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高熱にうなされる慧月が、火の道術で玲琳に助けを求める。そばへ行けない玲琳が声だけで授けたのは、両手で口を覆い、ひたすら息を吐かせるという手当てだった。落ち着いた慧月に玲琳は入れ替わりの解消を持ちかけるが、一蹴されてしまう。それでも引き下がらず、玲琳は慧月という名に隠れていた「箒星」の話を始める。一方、莉莉のために徹夜で衣を仕立てた玲琳は、「藤黄の衣をまとう莉莉」と口を滑らせた。そして三日後の中元節に向けて、金清佳が牙を研いでいる。




「入れ替わっても私は惨めなのよ」
高熱の中で知った、玲琳の日常
開幕は、玲琳の体で高熱にうなされる慧月である。「息が苦しい」とうめく主に、冬雪は「いつもほどお熱は高くはありませんのに」「玲琳様、それほどにおつろうございますか」と首をかしげる。この一言が、この回すべての出発点になっている。慧月にとっては死ぬほど苦しい熱が、玲琳の周囲では「いつもより低いほう」に分類されているのだ。
続く内心が痛い。「あの女は、こんな高熱を出しながら普通に振る舞っていたというの」「黄玲琳が儀式を休んだことはない」「朱貴妃様だって褒めこそすれ、こんな虚弱だとは言ってなかった」。奪ったはずの体は、憧れていたものとまるで違った。そこから絞り出されるのが「入れ替わっても私は惨めなのよ」である。
この独白が、恨み言ではなく「助けなさいよ。私を助けなさい」という命令形で終わるのが効いている。この人は、助けを求めることすら命令の形でしか言えない。悪女の強がりというより、そういう言い方しか教わらなかった人の話に見えてくる。
「あくまでも私は、黄玲琳なのですよ」
場面は、慧月の体にいる玲琳へ移る。莉莉が「私、雅容様に簪を返してきます」と言い出し、玲琳は「いいえ莉莉、私が落とし前をつけてまいります」と止めるが、莉莉は「私に行かせてください」と譲らない。送り出す間際の「今のあんた、納屋の害虫を大量虐殺したときと同じ、めっちゃ怖い顔してるよ」が、この二人の距離をひと言で見せてしまう。
一人になった玲琳の独白が良い。「金家の清佳様が嫌がらせを命じたなんて。誇り高くて潔い方だと思っていたのですが」と驚いたあと、相手を責める方向へは行かない。「私は自分の体調を整えることに必死で、皆様と心から交流ができてはいなかったのかもしれませんね」と、まっすぐ自分に返している。
そこから健康な体への感嘆が続く。「気を張らなくても失神しない、興奮しても息切れしない」。だが浮かれかけた自分を、皇后に見られたら呆れられてしまうと引き締める。回想で響くのは「玲琳よ、我々が雛女に求めるものはただ一つ。徳と胸に刻むがいい」という言葉と、「陛下はただ、根性があるという理由だけで私を雛女に選んでくださったのですから」という玲琳自身の受け取り方だ。
締めが「しっかりしなくては。これは慧月様のお体なのです。あくまでも私は、黄玲琳なのですよ」。体は明け渡しても名乗りは手放さない、という宣言である。この短い自戒が、後半で起きるある失言と正面から響き合うことになる。
「私なんかが星だなんて」
両手で口を覆って、息を吐く
火が揺れ、慧月の声が届く。「熱が全然引かないし、息ができなくて、今すぐどうにかしてよ」。玲琳の応答は、慌てて駆け寄る代わりに問い返すところから始まった。「息が、どのようにできないのです」「できないったらできないのよ」。
そこからの手当てが具体的だった。「今は息をうまく吐けていないだけ」と言われて慧月は「吐けてない? 吸えないと言っているのよ」と噛みつくが、玲琳は「体がちゃんと息を吐いていると理解できていないのです」と切り返し、「さあ慧月様、両手で口を覆って」と促す。
「苦しいのに口を覆うですって」と抵抗する慧月への返しが「大丈夫、それだけ話せていますもの」。落ち着いてからは「後ほど、薬棚の左上の九番と十五番の薬を混ぜて吸い込んでください」と、薬の置き場所まで指定してみせた。
この場面で分かるのは、玲琳の知識が書物の上のものではなく、自分の体で何百回も通った道だということである。息ができないと叫ぶ相手に「吐け」と言い切れるのは、同じ苦しさの出口を知っている者だけだ。
慧の字は、箒星の心
落ち着いた慧月の第一声が「あなた、どういう体をしているのよ。ありえないわよ」「こんなひ弱で、ちっとも健康な時がないじゃないの」。玲琳の返事は「申し訳ありません。それが日常でしたので慣れてしまっておりました」だった。謝る側が逆になっている。
そのうえで玲琳が切り出す。「あの入れ替わりは、もう解消なさいませんか」「慧月様にこれ以上その体でご迷惑をおかけするのは忍びなくて」。だが慧月は「冗談じゃないわ。何、親切ぶって有利にことを進めようとしているの?」と撥ねつけ、「それでも誰もが私にかしずいてくれる今の状況は最高だわ」と続けた。
金清佳から見舞いの品が届いたことを、慧月は勝利として受け取っている。玲琳が「それはもしかしたら、あまり素直に受け取らない方が」と言いかけると「負け惜しみ、いい気味だわ」で遮られた。そして自己評価が出る。「美貌も才気もない、誰からも顧みられないドブネズミの朱慧月としてね」。
「その体には雛女に必要な才能が全然ない」「私の親は肝心なものを何一つ与えてくれなかったのだわ」と言い切った慧月に、玲琳が返したのが「素敵なお名前を与えてくださったではありませんか」だった。ここから副題の場面が始まる。
玲琳は、乞巧節の夜に願い事を二つしたと明かす。一つはもちろん健康になりたい、でした、と。そのうえで名前の話へ移った。「慧月様の『慧』の字は、彗星の『彗』。箒星に、心と書きますね」「なんと壮大で美しいお名前でしょう」。
慧月の答えは「言うのよ、バカじゃないの。私なんかが星だなんて」で、直接会って話したいという申し出も「結構。私の体調が回復さえしたら、あなたになんかもう用はないわ」と断ち切られる。注目したいのは、玲琳の「あなた様こそが」が最後まで言い終わらないことだ。ここで言葉が切れるからこそ、副題の「わたくしの、ほうき星」が誰に向けた言葉なのかが宙に浮いたまま残る。
中元節へ、二人ぶんの支度
主人同士で落とし前を
莉莉が戻ってくる。簪は返せなかった。「どれだけ待っても、待ち合わせの場所に来なかったんです」「もしかしたらすでに、あたしを鷲官長に突き出そうと動いているのかも」。玲琳の見立ては冷静で、「だったらとっくに捕らえに来ているはずです」「先方も莉莉と取引を重ねることは危険だと判断して、手を引いたのでしょう」と読む。
莉莉が「あたしもこの件からはこれっきり手を引いて」と幕を引こうとしたところで、玲琳が止めた。「女官同士では決着がつかなかったということなら、主人同士、私と清佳様の間で落とし前をつけるべきではありませんか」。
三日後の中元節に出ると言い出した玲琳に、莉莉は「鷲官長様は出なくていいとおっしゃったじゃないですか」と食い下がる。返ってきたのが「出なくていいということは、出てもいいということです」だった。付き添いがいないという指摘にも「三日もあれば衣をきれいに作れますから大丈夫ですよ。ね、莉莉上級女官殿」と、勝手に昇進させて押し切ってしまう。
動機ははっきり口にされる。「私はね、大切な女官の心の健康を損ねた方に一矢報いねば、雛女として気が済まないのです」。莉莉の「ったく、女官の敵討ちとか。本当、あんた一体誰なんだよ」が、そのまま視聴者の代弁になっている。
「そこは手を取り合ってエイエイオーではありませんか」と真顔で言う雛女に、「夜更けに何言ってるんですか」と返す女官。この温度差そのものが、いまの二人の距離になっているのが楽しい。
尭明が恐れているもの
夜、尭明のもとへ辰宇が報告に来る。刃傷沙汰の件はすでに目を通したと言う尭明に、辰宇が自分の見立てを添えた。「朱慧月は確かに悪女であったのでしょう。ですが、今は変わろうとしている。そう感じました」。
尭明の答えは硬い。「それが誠ならばよいが、玲琳を真似て慈悲の心を演じただけかもしれぬ」「次に玲琳の猿真似をするなら首を刎ねる、とも告げたはずだが」。
そのあとに続く独白が、この回でいちばん危うい。「あれ以来弱っていく玲琳の姿を見ていると、朱慧月への怒りがよみがえってもくる」「玲琳のあの頼りなげな風情を見ると、恐ろしいのだ」「欄干の向こうへ消えていったように」。
尭明が見ているのは「弱っていく玲琳」で、それは中身が慧月だからである。いちばん近くにいる皇太子が、取り違えたまま怒りだけを募らせている。先に「変わろうとしている」と言い当てたのが、距離のある辰宇のほうだというのも皮肉が効いている。
徹夜の縫い物と、こぼれた「藤黄」
朝。目を覚ました莉莉の胸に浮かぶのが「不思議。この人が綺麗に見えるなんて」だった。顔も体も、憎んできたはずの主のままである。変わったのは見え方だけだ。
衣はもう縫い上がっていた。「まさか上級女官の部屋から新しい衣を盗んできたんですか!?」と疑う莉莉に、玲琳は「ちくちく地道に縫っただけですよ」と答える。何時に起きたのかと聞かれ、「夜から朝に転じるほんのひととき、地上が薄青く染まるあの神秘的な様子」と語り出したところで、莉莉が「つまり、徹夜?」「女官の縫い物のために徹夜する雛女がいますか!?」と叫ぶ流れが可笑しい。
それでも莉莉は素直に喜べない。前日、雅容のもとへ向かう途中で朱家の上級女官たちに「素晴らしい赤ネズミさん、どこへ行くのかしら」「ほんと、小汚いわね」と嘲られていたからだ。「別に卑屈になってるつもりはないですけど、上級女官にふさわしい立ち居振る舞いなんて学んだこともないんですよ」。
玲琳が拾ったのは、そこではなかった。「その方々には、ちゃんと莉莉から反撃したのですね」。睨み返して舌打ちまでおまけしたと聞くと、「金糸で刺繍を施して、史上最大に豪華な衣装を仕上げてみせますので、ご期待くださいね」と斜め上に加速する。「ふさわしくない」を「早くふさわしくなりたい」と読み替えて、姿勢改善から経典の暗記まで鍛錬の献立を並べ始めるのだから、莉莉が「なんで上級女官になることが前提になってんだよ!」と叫ぶのも当然だった。
そして事故が起きる。「藤黄の衣をまとう莉莉の姿というのも、本当に素晴らしいことでしょうね」。藤黄は、黄家の上級女官がまとう色である。朱家に仕える莉莉に、その色を思い描く理由は、朱慧月の側には一つもない。「藤黄?」と聞き返され、玲琳は「単なる言い間違い」と流したが、莉莉の中には引っかかりが残った。
場は何事もなかったように戻る。玲琳は自分の衣装を莉莉の粗い朱の衣から仕立てると言い、染色用の花と、切った髪で作った筆まで用意していた。そのうえで交換条件を出す。「あなたは代わりに、私に胡旋舞を教えてくださいませんか?」。莉莉の母は胡旋舞の名手で、莉莉はその舞を見て育っている。
「こたびの儀には向かない舞ですし、私も引き出しを増やしたいだけですので」と、玲琳はあくまで軽く頼む。受け取るばかりでは不甲斐ないと漏らした莉莉に、渡す側の役目をそっと作ってやっているわけだ。施しでは埋まらない引け目があることを、この人はちゃんと分かっている。
「わたくしの、ほうき星」まとめと考察
金清佳だけが知らないこと
最後に置かれるのは金清佳の独白である。「雛女たちが豊穣の舞を披露する中元節は、秋をつかさどる我が金家の領分」。その大事な儀が、朱慧月のせいで忌み払いによって中断し、規模まで縮小された。
だが清佳がいちばん許せないのは、そこではない。「最も許しがたいのは、玲琳様がこたびの儀に出られないとのこと」。殿下の胡蝶と称えられる玲琳を敬い、いつか皇后になられたらともに殿下を支えたいとまで思っている。その玲琳が、朱慧月に突き落とされて以来ずっと伏せっている。
だから清佳は決める。「ドブネズミに時間を割くのも不粋だと放置してきたけれど、もはや我慢ならないわ」。「さ、出ていらっしゃい、朱慧月」で回が終わる。次回の対戦相手が名乗りを上げた形だ。
ここで効いてくるのが、視聴者だけが知っている位置関係である。清佳が敬っている玲琳は寝込んだ体の中にはおらず、清佳が引きずり出そうとしている朱慧月の中にいる。しかも玲琳が儀に出ると決めた理由は、清佳への私怨ではなく「大切な女官の心の健康を損ねた方に一矢報いる」ためだった。守りたいものが噛み合わないまま、二人はぶつかろうとしている。
副題についても触れておきたい。玲琳は慧月の名を箒星と読み解き、「あなた様こそが」と言いかけたところで断ち切られた。その先を言えなかったことが、この回の宿題として残っている。乞巧節の夜に玲琳がした二つ目の願いも、まだ明かされていない。
次回の見どころは三つある。莉莉が母から受け継いだ胡旋舞、徹夜で仕立てられた二着の衣、そして「藤黄」という言い間違い。一矢報いるつもりの雛女と、惨めな目に遭わせるつもりの雛女が、どちらも黄玲琳を大切に思っているというねじれが、そのまま三日後の舞台を作っている。




















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