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彼女たちに花冠を贈りたい。その思いつきから、恋太郎は園芸部の優敷山女を訪ねる。虫や植物を踏まないよう竹馬で歩き、抜いた雑草さえ雑草畑に植え替える彼女は、しかし迫る火の気配に激しくおびえた。やがて語られたのは「自分のことが嫌いだったんだど」という過去。守られた山女がこぼす「誰かから守ってもらったのは初めてだど」から、14人目の彼女が生まれる。第29話「優敷さんの園芸部ツアー」を振り返る。




「おでの頭に住みついてな」
花冠を贈りたい、という思いつき
始まりは、いつもどおり恋太郎の暴走である。「みんなが花冠をかぶったら、可愛さで俺は死ぬかもしれない」…その一言で今回の企画が決まってしまった。相談を受けた育の返しも早い。「花のことなら、僕のクラスの優敷さんが園芸部だから聞いてみたらいいよ」。
そして園芸部へ。「彼女に花冠を贈りたいんですけど、園芸部でお花をいただけるって聞いて」…返ってきた条件が実に素朴だった。「ああ、いいだど」「でもその代わり、おでと畑仕事手伝ってもらうのが条件だど」。「おで?」と面食らう恋太郎に、彼女は名乗る。「おでは一年三組、優敷山女だど。よろしくな」…対する恋太郎も「俺は一年四組の愛城恋太郎です。こちらこそよろしく」。この作品にしては珍しく、出会いがとても静かに始まる。
頭に住む蝶と花、そして竹馬
まず引っかかるのが頭である。「や、優敷さん、頭に蝶々と花が」…返事が予想の斜め上だった。「ああ、この子たちはいつの間にか、おでの頭に住みついてな」「かわいそうだから育ててるんだど」。「飼ってるの? 頭で?」と確認されても動じない。「シャンプーはそーっとやるのがみそだど」…髪飾りではなく、本当に生き物と植物が住んでいるのである。
移動手段も独特だ。「ところで、なんで竹馬?」「おでは足が大きいからな。植物や虫を踏まないように、自然が多い場所ではこれで歩くようにしてるんだど」…体が大きいことを不便として嘆くのではなく、踏んでしまわないための工夫に変えている。恋太郎の心の声が「なんて心優しい人なんだ」で、この一文がこの回では何度も繰り返される。
極めつきが雑草だった。「優敷さん、抜いた雑草はどこに捨てればいい?」「え? 捨てるなんてとんでもないど」「雑草だって生きてるんだど」…そして行き先まで用意されている。「雑草は雑草畑に植えるんだど」。肩には鳥が止まり、リスが寄ってくる。「動物は自分たちに優しくしてくれる人が分かるんだね」と言われて「そ、そんな、照れるど」「おではただ、この子たちが大好きなだけで」…すでに人物像が完成している。
「自分のことが嫌いだったんだど」
大きな体を誇らしく思えるまで
「どうしてそんなに植物や生き物が好きなの?」…この問いへの答えが、この回の芯だった。「おでは体が大きいから、昔はよくからかわれたりして」「そのせいで、自分のことが嫌いだったんだど」。
転機は劇的なものではない。「でもある日、巣から落ちたヒナを巣に戻したり、弱ってた花を守ったり」「そんなことをしていたら、だんだん大きくて頑丈なこの体が誇らしく思えてきて」…そして結論が来る。「おでは、自分のことを好きにさせてくれた自然の生き物たちに感謝してるんだど」。
ここが上手いのは、彼女の優しさがもともと持っていた美点ではなく、救われた側の返礼として描かれていることだ。頭の上の蝶も、竹馬も、雑草畑も、全部この一本の理屈から出ている。大きな体という設定が、キャラ付けの飾りで終わらず、生き方そのものの説明になっている。ネットでも「自然に好かれる優しい巨女」「運命だから好きなのではない、好きだから好きという信念を感じる」と評されていたが、恋太郎が惹かれた理由もここに尽きるだろう。
火と、「守ってもらったのは初めてだど」
そこへ煙が流れてくる。原因は教頭先生で、腰を痛めてお灸を据えながら、それでも見回りをやめないという相変わらずの怪物ぶりを見せる。「いつどこに男子の私物やラッキースケベが転がっているかもわからん」…理由が最低である。ネット上でも「久しぶりに教頭先生見たけど気持ち悪すぎる」と総ツッコミが入っていた。
だが山女の反応は笑い事ではなかった。「あれは教頭先生だよ」と言われても震えが止まらない。「そ、そうじゃなくて」「昔、山火事を見たことがあって」…そして絞り出すように続けた。「動物も植物も、みんな殺しちまうんだぞ」。自然に救われた人だからこそ、それを一度に奪うものが怖い。優しさとトラウマが同じ根から出ている、という組み立てである。
恋太郎はすぐに動いた。火を遠ざけ、彼女を落ち着かせる。そして返ってきた言葉が、この回でいちばん効いた。「今までいろんな子たちを守ってきたけど、誰かから守ってもらったのは初めてだど」…ヒナを戻し、花を守り、虫を踏まないように歩いてきた人が、初めて守られる側に回った瞬間だった。落ちるのも当然である。
14人目の彼女
一夫多妻を、生き物の話で押し切る
告白の言い回しも恋太郎らしい。「優敷さん、俺も自然や生き物を心から愛し慈しめる、心の優しい優敷さんのことが好きだよ」…そして正直に前置きする。「大丈夫だよ優敷さん。俺にはもう彼女が13人いるんだ」「でも全員必ず幸せにするから」。
そのうえで持ち出したのが、彼女がいちばん納得できる理屈だった。「動物や虫、それに種類によっては植物も、一夫多妻の種は多いけど」「優敷さんは彼らの愛を、本物の愛ではないと思う?」…返事は即答である。「そんなこと思わないだ」。「そう。つまり」…自然を愛する人を、自然の話で口説き落とす。強引なはずなのに、この相手に限っては筋が通っている。
報告の場面も様式美だった。「という次第でございまして、優敷山女ちゃんを新しい彼女として迎え入れさせていただいてもよろしいでしょうか」「よろしくだど」。そして名調子の応酬が始まる。「だどって何なのだ」「じゃあ、なのだって何なのだ」…語尾同士がぶつかるだけの掛け合いなのに、なぜかいちばん笑ってしまう。これで恋太郎ファミリーは14人になった。
花冠と、余りまくったカーテン
花冠はきちんと完成する。「おでは園芸部で、皆さんに花を持ってきたら、恋太郎さんが可愛い花冠にしてくれたんだど」…そこへ羽々里が乗ってきた。「それならいいものがあるわ」「私の誤発注で学校に余りまくってる新品のカーテンで作った」…白いワンピースである。「大人なんだからしっかりしてください」と叱られても悪びれない。「いや、それはみんなのステージ映像が可愛すぎるせいで」…前回の余波がここまで続いているのがおかしい。
そして花冠と白ワンピースという組み合わせが完成する。恋太郎の評は「もはや何らかの兵器だ」で、視聴者からも「花冠白ワンピの破壊力はエグい」「まじ女神やった」と同じ感想が並んでいた。ちなみにこの回、遊戯王のパロディが大量に投入されており、「リバースカードオープン、装備魔法・白ワンピ」といった台詞が真顔で飛ぶ。ジブリ作品のパロディも重なって、「パロディネタの取捨選択が慎重に行われたように感じました」という妙に技術的な感想まで出ていた。
細かい遊びも効いている。「こんな大きく綺麗に咲いたクレマチス、初めて見ました」と喜ぶ羽香里に、山女が「花園さんは花に詳しいんだど」…そして「よく見たら花園さんも髪に花植えてるんだど」「いえ、植えては」「植えてるんですかそれ」。山女本人も花冠を勧められる。「え、おでにいいんだど?」「頭に花生えてるし、花冠絶対似合うのだ」…礼として返ってきたのが「お礼に肩車してあげるだ」で、高所からの眺めに「すごいです」「いや私はいい、怖い」と反応が割れるのも楽しい。
園芸部ツアー
副題どおり、後半はまるごと畑の見学会になる。「園芸部には野菜とかもあるんだど」「採れたてが美味しいから畑へ行くか」…きゅうりに「お店で売っているような立派なおきゅうり様でございますね」と敬語で感心し、トマトは「大きくて真っ赤で美味しそう」。「おっきいの探して採るの、宝探しみたいで楽しいのだ」という感想が、この回の空気をよく表している。振る舞いの理由も気前がいい。「いつもおでが気合い入れて作りすぎて、部員じゃ食べきれないから」。
いちごの場面が白眉だった。「その上ツヤツヤと輝いて、まるで宝石のようだ」…と言っている間にもう食べている子がいる。恋太郎が変な声を出したので理由を聞かれ、答えがこれだ。「いや、いちご食べる彼女ってこんなにも可愛いんだって、びっくりして」。「これだけ甘ければ練乳もいりませんね」「こんないちごに練乳なんかつけたらバチが当たるぜ」…全員のテンションがおかしくなっていく。
品質の高さに凪乃が食いつくくだりも良かった。「おかしい。野菜も果物も、この環境で育つはずがないほど高品質」…山女の答えは一貫している。「植物はな、愛情を込めて育てれば、それに応えてくれるんだど」。すかさず「植物にそんな機能はない」と切り捨てられ、「だど?」と目を丸くする山女。そこへ落とされた着地が「なるほど、根性ってことだね」で、誰も納得していないのに話が進む。
最後は全員で畑仕事のお返しをする。「今日のお礼に、畑のお仕事を手伝わせていただいてもよろしいでしょうか」…水やりひとつでも性格が出る。「美しく育つのですわ」「別に綺麗だなんて思ってないんだからね」「水くらい静かに撒くのだ」…そして山女に教わったとおり「愛してる、愛してる、愛してる」と唱える者まで出る。「これで合ってる?」「だどー?」…本家すら自信がない。「苗ね、草じゃなくて」という訂正が入るあたりまで含めて、平和な時間が続いた。
「優敷さんの園芸部ツアー」まとめと考察
土を盛った踏み台と、身長差キス
平和なまま終わらないのがこの作品である。帰り際、恋太郎の耳に心無い会話が飛び込んでくる。「自分よりでかい女は無理っしょ」「だって想像してみてよ、キスするとき、わざわざかがまれるとかさ」…彼氏としてのプライドがどうこう、という話まで続く。
その後、恋太郎は山女を使っていない畑へ呼び出した。用意されていたのは、土を盛って作った踏み台である。しかも足元は布で隠されている。「その足元はカーテンを巻いて隠してるだけだよ」「カーテンならたくさん余らせておいたわ」「このためみたいな言い方すんなよ」…余剰在庫がここでも役に立つ。
理由を問われた恋太郎の答えは、あくまで自分の欲である。「それは、俺が…みんなと身長差キスをしたかったから」。山女は困る。「でも、それは…かがまれなきゃいけないんだど」…返ってきたのが「いや、それは…萌えシチュだから!」で、「萌えシチュ…」「だど!」と復唱まで挟まる。
そして本題が来る。恋太郎は、彼女が影を見て身長を気にしていたことに気づいていた。「まさか、身長差を気にして」…そのうえでの一言がこれだ。「小さい女性に燃える人もいる。大きい女性に燃える人だっている」「少なくとも、俺は」…だから、と続ける。「だから、ヤマメちゃんも、俺とキスしてくれないかな?」。かがませることを負い目にせず、かがませたい側の願いとして差し出す。踏み台を用意しておきながら、最後は身長差そのものを肯定して終わる。ここが本当にうまい。
締めはいつもの大騒ぎで、「次は楠莉なのだ!」「私も!」「べ、別に身長差とか関係ないんだからね!」と行列ができ、ナレーションが「こうして恋太郎は大好きな彼女たちと幸せな身長差キスをしました」と流す。おまけに足だけを見て誰なのか言い当てるという恋太郎の観察眼まで披露され、「なんでわかんだよ」と突っ込まれて終わる。
こうして並べ直すと、この回は「体が大きい」という一点だけで最初から最後まで走り切っていることが分かる。踏まないための竹馬、頭に住み着く蝶、ヒナを戻せた手の大きさ、そして誇らしく思えるまでの過去。その同じ設定が「自分のことが嫌いだった」という影にもなり、陰口の材料にもなり、最後は踏み台という物理的な解決とキスのオチに変わる。副題は「優敷さんの園芸部ツアー」というのんびりした一行だが、実際にはひとりの女の子のコンプレックスが誇りに変わるまでの筋道が、笑いの合間にきっちり通されていた。パロディの応酬とギャグの密度に目が行きがちな回でありながら、静かなところでちゃんと泣かせにきている。ネット上で「全体的にBGMが綺麗すぎてウルッと来かけた」という声が上がっていたのも、よく分かる作りだった。




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