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前回スピカが親鳥をだました偽物の雛の中身は、ブーディ本人だった。しかもその勝ち方は、第18話でアリアがポルックスを海へ誘導したのと同じ原理である。ダイヤは100ポイントでアリアは90ポイント。助けを呼べば落第という場面ではキロンが唯一の取り柄だけで全員を助ける。そしてたどり着いた空洞の池は、海につながっていた。第20話「ダイヤの在処」を読み解く。




偽物の雛の中身は、ブーディだった
第20話の副題は「ダイヤの在処」で、公式の表記は20限目である。冒頭に置かれているのは、前回スピカがどうやってルビーを取ったのかの種明かしだった。
「あなたよ、ブーディ」
問われたスピカの説明はこうだ。鳥は目がいいので、巣に侵入すれば遠くからでも気づく。そうすれば親鳥はこちらへ向かってくる。ただし雛は、と言いかけたところで彼女が指すのが「あなたよ、ブーディ」だった。揺れたり声が出たりするほうがリアリティがあるから、木の人形を作ってそこに入ってもらった、という段取りである。
第19話でクロードは、あの作戦を「親鳥が見間違うほど精巧な木の人形を作る操作性」と評していた。精巧だったのは造形ではなく、中に入っていたものだったということになる。第18話で説明されたとおり、ブーディはもともと魔導人形で、髪を一本口に入れると起動する。人形に入るという性質がそのまま作戦の芯に使われている。
道具が答えを教えないという線引き
おもしろいのは、ブーディが手足としては使えても答えは出さないことだ。今回もスピカが推理の正解を確かめようとすると、返ってくるのが「それは言えないわ」である。第18話でヒントの一文を渡したときと、まったく同じ拒み方だった。
結果として、答えは全部スピカが自分で言うことになる。試験の相棒としては、ここが一番きれいに設計されている部分だと思う。
スピカの勝ち方は、第18話でアリアがやったことと同じである
種明かしにはもう一段ある。スピカ自身が作戦の原理を言葉にしているのだが、この言い方に聞き覚えがある。
「相手を自分のフィールドに引きずり込む」
スピカの説明は「あんな川辺の空中戦じゃ私に勝ち目ないからさ」「相手を自分のフィールドに引きずり込まないといけないって思ってたのよ」「魔法を最大限生かすためにね」である。空でやったら勝てないから森に引き込んだ、という理屈だ。
見学が、そのまま実になっている
第18話で、アリアはポルックスとの決闘を海側へ誘導していた。アクエリアスマジックは普段なら空気中の水蒸気を集めるのに魔力を食うが、海辺ではその手間が消えるので最大まで引き出せるからである。ポルックスの「これ誘導された?」「反則でしょ、こんなの」が、そのまま解説になっていた。
そしてあの決闘を、スピカは横で見ていた。割り込まなかった理由として本人が言っていたのが「情報収集も作戦のうち」である。二話あとに、彼女はまったく同じ原理で自分より速い相手を倒した。宝石ゼロで見物していた時間が、五十ポイントに変わっている。負けを認めた側の「見事に出し抜かれた」という評は、正確には出し抜きではなく、二話ぶんの予習だった。
ダイヤは100ポイント、アリアは90ポイント
午後10時の中間発表で、この試験の残り時間の形が決まる。数字の置き方がうまい。
一位は90、未回収の宝石が100
クロードの通信は、残り9時間であること、そして100ポイントのダイヤがまだ誰の手にも渡っていないことを伝える。締めが「全員1番になるチャンスがある」だった。一位が90なのに未回収が100なので、この宣言は煽りではなく算数として本当である。
寝ていた三時間
スピカのほうは、ルビーを取って安心して寝ている。十分だけ仮眠と言って三時間、起きてもまだ「あと十分」と粘る。「ロヴィーあるから1位も余裕だし」という寝言つきで、目を覚ましてランキングを聞いた瞬間に固まる。第15話でクロードが言った「新しい力を手に入れて調子に乗っていた」がそのまま再演されているわけで、この作品はスピカに何度も同じ叱られ方をさせる。
島が亀だと分かっても、一番乗りではなかった
第18話でブーディが渡したヒントの一文が、ここで効いてくる。ただし効き方が意地悪だ。
「金剛石は心臓に眠る」
スピカが行き着くのは、この島が島ではなく巨大な亀だという読みである。夜になって生命が宿り動き出したのを見て、心臓の位置なら地図の中心あたり、つまり洞窟だと推理する。本人は「私天才じゃない!?」と大喜びで、「この天才的な推理に気づく前に」と急いで洞窟へ向かう。
ところが洞窟の中心には何もなく、しかも同じ推理をした生徒が何人も先に来ていた。すでに散っていったあとで、残っていたのが数人という有様である。「全然一番乗りじゃなかった」という一言が、この回のスピカの立ち位置を的確に表している。思いつく人間は他にもいる、という当たり前を作品がきちんと描くのは気持ちがいい。
怖くて逃げた場所へ、もう一度入る
同じ推理でキロンも洞窟にいる。彼は日中にワームから泣いて逃げた場所へ、夜にもう一度入っていた。理由が「ゼロポイントの俺がトップになるにはダイヤを手に入れるしかねえ!」「1位になってみんなに俺の実力を認めさせてやるんだ!」である。一度はビビって逃げ出した、と自分で認めたうえで入り直しているのが効いている。
キロンは、唯一の取り柄だけで全員を助ける
今回いちばんの見せ場は、スピカの推理ではなく洞窟の窮地だと思う。しかもその切り抜け方が、この作品の一貫した考え方をそのまま示している。
助けを呼べば、その場で落第する
ワームに追い詰められた場面で、ブーディの助けを使えば逃げ切れるという案が出る。ところがキロンもスピカも、すでに二回使っている。三回使えば不合格で、中間と期末も不合格、つまり落第だ。助かる手段が残っているのに、使えば全部失うという形に組まれている。
岩をワームにだけ落とす
ここでキロンが動く。押し出しているのが「スピカなら、きっとこんな状況でも諦めないだろうな」「俺だって足掻いてやるよ!」で、居ない相手を基準にしているのが可笑しい。彼がやるのは、風で天井の岩を溶かして崩落させ、その岩の軌道を操作してワームにだけ落とすことだった。少しでもミスれば自分たちも下敷きになる、という自己申告つきである。
そのあとの本人の説明が「俺の唯一の取り柄は魔法のコントロールだ」「地味だけど馬鹿にすんなよ」。返ってくるのが「十分じゃない、すごい才能よ」「おかげで助かったわ」で、締めが「見直したわ、男子たち」だった。体を張ってかばった側も含めて、二人まとめて評価が変わる。
この作品は、苦手を克服させない
第17話でスピカが魔道具から受けた評価は、発想力だけが高くて他は平均的、技術は低い、というものだった。そして第19話で彼女が勝った方法は、技術ではなく発想だった。今回のキロンもまったく同じで、怖がりも小心も直らないまま、コントロールという一点だけで全員を助けている。
前回のユゥも同じ形をしていた。青い炎を撃つ直前の独白が「面倒だったけど、何度も、何度も練習した!」で、面倒くさがりという性格は残したまま結果だけ変えている。三人続けて、弱点を潰す話にしていない。この作品が生徒を扱うときの一貫した手つきだと思う。
地図には、もう一段の仕掛けがあった
外れた推理をどう立て直すか。ここでのスピカの考え方が、彼女のいちばんの持ち味だった。
昼のうちに誰も取っていないなら
彼女の立て直しはこうだ。ダイヤがただ洞窟の中心にあるだけなら、昼間に誰かが取っているはずである。取られていないということは、亀が動き出したことで初めて入れるようになった場所にある。だから地図をもう一度調べ直す。亀の姿が浮かび上がる魔法の地図なのだから、他にも仕掛けがあるのではないか、と魔力を込めると側面図に変わった。
洞窟の下に大きな空洞があり、首の骨から入れると分かる。外れた事実そのものを手がかりに使っているので、これは推理としてかなり気持ちがいい。前回クロードが褒めた発想力が、今回は探索のほうで出た形だ。
引き返せないと分かったうえで行く
最深部まで行ったら引き返す時間はない、という忠告は、その場できちんと出る。それでもスピカの答えは「一番になるためには、みんなと違う行動しないとだし!」「私は行く! アリアに勝つために!」だった。
直後に差し込まれる回想が効く。算数の授業で当てられて答えられなかった幼いスピカが、分かるようになるまで帰らないと言って居残っている場面である。周りの評は「頑張り屋さんだよね」。帰り道を捨てて残るという同じ選択を、彼女は子どもの頃からしている。今回の決断が唐突な蛮勇ではないことを、一場面だけで言い切っている。
まとめ|ダイヤは、相手がいちばん強い場所にあった
腹の空洞にたどり着いてからの描写が、そのまま次回の条件を提示している。ここが今回いちばん大事な一点だと思う。
池は、海につながっている
空洞の中は、人が近づくと反応して光る微生物で照らされている。そして池がある。ブーディの説明が「ええ、海につながってるわ」だった。第18話で確認したとおり、アクエリアスマジックは水のあるところでこそ手間が消え、最大まで引き出せる。ダイヤの置き場所は、アリアがいちばん強くなれる条件を満たしている。
スピカがここまで勝ってきた原理は「相手を自分のフィールドに引きずり込む」だった。ところが最後の勝負では、舞台がすでに相手のフィールドとして用意されている。しかも引き返す時間はない。今回の彼女の決断が、そのまま最悪の条件を引き当てたことになる。
先に立っていたのはアリアだった
引きで、アリアが先に着いている。「ここ来たけどマジでダイヤあったしラッキー」「まさかスピカもたどり着いてるなんてね」、そして「まあ、そのダイヤを手にするのはアリアだけど」。自分をアリアと呼ぶ話し方は第18話から変わっていない。スピカの返しは「アリアやっぱり来たか」で、驚いていない。
整理すると、勝った側が一位になる100ポイントが一つだけ、場所は相手の得意な水辺、時間切れまで残りわずか、そして二人とも引き返せない。試験の設計としてこれ以上ないほど条件がそろっている。第18話で「アリアに勝ちたかったら死ぬ気で頑張ったらええんじゃね?」と言われたところから、ちょうどその舞台まで運ばれてきた回だった。




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