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高校三年生になり、受験の夏へ向かう回である。公式アカウントはこの回の出来事を、山田と西は「初めてのお家デート」、谷と鈴木は「二度目の夏まつり」、平と東は「二度目の曲がり角」と並べている。初めてはひとつだけで、あとのふたつは二度目だ。ところがこの回でいちばん距離を詰めたのは、いつも言葉を引っ込めてきた西で、いちばん揺れたのは、これまで迷って見えなかった谷だった。進路の回でありながら、決まったのは進路ではなく、誰が誰に礼を言うかの向きである。鈴木の不安に答えたはずの谷が、その場で「ありがとう」と言う。礼を言ったのは、迷わされた側だった。




公式が並べた見出しが、この回の設計図になっている
公式サイトの第20話あらすじ(※1)は一文だけである。高校3年生になり、進路に揺れる一同。受験勉強に追われ、鈴木は谷と会える時間の少なさに寂しさを覚えていたが、谷もまた自分の進路に迷いを抱き始めていた、と書かれている。鈴木の寂しさから入って、最後は谷の迷いに着地する。公式の一文の時点で、この回の重心は鈴木ではなく谷に置かれている。
「初めて」はひとつ、「二度目」はふたつ
放送後に公式アカウントが出した視聴御礼(※2)は、三組の出来事を三行で並べている。山田と西は「初めてのお家デート」、谷と鈴木は「二度目の夏まつり」、平と東は「二度目の曲がり角」。三組のうち、初めてを迎えたのは一組だけで、あとの二組には同じ「二度目」がついている。
この並べ方は、各パートの動き方にそのまま対応している。初めての場所へ行った山田と西は、この回で関係の段階をひとつ上げる。残る二組は前に進むというより、去年と同じ場所に立って、去年と違う顔をしている。
二度目は、同じ場所で違う顔をするためにある
夏まつりの場面で、鈴木は「去年のお祭りと全然雰囲気違うね」と口にする。祭りそのものは去年と同じで、浴衣も着てきている。違うのは二人が受験生になっていることだけだ。同じ行事をもう一度置くと、変わったのが行事ではなく人のほうだと分かる。
平と東の曲がり角も同じで、別れ際に立つ場所そのものは変わっていない。変わったのは、そこで何を言えないかである。
西の「貪欲」は、引っ込める人の中にだけある
カメラを出せなかった人が、写真を配りに来る
前回の水族館で、西はカメラを持っていきながら最後まで出せなかった。今急に大きなカメラを取り出したら自分だけ本気すぎる感じになる、というのがその理由だった。
今回の西は、体育祭で撮った写真をプリントして山田の家に持ってくる。撮ることをためらっていた人が、撮った結果を配って回っている。しかも自分たちの分だけでなく、赤団に写っていた友人たちの分まで用意して、機会があれば渡しておいてほしいと頼む。
応援団に出た山田から参加すればよかったのにと言われて、西は、毎年見るのが楽しみなのでその一部になるのは違う、と答える。見る側でいたいという立場は変わっていない。変わったのは、見た結果を人に渡せるようになったことだ。
家でも「けんたろうくん」。呼び方の話が、顔の話に変わる
前回、山田は西を下の名前で呼び始めた(※3)。今回はその逆が起きる。西は山田を下の名前で呼び、家族の前でもその調子が変わらないことに気づいて、家でもけんたろうくんなんだね、と言う。
呼び方の話が、そのまま「顔が変わらない」という話に接続するのがうまい。西のほうは出かける前、家族から誰と遊ぶのかと聞かれて「高校の同級生」とだけ答えている。茶化されたくないから言わない、という選び方をしている。
山田の返しは、俺、奈津美ちゃんといるとき結構カッコつけてるつもりなんだけど、だった。本人は変えているつもりの顔が、相手にはまったく変わって見えていない。正反対なのは性格だけではなく、自己申告と見え方のほうでもある。
取り繕う自分と、自分から踏み出す自分
この回の西の独白は、いつもどう思われるか気にして尻込んでばかりのくせに、山田といるときの自分は自分でもびっくりするぐらい自分勝手で貪欲だ、というものだ。実際、この日のキスは西のほうから、不意打ちで来る。
引っ込める人が、恋愛の場面でだけ前に出る。人目をいちばん気にする人物が、この回でいちばん距離を詰めたことになる。正反対なのは君と僕だけではなく、同じ人物の中にもある、という使い方だ。
二度目の夏まつりで、礼を言ったのは谷のほうだった
「夢がない」を、鈴木は欠点として差し出している
受験勉強が本格化して、鈴木は谷と会える時間が減ったことを気にしている。会えなくて寂しい度は自分のほうが高い気がする、という言い方をする。友人からは、それは寂しさの差ではなく受験への集中度の差ではないか、と返される。
夏まつりで、鈴木は志望校の話を切り出す。将来の夢もなりたいものも特にない。だからこそなるべく先の選択肢を増やすために大学に行きたい。そう言ったあとで、そんな感じでもいいのかな、と付け足す。
決めていないことを、鈴木は自分の欠点として差し出している。夢がある人のほうがまっすぐ道を進んでいる感じがする、とも言う。名前は挙げていないが、その基準に当てはまるのは目の前にいる谷である。
その道を選び取ったんじゃなくて、その道しか見てなかっただけ
谷の答えは、目標があってもなくても進学はゴールではないから、今完全に決める必要はない、というものだった。相手を安心させる言葉として過不足がない。
ところが直後の独白で、谷は自分の進路をこう振り返る。父親が学校の先生で、小さい頃から自然と、気づいたらそうなりたいと思っていた。その道を選び取ったんじゃなくて、その道しか見てなかっただけだ、と。
そして、この一年だけでも触れてこなかったものや見逃していた景色に気づかされてばかりなのに、道を一つに絞れるほど自分はまだ何も知らない気がする、と続く。羨まれていた側が、実は選んでいなかったという告白である。
ありがとう。何を。迷いができた
この回の核心は、そのあとの三往復にある。谷が「ありがとう」と言い、鈴木が「何を?」と聞き返し、谷が「迷いができた」と答える。
相談したのは鈴木で、答えたのは谷だ。それなのに礼を言うのは谷のほうである。決めていないことを欠点として差し出した側が、決まりすぎていた側に迷いを渡した。
前回の谷は、鈴木を安心させておきながら、直後の独白で本当は自分のほうが不安だと裏返していた。言葉と本音がずれているという構図は同じだが、向きが逆になっている。前回は隠すためのずれで、今回は認めるためのずれだ。公式あらすじが最後に谷の迷いを置いたのも、ここへ着地させるためだろう。
「いやいやいや」が、東から平へ渡っている
前回と同じ形の否定を、今度は平がやる
前回の東は、自分の気持ちを名前で捕まえようとして、寂しい、悲しい、悔しいと三つ試し、どれも当たらないまま終わった。その手前で一度、付き合いたい、というところまで行きかけて、自分で打ち消してもいる。
今回、同じ形の独白をするのは平のほうだ。校内選考の結果を待つ落ち着かなさの中で、急に他人が羨ましく思えたり、ちょっとしたことで気分が浮いたり沈んだりする自分に気づき、こんなんまるで、と言いかけて「いやいやいや」「絶対違うから」と自分で潰す。
公式が二度目の曲がり角と書いたのは、場所のことだけではないだろう。同じ角を、今度は反対側から曲がっている。
相手が誰なのかを、本編は言っていない
注意したいのは、平の独白が誰について語られているのかを本編が明示していないことだ。直前にすれ違った相手の話が挟まり、直後に東と鉢合わせる。並び順は置かれているが、答えは置かれていない。
この作品はここを急がない。前回の東も結論を出さず、考えるのをやめようで止めた。名前をつけないまま二話続けて置いているのは、意図的な保留だと思う。
計算して申し込んだ側が落ち、腕章が欲しかっただけの人が通る
平の指定校推薦は、思いつきではない
平の指定校推薦には、下ごしらえがある。評定は前もって稼いであり、特待に受かれば学費が安くなるという計算もある。第一志望は公立だと言っていたのに、早くこの勉強生活を終えたいという本音も出てくる。
決定的なのは、とにかく俺はなるべく家に金を頼らん方向で、地元から離れて、という一言だ。進路の話をしているのに、内容は家の話になっている。
その平が、谷にだけは指定校のデメリットを並べて聞かせる。受験が早く終わる分だけ周りから恨まれる、入学後も何かあると高校に報告がいく。あとで本人は本気ではないと言い、谷は自分の意見を曲げるタイプではない、とも言う。ライバルを減らしにいったのか、単に確かめたかったのか、そこも明示されない。
本田の動機は、指定校ではなかった
対照的なのが本田である。生活委員に立候補するのがやたら早かったのは指定校のためかと聞かれて、一度でいいから制服に腕章をつけてみたかっただけだと答える。本当は風紀委員がよかったが、この学校にはないから、とも付け足す。
そして推薦枠を勝ち取るのは、この本田のほうだ。評定を計算して申し込んだ平が落ち、腕章が欲しかっただけの人が通る。本田は以前にも、実際の自分より優しそうに思われるのが嫌いだと言っていた人物で、動機を良く見せないという一貫性が、ここでは結果の形で効いている。
谷はというと、いったん申し込みかけて、やっぱり出さないと決める。平の言葉を気にしたのかと聞かれても、関係ない、僕自身の選択だ、と答える。迷いができたと言った人が、この回でいちばん早く一つ決め切っている。
次回の見どころ(予想)
第21話の公式あらすじは、この記事を書いている時点では公開されていない。以下は放送済みの範囲から導ける予想である。
平と東は、受験を口実に会う形になった
平は自分から多分選考に落ちると言い、東に自習室の開放日を尋ねる。推薦なら要らないだろうと言われた側が、自分から教えてくれと言いに行った形だ。二人の勉強生活はまだまだ続く、というナレーションも入る。受験を口実に一緒にいる時間が増える形になったので、次はその距離の詰まり方が描かれるのではないか。
谷の「迷い」は、この先どこへ行くのか
谷のほうは、迷いができたところで終わっている。夏まつりの帰りに迷いを手に入れた人が、その迷いをどう扱うのか。安心させる側だった谷を、鈴木が心配する側に回る展開もありうる。
まとめ。「この先」は、決めることではなく決めないでいること
進路の回だが、この回で進路が決まったのは本田だけだ。平は落ち、谷は自分から降り、鈴木は選択肢を増やすほうに留まった。決まらなかったことを、失敗としては描いていない。
副題の「この先」は、先を決めることではなく、先がまだ決まっていない状態のほうを指しているように見える。谷の「迷いができた」は、その状態に入れたことへの礼だった。いちばん決まっていた人が、いちばん決まっていない人に礼を言う。三年生の一年を描く入り口として、これ以上のものはない。
出典
※1 公式サイト STORY 第20話「この先」あらすじ『正反対な君と僕 第2期』公式サイト STORY 第20話
※2 アニメ公式アカウントの第20話視聴御礼ポスト(本文中に埋め込み)『正反対な君と僕 第2期』公式サイト
※3 公式サイト STORY 第19話「グラデーション」あらすじ『正反対な君と僕 第2期』公式サイト STORY 第19話




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