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幼馴染の二人が、同時にすれ違い始めた回だった。汗で透けた制服を見てしまった隼人を春希が教室でからかい、その裏で「海童さんの本命は、二階堂さんだって」という噂が隼人に届く。ダイエット中の春希を労って頭を撫でた流れで出てきたのが、「もう誰かに撫でられた記憶なんてないしね」と、「いい子の二階堂春希は誰かと付き合っちゃダメなんだよ」だった。




「相棒」の夢と、汗で透けた制服
「大丈夫だって信じてたしな。相棒!」
第5話は、幼い日の夢から始まる。何かの事故があったらしく、隼人が「姫子に何もなくてよかったぜ。母さんに女の子に怪我させてって怒られるところだった」と言う場面だった。
そこに「僕は怪我してもいいのかよ」と噛みつくのが春希で、姫子の「ハルキはいいの!」が追い打ちをかける。隼人の返しが「大丈夫だって信じてたしな。相棒!」だった。
それを受けての「相棒か。それならいいや」という納得のしかたで夢は終わり、目が覚めてからの一言が「懐かしい夢だったな」である。
この回で起きることの前提が、たった数十秒で置かれている。春希にとって隼人は、女の子扱いされなかったからこそ心地よかった相手だった。その関係が今回まるごと揺らぐ。
「胸ですよ、胸」
場面が変わって園芸部の畑。炎天下の作業で三岳みなもの制服が汗で透けてしまい、隼人はそれを見てしまう。そこへ現れた春希の刺し方が容赦なかった。「三岳さん、炎天下での部活動は服装をどうにかした方がいいかもしれませんね。男子にはちょっと目の毒な感じになってしまってますよ」。そして一言、「スケベ」。
授業のあと、プリントを渡しながらも「あの子と同じようにエッチな目では見ないでくださいね」と刺してくる。隼人の「ちょ、どんな目だよそれ!」でクラスが食いついた。
森たちが「エロい目って具体的にどういう目をしたんだ? 何かフェチでもさらけ出したか?」と盛り上がり、脇だのくるぶしだの鎖骨だのと自白が始まる。そこへ春希が「胸ですよ、胸」「桐島君は、おっぱいが大好きなんですって?」と投下した。
優等生の仮面のまま最大火力で刺しにいくのが春希の怖いところで、クラスの反応も「二階堂ってあんな顔もするんだ」だった。やり返す動機が「怒り」ではなく「面白くない」であるのが、この場面の肝だと思う。
姫子が気づいた、春希の変化
「僕で妥協してる」と言って帰った夜
霧島家の夕食では、姫子が容赦なく蒸し返す。「お兄が女の子の胸をね」「そう、隼人は獣だったんだよ」。春希も「僕より確実に2、いや3ランクは上かも」「正直僕もそこに目が行っちゃってたんだよね」と乗った。
姫子が「ここにかわいい女の子が2人もいるってのに、他の子に目が行くだなんてね」と言うのに、春希が返したのが「まったく、僕で妥協してる」だった。冗談の形をしているが、自分を数に入れている言い方になっている。
そのあと春希は急に「今日はもう帰るね。見送りとかいらないから」と切り上げてしまう。隼人が「送らなくてよかったのか?」と聞くのに、姫子は「お兄が一緒だと胸を比べられると思ったんじゃない?」とふざけて返した。
ところが姫子は一人になってから、ちゃんと気づいている。「はるちゃんも素直じゃないよね。私を出しにしなきゃお兄との空気リセットできないなんてさ」から、「はるちゃんがお兄を意識しだしちゃったとか」「隼人が取られると思っちゃったとか」へ。結論は「とにかく、隼人が悪い!」である。
本人たちが気づく前に、いちばん近い第三者が先に気づく。姫子が状況の解説役として置かれているのが、この作品はうまい。
4キロと、ダイエット同盟
その姫子が抱えていた爆弾が「私、4kgも体重増えた!」だった。「今日もおかわりしてたよね、はるちゃんはどうかな?」と水を向けられた春希は「今日は、その、大丈夫かも? うん、きっと大丈夫なはず」と逃げるが、「現実見よう、今すぐ計ろう!」で連行される。
翌日、隼人は畑で三岳に相談していた。「ダイエット同盟、結成ですか?」「妹がダイエットに協力しろって」「俺が食事作ってるからさ、何かダイエットレシピ的なのないかなーって」。
ここで三岳の反応が良かった。料理をする理由を「母親がちょっとね」と濁した隼人に、「桐島さんはいいお兄ちゃんなんですね」「慣れないことでも、誰かのために頑張れるって、すごく素敵だと思います!」と返す。三岳のほうも祖父の世話をしているので、話が噛み合う。
春希が刺しにいった相手が、実は隼人といちばん近い事情を共有している。三岳を単なる恋敵として置いていないのが誠実で、だからこそ春希のざわつきが軽く扱われずに済んでいる。
「海童さんの本命は、二階堂さんだって」
三岳が教えた噂と、隼人の険しい顔
畑からの帰り、二人は告白らしき場面に出くわす。三岳が「あの男性の方、海童さんですね」「海童一輝さん、すごくモテることで有名なサッカー部の人ですよ」と説明し、そのうえで「じきに女の子の方がお断りされて、どこかへ行きますよ」と予告した。
そのとおりになったので、隼人が理由を尋ねる。返ってきたのが「実は、女子の間で有名な話があるんです」「海童さんの本命は、二階堂さんだって」だった。隼人の反応は、口に出さない「春希が本命…か…」である。
翌朝の隼人はずっと険しい顔をしていて、春希はそれを自分が昨日やりすぎたせいだと勘違いして謝る。「僕さ、昨日はちょっとやりすぎたかなって。その、ごめんなさい」。隼人のほうは「何を?」と本気で分かっていない。
同じ場面を二人がまったく別のものとして見ている。すれ違いの原因が、悪意でも隠し事でもなく単なる勘違いであるぶん、見ていて逃げ場がない。
「褒めて、甘やかしてスキンシップしてやればいい」
教室では女子たちがダイエット談義で盛り上がっていた。「これだけを食べる系はマジ詐欺だから」「激しい運動系は罠よ」を経て、結論は「適度な運動と食事に気をつけるのが一番いい」。
それを聞いた森が隼人にアドバイスを授ける。ひとつめが「ダイエット中の時期だ! 女子は情緒不安定だ! だから手を出さず、飢えた獣か何かだと思え!」。実感がこもっている理由を聞くと「彼女がそうでさ」と返ってきた。
ここでさらっと出てくるのが、森の彼女も幼馴染だという話である。「中学終わりからだから、それほど長いわけじゃ。ただ、幼馴染だからな。そういう意味での付き合いが長いっちゃ長い」。
そしてふたつめが「お腹を空かせた女子はな、胸をいっぱいにしてやるといいぞ! 頑張ってるのを褒めて、甘やかしてスキンシップしてやればいいんだよ」。隼人は「妹にそんなことできるか?」と流したが、このアドバイスが後で効いてくる。
同じ幼馴染から始まって、もう関係の名前が決まっている森。隣に置かれることで、隼人と春希がどれだけ足踏みしているかが際立つ配置になっている。
撫でられた髪と、「付き合っちゃダメなんだよ」
「応援してるから、無理せず焦らず頑張れ」
夕食の席は、増えた体重の話で持ちきりだった。隼人が「そんなに変わったとは思えないんだけどな」と言うと、「4キロがどれほどのものか全然わからない!」と食ってかかられる。
そこからの説明が具体的で笑ってしまう。「牛乳パックなら4本分、週刊漫画なら約7冊分! 小玉のスイカやお米袋の小さいやつに近いくらいのお肉が、体についちゃったの!」。隼人は「お、おう、それはそれは…」としか返せない。
そのあと隼人は、森のアドバイスを思い出しながら春希の髪に触れる。「無理なダイエットすると、栄養が足りなくなってパサパサになるって言うよな」から入って、「応援してるから、無理せず焦らず頑張れ」と頭を撫でた。
さらに「あ、その、なんだ、癖になるくらい心地いい髪だな」まで言ってしまう。春希の「そ、そう? これからもお手入れ頑張る」という返しが、優等生モードでも幼馴染モードでもない、素の温度になっているのが良かった。
「いい子の二階堂春希は誰かと付き合っちゃダメなんだよ」
我に返った春希が慌てて距離を取ると、隼人は「毒牙も何も、月野瀬に同世代の人はほぼいない! せいぜい、姫子の他には羊か猫しか!」と弁解した。「姫ちゃんにやったんだ!」と突っ込まれるあたりまでは、いつもの調子である。
ところが春希の口から出てきたのは、そこから急に落ちる一言だった。「僕はそういう、褒められたりとか甘やかされることに慣れてないんだからね」「特に頭を誰かに撫でられたりとか。もう誰かに撫でられた記憶なんてないしね」。
隼人が「モテるんだろ? 告白されたりして、そういうの言われ慣れているもんだと」と聞くと、返ってきたのは「ないよ、告白されたことなんてない」。そして「されないよう立ち回ってきたからね」。
理由として春希が挙げたのが「スキャンダル」だった。芸能人は誰かと付き合っているだけで大きな問題になる、という話から、「だから私は、いい子の二階堂春希は誰かと付き合っちゃダメなんだよ」へ。ここだけ一人称が「私」に戻る。
隼人の受け取りは「なんとなく言いたいことはわかる。でもその裏にあるものまでは、7年間の空白が邪魔をして読み取れない」だった。読み取れないことを自覚しているぶん、この回の隼人は鈍いというより、届かないところにいる。
沙紀の即レスと、教室に来た海童
「それだけですか?」
献立に詰まった隼人は、姫子に「村尾さんの連絡先とか教えてもらえないかな?」と頼む。姫子の返しは「お兄、さすがにモテないからって妹の友達に手を出そうとするのは…」で、しかも「あの子、お兄のこと基本的に苦手にしてたからなぁ」と釘を刺された。
姫子から沙紀へは「一応アドレスだけ教えとくから、嫌ならスルーしちゃって」と伝わる。沙紀の反応は声にならない「あ、あ、あ、あ…」だった。
届いたのは「村尾沙紀です、何かご用でしょうか?」という素っ気ない文面。隼人がダイエットの相談をすると、「私自身ダイエットをしたことがないのでわかりませんが、ダイエット食事おすすめで検索すれば何かわかりませんか?」と、これまた素っ気ない。ただし返信は「うわっ、返信早っ」と言われるほど早い。
隼人が「そうか、ありがとう」で切ろうとすると、すかさず「それだけですか?」が飛んでくる。そのあと送られてきたのが今年の祭りの衣装の写真で、隼人の「衣装、毎年のことながらよく似合ってる、可愛いな」に対して沙紀が固まる、という流れだった。
文面の素っ気なさと即レスの速さが完全に矛盾している。本人が隠しているつもりのものが、返信速度だけで全部漏れているのがおかしくて、この回でいちばん笑った場面だった。
「二階堂春希には彼氏ができた」
翌日の教室では、その写真を森に見られてひと騒動になる。話は自然と祭りの話題へ流れ、「祭りの楽しみといえば、女の子の浴衣にもあるよな」と盛り上がった。
その勢いで飛び出したのが「てなわけで二階堂さん、浴衣姿を見せてください!」「俺らと一緒に祭りへ!」という誘いだった。春希の返事は聞こえないまま話が変わる。
森が続けたのが「やっぱりさ、二階堂って変わったよな」「とっつきやすくなったというか、以前と違って余裕が出てきたっていうか」。そして「やっぱり女の子の間での噂も本当かもな」と言って明かしたのが、「二階堂春希には彼氏ができた」である。
隼人が「は?」と固まったところで、教室の入口から声がかかる。「二階堂さんはいるかい?」。噂の海童一輝が、春希を訪ねて来たところで第5話は終わった。
「律せよ、乙女」まとめと考察
二人が同時にすれ違った回
今回のサブタイトルは「律せよ、乙女」。誰が誰を律しているのかを考えると、この回の構造がそのまま見えてくる。
春希は自分を律している。告白されないよう立ち回り、「いい子の二階堂春希は誰かと付き合っちゃダメなんだよ」と自分に禁じている。ところが今回、その律が崩れる場面が二度あった。三岳への刺し方と、撫でられて動けなくなったところである。
一方の隼人は、律する以前に自分の状態が分かっていない。春希の好きな相手が海童ではないかと思い込んで一日じゅう険しい顔をしているのに、その理由を自分で説明できていない。
しかも二人の勘違いが噛み合ってしまう。隼人の険しい顔を春希は「自分がやりすぎたせい」と読み、謝る。同じ一日を、互いにまったく別の物語として過ごしているのが今回の面白さだった。
次に見るところ
まず、春希が言った「スキャンダル」の中身である。芸能人を例に出して自分を縛っているのに、隼人には「7年間の空白が邪魔をして読み取れない」。この空白が埋まるまで、二人の距離は理屈のうえでは動かない。
次に、教室に現れた海童一輝がどう動くか。本命が春希だという噂は、女子の間で有名な話として先に共有されているので、春希本人が知らないままの可能性もある。
そして祭りである。沙紀の巫女装束の写真と、森たちの浴衣の誘いが同じ回に置かれている以上、次に大きく動くのは祭りの回だと思う。月野瀬側と都心側が、そこで初めて同じ場所に並ぶ可能性がある。
最後に姫子である。今回は完全に解説役に回っていたが、この子は第3話の時点で春希への感情を言いかけて飲み込んでいる。いちばん先に気づいている人間が、いちばん何も言わないという位置に立ち続けるのかどうかも見どころだ。





















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