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記憶を取りもどしたくれあが、あんなたちに打ち明けたのは「事務所にいたのは本当。でも私、探偵じゃなかったんだ」という告白だった。第27話「私、名探偵になりました。」は、そんな彼女がレストランのコック失踪という初めての依頼に挑む回。パティシエとして働いた経験がそのまま聞き込みの武器になり、下宿で開かれた推理ショーの先には怪盗団ファントムの新しい狙いが待っていた。




探偵ではなかった名探偵、初めての依頼
「私、探偵じゃなかったんだ」から始まる第27話
冒頭のくれあは、通い慣れたはずのキュアット探偵事務所を見回して「なんだか不思議。今までもこの場所に来ていたのに、ここにあるもの、何もかもが懐かしい気持ち」とつぶやく。景色は同じなのに、記憶が戻ったことで意味だけがまるごと変わってしまったのだ。手作りのタルトを囲むおだやかな時間から、この回は始まる。
「くれあさんはどうして探偵だったことを忘れちゃったんですか」…そう問われた彼女の答えは、予想の斜め上をいった。「その前に思い出したことがあるの。私、事務所にいたのは本当。でも私、探偵じゃなかったんだ」。記憶をなくした名探偵を探し続けてたどり着いた相手が、探偵ではなかったと言う。
このねじれ方がうまい。25話と26話が「失われた名探偵は誰か」を追う話だったぶん、答えに届いた直後に前提そのものをひっくり返してくる。しかも打ち明けている本人がいちばん平然としているあたりが、いかにもくれあらしくて笑ってしまった。
プリンセス・アルバートから届いたコック失踪の相談
告白の余韻が残るうちに、レストランのオーナーが事務所へ駆け込んでくる。「うちのコックを探して。二日前から帰ってこないの」…こうして、くれあにとって初めての依頼が始まった。向かった先のプリンセス・アルバートはシチューが名物の店で、同行した二人が「ここはシチューが有名なお店なのよ」「パンも美味しいでしゅ」と口々に教えてくれる。「さすが二人とも詳しい」とくれあが笑う、ずいぶん日常的な事件の入口だ。
ところが依頼人がまず語ったのは、事情ではなく戸惑いだった。「どんなに忙しい時にも、いつも笑顔で料理することを楽しんでいました。だから信じられなくて」…この一言を受けて、くれあは早々に「その様子なら仕事が原因ではなさそうですね」と可能性をひとつ外す。相手の言葉から消せるものを消していく、聞き込みの筋がここから見えてくる。
依頼の入り方も気が利いていた。前回まで世界の存亡を賭けて戦っていた面々が、次の回では行方不明のコックを探している。この落差こそ探偵ものの醍醐味で、日常の相談事が結局は怪盗団につながっていく構図も含めて、シリーズの型がきちんと働いていた。
パティシエの知識がひらく聞き込み
「お給料日は25日くらいですか」…同業だから届いた質問
くれあの聞き込みは、まず日付を固めるところから入る。「今日は7月20日だから、18日の日曜日ってことですね」「予約がたくさん入っていました」「お店の定休日は月曜日でしたね」「ということは、いなくなってからの休業は今日からですか」…依頼人の言う曖昧な「二日前」を、店の営業の形に置き換えていくのだ。
そして核心の一問が来る。「ところで皆さんのお給料日は25日くらいですか」…「そうだけど詳しいな」と驚く相手に、くれあはこう答えた。「私もパティスリーで働いているので、だいたい同じかなと思いまして」。返ってきたのは「あいつはいつも食べ歩きでお金を使いすぎちゃうから、毎月今頃はギリギリだった」という証言である。
この質問が後の決め手になるのだが、注目したいのは出どころだ。探偵として仕込まれた手順ではなく、同じ飲食の現場で働いた日々がそのまま武器になっている。後から「私もお給料日はお買い物しちゃうから、関係あるかもって」と説明する言い方にも気負いがなくて、そこがいい。あんなたちが「すごく決まってました。まさに探偵さん」と目を丸くするのも当然だった。
残されたまかないのシチューと、ポアロの一編
もうひとつ引き出されたのが、「あの夜もさ、まかないのシチューを食べようと話していたのに、残したままでいなくなったんだ」という話だった。ここでくれあの足が止まる。「シチューを残していなくなるなんて、まるであの作品みたいね」…彼女が挙げたのは、アガサ・クリスティが書いた名探偵ポアロものの一編。同じように料理人が姿を消し、ポアロが調べるとおかしなところが見つかる、という筋書きの短編である。
「それでどうなるんです」と身を乗り出す相手に、くれあは「今回の調査でも下宿がヒントになるかもしれない」と続けた。作品の中で下宿が鍵になったように、こちらの捜索も下宿へ向かうことになる。ミステリ好きの視聴者からは「まさかのポアロ原典ネタ」と喜ぶ声が上がっていた。
移動のあいだに、くれあ自身の立場もはっきりする。「るるかが私のことを個人的に助手として受け入れてくれたの。だから正式には探偵じゃなかった」…以前ジェットが探偵事務所へ問い合わせてもくれあの情報が何も出てこなかった理由が、ここでようやくつながった。シュシュタンの「今日はるるかなしでの初めての調査でしゅ」という一言も効いている。
そのうえで「改めて、二人は探偵としては先輩。だから今から敬語はなし」と宣言しておいて、直後に「それも敬語」と突っ込まれるくだりが微笑ましい。16歳が14歳の二人を先輩として立てる関係が、この回のやわらかい土台になっている。
下宿でひらいた推理ショー
暦がずれていただけ、動き出す怪盗団ファントム
一方の怪盗団ファントムでは、ウソノワールが「あと少しで世界を嘘で覆うことができたというのに」と悔しがっていた。暴走していたときのことは本人も覚えていないらしく、幹部たちも「いろいろ強引にやっちゃってたからね」と持て余し気味である。
そこで示されたのが、予言の読み直しだった。「予言は間違ってなどいない。旧暦ということ」…1999年7月が「約束の時」だったはずが、暦の数え方が違うのなら期限はまだ先になる。「だったら来月まで時間がありますね」の一言で、物語の時計が静かに巻き戻された。
26話でるるかが突きつけた「予言を読み違えた」という指摘を、こういう形で回収してくるとは思わなかった。外れたのではなく、読み方が違っただけ。そして「早くマコトジュエルを取ってくるのだ」という号令に、「ご安心を。ニジーが新しいマコトジュエルを取りに行っております」と返る。この時点で、下宿の先に何が待っているかを知っているのは視聴者だけだ。
「コックさんじゃありませんね」…空のトランクが示した矛盾
下宿の前で出会ったのは、大きなトランクを提げた当人だった。「私たちオーナーさんの依頼であなたの行方を探していました」と告げても、返ってくるのは「ちょっとサボっただけじゃん」「仕事が嫌になってさ、気晴らしに旅行にでも行こうかって」という、あっさりした答えである。
「なんだ、そうだったんですか」「じゃあそういうことで」…納得して引き上げかけたあんなたちの傍らで、くれあの中で何かがきらめく。そして静かに言い放った。「コックさんじゃありませんね」。
「何を証拠に僕が偽物だって言うんだよ」と気色ばむ相手に、「それではこれからあなたに示しましょう」。まず一つ目。「あなたは今、旅に出るところだと話していましたね」「今その大きさのトランクを軽々持ち上げていました。中身は空っぽなのではないですか。旅に出るために部屋に戻ったならおかしな話ですよね」。二つ目。「それにお金もギリギリなのに旅に行けるんですか」「お給料日は25日と聞きました。今日は20日。旅行に行くには慌てすぎかもしれません」。三つ目。「そして一度いなくなってから二日も経って、わざわざトランクを取りに来た。なぜ」。
そして結論が置かれる。「それらすべての疑問が示すのは、あなたが偽物という答えです」…聞き込みで拾ってきた断片が、そのまま三本の矢になって並ぶ組み立てが気持ちいい。空気の変わる速さもすごかった。おっとりした話し方はそのままに、逃げ道だけを一つずつ塞いでいく。前半のやわらかさを見ていたぶん、この落差が効く。ネットでも「一瞬で空気感が変わりやがった」「メイン二人より威圧的」と驚く声が並んでいた。
二日前の来訪と、約束の日に間に合わなかった怪盗
「さすがだね、ベイビー」…正体を現したのは、変装を得意とする幹部ニジーだった。くれあの「もう一度聞きます。なぜわざわざ二日も後になってから取りに来たの」という追及に、彼は自ら種を明かす。二日前、コックの同僚に変装して都合のいいことを吹き込み、本人を遠くへ追いやっていたのだ。あとは下宿へマコトジュエルを取りに行くだけだった。
ところが、そううまくはいかなかった。「だが邪魔が入ったせいで約束の日までに間に合わなかったのさ」…25話から26話にかけての大騒動が、怪盗の側の予定まで狂わせていたわけである。「ジュエルは渡さない」と立ちはだかるくれあに、ニジーはハンニンダーを呼び出した。
戦いのあとに残されたのは、「今日のところはこれにて終演」という芝居がかった捨て台詞と、「僕のトランクがどうしてこんなところに」と戻ってきた本物のコックだった。「あいつの口車にまんまと乗せられるなんて、もうしっかりしてよね」と苦笑まじりに叱られて、一件落着。依頼の品がそのままマコトジュエルの宿った物だった、という組み立てはきれいだ。ただ、そのトランクにどんな思い出が宿っていたのかは語られずじまいで、「持ち主の想いを守る話にしてほしかった」という物足りなさを挙げる声もあった。次はそこまで描いてくれると嬉しい。
「私、名探偵になりました。」まとめと考察
経験の結晶がマコトジュエルなら、あんなはなぜ変身できたのか
事件が片づいたあと、事務所ではもうひとつの謎が話題にのぼる。くれあが記憶をなくしたのは「心の中にあるマコトジュエルをなくしてしまったから」ではないか、というのだ。説明を引き取ったのはシュシュタンだった。「マコトジュエルは真実の結晶でしゅ」…とくにプリキュアになるための心のマコトジュエルは、探偵として体験し経験したことが結晶になるのだという。
だからくれあは、ジュエルを奪われて記憶ごと失い、戻ってきたことで再び変身できた。そのうえで彼女は「でもあの時、私はプリキュアになれなかった」と続ける。動けない自分の代わりに、るるかがたった一人でウソノワールに立ち向かい、敵わなかった。「今までずっと見守ってくれて」という感謝の言葉には、26話でるるかが口にした打倒の宣言をまだ知らないという重さがある。この行き違いは、いずれ痛みとして返ってきそうだ。
そして、この回はいちばん大きな疑問を最後に置いた。口にしたのはあんなである。「どうして私は名探偵プリキュアになれたんだろう」「だって自分で体験し経験したことで心のマコトジュエルが育つなら、私は何の経験もないのに、いきなりプリキュアに変身できた」…仲間たちは言葉を尽くして励ますが、答えは出ないまま話は閉じる。
ここまで積み上がった条件を並べると、あんなの立ち位置は明らかに異質だ。2027年から来ていること、第1話の時点ですでに直感で答えを掴んでいたこと、そして探偵としての経験がないままジュエルを持っていたこと。経験が結晶になるという法則の外側にいるのなら、彼女のジュエルは誰かから受け継いだものか、あるいはこれから起きることの結晶なのかもしれない。26話で宿題として残った「では大王とは誰なのか」という問いとも、どこかで交わってきそうな気配がある。
探偵ではなかった人が、初めての依頼で誰よりも探偵らしく振る舞い、サブタイトルどおり「名探偵になりました」と胸を張れる回。そして同時に、主人公の足元が静かに揺らぎ始めた回でもあった。次回予告では新たな怪盗の登場が告げられている。くれあが取りもどしたきらめきが、るるかとの距離をどう動かしていくのか、そこも合わせて見届けたい。




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