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公式副題は第8話「通称・怪奇箱男」(※1)。八本の副題のうち、この回だけが片仮名の送りを持たず、中黒を含んでいる。そして中身のほうも、本名を持たない男を追う話であり、岩元自身がかつて「捕獲」された後輩だったと分かる話だった。




副題だけが、名前ではなく呼び名でできている
八本のうち、この回だけ表記の系統が違う
これまでの副題を並べてみる。黒イ雪、縁切リノ鎌、蟲愛ヅル君、屍人伝説ト瓦斯工場、神殺シノ炎、魔女ノ侵攻、残響ノ廃音(※1)。どれも片仮名の送りが混じる、古い書き方をなぞった形だ。作品名そのものが『岩元先輩ノ推薦』で、やはり「ノ」を使っている。
そこへ第8話が「通称・怪奇箱男」で来る。片仮名の送りがなく、代わりに中黒が入る。八本の中でこの形はここだけである。しかも頭に置かれているのが「通称」、つまり本名ではないと最初に断る語だった。
「通称」を公式のあらすじが使ったのは二回だけ
公式サイトの各話あらすじを第1話から読み直すと、「通称」という語が出てくるのは第2話と第8話の二本だけである。第2話は「人々の恨み言が書かれた鎌、通称『縁切りの鎌』」(※2)、第8話は「箱を抱えて旅する男、通称『怪奇箱男』」(※1)。
そしてその二本は、演出が同じ人(吉田俊司)である(※1・※2)。違うのは、第2話では通称が副題にならなかったのに、第8話ではその通称がそのまま副題になったことだ。
公式のキャラクターページにも本名が無い
公式のキャラクター一覧を開くと、この男の項目は「箱男」としか書かれていない。紹介文も「通称・怪奇箱男。“箱を抱えて旅する男”」から始まる(※3)。
同じ一覧に並ぶ他の敵役は、飛沫原建蔵、ネプチューン・ウォーターガン、城戸石英、クリスタル・フレーヴァー、ローズマリィ・ピンクゴールドと、全員が姓名なり二語なりの名前を持っている。名前の欄が呼び名で埋まっているのはこの男だけだ。
ついでに言うと、この回には呼び方の場面がもう一つある。食事の席で「おい、だいぶ残してるじゃないか、天羽」と呼びかけたあと、すぐに「ああ、ごめんごめん、総一郎」と言い直し、「呼び捨てじゃないとすねるんだったな」と続く場面だ。第5話で天羽自身が「俺も呼び捨てでいいんすよ。俺とあんたの仲じゃないっすか」と頼んでいた、その続きにあたる。名前をどう呼ぶかが、この回はずっと画面に出ている。
原作の第8話は、別の副題を持っている
ややこしいのだが、原作コミックスのほうの第8話は「神殺シノ炎」である。公式アカウントが試し読みを出したときの言い方が「天羽登場回、8話『神殺シノ炎』をチラ見せ」だった。
アニメでは同じ副題が第5話に置かれていて、天羽総一郎はそれより前の回から出ている。同じ「第8話」でも、指しているものが違う。呼び名の話をする回で、話数の呼び名までずれているのが妙におかしい。
学長の名前が出てこない回でもある
公式あらすじを見比べると、学長が顔を出すのは第2話から第4話までのあらすじで、第2話は「学長の命により」、第4話も「学長からの命により」と書かれている。一方、第8話のあらすじには学長が一度も出てこない(※1・※2・※5)。
代わりに書かれているのが「その強引な手腕で隔離施設の面々をある怪奇へと誘う」である(※1)。命令ではなく、誘いで動く回だ。誘った側が誰なのかが、この回の中身そのものになっていく。
岩元も、捕獲された後輩だった
第7話で名乗らなかった先輩に、名前がつく
前回の最後に現れて「せっかく俺の推薦を受けた後輩なんだからよ」と言った人物は、その場では名乗らなかった。この回で「奥秋先輩」と呼ばれる。
公式の紹介文は「栖鳳中学四年生。生徒会副会長」、「岩元の先輩であり彼と同じく超常現象を調査している」、「粗暴な振舞いが目立つ人物で岩元とは正反対だが、なんだかんだ仲は悪くない」だ(※4)。劇中でも、学園内外を飛び回って軍の上層部とも通じている人物として紹介される。
後輩が聞きたがるのは「捕獲した時の話」
温泉に着いた後輩たちが奥秋にせがむのが「奥秋先輩、もっと教えてください。岩元先輩のお話を」である。返ってくるのが「お前さんを捕獲した時の話に決まってんじゃねえかよ」で、岩元が「やめてください」と止める。
ここが効く。「捕獲」は、第6話で英国の魔女たちが会合の議題に使っていた語だった。あちらの言い方は「極東の国の能力者調査及び捕獲について」である。同じ語が、この回では味方の先輩の口から、笑い話として出てくる。
推薦する側も、されて始まっている
岩元が後輩に対してやっていることは「推薦」で、公式の紹介文も「多くの能力者を学園に『推薦』しており」と書いている。その岩元が、上には捕獲された側として数えられている。
奥秋の言い方も終始そうだ。「どうせこいつらも一癖も二癖もあるんだろうな。お前の選んだ能力者だろうからな」。選ぶ側の岩元を、選んだのがこの人だったという順番が、後輩たちの前で軽く明かされる。
人の集め方は、まったく似ていない
最初、奥秋はまともに頼んでいる。「ちょっと仲間が欲しいのよ。どうだ、この中で俺に付き合ってくれる奴はいないのか」。誰も乗らず、「そうか」で一度引き下がる。
次に出すのがこれだ。「俺と行く奴この指止まれ。早くしないと、岩元と行く温泉巡り、締め切ってしまうぞ」。岩元本人が「なにそれ」と言う横で、後輩たちが「岩元さんと温泉」で動く。先輩を景品にして人を集めているわけだ。「あなた向きの案件でしょ。私たちが協力する必要は」と渋る声が出ても、「まあそう言うな。このまま来たまえ。いい結果になるからさ」で押し切られる。
もっとも、途中で疑っている者もいる。食事の席で出るのが「あの先輩、隔離施設に今まで近寄らなかったみたいですけど、なんで急に近づいてきたんですかね」という一言で、返るのが「岩元さんは頼りになるからね」だった。この見立ては、終盤でそのまま当たる。
助っ人が、助っ人を十四人要求する
誰も手を挙げないのを見て出るのが「先生は助っ人を用意したと言ってたのに。嘘つかれた」というぼやきだ。そこで岩元が「何人ですか」と聞くと、答えが「十四人」。「多すぎませんか」と返っている。
内訳はあとで分かる。「それぞれの旅館七つに二人ずつ、息のいい奴を配置」で、残る二人、つまり奥秋と岩元が追う。そのうえで「十四人貸してくれてすまんな」と言うので、助っ人として呼ばれた人が、助っ人を十四人借りていくという形になっている。
箱は、手に持つものだと思っていた
温泉に入ることまで作戦のうち
舞台の温泉郷には設定がある。すべての湯に入ると、日本中の温泉地を巡ったのと同じ効能を得られるという触れ込みだ。後輩たちは素直に満喫し、「こんな優雅にやってしまって良いのですか」と気にする者もいる。
岩元が「温泉に入る意味は」と聞くと、返事が「ちゃんとした客を演じなきゃ逃げちゃうかもしれんだろうが」だった。岩元の感想が「自分には思いつかんやり方ですね」である。この二人は、目的が同じでも手が一つも重ならない。
追う相手は、もともと芸を見せる側の人だった
奥秋が持っている情報はこうだ。「奴はもともと旅芸人で、ある日を境に人を襲うようになった」、「芸でごまかしていた特殊能力を、もっともっと使いたくなったのだろう」。
そのうえで「見世物なら不審がられずに己の芸を披露できる」と続く。追跡は五か月におよび、「何度も通い、ようやくここの主人から情報を得られるようになった」という。粗暴に見える人が、いちばん地道な方法で近づいている。
口上が、そのまま能力の説明になっている
箱男が客の前で述べる口上が長い。「この箱をよくご覧ください」「めくるめく桃源郷へお連れしましょう」に始まり、「温泉めぐり地獄めぐり。そんなにめぐりたきゃ、仏壇くぐってみやしゃんせ」と続く。
見世物の呼び込みも入る。「安政二年から今日まで皆様方にご覧いただいております」、「人が産んで人が驚く」、「どのような狭いところもスルリと抜ける」、そして「死んで帰るはただの人。生きて帰れば、すべての真実は箱の中であります」。自分の異形を売り物として口上に組み込む言い方で、顔に黒薔薇を咲かせた飛沫原と同じ側にいる人だと分かる。
箱の正体は、旅館そのものだった
この回の折り返しが、奥秋の一言である。「箱男は箱を使う能力者だ。ただ、手持ちの箱を使う能力者だとは限らねえようだな」。
種明かしはこうだ。「ここはな、幕末の頃、志士がよく密会を開いてた置き屋なんだ」、「襲われる前提のからくり屋敷か。抜け道が所狭しとあるわけだ」、そして「その道もまた細長い箱と言えるかもしれん」。「不自然な仏壇も箱の入り口だ」で、花瓶や飾り棚のそばの隠れ穴まで数に入る。公式の紹介文が能力を「箱から箱へ箱抜けする」と書いているのは、これのことだった(※3)。
同じ脚本家が書いた回が、もう一本ある
公式サイトの各話スタッフを並べると、第8話の脚本は山田由香で、この人がこれまでに書いたのは第4話「屍人伝説ト瓦斯工場」だけである(※1・※5)。
その第4話は、村に伝わる屍人の言い伝えの裏で、実際には工場が遺体を凍らせて砕いていた回だった。どちらも、その土地に昔からあるいわくが、そのまま仕掛けの正体になっている。地獄巡りの口上の裏に幕末の抜け道があるという作りは、確かに同じ手つきだ。
まとめ──後輩を並べた人と、師匠を抱えた人
岩元の抗議は、半分だけ当たっていた
後輩が次々消えるなか、岩元が詰め寄る。「あえて俺の後輩たちをあいつに襲わせてませんか」、「一体何を考えている」、「もう犠牲になってるんだろ、あなたは。あんたの後輩や部下は何人も」。
返事は短い。「よく見ろ。ずいぶん古い腕だ。俺の部下じゃねえ。ましてやお前の後輩でもな」、「見れば分かる」。そこに続くのが「あのな、よくあることなんだ。箱男絡みじゃな」で、岩元が見たものは、箱男が積み重ねてきた過去のほうだった。
二百四十八個の箱は、先に埋められていた
追い詰められた箱男が漏らすのが「ここは二百四十八個も箱が」という数で、奥秋の返しが「全部埋めたよ」「もうお前が使う暗がりはないぜ」だった。
種を明かすと「どこの抜け道も俺の後輩で詰まってるよ」。自分の後輩を表に出さなかった理由が「全員筋骨隆々じゃバレちまうと思って」で、だから客に見える十四人を岩元から借りたという順番になる。岩元の反応が「変だと思ったがそういうことかよ。利用しやがって」である。
同じ言葉を使いながら、やり方は一つも重ならない
ここで二人の差がはっきりする。奥秋のやり方は後輩を配置して穴を塞ぐことで、そのために岩元の後輩まで囮として並べた。岩元のほうは第7話で、上には能力開発が遅れていると嘘の報告をしてまで、後輩の兵器化を止めていた人だ。
それでも「なんだかんだ仲は悪くない」と公式が書いている(※4)のは、たぶん向いている先が同じだからだろう。追っている相手はすでに何人も腕を持って行った男で、その相手からこの回では誰も持って行かれていない。やり方は真逆でも、結果として並んでいるものは同じだ。
箱男のほうにも、先輩がいた
この回でいちばん静かな仕掛けが、箱の中身だった。劇中で読み上げられる調査報告書の証言が「向かいに座るその男は箱を開け、何か会話をしているようだった」、「その男が会話していたのは、腐りかけた老人のミイラだったのだ」。
公式の紹介文も「箱に入った異臭を放つミイラを大事に抱えている」と書いている(※3)。そして本人の言い方が「大事な師匠、箱にしまっておきましょう」、「あなたに教わった箱抜けは私を助けた」だった。この男もまた、教わった相手を連れて歩いている。
先輩と後輩の組が、三つ出てくる回
整理すると、この回には同じ形が三つ並んでいる。岩元と奥秋、岩元と後輩たち、そして箱男と、箱に入った師匠だ。副題が本名ではなく通称でできているのも、この回が人を名前ではなく関係で数えているからだと考えると腑に落ちる。
締めの言葉も、そこに乗っている。「相手の知恵や腕や生きる術を奪うのは、追う鬼に同じよ」、「体で覚えときな」、そして「さあ捕獲の時間だ」。この作品でいちばん重い語が「推薦」で、その裏側にずっと「捕獲」が置かれていたことが、敵ではなく先輩の口から明かされた回だった。
出典
※1 TVアニメ『岩元先輩ノ推薦』公式サイト STORY 第8話「通称・怪奇箱男」(あらすじ・スタッフ)公式 第8話
※2 同 STORY 第2話「縁切リノ鎌」(あらすじ・スタッフ)公式 第2話
※3 同 CHARACTER 箱男公式 箱男
※4 同 CHARACTER 奥秋雄弐公式 奥秋雄弐
※5 同 STORY 第4話「屍人伝説ト瓦斯工場」(あらすじ・スタッフ)公式 第4話




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