアは王家主催の夜会で虫除け役のパートナーを務めることになる。着飾った彼女にノンナは目を輝かせ、ジェフリーも思わず息を呑む。だが華やかな夜会で、ビクトリアは毒を塗ったナイフで貴族を狙う暗殺者を、一発で制圧してのける。その手応えに、彼女は「あの仕事が好きだったのだ」と自らの過去を見つめ直す。一方で、「頼られる存在になれなかった」ジェフリーの傷と、闇に消えた背中を見逃さなかった者たちの影が、静かに動き始めるのだった。




王家の夜会と、虫除け役の依頼
「頼られる存在になれなかった」男の誘い
第3話でビクトリアが受けたのは、第二騎士団長ジェフリーからの意外な頼みごとだった。王家主催の夜会で、しつこく縁談を迫る上司をかわすための虫除け役を務めてほしい、という。
正面から誘えばいいのに、と周囲があきれるほど不器用なジェフリー。遠征に発つ前、その顔を見ておきたくて立ち寄る彼の姿には、サブタイトルにもなった「頼られる存在になれなかった」という、この回の核心が静かに影を落としていた。
女性を伴っての参加は十年ぶりだという設定が、彼の抱える過去の重さをそっと予感させる。軽い頼みごとの形をとりながら、二人の距離が動き出す起点として丁寧に置かれていた。
ドレスに息を呑む、ノンナとジェフリー
夜会の支度を整えたビクトリアの姿は、いつもとまるで違っていた。ドレス姿の彼女に、ノンナは目を輝かせ、ジェフリーもまたその美しさに思わず息を呑む。
元工作員として表舞台とは無縁に生きてきた彼女にとって、着飾ることには戸惑いもあった。それでもノンナの「綺麗だね」の一言と、ヨラナに送り出される温かさが、彼女の背中を押していく。
変装や潜入とは違う、素のビクトリアを飾る華やぎ。傷を抱えた三人が、この夜会を通じて少しずつ近づいていく予感が、支度の場面からもう漂っていた。
夜会に潜む、毒の影
縁談を迫る上司と、優雅なパートナー
会場でも、騎士団長ジェフリーは注目の的だった。縁談を迫ってくる上司のコンラット殿下をいなしながら、ビクトリアは虫除け役に徹していく。
ダンスも危なげなくこなし、貴族たちを感嘆させるビクトリア。以前にも虫除け役を引き受けたことがある、としれっと語る彼女の場慣れぶりが頼もしい。
華やかな社交界すら、彼女にとっては数ある舞台のひとつにすぎない。優雅に振る舞いながら周囲を観察する目が、この後の急展開への伏線になっていた。
一発で制圧した、元工作員の腕
その観察眼が、異変を捉える。ビクトリアは、仕事をしていない不審な男が、毒を塗ったナイフで貴族の命を狙っているのを見抜いたのだ。
ジェフリーに危険を告げると、彼女は自ら動く。そして庭に降りたわずか数秒のあいだに、その男を一発で制圧してのけた。駆けつけた警備兵が見たのは、闇へ消えていく一人の女性の後ろ姿だけだった。
兵士でも難しいという早業を、ドレス姿のまま涼しい顔でやってのける。やっぱりビクトリアは強い、とネットが沸いたのも当然の、鮮やかな手際だった。
「あの仕事が、好きだった」という自覚
先回りの快感と、自己保身の理由
男を仕留めたのは、正義感からだけではなかった。もしあのまま逃げられていれば夜会の参加者全員が調査され、他国から来たビクトリアが真っ先に疑われる——それを避けるための、冷徹な計算でもあった。
だが制圧の瞬間、彼女は思いがけない感覚に包まれる。先回りして相手を抑え込んだときの達成感、周りがゆっくり見えるような緊張と興奮。「私、あの仕事が好きだったのね」——久しく忘れていた実感が、静かに蘇ってきたのだ。
家族と組織のために働いていたつもりが、じつは工作員という仕事そのものを愛していた。その自覚を、勝ち誇るでもなく淡々と噛みしめる横顔に、彼女の来歴の深さがにじんでいた。
それでも工作員には戻らない、守りたい幸せ
もっとも、その自覚は過去への回帰にはつながらない。もう工作員に戻るつもりはない、とビクトリアははっきり心に線を引く。
帰りを待つ可愛い子がいる。その幸せを守るためなら、手札を惜しむつもりはない——。かつての生き方を認めたうえで、それでもノンナとの穏やかな日々を選び取る姿が、彼女の芯の強さを物語る。
好きだった仕事と、守りたい今。その二つを天秤にかけず、両方を抱えたまま前を向く。危うい過去を持つ人間の再出発として、地に足のついた説得力があった。
ジェフリーの過去と、揺れる想い
支えになれなかった、婚約者の記憶
この回では、ジェフリーが恋を遠ざけてきた理由も明かされる。かつて婚約を誓った女性がいたが、その大切な双子の兄を戦で失った彼女の苦しみに、ジェフリーは寄り添えなかったのだ。
勝利を焦った上司の無謀な夜襲で、その兄は主を守って戦死したという。彼女に頼られる存在になれなかった——それが、彼が十年も足踏みを続けてきた古傷だった。縁談を迫るあの上司との因縁までもが、静かに重なってくる。
サブタイトルがそのまま彼の心の傷を指しているのだと分かると、胸が締めつけられる。強く誠実な騎士団長の、誰にも言えない弱さが丁寧に掘り下げられていた。
独白ににじむ、凍りついた心
夜会の片隅、一人たたずむジェフリーがふとこぼす独白。「頼られる存在になれなかった」という呟きには、深い後悔と孤独がにじんでいた。
華やかな場所に身を置きながら、彼の心はどこか凍りついたままだ。その微妙な心情の揺れを、声の芝居が繊細にすくい上げていたと評判になっている。
そんな彼が、人に頼らず生き、他国の子を引き取って育てようとするビクトリアの気概に惹かれていく。凍った心が少しずつほどけていく気配に、この二人の行く末を見守りたくなった。
まとめ——見られていた背中と、迫る影
エドワードの目と、つけられた監視
闇に消えたビクトリアの背中は、しかし完全には隠しきれていなかった。兄のエドワードは、薄紫のドレスという手がかりから、男を制圧したのがジェフリーの連れた令嬢ビクトリアだと見抜く。
その腕前に感心しつつも、エドワードは弟のために彼女へ監視をつけることを決める。おそらくシロだが念のため、という判断が、穏やかな日常のすぐ隣に緊張を忍ばせた。
見事な暗躍のはずが、しっかり誰かに見られていた——その綻びが今後の火種になりそうだ。有能な貴族たちが揃っていることで、物語に程よい緊張が保たれているのも心地よい。
組織の影と、三人の距離
完全な暗躍にはならなかったことで、事態は思わぬ方向へ広がっていく。調査の手が伸び、かつての組織——ランコムのもとから、人が送られてくる流れが匂わされるのだ。
好きだった仕事を自覚したビクトリア、傷を抱えたジェフリー、二人を見守るノンナ。それぞれの過去を抱えた三人の距離が縮まっていく一方で、迫る影も濃くなっていく。穏やかさと不穏さを同居させたまま、物語は次の局面へ。次回以降の展開に期待したい。




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