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公式副題は第8話「それはずっと、ほしかったもの」。公式のプロフィール欄で瑞佳だけ空いていた「役どころ」の欄が、この回の口上で埋まる。「飛ぶ前に客席を見る」という助言は技術の話ではなく、条件反射だった笑顔に宛先を作る指導だった。そして締めの挨拶で、ずっといたはずの人が自分から新入りになる。




公式のプロフィール欄で瑞佳だけ空いていた欄が、口上で埋まる
公式は四か所で、瑞佳を舞台の外に置いていた
公式サイトのキャラクター欄は、十人とも同じ形式で書かれている(※2)。キャッチコピー、紹介文、プロフィール、座右の銘、そして観客への一言。そのうち瑞佳だけが四か所でずれている。キャッチコピーは「我が道を行く、サーカスの天才」で、他の九人に入っている役どころ(「空中ブランコの花形」「ドジっ子奇術師」「曲芸師」など)が入っていない。紹介文にも担当の記載がない。座右の銘は「触らぬサーカスに祟りなし」。
極めつけが観客への一言だ。「きっと、みなさんにすごいサーカスをお見せします。あ、わたしは出ませんけどね?出ませんよ?」。放送前から、公式が本人の口で自分を舞台の外に置いていたことになる。
口上が「キャッチャーの瑞佳」と読み上げる
第8話の口上はこうだ。「いよいよ本日の大取でございます」「ありますのは絢爛華麗な空中ショー」「フライヤーはテレビ新聞で絶賛されている」、そして「息の合った演技を見せるのはキャッチャーの瑞佳」。「さあ瞬き厳禁。一瞬たりとも目が離せませんよ」と続く。
名前と担当がそろって場内に流れる。公式のプロフィール欄が空けていた二つが、そのまま埋まった形だ。出ませんよ、と自分で書いていた人が、担当付きで呼ばれている。
絵のほうは、ずっと前から立たせていた
公式のペアビジュアルは五枚あり、一番が瑞佳と桜翔の組である(※2)。その絵の瑞佳は舞台衣装で、空中ブランコのバーを両手で握っている。文字の欄では舞台の外に置かれ、絵では最初からバーを持たされていた。第8話は、文字のほうが絵に追いついた回ということになる。
「飛ぶ前に客席を見る」は、笑顔に宛先を作る指導だった
第7話で否定されたのは技術ではなく笑顔だった
第7話でミッチャーが瑞佳に言ったのは「演技に入る時のあの変な笑顔やめなさい」「あんたはその笑顔の意味を、誰のための笑顔なのか理解してないのね」だった。技術の話は一度も出てこない。
あわせて「あんた、サーカスが楽しいって思ったことある?」と聞かれた瑞佳の答えが「できなかった技が練習してできるようになるのは楽しいです」。楽しさの説明に、観客が一人も入っていない。直せと言われていたのは、そこだった。
舞台袖でかけられた言葉は、二人ぶん
第8話の舞台袖では、まず「らしくないね」「静かなところで少し集中した方がいい」と声がかかる。次に隣に座った桜翔が「瑞佳っぽくないね」と言うと、瑞佳が「雫さんにも言われました」と返すので、先の声の主が誰だったかがそこで分かる作りになっている。
瑞佳の告白は「正直、こんな不安な気持ちになるの初めてです」。桜翔の返しが「大丈夫。あなたならうまくやれる」、そして助言が「飛ぶ前に客席を見る」。「本当にそれだけでいいんですか」と聞き返す瑞佳に、「あとはいつも通りに」「私を信じて」「今日あなたは今までで一番の演技をする」。
これまで作戦を立てて団を引っ張ってきた側が、指示を信じるだけの側に立っている。第3話で演目を全面変更させ、第4話で浜辺の手品ショーを勝手に開き、第5話で双子の姉から特訓を頼まれたのは、どれも瑞佳だった。第7話の「だったら私たちが連れて行く」から、役割は入れ替わったままである。
一本目で偽物を押さえ、二本目で本物が出る
演技中に入るやりとりは短い。「観客席を」「はい」「見る」。ただし効いたのは一度ではない。一本目の空中ブランコで、瑞佳はいつもの作り笑顔が出そうになり、自分の手でそれを押さえる。第7話でミッチャーに「やめなさい」と言われたことを、まず物理的に止めた形だ。そのうえで客席へ目を向ける。
変わるのは二本目である。そこで出てくるのがそれまで一度も見せていない種類の笑顔で、演技も最高に噛み合う。順番が丁寧だ。先に偽物を止め、客席を見て、それから本物が出てくる。助言が指定していたのは体の使い方ではなく目を向ける先で、笑顔そのものは前から出ていたのだから、足りなかったのは宛先のほうだったことになる。
それでも完成はしていない。演技のあと、瑞佳は「ちゃんとお客さんに手を振りなさいよ」と促されるまで動かない。見ることは教わったが、返すことはまだ習っていない。
第7話の「私の方でも動いてみる」の中身が、客席の一角にいた
動いたのは客足ではなく、審査する側だった
第7話でミッチャーは、麻利亜との紅茶の場で「公演の件、私の方でも動いてみるわね」と言い残していた。第8話の序盤で、その中身が客席から出てくる。「厳しい客入りですね」に返るのがこうだ。「ミッチャーさんのおっしゃる通り、我々キルクスコレクション協会は皇グループを特別扱いしてしまっている」「もちろん相応の実力があるからのことだが、ミッチャーさんから少々厳しい言葉をいただいた」「受け止めなければならんな」。
そのうえで「その彼にこの公演は見る価値ありと言われれば、興味ありますね」「だな」。ミッチャーが動かしたのは客足ではなく、大会を運営する側の目だった。
同じ相手に、言える人が言うと届く
第7話で麻利亜は、公演地を奪われた件について問い合わせても「相手が大きすぎて取り合ってくれなかった」と言っていた。同じ協会が、外から来た演者の一言では姿勢を改めている。ひまわりに足りなかったのは実力ではなく、その一言を言える人だった、という書かれ方をしている。
第6話で「才能ないわよ」と切り捨て、第7話で「あの子を導けるのはもう私なんかじゃない。あなたたちに任せたい」と手を引いたように見えた人が、いちばん効く場所に、一言だけ置いていたことになる。
七海が予定を破って、父の技を先に出す
敵情視察という名の、招待
ブルーローズの公演に、ひまわりの面々が出向く。「あの、変装って必要?」「一応敵情視察ですよ」「招待されたんだから堂々と入ろうよ」「でも罠かもしれませんよ」「なんの?」というやりとりが軽く流れるが、招待されている、という一言が置かれているのが後で効く。
客席から見上げた感想は「人気あるね、さすがブルーローズ」「あのブランコの形」「一つ一つの演出が洗練されてるね」。そして口上が「客演としてキャッチャーを務めるのは、あの伝説の」まで進んだところで演目が始まる。フライヤーが七海、キャッチャーがミッチャーという組み合わせだ。ひまわりがこの日に見せたのは桜翔がフライヤーで瑞佳がキャッチャー、つまりまったく同じ配置の上位版を、続けて見せられている。第6話で瑞佳に「才能ないわよ」と言った伝説のキャッチャーが、自分でその位置に入って見せた回でもある。
「ただの気まぐれです」
七海は終始厳しい顔のままロータスブロッサムを飛び、成功させる。演技のあと、七海に向けて「よくやったわ、お見事」と声がかかり、続けてロータスブロッサムは本選まで取っておくはずではなかったのか、と問われる。七海の答えは「ただの気まぐれです」。返ってくるのが「完璧を求めるあなたが感情で動くなんてね」「もしかしてあの二人の演技を見てメラメラ来ちゃったのかしら?」で、七海は「別に」とだけ言う。
つまりひまわりの公演を、皇の側も見ていたことになる。そのうえで七海は「あなたのおっしゃる通り、中途半端な演技をお客様に見せてしまったわ」「まだまだ未熟です」と自分で採点する。招待し、予定を前倒しして最大の手を出し、それでも未熟だと言う。第7話で皇の狙いが瑞佳ではなく桜翔だと明かされていたことを思い出すと、この一手は勧誘の続きに見える。
桜翔は「諦める」と口に出してから、諦めないものを数え直す
憧れの技が、先に他人の手で完成する
桜翔がロータスブロッサムに憧れて演者を目指したことは、第6話で本人が語っていた。「飛ぶ時はいつもあの演技を頭の中に描いてるの」。第8話でその技は、目の前で完成形として披露される。
帰り道の言葉はこうだ。「まさかロータスブロッサムを繰り出してくるなんて」「あれはもともとブラックロータスとミッチャーのために作られた演技」「それを女性の七海さんが成功させるなんて」「私がいつか再現するって思ってたのにな」。声をかけられると「うん、分かってる」「仮に再現できても私たちじゃあの完成度には届かない」「技術も体格も劣る今の私たちじゃ」と続ける。
諦める対象を、技の名前だけに絞る
そして「小さい頃からの夢だったんだけどな」「しょうがない」「諦める」「ロータスブロッサムは諦める」と言い切る。ここで止まらないのが第8話だ。すぐ続くのが「七海さんに力で及ばなくても」「ミッチャーさんより筋力が劣っても」「ロータスブロッサムよりももっとすごくて、お客さんが圧倒驚くような、私たちに合った技を作る」。
捨てたのは技の名前だけで、その技で果たすはずだった目的は一つも捨てていない。設計まで具体的だ。「私たちにはあの二人みたいな筋力はないけど、でも軽さと体のバネなら、こちらの方が上かもしれない」「私たちの有利を何とか生かせる演技を」。第3話で瑞佳が言った「設備も体制も宣伝力も全部向こうが上。おそらく実力も。なら少し無茶でも勝てる手段を取らないと」と、同じ形の考え方である。瑞佳の思考法が、桜翔の口から出てきている。
誘う言葉が「ワクワクしよ」になる
桜翔の言い分の核は技ではない。「私はサーカスが好き」「打ちひしがれても先を越されても、どんどん好きになる」。そして瑞佳を巻き込むときに使うのが「ワクワクしよ」「ほらワクワクするでしょ」だ。第7話でミッチャーが確かめたのは「あんた、サーカスが楽しいって思ったことある?」だった。同じ問いを、桜翔は問いではなく誘いの形で出している。
締めが「私とあなたならできると思わない?」「よろしくね瑞佳」「これからもずっと」。この時点の瑞佳は、まだ公演が終わったら出ていく予定の人である。これからもずっと、のほうが先に出ている。
まとめ──芋しか無かった食卓が宴になり、ずっといた人が新入りになる
一日目の食卓と、最終日の食卓
この回は食卓から始まる。並んでいるのはジャガイモの炒め物、ふかした芋の芋ソースがけ、蒸した芋と潰した芋の和え物。「これおいしいわ」「これもおいしい」と一皿ずつ褒めていって、最後に出てくるのが「やっぱり芋ばっかり」だ。
公演が進むと、ひまわりのテントは席が埋まり、外には入場を待つ客の行列ができる。公演が終わると、団の会計を預かる凛の報告が「ブルーローズの集客には及びませんでしたが、うちとしては過去最高の客入りでした」「十分すぎる黒字です」。第7話の引きが「風前の灯火ってやつだな」だったので、二話で反対側まで来たことになる。宴の席は浴衣で、フランソワの前にも野菜と西瓜が積まれている。
締めの挨拶を振られて、話が変わる
宴では手柄の言い合いが始まる。「私とお姉ちゃんとフランソワの演技、最高に盛り上がったよね」「お客さんの笑顔でいっぱい」、奇術の大仕掛けを組んだ側からも「すごい盛り上がったぞ」と声が上がり、伊万里が「ちょっと頑張りました」と続く。そこへ麻利亜が「あんたたち、今回の公演みんな本当によかった。それだけ言いたくて」。返ってくるのが「調子に乗るなって怒られるのかと思った」「麻利亜が素直に褒めるなんて」「うさんくさいな」で、褒め方まで疑われている。
やがて「そろそろお開きですかね」「あれ、麻利亜は?」「締めどうするんだよ」となる。団長が席にいないので、締めが瑞佳に回ってくる。理由が「今回の一番の功労者は君だしね」だ。
立った瑞佳が言いよどんでいると、団員のほうが先に話を進めてしまう。「今日で最後なんだから」「この客入りなら瑞佳の借金返済も確実」「これでこの団ともおさらばだろ」「最後に素晴らしい演技だった」「あの姿、僕たちは忘れないよ」「さようなら」。借金が返せることが、この団を出ていくことと同じ意味で扱われている。第6話で麻利亜が「あの子には悪いけど、サーカスをやる理由として、借金は利用させてもらう」と言っていた、その理由が消える日でもある。
副題の「もの」は、舞台でも技でもない
瑞佳の切り出し方は歯切れが悪い。「あの、もしみんながよかったらですね」「もう少し一緒に」「この公演中、本当に楽しくて」「今までずっと拒否しておいて、こんなことを今更言うのもですね」。しびれを切らした側が「まどろっこしいな」「要するにここでサーカスを続ける気になったんだろ」とまとめ、瑞佳が「はい、お願いします」と返す。
第7話で明かされた幼い瑞佳の言葉は「私が立ちたいのはロータスサーカスの舞台なの」「みんなと一緒に立ちたいんだよ」「みんなと一緒じゃなきゃ嫌だ」だった。欲しかったのは舞台そのものではなく、みんなと一緒に、のほうである。第8話で手に入るのは技でも大会でもなく、自分から「もう少し一緒に」と言える場所だ。
そして祝杯の場で瑞佳に飛んでくるのが「お酒持ってきて」「私がですか」「新入りだろ」。ずっといたはずの人が、この日から新入りになる。居場所は与えられるものではなく、自分で名乗って入るものだ、という落とし方をしている。
鼻歌の先に、階段がある
最後の一言は「ついでに麻利亜さん探してきてね」。宴のあいだ、団長だけが席にいない。使いに出た瑞佳は鼻歌を歌いながら旅館の廊下を歩く。第7話まで舞台の上でさえ笑顔が作り物だった人が、誰も見ていない廊下で鼻歌を歌っている。この回でいちばん機嫌のいい絵が、観客のいないところに置かれている。
その鼻歌のまま階段まで来て、階段下の廊下に、涙を流して倒れている麻利亜を見つけるところで幕が下りる。ほしかったものを手に入れた日に、その場所を作った人のほうが倒れている。公式のあらすじは「空中ブランコに乗り込むのだった」で終わっていて(※1)、ここまでは一行も書かれていない。
出典
※1 TVアニメ「グロウアップショウ ~ひまわりのサーカス団~」公式サイト STORY EP.8「それはずっと、ほしかったもの」(副題・あらすじ)公式 STORY
※2 同 CHARACTER(キャッチコピー・紹介文・座右の銘・観客への一言/ペアビジュアル)公式 CHARACTER




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