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公式副題は第30話「エクリプス・シャドウ」(※1)。花壇の花を切ったのは、長く咲かせるための「切り戻し」だった。つまり犯人も動機も善意で、そのすぐあとに、同じ善意の顔をした男が花壇へやってくる。そして回の終わりで、るるかがくれあを倒しに来る理由が「あなたが大王だから」という一言で明かされる。




切られた花は、長く咲かせるために切られていた
事件のほうは、いつもどおり丁寧に組まれている
夏休み、生徒会長のれいが世話をしている学園の花壇を、あんなたちが手伝う。そこで起きるのが、れいが大切に育てていた百日草の花だけが、葉と茎を残して切り取られていたという事件だ(※1)。
プリキットで調べると、残った茎の切り口は刃物で鋭く切られており、花壇の近くには小さな靴の足跡が残っていた(※1)。足跡から誰がやったのかは見当がつく。それでも残るのが「どうしてこんなことをしたんだろう?」のほうだった。
犯人が分かっても、動機が残る
この回の作りが面白いのは、手口も犯人も早い段階で片づいてしまうことだ。刃物、足跡、大きさ。手がかりは素直に並んでいて、隠されていない。
くれあの一言は「簡単だわ」で、あんなたちを連れて向かうのが別の花壇で作業をしていた理事長のところである(※1)。探偵ものの形はしているが、この回で解かれるのは「誰が」ではなく「なぜ」だけだ。
答えは、花を切ることが手入れだった
理事長が花を切ったのは、そうすることで新しい芽が出て、長く花を楽しめるようにする「切り戻し」のためだった(※1)。劇中でも「また切り戻しをしておきましたよ」と、事後に伝えられている。
そして理由の後半がこうだ。手入れを頑張るれいを手伝うため(※1)。本人の言い方は「私もお手伝いと思ってね」で、それだけである。犯人も、動機も、まるごと善意だった。
花言葉は後ろを向き、切り戻しは先を向いている
劇中で花言葉が読み上げられる
作業の途中、花壇へ一人の男がやってくる。れいに切り出すのが「百日草の花言葉を知っていますか」という一言だ。続けて「色によって違うんですよ」と説明が入り、ピンクの百日草については、別れてしまった友に向けた言葉が挙げられる。そのうえで「僕が好きな色です」と付け足す。
れいが「花言葉は何ですか」と訊き返して返ってくるのが「古き良き時代」で、そのあとに「切ない花言葉が多いんですよ」と続く。この回の花は、咲いている花ではなく、過ぎた時間のほうを指している。
同じ花壇で、二つの向きが並ぶ
男の励まし方も、そのまま過去の側に寄っている。「生徒さんたちは卒業しても、この花壇を思い出すはずです」「どこかで百日草を見た時に、素晴らしい学園生活を思い出すことでしょう」。れいがそれを受けて「古き良き時代よね」と繰り返す。
ところが、同じ花壇でおこなわれていた切り戻しは正反対だ。新しい芽を出させて、これから長く咲かせるための作業である。片方は思い出に残ることを語り、もう片方は次に咲くことのために切っている。花壇はひとつしかないのに、向いている方向が逆になっている。
回の頭にも、思い出す場面が置かれている
公式のあらすじによれば、事件に気づく直前、くれあはキュアット探偵事務所のガーデンを手入れしていたるるかのことを思い出していた(※1)。
花壇の手伝いの最中に、昔いっしょに庭をいじっていた相手を思い出す。回の終わりに現れるのが、そのるるかである。花言葉と同じで、この回は最初から後ろを向いた場面から始まっている。
善意で切る人のあとに、善意を装う人が来る
名乗りは造園業者だった
れいの前に現れる男は、「造園業者の者です」「理事長に頼まれまして」と名乗る。そのうえで「れいさんですね」「この切り戻しもあなたが」と話しかけ、れいが「いえ、これは理事長が」と正す。
直前の事件で明らかになったばかりの事実を、そのまま会話の入口に使っている。褒める材料として持ち出されているのは、この回でくれあが解いた答えのほうだ。
褒め方が、そのまま仕掛けになっている
続く言葉が「さすがです」「きっと素敵な花が咲きますよ」「学園の皆さんもお喜びになりますね」で、締めが「あなたが手がけた花壇が皆さんの記憶に残る」「思い出は皆さんの支えになるでしょう」だ。
公式のあらすじは、この場面を「男にはげまされ、目をかがやかせるれい」と書き、その直後にれいの想いに引き寄せられたマコトジュエルが出現すると続ける(※1)。励ますことが、そのまま狙いだった。本人も「君の強い思いがマコトジュエルを引き寄せてくれた」と口にしている。
正体が出ると、同じ回に二人目が立つ
造園業者に変装していたのはデッチ・アゲインだった(※1)。ここで、この回には「花壇のために良かれと思って動く人」が二人いたことになる。
片方は本当に手伝いに来た理事長で、もう片方は手伝いに来たふりをした変装である。前半で解いた「善意だった」という答えが、後半でそのまま裏返して使われる。この回が探偵ものとして気持ちがいいのは、答えが一度出たあとに、同じ形の問いがもう一度出てくるところだ。
敵の幹部が、プリキュアに浄化を頼む
呼び出された側が、呼び出したものを蹴る
駆けつけたあんなたちの前で、デッチ・アゲインがハンニンダーを呼び出す。あんなたちが変身すると、デッチ・アゲインに呼び出されたアルカナ・シャドウも現れる(※1)。
ところがアルカナ・シャドウがすることが、これだ。ハンニンダーをけりとばし、エクレールに浄化するように頼む(※1)。公式のあらすじも「ハンニンダーはあっさりと浄化されました」と書いていて、戦いとしては一行で終わっている。
怪物のほうは、この回の本題ではない
敵側の幹部が、味方の技で片づけてくれと頼む。しかも頼まれた相手は、このあと自分が倒しに行く相手である。順番を入れ替えれば、ただの共闘に見える場面だ。
それでも二人は敵同士のままで、デッチ・アゲインはプリキュアたちを取水塔へ転移させる(※1)。浄化を頼んだ場所と、倒しに行く場所が、地続きで並んでいる。
そのうえで、同じ相手に向き直る
取水塔で、アルカナ・シャドウはエクレールをたおそうと彼女にせまる(※1)。返ってくるのが「きらめきタイム」を発動させたエクレールの反撃で、変身が解けてしまうのはアルカナ・シャドウのほうだった。
それでも起き上がろうとする。この回でるるかがしていることは、勝ち目の計算とはずいぶん離れている。浄化を頼み、蹴り飛ばし、そして負けても起き上がる。理由が語られるのは、その後だ。
第26話から空いていた欄が、この回で埋まる
予言には、名前の入らない場所があった
怪盗団ファントムが従っているのは未來自由の書の予言で、その中身は第25話で示されている。「まことの地で真実の意思を抱く者、大王となる。そして世界が嘘の影で覆われる」だ。
ボスであるウソノワールは自分がそれだと考えていたが、第26話でるるかに「あなたは大王じゃない」と言われている。そこから、大王が誰なのかという欄だけが空いたまま残っていた。
この回の頭にも、その話は出ている。怪盗団ファントムの側が焦れて言うのが「いつになったらマコトジュエルを奪うのだ」で、そのまま大王になる話へ続く。第25話で示された約束の時は1999年7月なので、残り時間の話でもある。回の頭では大王になりたい側が、回の終わりでは大王だと名指しされる側が出てくる。
答えは、たった一言で置かれる
取水塔で変身を解かれたるるかに、エクレールが「どうして」と問いかける。返ってくるのが「あなたが大王だから」だ(※1)。そのあとに「間違いない、私の推理」「未來自由の書の予言とも一致する」と続く。
第26話でるるかがウソノワールを否定した、その同じ口から名前が出たことになる。しかも相手は、回の頭でるるかのことを思い出していた本人である。
ただし、これは推理である
ここで押さえておきたいのは、「あなたが大王だから」がるるかの推理として語られていることだ。本編は、それが正しいとも間違っているとも言っていない。第26話でるるかは、同じ書を読んでウソノワールの側の解釈を否定している。
つまりこの書は、これまでに一度読み違えられている。読み違えた人を指摘した本人が、今度は自分の読みで動いている。この回で確定したのは、大王が誰かではなく、るるかが誰をそう見ているかのほうだ。
まとめ──「影」という言葉は、ずっと前から置かれていた
副題に入っているのは、日食の名前
るるかの名はキュアアルカナ・シャドウで、この回で得る新しい姿がエクリプス・シャドウだ(※1)。そして第25話の予言の後半は「世界が嘘の影で覆われる」である。
影という言葉が、名前にも、予言にも、副題にも入っている。しかも新しい姿は、デッチ・アゲインにさらなる力を求めて手に入れたものだ(※1)。劇中のやりとりも「もっと強い力を」に対して「いいけど、今の君には使えるかな」という返しになっている。
この回のスタッフは、第25話と重なっている
公式サイトは各話ページにスタッフを出している(※1・※2)。第30話は脚本 村山功/演出 中島啓太郎/作画監督 稲山充/美術 中林由貴・福田李音。第25話「キュアエクレールの正体」は脚本 村山功/演出 大河聡/作画監督は三人/美術 中林由貴/絵コンテ フルヤヨウコだった。
脚本と美術が、第25話と第30話でそろっている。第25話はエクレールの正体が判明した回で、第30話はそのエクレールが大王だと名指しされる回だ。なお第25話から第30話までを並べると、美術が二人体制なのはこの回だけである。
あいだの回も、公式サイトの各話ページで同じように確認できる。脚本は第26話が村山功、第27話が佐藤大、第28話が千葉美鈴、第29話が佐多賢人と村山功の連名だった。村山功は第25話・第26話・第29話・第30話に名前があり、単独で書いているのは第25話・第26話とこの回になる。また、公式の欄に絵コンテが載っていないのは、第25話から第30話のなかで第26話とこの回の二本だけだ。
切ることが、終わりではないという話だった
この回の事件が教えるのは、花を切る行為が、長く咲かせるための手入れでもあるということだった。切り口が鋭かったのも、乱暴に折られたのではなく道具できちんと切られていた、という意味だった。
一方で、後半にあったのはその善意の形を借りた変装と、かつて同じ事務所にいた相手からの名指しである。同じ回のなかで、切ることが手入れになる話と、切りに来る理由が語られる話が並んだ。百日草の花言葉が「古き良き時代」だったことも、そこに重ねて置かれている。
出典
※1 東映アニメーション「名探偵プリキュア!」公式サイト 第30話「エクリプス・シャドウ」(あらすじ・スタッフ)公式 第30話
※2 同 第25話「キュアエクレールの正体」(スタッフ)公式 第25話




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