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メロディが屋敷で留守番をするその頃、春の大舞踏会は一変していた。魔王に心を奪われた少年ビュークが乱入し、クリストファーを庇ったルシアナが斬られる。ゲーム「銀の聖女と五つの誓い」で最初に起こるビッグイベント=舞踏会襲撃事件だ。だが、備えてきたアンネマリーの治療魔法が暴いたのは、背中に傷ひとつないという謎。そして魔王の前に現れる、白銀の剣を提げたちいさなメイド。第5話「シリアスは突然に」を振り返る。




ゲーム最初のビッグイベント、襲撃の夜
第四の攻略対象ビューク・キッシェル、その哀しい過去
幕開けと同時に、前話の続きが牙をむく。斬られて倒れたルシアナに「しっかりしろ」と声が飛ぶ中、物語はこの世界の下敷きである乙女ゲーム「銀の聖女と五つの誓い」のおさらいへ。筆頭攻略対象は王太子クリストファー・フォン・テオラス、第三はヒロインの護衛騎士レクティアス・フロード。そして第四の攻略対象こそ、今回の乱入者、魔王に心を奪われた少年ビューク・キッシェルだった。
ビュークの生い立ちが重い。魔法使いたちの隠れ里に生まれ、10歳で隣国の兵に両親を殺され、奴隷として傭兵たちに売り飛ばされた。戦場に立たされ、時に主人の憂さ晴らしに殴られる日々。転機は18歳、主人たちをバナルガンド大森林の魔物討伐に誘い込んだ遠征だ。奴隷は服従魔法で自ら主を攻撃できない。だから魔物に始末させる、それが彼の復讐だった。そして森でビュークは、魔王に体を受け渡した。狙いは、魔王の封印を解く鍵となるテオラス王国王家。攻略対象の一人にこの背景を置いてくるあたり、ゲームの業の深さを感じる。
王太子の銀のアルケミーと、当て馬にならないアンネマリー
会場では、クリストファーとアンネマリーが応戦に出る。魔王の余裕の根拠は「魔王を倒せるのは聖女だけ」。だが二人はゲーム知識で弱点=銀の武器を知っていた。丸腰のマクスウェルを後方支援に回し、クリストファーは「王太子をなめるな。私が身につけている銀の装飾はただの飾りではない。万物よ、我に従え…アルケミー」と、銀の装飾を武器へ作り替えてみせる。
一方のアンネマリーは、ルシアナの治療へ。ゲームの彼女は「無力なくせに傲慢」な当て馬キャラで、襲撃事件でもただ泣いて怯えるだけだった。「でも私は違う。魔王に抗うため努力してきた」。アルケミーもドローイングも、前世の現代医学を再現する治療魔法も、この日のための備えだ。無菌空間「クリーンルーム」を展開し、背中の傷口を確かめて絶句する。斬られ、吹き飛ばされたはずの背中に、傷がひとつもない。「ルシアナ嬢は無事です。命に別状はありません」…努力の人が積み上げた対策の先で、それを上回る何かが先回りしていた。
聖女の残滓と、ちいさなメイドの白銀の剣
シューティングスターと、魔王の遠い記憶
「どうせ全員殺すのだからまた斬ればいい」。人の命を軽んじる魔王に、アンネマリーの怒りが弾ける。「魔力よ、星をかたどれ。流星よ、我が敵を打ち砕け…シューティングスター」。銀の気配を帯びた魔弾は、彼女の出せる最大魔法だ。魔王は「銀の武器を持っていたことも上々だ。人間たちはとっくに忘れたと思っていたが」と感心するが、返答は「いいえ、とっくに忘れられていました」。伝承ではなくゲーム知識だという、本人にしか分からない皮肉が効いている。
それでも魔王は落ちない。だが反撃の最中、異変に気づく。覚醒した聖女の大いなる銀の魔力が、いつの間にかまとわりついている。ただし聖女の気配はこの付近にない。つまりこれは「聖女の力の残滓」…ご主人様を守りたいという、大いなる思いが込められた力。遠い昔、当時の聖女に敗れた記憶までがよみがえる。ルシアナの無傷の正体は、メロディが掛けていた守りの魔法だったわけだ。
「隙だらけだったから」…ちっこいメロディ見参
そして今回いちばんの衝撃がここに来る。守りの魔法から現れた、白銀の剣を提げたちいさなメロディが、動揺する魔王へあっさり一撃を叩き込んだのだ。悪びれもせず「だって、隙だらけだったから」。封印を解ききっていない魔王は「このままでは我の存在が霧散してしまう」と、ビュークの体を捨てて撤退するしかなかった。
ゲームならヒロインが不思議な力に目覚めて締めくくられるはずの襲撃イベントが、まさかの「留守番メイドの残り香」で決着。シリアス一辺倒だった空気が、この一瞬で本作らしいコメディに引き戻される。この緩急こそ、サブタイトルの真骨頂だろう。
子犬の魔王、メイドに敗れる
新たな宿主で屋敷へ…部屋を荒らした代償
宿主を失った魔王が選んだ新しい体は、なんと子犬。「思った以上に相性が良かった。犬の感覚のおかげ、匂いで気配をたどれるとは」とご満悦で、ルシアナの匂いを頼りにルトルバーグ邸へ潜り込む。屋敷の中に感じる魔力はゼロが一人だけ。ルシアナの部屋を引っかき回し、「洗脳して情報を吐かせて…」と目論んだところへ、その「魔力を持たない人間」が現れた。
「あなたが部屋をめちゃくちゃにしたんですか」。お嬢様の帰宅時間を控えたメロディの静かな怒りに、魔王はなすすべなく逃走。魔王は知らなかったのだ。メロディの魔力制御は完璧で、必要な時以外は全ての魔力を抑え込めることを。聖女を探しに来て、聖女に叱られて帰る。この構図に気づけないまま尻尾を巻く姿は、もはや哀れですらある。
無傷の謎と、「悲劇の少女」ルシアナの裏設定
夜、アンネマリーは隠し通路からクリストファーの自室へ。「いかがわしい本とか隠さないといけないものね」「ねえし!あるわけねえし!」と、人前とは別人の素の応酬が飛び交う。二人とも前世の記憶を持つ間柄で、「他人にバレたら婚約確定でしょうね」という軽口も込みの作戦会議だ。医者の診察でもルシアナは無傷。夫妻に心当たりはなく、魔力の少ないルシアナは聖女でもない。ゲームならヒロイン覚醒で終わるイベントの後、魔王の行方も分からない。異なる展開ばかりが積み上がっていく。
そこで思い出されたのが、ルシアナ・ルトルバーグの正体だった。彼女はゲームの敵キャラ、「悲劇の少女」。家は貧乏で舞踏会にも行けず、「髪も肌もボロボロ」と蔑まれ、父は罪を犯して逮捕され、学園も退学。「私を助けてくれる人は誰もいない」という嫉妬の涙を魔王に「私の手駒にふさわしい」と付け込まれ、ヒロインに返り討ちにされた末、魔王に殺される。本編にはない設定資料の裏話で、その死こそがヒロインに聖女の自覚を持たせる「最初にして唯一の犠牲者」…あまりに救いのない役どころである。
子守唄は街を包んで…「そうよね、マイカちゃん」
だが現実のルシアナは、可憐なドレスをまとい、妖精姫と称され、エスコート付きで舞踏会の主役級。「まるでシナリオがルシアナに都合よく進んでいるような」…あまりの違いに、転生者疑惑までかけられる始末だ。そんな話の最中、クリストファーが突然眠り込む。音を遮断しているはずの部屋に届く子守唄と、白銀の色を持つ膨大な魔力の粒子。「こんなことができるのは一人しかいない。そうよね、マイカちゃん」…アンネマリーの口から、前世につながる名前がこぼれた。
まどろみに重なるのは前世の回想だ。「マイカちゃん」と呼ばれる少女と兄のゲーム談義。「さては5番目(の攻略対象)は魔王だな」「バカなの」。バナルガンド大森林の名は北欧神話のフェンリルの別名で、狼の姿の魔王は攻略対象にならない…子犬に乗り移った現状を思うと、なんとも意味深な知識である。回想には「ルシアナちゃんのハッピーエンドも作ってくれないかしら」という声も。締めは、銀の魔力が雪のように舞う街並み。メロディの子守唄が、街ごと優しく眠らせて幕となった。
「シリアスは突然に」まとめと考察
不在の主人公が、全部持っていく
サブタイトル「シリアスは突然に」は看板に偽りなしだった。メロディがいないだけで、この作品は本当にシリアスな物語になってしまう。ところがその不在の主人公は、守りの魔法で傷を消し、ちいさな分身で魔王を追い返し、子守唄で街を眠らせる。屋敷から一歩も出ないまま全部持っていくのだから恐れ入る。
実質的な主役はアンネマリーとクリストファーだ。当て馬の運命を知りながら、治療魔法とアルケミーを積み上げてきた努力の転生者コンビが、初めて表舞台で報われた回でもある。そして「悲劇の少女」の裏設定が示すのは、この物語の芯がルシアナの運命改変にあるということ。魔王に殺されるはずだった少女が、妖精姫と呼ばれて笑っている。その裏で、規格外のメイドが黙々と世界線を書き換えている構図がたまらない。
気になる置き土産も多い。狼の姿ゆえ攻略対象にならないというフェンリル魔王の行方、まだ見ぬ第五の攻略対象、そして「マイカちゃん」の名前。ルトルバーグ夫妻がルシアナの世話にメイドを呼びたがっているという話もあり、いよいよメロディが表舞台へ引き出されそうな予感で次回へ続く。

















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