この記事の作品:
シタラを信じたドレゲネが語り出したのは、二十五年前の自分だった。ナイマンから年の離れたメルキト族の長ダイルのもとへ嫁ぎ、「私は宝石でいればいいのよ」と諦めていた少女が、娘クランたちに囲まれて日常を愛し始めた矢先、チンギス・カン率いるモンゴルが草原の均衡を崩す。ダイルが精霊に問うて下した決断と、餞別に託された嵐を呼ぶ石。そして二十五年越しに二人だけの同盟が結ばれる。第6幕「メルゲンの民」を振り返る。




二十五年前、宝石だった少女
「私は宝石でいればいいのよ」
物語は二十五年前へ遡る。ナイマンから嫁いできたドレゲネを迎えたのは、「大した歓迎もできず悪いな。旦那がこんなジジイで驚いたかい」と笑う老いた族長ダイルだった。「歳の差なんて珍しい話でもないし」と受け流したものの、夫となったダイルは彼女に全く近づこうとしない。それどころか留守ばかりで、しかも集落は妙に短い間隔で移動を繰り返している。「他の部族ってこんな短い間に移動し続けるの?」「いいえ」…「何か変だわ。まるで何かから逃げ回ってるみたい」。だが、そこで彼女は考えるのをやめてしまう。「私が考えても仕方ないか。私は宝石でいればいいのよ。宝石が物を考えたところで何になるの」…「帰りたい。私なんかいなくなったって、誰も気がつきやしないんだわ」。守られ、飾られ、笑っていればいい存在。ネットでも「女は宝石でただ笑って暮らせればいい、守られていれば、という価値観」と指摘された、この時代の女性の立ち位置がここに凝縮されている。
川の果てと、カムの娘
その止まった時間を動かしたのが、ダイルの娘クランと、別の族長の子クルトガンだった。「あなたの新しいお母様よ」と紹介するには近すぎる年頃の子供たちである。クランが語って聞かせるのは草原の伝承だ。「川の最後はどうなってるか知ってる?」「北の空に動かない星があるでしょ。その下には大きな大きな穴があって、世界中の川はみんなそこに流れ込むのさ」。自分では見たこともないくせに、と茶々を入れられれば、「私たちには精霊と話せるカムの力がないからね」「お父様はカムでね、何度も川の果てに行ったことがあるんだ」と胸を張る。そして漏らすのが、「私にもカムの力があればよかったのに。それか、もっと弓がうまかったら」…この何気ないぼやきが、後半で恐ろしい形で回収されることになる。
子供たちに囲まれた日々が、ドレゲネを変えた。「その日から私の中で何かが変わったの。周りの景色一つ一つが心の中に飛び込んでくるみたいだった。喜びを感じた。不満や悲しみを感じた。私はここでの日常を愛するようになった」…宝石が人間になった瞬間である。ネットが「宝石だった彼女が人になり」と言い表したこの変化があるからこそ、続く展開が容赦なく効いてくる。
メルゲンの民が選んだ道
対モンゴル同盟の花嫁だった
平穏は襲撃で断ち切られる。「奴らがここまで来る」「クドゥの家族がいない」…被害の報告が飛び交うなか、ダイルはドレゲネに「怖かったろう。よくクランを守ってくれたな」と声をかけた。「守られたのは私の方です」と返す彼女に、彼はようやく事情を明かす。「やっぱりナイマンで何も知らされてなかったんだな。無理もねえか、こんな話」…敵はモンゴル族のテムジン、今はチンギス・カンと呼ばれる男。メルキトとモンゴルは昔から小競り合いが絶えず、「奴らには家族や財産を散々奪われたし、俺たちも同じくらい奪ってきた」。だがテムジンが王者となって草原の均衡が崩れた。そして決定的な一言が続く。「あんたがナイマンからこんなジジイのとこによこされたのも、対モンゴル同盟のためだったんだよ」…自分がなぜここにいるのかを、彼女は嫁いで初めて知らされる。「でも、もう限界かもしれねえな」。少年たちの会話も生々しい。「モンゴルに負けたら俺たちどうなる?」「決まってるだろ。男は皆殺し。女や子供は奴らのものだ」。
精霊への問いと「清らかな源流」
ダイルはカムとして精霊に未来を問う。ウスンとは「流れる川」…大地から頂いた、カムとしての彼の称号だという。「いいか、終わるまで誰も立ち入っちゃなんねえよ。精霊に俺たちの未来を問うてくる」…光と音が渦を巻く儀式の場面は圧巻で、ネットでも「一気に空気が変わる」「神々しさたるや」と絶賛されていた。天から持ち帰った答えはこうだ。「この草原が見えた。川がいくつも分かれて流れていた。その川を遡ると、天にも届きそうな高い山に清らかな源流があった」「川は血脈。草原の民、モンゴルの血が広がっていくという意味だ」…つまり、メルキトはモンゴルに敗れる。
それでも精霊は「モンゴルへ下ってもメルキトの血は続く」と告げていた。ならば相応のものを差し出して詫びるしかない…そう言ってダイルが選んだ「清らかな源流」が、我が娘だった。「俺の娘をチンギス・カンに捧げる」。息を呑む一同の前で、クランはこう答える。「大丈夫よ、お父様。クランは嬉しいです。今まで守られるばかりの女の身が悔しかった。でも今度は私がみんなを守る矢となりましょう」…「もっと弓がうまかったら」とぼやいていた少女が、自ら矢になると言うのである。極めつけは「メルキト族は弓の名手。メルゲンの民の娘が狼を仕留めてご覧に入れます」…副題の「メルゲンの民」がここで牙を剥く。狼とは、蒼き狼の末裔を名乗るあの一族のことだ。
「ここで幸せにおなり」
女たちを託して
こうしてメルキトはモンゴルに下った。一方、クルトガンたち別の氏族はあくまで抵抗を選び、西へ逃れていく。降伏したダイルのもとに現れたのは、「カンの第三王子オゴタイ様に仕えている。今は軍の後方で待機し補給を担っている」という男たちだった。ダイルは「そうかい、なら安心だ。この女たちを頼むよ」と、ドレゲネたちを差し出す。動揺する女たちに、彼は静かに告げた。「モンゴルが許してくれたのはあくまで命だけだ。今までの争いまで水に流したわけじゃねえ。俺たちは奴隷の身に落ちるだろう。だが、お前たちは違う。お前たち女の人生はこれからだ。ここで幸せにおなり」。そのうえで念を押す。「ちゃんと王子やカンに伝えるんだぜ。この女たちはメルキトとはもう無関係、この先もずっとな」…この徹底ぶりの意味が分かるのは、もう少し後になってからだ。
嵐を呼ぶ石
別れ際、ダイルはドレゲネに手を出させる。「ジャダ石。嵐を呼ぶ石だ。こんなものしかやれねえが、餞別だよ」「あんたが家に来てくれて楽しかった。じゃあな。笑って生きなさい」…第5話でシタラが盗みの疑いをかけられる引き金となった、あの石の出どころである。持ち主を守る石でも富を呼ぶ石でもなく、よりによって嵐を呼ぶ石。そして最後の言葉が「笑って生きなさい」…オープニングで繰り返される「私はここでは笑えない」と、これほど残酷に噛み合う餞別もない。
燃えるような、血のような空
その夜は「ひどく静かだった」。空だけが「燃えているような、血のような」不気味な色をしていたという。異変の正体は、捕虜となったメルキトの男たちが山に立てこもったという報せである。「くそ、ダイル・ウスンめ。これだからメルキト族は信用できん」…彼らの言い分はこうだ。「俺たちは森の狩人だ。羊飼いどもの奴隷にはならねぇ」。降伏は時間稼ぎで、初めから戦うつもりだった。だからこそ、女たちだけは「メルキトとはもう無関係」と念を押して逃がしたのである。
ここでドレゲネが辿り着いた答えが、この回で最も痛い。「じゃあ、あの言葉も嘘?」…いいえ、と彼女は言う。「きっと全部彼の本心だった。私に何も教えてくれなかったんだ」。守るために、最後まで何も。そして続く述懐が「ダイル様は一つ、大きな見落としをしていた。あの方が思うよりずっと、私は…あの方を…」…最後まで言い切らせないまま、場面は変わる。反乱はあっけなく鎮圧され、クルトガンたちも殺されたと後になって聞かされた。「カムの魂は天に昇れるんだった」…その一言が、ダイルの最期に添えられている。やがて帰還したチンギス・カンのもとで反乱を知らされたクランは、微笑んで言い切った。「愚かな父の招いた当然の報いです。カンのご意向は何人にも傷つけられません」…ドレゲネが二十五年間ずっと問い続けてきた、あの笑顔である。
「メルゲンの民」まとめと考察
二人だけの同盟と、新しいジャダ石
語り終えたドレゲネの現在地は、驚くほど淡々としている。「私はオゴタイに嫁ぎ生かされた。彼の子供も産んだわ。過ぎていく日々は穏やかだった」…そのあとに置かれる一言が凄まじい。「けれど私は、この帝国をめちゃくちゃにするような嵐を待っているの」。嵐を呼ぶ石を託された少女は、二十五年かけて、自分が嵐になる日を待っていたのだ。なぜシタラに目を留めたのかも、ここで明かされる。「あなたが笑っていたからよ。あの時のクランと似ていたの」。そして、今ならもう分かる、と続けた。「本当はどれほど悲しくて悔しかったか知れない。けれどあの子は自分の役割をちゃんと知っていたんだわ。あの時、誰よりも私がそれを分かってあげるべきだったのに」…二十五年越しの悔恨である。ネットでも「大人になるのを拒む十代の少女のまま時間が止まっているようで、シタラの未来の姿のようでもある」と評されていた。
応えるシタラも、ついに名乗る。「私の名はシタラ。奴隷です」…主人を殺され、本を奪われ、それを取り返すことが最後の務めだと思いながら、むやみに抵抗すればまた不幸が起こるのが恐ろしくて漫然と生きてきた。「けれど、私もこの時を待っていたのです」。そしてソルコクタニから託された読みを差し出す。オゴタイの権威とトルイの軍事力のねじれは必ず不幸の種になる…「つまり今この国はかつてなく脆い」。極めつけが、この一言だ。「私があなた様の新たなジャダ石となりましょう。嵐も起こせましょう」…ダイルが遺した石の役目を、生きた人間が引き継ぐ。派手な戦いは一つもないのに、二人だけの同盟が結ばれたこの瞬間の緊張はすさまじかった。
新キャストも豪華で、ダイル役に石田彰さん、クラン役に水瀬いのりさん、クルトガン役に千葉翔也さん。特に石田さんの老いた族長ぶりは「色っぽい老け演技」と話題になり、ダイルの真意が見えた瞬間に「やっぱり」と膝を打った視聴者も多かったようだ。ネットでは、生き延びたクランがのちにチンギス・カンに深く愛され遠征にも同行したという史実を引きながら、彼女の再登場を期待する声も上がっていた。あわせて「来週は放送時間が後ろ倒しになる」という注意喚起も回っていたので、録画予約の見直しをしておくと安心である。物語はここから新たな章へ入りそうだ。




関連作品:


















コメント