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告白の手段はいくらでもあったのに、いざ顔を合わせると嬉しくなりすぎて目的を忘れてしまう。そんな自分に呆れながら、山田は西とのデート当日を迎える。ところが計画を練っていたのは彼だけではなかった。先に動いたのは「好きです」と口にした西の方で、山田は「先越された」と天を仰ぐことになる。翌日の教室は義理チョコが飛び交い、それぞれのバレンタインが並んだ。第17話「バレンタイン」を振り返る。




「こんなメンタル弱かったっけ」
いくらでも手段はあった、のに
第17話はナレーションから始まる。「これまで順調に進んでいた恋路の、あと一歩のところで足踏みしている山田健太郎であるが、決して今まで告白できるタイミングがなかったわけではない」…そして具体例が並べられる。学校でも放課後でも、話をするために呼び出すことはできた。休みの日に予定が合わなくても、ちょっと話すためだけに近所まで会いに行くこともできた。「いくらでも手段はあった」「のに」。
では、なぜできなかったのか。理由がこれである。「次チャンスがあればと、いろいろシミュレーションしているくせに、いざ顔を合わせると、嬉しくなりすぎてその瞬間目的を忘れてしまうのだった」…本人の自己ツッコミが「いやダメだろ」。開始一分で、この回の山田がどういう状態にあるかが説明し切られている。しかもその原因が緊張でも自信のなさでもなく、会えた嬉しさだというのがいい。
夜の電話は空振りに終わる
たまらず電話をかける場面が続く。「今電話大丈夫?」「あのさ、今からちょっと話せ…」…そこまでは勢いがあった。ところが続く言葉で自分から難易度を上げてしまう。「できれば…えっと…俺、そっちまで行くし。ちょっとだけ外出れたりする?」。
当然、返事はよくなかった。夜のその時間から自然に家を出る口実などない。山田も即座に理解する。「そりゃそうよな」「急にごめん」…そして通話を切ったあとの独り言が本音である。「心臓バクバクすげえ」「え、なんだこれ」「俺、ダサっ」「こんなメンタル弱かったっけ」。公式のあらすじが「そんな自分のメンタルの弱さに、彼はあらためて気づかされる」と書いていたのは、ここのことだ。
見逃せないのは、断った側にも同じだけの後悔が残っていることである。「話したいって言われたこと自体は、すっごく、すっごく嬉しかったのに」…この一言が挟まるおかげで、空振りの電話が片側だけの失敗ではなくなる。山田の側の結論は「やっぱり勢いで行き過ぎるのは良くない」「ちゃんと計画立てて順序よくいかねえと」「次は絶対告白する」。この回は最初から最後まで、二人が別々に同じことを考えているという作りで通っている。
デート当日
「西さんにずっとおいしいもん食っててほしいわ」
待ち合わせの空気からして柔らかい。「山田君」「いや、全然。俺もさっき着いたところ」「そっか、ならよかった」…そして服の話になる。「それ新しい服?」「お正月に家族で買い物行ったときに買って…」「可愛いな」。さらりと出るあたりが山田である。
一方の西は、内心で忙しい。「彼女になりたいとか意識しだしちゃったから、前以上にそわそわする」「また知ってる人と会ったりしないよね」…前回まで積み上がってきた気持ちが、そのまま緊張に変換されている。
食事の場面が可愛い。「うめえな、これ」と食べていた山田が、ふと言うのだ。「あっ、なんか俺、西さんにずっとおいしいもん食っててほしいわ」…言った直後に「食い意地張ってるように思われたかな」と気にしているのが、いかにも彼らしい。視聴者からも「美味しい物食べて嬉しそうな西可愛すぎー」という声が上がっていたが、そう思わせる顔をさせたのは、この一言だろう。
本屋と、一気に背筋がヒヤッとした瞬間
次に向かったのは本屋である。「ここなら西さんが言ってた本あるかと思って」…事前に調べてあったのだ。「あ、調べてくれてありがとう」と返されるが、当の店は広すぎて「逆にいろいろありすぎて、どこに置いてんのかわかんねえな」。
ここで西が見せた反応が、この回でいちばん彼女らしい。「けど、買う予定になかったり知らなかった本の、表紙とか紹介文とか、ずっと見てるのもワクワクするよね」…山田の返しが「ほぉ」「知らん感覚だ」「嘘、なんか楽しそう」「なんかいいなぁ」。分からないものを否定せず、そのまま面白がる。正反対な二人が並んでいる意味が、こういう短いやりとりに出る。
空気が変わるのは直後だ。西が誰かに気づいて固まる。「知り合いでもいた?」「一瞬同じクラスの男の子に見えて。けど知らない人だと思う」…そして内心が続く。「なんか一気に背筋ヒヤッとした」「今は…冷やかされたりしたくない」。察した山田が「別の店行く?」と切り出し、「この時間でこの場所だと、あそことかあれとか、他にもいろいろ回れる場所はあるし」と自然に流してくれる。西の側の受け止めは「挙動が不審すぎて気を使わせてしまった」だった。
そのうえで、この回の核になるモノローグが置かれる。「二人でいるところを誰かに見られたくない理由。はじめは『私なんかが』みたいな気持ちが大きかったと思う。けど今は、自分がどう思われるかとかじゃなくて、関係を壊したくない」「自分でも分かるくらいに、どんどん貪欲になってる」…そして「山田君の態度や気持ちを決して疑ってはいないけど、それでも今はまだ、完全には安心できないから」と続く。人見知りで自己評価の低かった彼女の怯えが、いつの間にか失いたくないものができた人の怯えに変わっている。同じ「見られたくない」でも中身がまるで違う、という書き分けが見事だった。
先に動いたのは、慎重なはずの方だった
二人とも、計画を立てていた
終盤、双方の内心が交互に流れる。西の側は「本ちゃんと一緒にいろいろ計画立てたけど、伝えるんだったら…」。山田の側は「西さんの門限的に次が最後になるから」「よし、このまま計画通りに」…そして口を開く。「あのさ、ちょっと歩くんだけど、あっちに…」。二人とも今日この日に言うつもりで来ていたのである。
ところが西の内心には、もう一段深いところがあった。「何も気づかないでいられるほど、鈍感にもなりきれなくて」「正直、できれば向こうから行ってくれないかな」「それなりに自分の中にズルさもあって」「それなのに、安心しきれるほどの自信はなくて」…待ちたいのに待てない、という板挟みが正直に言葉にされている。
そして、山田が歩き出そうとした、まさにその瞬間だった。「好きです」…慎重で、人見知りで、いつも一歩引いていた側が先に言った。ネットでも「日頃、慎重な西さんがこのままの関係では嫌だと貪欲になって『好きです!』と先に告白して、日頃、深く考えない山田が慎重になって告白を先越されるの」と、この反転の構造を的確に言い当てる声が並んでいた。
逃げる西と、追いかける山田
言った本人が真っ先に崩れる。「えっ、なんで逃げる」…理由は単純で「恥ずかしさに耐えられなくて」。追いつかれた後の内心も止まらない。「言っちゃった…の」「今じゃなかった」「言わない方がよかった」「山田君すごくびっくりしてた」「困らせてない?」「全部私の勘違いだったらどうしよう」…そして極めつきがこれだ。「手を繋いでくれてるのに、それでもまだ不安で、余計なことばかり考えてしまう」。手はもう繋がれているのである。
一方の山田も内心は大騒ぎだった。「やばい、俺だせえ」「今日言うつもりだったのに」「あーだこーだ考えてる間に先越された」…しかし、切り替えは早い。「やっぱ俺、ごちゃごちゃ考えるの向いてねえわ」。
そこから先が良かった。「俺も好き」「つーか絶対俺の方が好きになったの先だし」「先越されたけど、やっぱこれだけはもう一回俺からちゃんと言わせて」「西さん」「俺と…」…ところが肝心のところで大きな音にかき消されてしまう。決まらなかった。そして笑い上戸の西が耐えきれずに笑い出す。「おい笑うなよ」「いや、ウケすぎだろ」…涙が出るほど笑われて、告白の続きはうやむやになる。この作品らしい着地だった。
「もう今日ずっとダサいから全部言うわ」
そこで山田が種明かしを始める。「なあ、今日いろいろ回って、いい感じの時間にいい感じの景色見て、なんかこう、いい感じの雰囲気になったりして、そんで、そんで最後に俺から言うつもりだったわけ」…そして開き直る。「もう今日ずっとダサいから全部言うわ」。段取りを組んだ側が、その段取りごと差し出してしまう。
返ってきたのは謝罪だった。「いろいろ考えてくれてありがとう」「こんなにいろいろ考えてくれてたのに、私、今日は…」…そして西も全部言う。「もし学校の子に見られたりして冷やかされたらどうしようとか、もしそうなったら気まずくなっちゃうんじゃないかとか、余計なことばかり気になっちゃって」「それでだんだん、今一緒に歩いてる理由が友達だからってだけじゃ我慢できなくなって」「山田君と違って、ずっと自分の都合ばっか考えてて。ごめん」。
この告白の理由が実にいい。彼女が動いたのは勇気が出たからではなく、友達という理由書きに我慢がきかなくなったからなのである。山田の返答も完璧だった。「えっと、ちょっと待って」「ごめん、今嬉しさの方が上回りすぎて真顔無理だわ」「つか別にそんなん全然謝らんでいいから」。そして締めが「えっと、だから、だからその、なんていうか…これからよろしくお願いします」。すかさず「今敬語出てた」と突かれて「仕返しすな」…敬語をやめる約束をつつかれ続けてきた側の、これが意趣返しである。
「バレンタイン」まとめと考察
三者三様、それぞれのハッピーバレンタイン
翌日の教室は、菓子が飛び交う戦場になっていた。手作りを配る鈴木の売り込みが強烈である。「まあ今年は気合入ってるからね」「食べたら、もうビューティフルピースフルハートフルラブドリーム間違いなしですよ」…当然「怖いよ」「なんか入ってんの?」と警戒され、「タニー、お前変なもん食わされんじゃねえぞ」「まあお前、それでも喜びそうだけどな」と横から茶々が入り、「おい無視はやめろよ」と流される。去年の出来を持ち出されて「去年そんなひどかった?」と本人が驚く場面まであった。
面々の申告も面白い。市販の袋詰めに、チョコチップを乗せるのと梱包を担当した姉との合作マフィンだと説明して、すぐに「ほぼ姉作だ」と突っ込まれる。山田に渡す側は「違う違う、これ義理だから」と即座に線を引く。もらう一方の山田は「なんか、わらしべ長者みたいになっちゃった」「今日だけで一年分菓子食った気がする」「もらった分ホワイトデー返さないとな」…完全に収穫祭である。
その脇で、少し切ない話も混ざる。「私、何にも持ってこなかったから食べ専になっちゃった」「あれ、てっきり女子みんなで話し合わせたんかと思ってた」「うんにゃ、単にみんながまめなだけ」…そして去年は二人で浮いていたという思い出話に、「そんな明るく悲しい話すんなよ」。お返しの範囲を真剣に悩む声もあって、結論は「まあ別にどっちでもいいだろうけど、たぶんないよりある方が嬉しい」。ここが妙に沁みる。
そして本命の一粒が来る。「あ、タイラー、ガム食べる? キシリ系だけど」「うん、もらうわ」「ほい、ハッピーバレンタイン」…返されたのは「それはずるいだろ」。物としては何の変哲もないガムなのに、渡し方ひとつで意味が変わる。視聴者からも「ガム一粒…、東と平は友達関係ですね」と、この距離感をきちんと読み取る声が出ていた。
肝心の二人は、放課後まで待った。西の内心はこうである。「しまった、山田君に渡す用のチョコ持ってきてるけど今手元にない」…そして続けて「けど、もし今持ってたとしても、二人きりの時に渡したいし」。義理チョコの飛び交う昼休みを避けるのは、この二人には当然の判断だった。周りも心得ていて、「私は今日いろいろ集会に忙しいからさっさと帰ります」と気を利かせて場を空ける者までいる。
二人きりになってからのやりとりが、この回の締めくくりだ。山田が切り出す。「あのさ、付き合ってんの周りに言っていい?」「えっと、別に言いふらしたいとかじゃなくて、せめて仲いいやつに」…返事は先回りしていた。「私、本ちゃんにもう言っちゃった」。安堵した山田の理由がまた彼らしい。「俺、隠し事とか嘘下手なんだわ」「態度でバレバレらしくてさ」「なんか想像できる」「おい」。そして渡されたチョコを見ての第一声が「食べられる、かわいいやつ」で、一口食べて「おいしい」。「第一声がそれだって」「書くの難しくて頑張ったのに」と抗議されて、「ちょっと本当、純粋にすごい」と言い直す。ナレーションの締めは「三者三様、それぞれのハッピーバレンタインでした」だった。
この回の設計で唸らされるのは、告白をバレンタイン当日に置かなかったことである。イベントの力を借りれば、渡すという行為が告白の代わりをしてくれる。それを避けて前日のデートで決着をつけさせ、翌日のバレンタインはすでに恋人同士になった二人が義理チョコの中でこっそり本命を隠し持つ日として描いた。だから教室の賑やかさが二人の背景として機能するし、放課後の静けさが際立つ。副題が「バレンタイン」なのに、いちばん大事な言葉がバレンタインの前に出てくる。その順番こそが、この回のいちばんの仕掛けだったと思う。慎重な方が先に動き、勢いのある方が慎重になる。第1話から積み上げてきた正反対という看板が、ここでいちばん綺麗に回収された。




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