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第5話はまるごと小春の視点で語られる。前回のデートが彼女の内側から語り直され、「白に似た透明なもやの中」という見え方も、「案外普通に生きている」という手ざわりも、恋を打ち明けることへの怖さも、すべて本人の言葉で出てくる。後半は学祭。カッターを漕がされた空野が、テラスで待つ小春と合流し、「目が見えなくてもですか?」という問いを正面から受け止める。そして花火は上がらなかった。




「白に似た透明なもやの中」
ただいまと、見抜いていた母
開幕は小春の帰宅である。「ただいま」と言って明かりをつけ、そこにすぐ注釈が入る。「これはただの癖。電気をつけても視覚的には変わらない」「部屋の電気がついたと思うと、なんとなく帰ったって気になるから」。この一言だけで、今回の語り手が誰なのかがはっきりする。
迎えた母が「その様子だとデートは成功したのかしら」と当ててくる。なんで分かったのかと聞けば、「いつもより丁寧にメイクして、何度も洋服を着替えたじゃない」。小春も否定しない。「確かに今日の私は気合が違った」。
支度の描写がいい。勝手にいつもより早く目が覚めて、シャワーを浴びて服を選んで、時間をかけてメイクをして。それを「自分を彩って」と言い、「大変だとは思わなかった」と続ける。理由は一つで、「かける君によく見られたい。そう思うだけで楽しくて楽しくて」。
母に「ニコニコしているわよ」と言われて「ニコニコしてないよ」と返すやりとりまで含めて、この回が徹頭徹尾恋をしている一人の女性の話として始まっているのが分かる。
語り直される、前回のデート
ここから第4話のデートが、小春の内側から語り直される。「わずか半日にも満たない短いデートだったけど」と前置きしたうえで挙がるのが、「かける君が私のために時間を作ってくれたこと」「一緒にいられたこと」だった。
そして彼女がいちばん恐れていることが名指しされる。「見えない私でもやりたいことで溢れている。なのに大変そうと思われてしまう」「そう思われて距離を置かれてしまうのが一番悲しい」。そのうえで「だけどかける君は違った。分かろうとしてくれた」と続く。
見え方を尋ねられた場面も、聞かれた側から描き直される。小春が気づいているのは質問の中身ではなく声のほうだった。「かける君はたまにとても優しい声を出す」「傷つけないように、傷つけないように、そんな声を出す時がある」。
答えは「真っ黒って思われがちですけど、私の場合逆です」「白に似た透明なもやの中っていうのでしょうか」。返ってきた「へー」についても、小春の受け取り方が添えられる。「なんて言おうか、ちゃんと考えてのへーなんだろうな。そういうところがいいなって思う」。
同じ会話でも、聞き手の側に回るとこれだけ違って見える。前回はかけるが勇気を出して質問した場面として描かれていたものが、今回はその質問の仕方をちゃんと見ていた人がいたという話に変わっている。
答え合わせのように積み上がっていくので、第4話を見返したくなる作りだった。同じ素材を視点だけ入れ替えて二度使う構成は、下手をすると繰り返しに見えるが、この回はそうならない。
「案外普通に生きている」
できることを、数えていく
小春の独白が、いちばん強く出るのがここである。「目が見えなくて大変そう。世の中にはそんなことを言う人もいる」「それだけ目が見えないってことは珍しいだろうな」。そこから彼女が言いたいこととして挙がるのが「普通だよって言いたい」だった。
その根拠が、できることの列挙という形で並ぶ。ご飯も食べられるし、お風呂にも入れる。使える道具で本も読めるし、化粧もできるし、おしゃれもできる。点字ブロックが歩きづらいからヒールの細い靴は選ばない、ブーツやサンダルなら大丈夫、という具体まで下りてくる。結論が「案外普通に生きている」である。
そのうえで、できないことも隠さない。「一人でできないことも多いけれど、それでもなんとかなっている」「できない時は人に頼れるようになったし、そうやって仲良くなった友達もいる」。だから「そんなに心配しないでって思う」で締まる。
目が見えなくなると分かった時はショックだったと、はっきり言ったうえでこの順番に並べているのがうまい。克服した話でも我慢の話でもなく、手数を数え直した話として語られている。
好きと打ち明けることが怖い
船の場面では、かけるが景色を言葉にしてくれる。ビル群があって、川辺に公園があって、緑の木々が見えて、日が高いから太陽が川に反射して眩しいくらい、と。小春が返すのは景色の感想ではなく、「そんな風に当たり前のようにそっと気遣ってくれるところが好き」だった。温かい手が好き、声が好き、笑わせてくれるところが好き、優しいところが好き、と好きが連なっていく。
橋をくぐるくだりで、初めて弱音が出る。頭をぶつけるかもしれないからしゃがんで、と言われて身をかがめ、笑い合ったあとの独白が「こんな時、顔が見えたらよかったのに、なんて少しは思う」。すぐに「顔が見えたとしても、きっときっと私は好きになる」と自分で打ち消すのが切ない。
そして怖さの中身が言葉になる。「でも好きと打ち明けることが怖い」「障害者が好きなのに、あなたはやっぱり嫌だろうか」。「かける君はそんな人じゃない」と分かっていてなお、「そう思いつつも、たまらなく不安で、たまらなく怖い」と続く。
それでも彼女はここを喜びとして受け取る。「そっか、告白ってこんなに怖いものなんだ」「嬉しいな。そういうことを知れたことが嬉しい。恋を知れたことが嬉しい」。そのあとに「私から告白した方がいいのかな」「断られたら、どうしよう」と揺れて、「楽しくて楽しくて苦しい。胸が張り裂けそう」で終わる。怖さごと肯定してしまうのが、この人の強さだった。
学祭のカッターと、テラスの浴衣
朝日が昇るまで漕がされる
後半は視点が戻り、寮の伝統から始まる。カッター訓練である。百年続くだの、黒船襲来の時から始まっただの、尾ひれ背びれ胸びれまでついた由来が並ぶが、実態は全員に強制される訓練だった。早朝に晴海埠頭へ集合し、カッターと呼ばれる小型船舶に乗って、掛け声に合わせて朝日が昇るまでひたすら漕がされる。
目的は学祭の乗船体験である。越中島と豊洲に囲まれた三角の海域から晴海橋をくぐって一周する催しで、学祭で一二を争う人気だという。身も蓋もない前振りのあとに、当日の賑わいが来る配置がいい。
当日は鳴海が張り切りすぎて空野に怒られ、早瀬は船酔いで沈んでいる。それでも小春は「潮の匂いも風もすっごく気持ちいいんです」と楽しそうで、鳴海の「海は男のロマンやで。これでたぎらず、いつたぎる?」という煽りに笑っている。「これが終わったら大学を辞めて実家で野菜とかを育てるんだ」という冗談に本気で心配してしまい、早瀬に「小春ちゃん違うよ、馬鹿な冗談に付き合っちゃだめ」と止められるのも可笑しかった。
そして本題が置かれる。「学祭のラストはいつも花火が打ち上がるんですって」。早瀬は実行委員があるので付き添えず、鳴海は十九時から夜勤。残った空野が「僕が付き添うから」と引き受け、「冬月、後でいつものテラスで待ってて」と約束した。
浴衣コンテストに出ればよかったじゃん
ここで小春が漏らすのが、前回の買い物への総括である。「学祭で打ち上げるって知っていたら、あんなに買わなくてもよかったです」。鳴海に「こいつ出発前にシャワー浴びとったで」と空野の下心まで暴かれて、場が笑いに包まれる。
テラスでの合流も軽い。先に来ていた空野が黙って気配を消していたので、小春が「どこか行っちゃったのかと思いました」と焦り、「かける君の意地悪」と拗ねてみせる。メインステージからは早瀬の司会の声が聞こえていて、空野が「実行委員までやるなんて僕には絶対無理だから尊敬する」とこぼす。
残る出し物は浴衣コンテストだけ。小春の「浴衣着たかったな」に、母が着ていた浴衣で気に入っている柄の帯があって、着てみたかったのだという話が続く。空野が軽く「浴衣コンテスト出ればよかったじゃん」「冬月なら1位だよ」と言ったところから、この回でいちばん大事なやりとりが始まる。
小春が聞き返す。「私が浴衣コンテストに出たら、票を入れてくれました?」。「そりゃ」と流そうとする空野に「真剣に答えてください」と食い下がり、「そりゃ冬月に入れたよ」を引き出したうえで、本当の質問を置いた。「目が見えなくてもですか? それでも一番に選んでくれますか?」。
「好きなんだな」
空野の口から出たのは「浴衣コンテストに目が見えないことが関係ある?」というとぼけた返しだった。だが、その裏で流れる独白が誠実である。「関係ないわけがない。誰だって心の底で思う。全てをフラットに考えられるはずがない」。そのうえで「それでも、それでもそんなの関係なく、僕は冬月に入れたと思うよ」と続けた。
小春の「まるで告白みたいですね」に、空野は「違う違う、単に容姿がいいという意味で」と慌て、「容姿?」と拾われて「違う違う違う、単にお嬢様は浴衣を着慣れてそうっていう意味で」とさらに転ぶ。「何ですかそれ」で笑いになるまでが一続きだった。
そのあと空野の中で「好きなんだな」という言葉が何度も反響する。たっぷり引っ張ったうえで着地するのが「花火が本当に好きなんだな、って。いつも花火花火って言うから」である。この一拍が実に意地悪で、しかも自覚の一歩手前にいる人の頭の中としては正確だった。
「打上げ花火」まとめと考察
上がらなかった花火と、差し出された手
小春が語る花火の意味が、ここで一段深くなる。「自分たちで打ち上げ花火とかできたら素敵だろうなって思うんです」「特別な日になるだろうなって。一生の思い出というか」。前回買い込んだ花火については「部屋の一角で恨めしそうに静かにしてるよ」と空野が返す。
いつ知りたかったかという話も可笑しい。学祭で花火が上がるなら「入学式とかですかね」と言って、入学おめでとうの挨拶の続きに「少し先の話になりますが、学祭では花火が上がります」と付け加えてほしかった、と主張する。
そして空模様が変わる。「雲行き怪しいな」「風も強くなってきましたね」。浴衣コンテストの結果発表が始まったところで、小春が言う。「雨の匂い」。見えていないほうが先に気づくという逆転が、ここでも効いている。
結局、花火は一度も上がらなかった。「打上げ花火」という題を掲げておきながら、画面には最後まで花火が出てこない。それでもこの回が満たされて見えるのは、上がらなかったぶんを別のものが埋めているからである。
空野の独白がそれを言っている。「雨に濡れた冬月を早く家まで送らないといけない。分かっていたけど、もう少し一緒にいたくて」。そのうえで出てきた提案が「一旦寮に行こう。風邪ひくよ」だった。
締めが「手つないでもいい?」である。理由もちゃんと付け足す。「傘もないし、滑ると危ないから」。第4話で「手、貸して」と言えるようになった人が、今度は自分から手を差し出している。
考察として書いておきたいのは、この回の並べ方である。前半で小春は「好きと打ち明けることが怖い」と言い、後半で空野は「関係ないわけがない」と認めたうえで「それでも」と言った。どちらも、きれいごとで済ませずに一度立ち止まっている。打ち上がらなかった花火の代わりに上がったのは、この二つの「それでも」だったのだと思う。




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