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住民すべての命が懸かった最大の激戦、と公式が予告した回で、アリヒトは一度も自分の手で名前付きを倒していない。彼が最初に取ったのは、前に出ることではなく逃げ込める場所を用意することだった。止めを刺したのも、彼が支援した別の探索者である。戦いのあとに加わったのは、自分では迷宮に潜れないから初心者に安く武器を売っていた商人だった。第8話「狂奔騒然の街」は、題名にある「後衛」が何を指すのかを、いちばん分かりやすく並べた回である。




戦うより先に、逃げ込む場所を作った
魔物が溢れた理由を、ギルドが自分から明かす
街に魔物が現れるという異常事態のなか、ルイーザは開口一番「私どもの手落ちです」と頭を下げる。ある迷宮で討伐数が極端に落ちていたのに対策が遅れ、迷宮が溜め込んだ魔物を一気に吐き出した。それがスタンピードだった。迷宮は内部の環境を保つために、増えすぎた魔物を排出することがあるという設定が、ここで初めて置かれる。
守備兵も手一杯ですぐには来られない、という説明も同時に済まされる。つまり街を守る人手が足りていない。この作品はいつも、戦いが始まる前に「なぜそうなるのか」を制度の言葉で説明してから殴り合いに入る。第3話の探索者貢献度も、第5話の箱屋という職業も、第6話の士気も同じ順番だった。
結界を、戦うためではなく逃げ込むために使う
アリヒトがスズナに頼んだのは、攻撃技能ではなく結界だった。張られた結界の中を「戦えない人たちの避難場所にしてください」と差し出し、さらに移動しながら道中の建物にも結界を重ね、安全地帯を増やしていく。
スタンピード発生時に限ってライセンスの地図が街全域の魔物の位置を映す、という仕様もここで解禁される。曙の野原の入り口付近に大きな群れがあり、その中央に名前付きらしき影がある。敵の位置が見えるようになった直後に決めたのが、まず逃げ場を作ることだったのが、この回のアリヒトらしい。
配置はスズナが安全地帯づくり、ミサキがその護衛、エリーティアと五十嵐が前線、テレジアが遊撃。リーダーだけが最後尾に残る形で、街全体を一つのパーティー戦のように組み直している。
後衛は、殴られるまで手が出せない
敵を引きつける役がいないと、支援は始まらない
戦闘に入る直前、アリヒトは「向こうが攻撃してこないと手が出せない」とこぼす。後衛の支援は、前に立つ味方が攻撃を受けて初めて成立するからだ。第3話で示された「同じパーティーでないと支援が届かない」に続く、二つ目の縛りである。
だから五十嵐がデコイを使い、エリーティアに敵を引きつける。前衛がわざと殴られに行くことで、ようやく後衛の仕事が始まる。強い支援職であるほど、仲間が危険にさらされている時間が長い、という構図がこの回では何度も繰り返される。
眠りの歌は、その仕組みをまっすぐ突いてきた
そこへ現れたのがデミハーピィだ。技能は眠りの歌。攻撃を受ける前に前衛が眠ってしまえば、後衛の支援はいつまでも始まらない。「もう一度眠りの歌を使われたら全滅しかねない」という判断は、単に敵が強いという話ではなく、パーティーの仕組みそのものを止められるという意味だった。
窮地を救ったのはファルマである。眠りを防ぐ手立てを持ち込み、さらにアリヒトが戦っていることを察して駆け出したシオンを預けにくる。ここでもアリヒトはライセンスを受け取り、シオンをパーティーに入れてから支援を通した。助けるためにまず編成をいじるという第7話のやり方が、そのまま危機に流用されている。
危機を抜けたあとにアリヒトが口にするのは、「状態異常を想定できていなかった」「俺の甘さのせいでみんなを危険に」だった。負けかけた原因を、敵の強さではなく自分の設計ミスとして数えている。ちなみに捕らえたデミハーピィは、ファルマの案で魔物牧場へ預けられる。調教できる魔物を飼っておけば、後々は召喚して戦力にできるという。倒した敵が次の手札になる仕組みまで、この回で一つ増えた。
名前付きを倒したのは、アリヒトではない
「俺が今から支援する相手を守ってくれ」
名前付きとの戦いで、先に戦っていた別の探索者が魔力切れで動けなくなる。このときアリヒトが選んだのは、自分が前に出ることではなかった。「俺はあの人を……助けたい!!」——公式があらすじに引いたこの台詞のあと、彼が仲間へ出した指示は「俺が今から支援する相手を守ってくれ」である。
助けたい相手を、自分で殴って助けるのではなく、その人が戦えるようにして助ける。支援は同じパーティーでないと届かないという縛りが、ここでは「助ける=仲間に入れる」という手順に変換されている。第7話でシオンが絡まれたときにやったことと、規模だけが違う同じ手だ。
加護は「誰かを救いたいと願うなら」に応えた
支援防御が防ぎきれない場面で発動したのが、第6話で信仰を選んだアリアドネの加護だった。信仰者とその盟友に加護を与える、あなたが誰かを救いたいと願うなら応えよう——という条件が、アリヒトが自分のためではなく他人のために踏み込んだ瞬間に噛み合っている。
第6話でアリアドネは「あなたたちの身が危険なときは、加護という形で手助けしよう」と約束していた。自分を「はずれ」と定義し、権能の大半を失っていると言っていた存在の力が、二話またぎで街ひとつを救う場面に届く。あのとき彼女を選んだ理由が「こうして会話もできているしな」だったことを思うと、回収の仕方としてはかなり気持ちがいい。
助けた側と助けられた側が、最後に入れ替わる
戦いのあと、助けられた探索者は「いつの間にか助けられる側に回っちゃったんだよ」と笑う。対してアリヒトは「最初に熱線を防いでもらわなかったら今頃俺は蒸発してましたよ」と返す。どちらも自分のほうが助けられたと言っているのが、この回の一番きれいなやり取りだった。
ドロップした混乱石から、あの敵の特殊攻撃には混乱もあったと後から分かる。使われていれば同士討ちは避けられなかった。勝因の一部は使われる前に決着がついたという運でもあると、作品自身が種明かしをしてしまう。強敵を倒した高揚をそのまま持ち帰らせないところが、この作品の律儀さだと思う。
マドカは、アリヒトと同じことをしていた人だった
公式のキャラクター紹介が、そのまま今回の中身だった
公式サイトのキャラクター紹介で、マドカは「戦闘は得意ではないが、商人組合に加入しており、八番区の加盟店と連絡を取ることができる」「普段は探索初心者のために、格安で武器を販売している」と説明されている。第8話は、その二行をそのまま一話ぶんの話にしたような回だった。
本人の口からも、最初はレベルを上げて技能を身につけたかったが最初の迷宮ですらろくに潜れず、せめて自分にできることをと初心者へ安く武器を譲っていた、と語られる。自分では潜れないから、潜る人を強くしていた。それはアリヒトが後衛としてやっていることと、まったく同じ形である。
「私もまだレベル2だよ」で並んでみせる
店を魔物に潰され、「何もなくなっちゃいました」と座り込む彼女に、アリヒトはパーティー専属の商人にならないかと持ちかける。断る理由として出てくるのが「でも私まだレベル2で」で、それに返ってくるのが「私もまだレベル2だよ」という一言だった。
誰の声だったかは画面を見ないと決められないが、言葉の効き方ははっきりしている。足りないことを慰めるのではなく、同じ位置に立ってみせる。この作品の勧誘はいつもこの形で、第7話でメリッサを誘ったときも、父親の同意より先に本人の希望を確かめていた。
第7話でライカートンが置いた宿題が、ここで解ける
第7話でライカートンは、自分の店では鑑定ができないと断ったうえで「鑑定の技能を持っている方は、パーティーメンバーに一人いたら便利ですよ」と言い残していた。そしてアリヒトが勧誘の理由に挙げたのが、アイテムの購入や鑑定を頼めるメンバーが欲しかったということだった。一話またいで、宿題と答えがきちんと並んでいる。
加入したその日のうちに、マドカは商人組合の特権で加盟店と連絡を取り、素材加工の相見積もりまで出してみせる。店を一軒ずつ回らなくていい、と仲間が驚く場面まで含めて、戦えない職業が、戦いの後片付けで一番早く役に立った。第5話で「鑑定が終わってから装備してくださいね」と釘を刺されていた問題も、これで自前で回せるようになる。
無試験で上がれるのに、試験を受けにいく
近道を断る理由
ギルドの評価は破格だった。貢献度が非常に大きいため、無試験で七番区の序列に組み入れるという。事実上の飛び級である。ところがアリヒトの反応は「でも無試験っていうのは寂しいですね」だった。
理由は二つある。ひとつは、比較的安全な八番区にいる間にやれることをやってから上がったほうがいいという考え。もうひとつは、以前に出会ったパーティーと一緒に試験を受けたかったという理由で、そちらは早朝から先に試験へ入っていた。七番区の試験は迷宮内での野営が必要で、魔物への対処も項目に含まれる。訓練になるから受ける、という選び方をしている。
エリーティアだけが急いでいる
これに正面から反対したのがエリーティアだった。「どういうつもりなの、わざわざ試験を受けるなんて」「のんびり構えすぎるのは賛成できないわ」と言い置いて、先に休むと席を立ってしまう。
第4話で彼女は、自分にも「一人ではできない」目的があると打ち明けていた。中身はまだ明かされていない。安全を取るリーダーと、時間を惜しむ剣士という食い違いが、初めて仲間内の衝突として表に出た回でもある。街を救って序列も上がった直後に置かれるので、余計に引っかかる。
取った技能は、やはり自分の火力ではなかった
レベルアップでアリヒトが選んだのはアシストチャージ、自分の魔力を使って前衛の魔力を回復させる技能だった。味方の切れた魔力を継ぐための技能で、移動技を使う魔力が足りなくなる場面を想定している。テレジアには鍵開けと罠の解除まで任せられるよう技能を振り、自分の攻撃力は後回しにした。
「そこまで考えて取る技能を選んでくれてるの?」と驚かれても、返事は「まあ、一応」である。強くなる順番が、最後まで自分ではない。同じ夜、五十嵐がメイド服で茶を出しに来るのも、会社にいた頃のことを謝りきれていない、感謝とお詫びをしないと気が済まない、という理由からだった。「なかなか恩返しをさせてくれないのよ」という言葉が、この回のアリヒトへの評そのものになっている。
まとめ|「支援する」が一番よく効いた回
街を守った手は、全部「誰かを立たせる手」だった
振り返ると、この回でアリヒトが打った手はほとんど全部が同じ形をしている。逃げ場を作る、敵の位置を配る、助けたい人を仲間に入れて支援する、切れた魔力を継ぐ、戦えない商人に居場所を渡す。自分が強くなる手が一つもない。
「住民すべての命が懸かった、最大の激戦」という公式の煽りに対して、実際に画面で起きていたのは、その激戦を誰かに戦ってもらうための段取りだった。第6話でアリアドネが彼を「揺るぎなき後衛よ」と呼んだのは、職業の話ではなく性格の話だったのだと、ここまで来ると分かる。
次に効いてくるのは、たぶん焦りのほう
とはいえ、後味は勝利一色ではない。街は守れて序列も上がり、仲間も増えたのに、エリーティアだけが納得していない。彼女の反対はアリヒトのやり方は遅いという指摘で、しかもその理由は本人しか知らない。
全12話のうち、ここまでで八話。残りは四話しかない。いちばん順調に見えるところで一人だけ足踏みを嫌がっている、という置き方をされた以上、次に動くのはそこだろうと予想している。街を救った回の最後に、パーティーの内側へ亀裂を一本だけ引いて終わる。うまい引き方だと思う。
アリヒトを気遣う彼女の優しさ、
本当に素敵だ。メイド姿のキョウカさんを見て、他のパーティーメンバーも「ご主人様」と呼んでアピールしていたけど、テレジアは照れながらも微笑むだけだったのが印象的。さりげない優しさが伝わってきたんだよな。




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