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騎士狩猟祭がついに開幕した。ただし第5話は、祭りの順位表がどんどん意味を失っていく回だった。皇子と騎士隊長が一キロ以上離れれば腕輪が壊れて失格になる。その縛りを、アルノルトは自分の手で壊してみせる。「生きると誓え。誓えないならば誰も向かわせない」と誓わせて第三騎士隊をキールへ送り出し、ひとり残った彼が口にしたのが「ここからは暗躍の時間だ」だった。




一心同体の腕輪と、開幕した騎士狩猟祭
一キロ離れれば失格、という縛り
第5話は、狩猟祭の細かい取り決めの説明から始まる。皇子たちに配られたのは腕輪型の魔道具で、役目は二つあった。祭りのあいだ皇子たちの居場所を明らかにすることと、不正を防ぐことである。
ここで言う不正とは、騎士隊だけが先行してモンスターを狩ることを指す。「共に出陣する以上、殿下方と各騎士隊は一心同体です」という理屈で、皇子と隊長がおよそ一キロ離れた時点で腕輪は壊れ、その時点で失格になるという決まりだった。
アルノルトはこれを聞いて「狩りはエルナに任せて、宿で昼寝してるってわけにはいかないということか」とぼやいている。ちなみに出陣しないクリスタとルーペルトは距離の制限を受けず、屋敷から指示を出す形をとる。
ルールの説明が長い回はたいてい退屈になりがちだけれど、この回に限っては違った。「絶対に外してはいけないもの」を先に丁寧に見せておく運びが、そのまま終盤の一番の見せ場の下ごしらえになっている。
「この街にモンスターがたくさん押し寄せてくる」
出陣の支度をしていたアルノルトのもとに、クリスタが訪ねてくる。控室が違うことに気づいた彼が「また未来が見えたのか」と尋ねると、クリスタは「この街にモンスターがたくさん押し寄せてくる」と答えた。
アルノルトの返しは「よく伝えに来てくれたな。おかげでだいぶ動きやすくなったよ」だった。危機を知らされて怯むのではなく、先に手が打てるようになったことを喜んでいる。
そこへフィーネが挨拶に現れる。「お初にお目にかかります、クリスタ皇女殿下」と名乗ったフィーネを見て、クリスタは「この国で一番綺麗な人」と言った。アルノルトは自分が戻るまで妹に付いていてほしいと頼み、「フィーネは俺の友達だ。信頼できる。俺なんかよりずっとだ」と言い添える。
フィーネの返事は「アル様が望むならば喜んで」。そして皇帝の号令を経て、騎士狩猟祭の幕が開いた。
妹を預ける相手にフィーネを選び、しかもその理由を本人の前で言葉にしている。アルノルトが誰かを持ち上げるときは、たいてい自分を下げる形をとるのが面白いところだ。
独走する第三騎士隊と、宿で交わした本音
ブラッドハウンドを単騎で相手取る幼馴染
祭りが始まると、各隊の戦果が次々に読み上げられていく。ゴードン隊がサンドスコロピオを二体、クリスタ隊がスライムを二体という具合で、報告役は「どの隊もそこそこの成果といったところでしょうか」と評した。ただし、一隊を除いて、である。
断トツの首位に立っていたのがアルノルト隊、つまりエルナ率いる第三騎士隊だった。トリプルA級に相当するというブラッドハウンドを、エルナはひとりで相手取っていた。
それを見たアルノルトは「これなら、本当に昼寝していても良さそうだな」とこぼす。実際この日、彼はほとんど何もしていない。
幼馴染がどれだけ規格外なのかを、順位表と第三者の驚きだけで見せてしまう作りが効いている。エルナの強さを直接説明する台詞はほとんど無いのに、十分すぎるほど伝わってくる。
「お前もこの祭りが終わったら俺に関わるな」
初日の途中でアルノルトは「今日はもう休むとしよう」と切り上げてしまう。食い下がるエルナには「暫定的な主君は俺なはずだが、指示に逆らうのかな?」と言って従わせ、近くの町へ移動した。
宿での二人のやり取りは、ノックの是非から始まってすぐに脱線する。「アル、どこ見てるのかしら?」に「胸だ」と即答したうえ、「成長してないと思ってな」まで言ってのけた。エルナの「しみじみ言うな!」が飛ぶ。
ところが、そこから話は一転して重くなる。エルナがアルノルトに抱いていた幻想は「普通の皇子よ。少なくとも誰かにバカにされていて欲しくはなかった」というものだった。アルノルトは自分に付いた評判を「言い得て妙だと思うけどな」と受け流すが、エルナは「私は悲しかったし、悔しかったわ」と返す。
そのうえでアルノルトが告げたのが「お前もこの祭りが終わったら俺に関わるな」だった。理由は、自分が暗殺されかけたことである。エルナがいるだけで優勝候補になり、全権大使の座を狙う兄姉たちにとっては排除の対象になる。「お前にも危害が及ぶかもしれない。だから関わるな」。
謝るエルナに「いや、気にするな」と応じ、「この祭りだけは頑張る。安心しろ」と続けた。突き放しておきながら、最後に一つだけ約束を置いていく。この皇子のいつもの手つきがよく出た場面だった。
首位に躍り出たカルロスと、モンスターの津波
不自然な戦果と、ハーメルンの笛の在り処
翌日、順位に異変が起きる。下位にいたカルロスが急にトップへ躍り出た。トリプルA級のモンスターを二体討伐したのではないか、という見立てが読み上げられる。
エルナは即座に「ありえない!」と否定した。カルロスに付いている隊が弱いとは言わないけれど、それは不可能だという。
アルノルトの見立ては違った。「ハーメルンの笛を持っているのはカルロスだったか」。ただし彼はそこで黒幕と断じてはいない。続けて「単純にバカだから誰かに利用されているんだろうが」と考えている。
実際、この回の冒頭では、ハーメルンの笛と引き換えに「危機に陥った皇帝を助け、騎士狩猟祭で優勝し英雄となる」という筋書きが持ちかけられていた。視聴者だけがカルロスの立ち位置を先に知っている構図になっている。
そしてクリスタの予知どおり、事態は最悪の方向へ動き出す。エルナが叫んだのは「モンスターの津波が起きたんだわ」。追い詰められた東部のモンスターが一斉に逃げ出し、その進路の先にキールがあった。
「生きると誓え」と、自分の手で壊した腕輪
キールの守備隊では持たない、とエルナは言う。「皇帝陛下のそばには、最低限の近衛騎士しかいない。どう考えても止められない」。
アルノルトが確かめたのは、行けるかどうかではなく、行く覚悟があるかどうかだった。「モンスターの数も分からない。死にに行くようなものかもしれないぞ」に、エルナは「死を恐れたりしないわ」と即答し、騎士たちも「この命に代えても守ってみせます!」と続く。
そこでアルノルトが出した条件が、今回いちばんの台詞だ。「生きると誓え。皆もだ! 絶対に死なないと自らの剣に誓え! 誓えないならば誰も向かわせない!」。エルナは「決して死なないと!」と剣に誓い、騎士たちもそれに唱和した。
出発しようとするエルナに、アルノルトは「いや、俺は足手まといだ。お前たちだけで行け」と告げる。そして「おっと、不注意で壊してしまった。絶対外しちゃいけないはずだったのに」と言いながら、腕輪を自分で壊してしまった。これで彼は騎士狩猟祭を失格になる。
「まだチャンスはあったのよ!」と食い下がるエルナに、彼は「俺が俺の意思で失格したんだ。気にするな」と返し、「父上にもそう言えよ。俺が誤って腕輪を壊してしまったってな」と言い添えた。
そのうえで下したのが正式な命令である。「アードラシア帝国皇帝、ヨハネス・レークス・アードラーの第七皇子アルノルト・レークス・アードラーが、近衛騎士団第三騎士隊に命を告げる! キールにいる民たちと皇帝陛下を助けろ。町は失っても構わない。人命優先だ!」。エルナは「この剣と、アムスベルグ勇者家の名にかけ」と応じて駆けていった。
第三騎士隊を送り出し、ひとりになった彼が言う。「ここからは暗躍の時間だ」。優勝の目を自分で潰した直後にこの台詞が来るので、順位表の意味がその場で裏返ってしまう。
キールの死守と、レオナルトの声
吸血鬼兄弟の復讐と、皇帝ヨハネスの啖呵
キールでは皇帝ヨハネスが前線に立っていた。「わしは逃げん! 皆の者、これ以上東部の民を苦しめてはならん! 命に代えても、キールの町を死守するのだ!」。
第二波はおよそ三千という報告が入る。それでもヨハネスは「なぁに、一人一体斬れば済むことよ、怯むな!」と返した。数の暴力を割り算で笑い飛ばす言い草が、この皇帝らしくて良い。
そこへ現れたのが、サムとディーンと名乗る二人組だった。ヨハネスは先代から聞いていたと言う。非道の限りを尽くしてヴァンパイアの一族を追われ、冒険者ギルドにS級の賞金首とされた吸血鬼である。
彼らの恨みは、ギルドが自分たちを下等なモンスターと同列に扱ったこと、そしてそれを後押しした者たちに向いていた。先代がすでに世を去っているため、復讐の相手を「子孫とその所有物」、つまり帝国全体に切り替えたという理屈である。
ヨハネスは一歩も引かない。「やれるものならやってみるがいい。ワシを殺したところで帝国は死なぬ。我が帝国の精鋭が必ず貴様らを殺すだろう。それを恐れぬと言うならかかってこい」。
兄弟の力関係も丁寧で、弟のサムが軽口を叩くのを兄のディーンが抑える形が繰り返される。皇帝がたった一人で立っている時間の長さが、そのまま救援の遅れの体感になっているのがうまい。
「万死に値する」と、裏切られたカルロス
その危機に駆けつけたのがエルナだった。「ご無事ですか、皇帝陛下」。ヨハネスは「アルノルトの守りはいいのか」と問い、エルナは一心同体という命令を守れなかったことを詫びる。
皇帝の受け取り方が良かった。「アルノルトがお前を送ってくれた。お前はその気持ちに応えて間に合ってくれた」。そのうえで「息子の成長を見るというのは気分がいいものだな。ワシは嬉しく思うぞ」と続ける。腕輪が壊れた本当の理由を、父はすでに読み切っている。
ここでサムがエルナを煽った。「無能な王子についてた騎士だろ」「そう、出がらしだ。出がらし皇子」。
エルナの返しが、今回のもう一つの見せ場である。「あなた、私の一番嫌いな言葉を言ったわ。万死に値する。覚悟なさい」。人間ごときと侮った吸血鬼は、アムスベルグ家の力の前で驚くことになる。
そこへカルロスが登場する。「キールの危機に駆けつけた私は父上を助ける。そして狩猟祭でも優勝し英雄になる」「そこの吸血鬼よ、このカルロスと戦いたくなければ撤退せよ」。冒頭で持ちかけられた筋書きを、台詞ごとそのままなぞっていた。
当然、吸血鬼は撤退しない。「そんな、約束が違うじゃないか」と狼狽するカルロスに、「ただ利用されていただけとも知らず、約束を真に受けて本当に来るとか」「小物に構うな」という言葉が浴びせられる。アルノルトの読みが、その場で証明されてしまった格好だ。
転移門から届いた声と、集まった三千の騎士
一方その頃、レオナルトの前にシルバーが現れていた。「お初にお目にかかる、レオナルト皇子殿下」。
レオナルトはすぐキールへ向かおうとするが、シルバーはそれを止める。見捨てろという話ではなく、「戦力を整えてから向かうべきだ」という話だった。この人数では焼け石に水で、しかも東部にいる騎士は近衛騎士だけではない。
周囲の領主の騎士を動かすのは越権行為にあたるし、招集に何日かかるか分からない、と隊長が難色を示す。シルバーはそれを認めたうえで「しかし俺なら、その非現実を現実にすることができる」と言い、問題は皇子にその意志があるかどうかだと投げ返した。
レオナルトの答えは早かった。「民や皇帝陛下を守ることができるのならば、責任などいくらでも取る。さあシルバー、方法を教えてくれ」。シルバーは「見事だ。その決意に敬意を表そう」と応じている。
方法は、近くの七つの街に転移門を開き、拡声の魔法でレオナルトの声を届けるというものだった。演説は「領主の判断は仰ぐ必要はない。すべての責任は僕がとる」と言い切る内容で、集まった騎士は三千を超える。しかも全員が自分の意思で来ているので士気が高い。
最初に名乗り出たハンスという騎士の言葉が効いている。「殿下が各地の村を慰問されたと聞いた時から、あなたのもとで戦いたいと願っておりました。そう思う騎士は私だけではありません」。レオナルトが日頃やってきたことが、ここで戦力に変わった。
そしてこの節でいちばん良かったのは、レオナルトの一言だ。演説の自信は無いと認めながら「多分兄さんなら試してみろって言うからね」と続け、さらに「僕の兄さんは、いざという時の決断力はずば抜けている。今だって誰よりも早く決断してるはずだよ」と言う。目の前にいるのが誰なのか、彼はまだ知らない。
「騎士狩猟祭・前編」まとめと考察
順位表を自分から捨てた回
第5話は、狩猟祭という競技の枠組みが次々に無効化されていく回だった。優勝賞品である全権大使の座も、腕輪の縛りも、順位表も、アルノルトは全部そちら側に置いていったことになる。
面白いのは、彼が捨てたものをそのまま拾ったのがカルロスだという点だ。順位の頂点に立ったカルロスは笛で稼いだ見せかけの一位で、しかも約束を反故にされる。同じ「祭りの勝ち」を、片方は自分から捨て、片方は騙し取られた形になっている。
そのうえで、今回アルノルトが実際にやったことは三つある。エルナたちに死なない誓いを立てさせて第三騎士隊をキールへ送ったこと、失格の理由を父への言い訳ごと用意したこと、そしてシルバーとしてレオナルトに三千の騎士を与えたこと。どれも彼自身の手柄にはならない。
「ここからは暗躍の時間だ」という宣言が、そのまま作品タイトルの説明になっている回でもあった。
後編に残された線
前編の時点で、はっきりしないまま残っているものがいくつかある。まず、吸血鬼の兄弟がなぜカルロスを選んだのか。皇帝を助けて英雄になるという筋書きまで与えた以上、彼らは最初からその約束を破るつもりでいたことになる。
次に、カルロスがどこまで知っていたのか。「約束が違う」と言った以上、少なくとも彼は父を助けるつもりで駆けつけている。単純な悪役として処理されるのかどうかは、後編を見るまで分からない。
そして、レオナルトが集めた三千の騎士がキールに着いたとき、皇帝とエルナの戦いがどうなっているか。シルバーは「では、俺は先に行っているぞ」と言い残して先行しているので、まず彼が何をするのかが見どころになる。
賛否でいえば、前編は説明と移動が多い構成なので、物足りなさを指摘する声もあった。ただ、冒頭の腕輪のルール説明が終盤の失格に効く作りを見ると、この回の地味さはかなり意図的なものに見える。
狩猟祭の結末がどう処理されるのかも含めて、後編の待ち遠しい回だった。




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