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タイトルどおり、大会の前夜までを描く回だった。東京行きに必要なのは親のサインが入った外泊届で、美緒だけがそれを出せずにいる。そこで綾たちが立てた作戦が「ゲームのこととか余計な話は一切せず、それで押し通す」だった。夜絵家で母から出た最後の確認は「ゲームは関係ないのよね」。本当のことは言わないまま、四人は長崎から成田へ飛ぶ。




連休の予定と、観光地だらけの旅のしおり
「ちょっと東京行ってくる」から始まる回
第5話は学院での何気ない会話から始まる。連休の予定を聞かれた綾が返したのが「ちょっと東京行ってくる」だった。駅まで車を出すという申し出まで出てくるあたり、周りは相変わらずのお嬢さまである。
行き先を尋ねられても「どのあたりっていうか、まあちょっとね」としか言えない。「ランドとかシーとか」と聞かれて「そういうとこには行かないかな」と濁し、「ミオたちとちょっと用事があるだけだから」で押し切った。
お土産の話も噛み合わない。「バナナかひよこ」と挙げられて「ひよこは博多土産」と返し、「なぜ急に博多弁」と突っ込まれる。最後は「私にとって一番のお土産は、綾さんの素敵な思い出」できれいにまとめられてしまった。
この冒頭だけ見ると完全に普通の学園ものだ。行き先が格闘ゲームの大会だとは誰も思っていない。この回全体が「本当のことを言わないまま進む」構造になっていて、その最初の一手がここに置かれている。
足と枕とご飯、そして観光地ばかりのしおり
場面が変わると、旅のしおりが作られていた。「エボジャパン来週ですもんね」「わざわざ作ったんですね」と感心されるが、中身を見ると観光地ばかりで肝心の大会が載っていない。「エボジャパンは」と聞かれて返ってきたのが「それは各自でどうぞ」だった。
実務のほうはきちんと進む。宿は「二、三日なら東京の親戚が泊めてくれる」で片付き、飛行機は「なるべくお安いやつで」という注文が入る。「足と枕はこれでいいとして」「ご飯は良さげなとこ適当に探そう」と、順番に埋まっていった。
珠樹の「じゃあ勝ち上がって決勝行っても安心ですね」に対して「まあ負けたら、後は向こうでのんびりしてればいいんじゃない」と返され、「私、勝つんですけど」「三日目の決勝行くんですけど」と食い下がるのが良かった。
旅行の計画を立てているのに、本人たちの頭の中は完全に大会である。しおりを作った側だけが観光を楽しみにしていて、その温度差がそのままこの回の笑いになっていた。
外泊届という、最後にして最大の壁
「有印私文書偽造」で即座に却下される
準備が整ったところで、最後に残ったのが外泊届だった。「出すの忘れずに、親御さんのサインもらったやつね」と念を押されたとき、美緒の返事が明らかにおかしい。「お前、まさか宿題やってない時の言い方だ」と即座に見抜かれる。
「ミオ、本当のこと言って。怒らないから」と言われて「絶対怒る時の言い方だ」と返すあたり、この二人の距離感はもう完全にできあがっている。そして美緒が出した解決策が「バレなければ何も問題はないんです」、つまり自分でサインを書くという案だった。
これは珠樹に一言で潰される。「ミオさん、それは有印私文書偽造」。「反則どころか犯罪まであるじゃん」という突っ込みで幕が下りた。
却下の理由が法律ではなく実務だったのが良かった。「それなりに遠出をするわけですから、何かあった時にご連絡する場合もありますし」と言われてしまうと、もう反論の余地がない。
作戦は「余計な話は一切せず押し通す」
そこで立てられたのが正面突破の作戦である。四人で夜絵家を訪ね、東京旅行の許可を求める。方針は「ゲームのこととか余計な話は一切せず、それで押し通す」。つまり嘘は言わないが、本当のことも言わない。
ここで綾の内心に格闘ゲームの比喩が入るのが、この作品らしいところだ。「多少危険でも踏み込んで、中足を差しに行かないとリターンは取れない」。相手の間合いに入らなければ何も始まらない、という理屈をそのまま人生の判断に使っている。
第4話で美緒が語った母の姿を思い出すと、この作戦がどれだけ薄氷かが分かる。実力行使に出て負けた相手のところへ、今度は仲間を連れて交渉に行くわけだ。
しかも交渉役を任されるのが、当の美緒ではなく綾たちである。美緒本人は「ママに説明してください、私が言うと」と早々に降りていて、その怯え方が状況を物語っていた。
夜絵家、母との対面
「綺麗な人」から始まる圧
迎えた母の第一声は、意外なほど柔らかい。「ミオちゃんがお友達を連れてくる日が来るなんて」「いつもミオちゃんと仲良くしてくれてありがとう」と、来客をまっすぐ歓迎してくる。
綾の内心が二段構えになっているのが面白い。まず「綺麗な人」と素直に感心し、そのすぐ後に「こんな人が、今ここで私を倒すこととか、やっぱり言わないよな」と続く。第4話で聞かされた話と、目の前の人物がどうしても結びつかない。
ところが「今日は何のご用」から空気が変わる。東京旅行の話を出した途端、「ミオちゃんは」「ゲームが絡んでいるの」と、まっすぐ核心を突いてくる。「ミオちゃん、ゲームにしか興味がない子だから」「目の届かないところへ行ったら、きっとゲームざんまいになっちゃう」という読みが、悲しいくらいに正確だった。
ここでの綾の内心が良かった。「ご迷惑じゃないかしら」と言われて「ううん、ご迷惑をおかけすることになると思う」と心の中で認めてしまっている。嘘をついている自覚があるからこそ、言葉が出てこない。
「ゲームは関係ないのよね」
流れを引き戻したのは珠樹だった。「僭越ながら、私たちが寮務委員として責任を持って引率します」。肩書きを出したうえで、資料まで差し出してくる用意の良さが効いた。
そこで出てきたのが、あの観光地だらけのしおりである。「あ、表参道」「ママも行ってみたい」「パンケーキ食べたいわね」と母の表情がほどけていく。大会を書かなかったしおりが、ここで最強の証拠品になったのは見事だった。
そして母が漏らした言葉が刺さる。「ミオちゃんにも大切な存在ができたのね。ゲーム以外に」「あんなに嫌いだった勉強を頑張れるくらいに、楽しめるものが見つかったのね。ゲーム以外に」。第4話のテスト勉強を、母は母なりに受け取っていたことになる。
最後に置かれたのが「ゲーム以外で一応確認なのだけれど、ゲームは関係ないのよね」だった。そのまま「みんなで楽しんでらっしゃい」「ミオちゃんのことよろしくお願いします」と送り出され、綾の「これで問題はなくなった」で場面が切り替わる。
優しさと圧が同じ声で出てくるのが怖かった。喜んでいるのも本心、確認しているのも本心で、だからこそ後ろめたさが残る。この母は敵役として描かれていない。それが一番効いている。
長崎から東京へ
「成田ですからね」「東京じゃない」
「いくぞ東京」の勢いのまま到着した先で、いきなり肩透かしを食らう。「これが東京」「いや、田舎まであるな」「長崎の方が都会じゃないですか」と続き、落ちが「成田ですからね」「東京じゃない」「千葉です」だった。
ここでこの学校が長崎にあることが、はっきり示される。安い便を探した結果が成田行きだったわけで、「なるべくお安いやつで」という注文がそのまま効いている。
電車で一時間かけて東京駅へ向かい、「テレビで見たやつ」「だいぶ東京らしくなってきましたね」と少しずつ持ち直していく。地方から出てきた人間の感覚が、丁寧に拾われていた。
旅行ものとしての楽しさが、ここで一度だけ顔を出す。この後は本当にホテルにこもるだけになるので、実質ここが唯一の観光シーンだった。
絶交中のふたりと、「白百合様」事件
道中、珠樹が投げた「ミオさん、まだユウさんと絶交中なんですか」で不穏な話が始まる。美緒の言い分はこうだ。「この女は私をエボジャパンに、白百合様とかいうバチクソ痛い名前で登録するギルティを犯したんですよ」。
夕の「ごめんね、白百合氏」に対して「白百合って言うな」と返るあたり、怒りは本物である。「別にイタズラみたいなつもりじゃなくてさ」という弁解も通じていない。
原因は単純だった。エントリー作業を代わりにやった夜、「まあまあ眠かったせいか、プレイヤーネームを入力する欄に、何の疑問もなく白百合様って入れちゃった」というだけの話である。「その場で一言、プレイヤーネーム何って聞いてくれればいいでしょうが」は完全に正論だ。
しかもその場には綾も珠樹もいた。全員で作業していて誰も止めなかったのだから、美緒からすればたまったものではない。大会本番で読み上げられることを考えると、被害はこれからである。
プレイヤーネームと、格ゲーチェッカー
イヌユ、アヤマン、テア先輩
エントリーの回想では、それぞれのプレイヤーネームが明かされる。夕は「イヌユ」で、「イヌユだから、イヌユですか」と種明かしまでされてしまう安直さだ。
綾は「アヤマン」で、理由は「中学でそう呼ばれてたんで」。そして珠樹が「私は特にプレイヤー名がなかったので、テア先輩で登録しました」と続ける。
これが今回いちばん笑ったところだ。第4話では、その呼び方をされて「次にその名前で呼んだら無視しますね」とまで言っていた人が、自分の意思でその名前を登録している。
「テア先輩って、実況言いづらそうですね」と指摘されて「い、いいんです。気に入ってるので」と返すのが決定打だった。嫌がっていたはずのあだ名を、いつの間にか受け入れている。
格ゲーチェッカーと、ベガ立ち
もうひとつ話題に出るのが格ゲーチェッカーである。「出場する有名プレイヤーとか、注目選手の記事も上がってたりする」という説明に、すかさず「私、なんて書いてありました?」と食いつく人がいて、「なぜお前が載っていると思った」と返される。
対戦の合間には「気が散るので、ベガ立ちやめてください」という抗議も飛ぶ。格闘ゲームの用語がそのまま日常会話に混ざっている密度が、この作品の気持ちよさだ。
夕の「そうなんだけど、みんなで旅行も楽しめるよ」に対しては、「それは終わってからで」「私は優勝するので、そんな時間ないですけど」と一蹴されてしまう。
観光の提案が三回くらい出て、三回とも流されている。しおりを作った本人がいちばん観光できていないという構図が、最後まで一貫していた。
大会前夜
読みの正体と、「元気よくボタンを押す」
ホテルでの対戦中、美緒の読みが冴えわたる。「なさそうな択を選んだんだけどな」「なんで分かったの」と聞かれて返ってきたのが「来るなと思ったら、もう来てるので」だった。「それ、もうニュータイプやん」という突っ込みが的確すぎる。
ただし、そこから先の説明は驚くほど具体的だった。「読みを通すためには、当たり前だけど対戦中に相手の行動を見ること」。例として挙げられたのが綾の癖で、距離が空くと間合いを詰めてガードするだけの動きが多い。つまり踏み込んでも何もせず、相手が何を振るかを見ているという説明だ。
綾の「だったら、自分からその機会を増やしていくって考え方か」という受け止め方も良かった。珠樹は「私は対戦に必死すぎて、自分の取った行動すら覚えてないことがほとんどなので」と自己申告している。
そして、もっと重要なことがあると前置きして出てきたのが「元気よくボタンを押す」「元気よくボタンを押すと、技の威力が上がるんですよ」だった。「オカルトの話はちょっと」と切られ、「初代ストリートファイターじゃないんだからさ、ボタン馬鹿になるよ」とまで言われている。
理詰めの解説を延々やった直後に、これである。天才の言うことは半分しか参考にならない、という当たり前が、いちばん愛のある形で描かれていた。
「ずっと見てたからね」
前夜、眠れないでいる珠樹の「どんなに調整しても、なかなか不安は拭えないですね」に、夕が「不安になるのは本気でやってるからでしょ。知らんけど」と返す。
「私、ちゃんと本気になれてるのかな」という問いへの答えが良かった。「今をときめく女子高生が、長崎から東京くんだりまで来て格ゲーの大会出るんだよ。東京来たのに遊びもしないで、いつもと同じく部屋にこもって一生ゲームしてる。めっちゃ本気でしょ」。
そこから珠樹がこぼしたのが「どれだけやっても追いつけないんですよね」だった。誰に追いつきたいのかは、今回も明かされない。夕は「ないけど、でも気持ちはなんか分かる」と言い、そのまま「ずっと見てたからね」と続けた。
夕から見た珠樹は「頑張ってるっていうより、張り詰めてるっていうか、無理してるっていうか、演じてるっていうか」で、「だから最初はちょっと怖かったな」。珠樹のほうも「私も、なんて適当なんだろうって思ってました」と返している。
第4話で珠樹が口にした「追いつきたい人」に、答えらしきものが置かれた形だ。断定はされていないが、ずっと見ていた人がすぐ隣にいた、という配置は無視できない。「明日は全力で楽しもうぜ」で終わるのも、この二人らしくて良かった。
「前夜」まとめと考察
嘘をつかずに、本当のことも言わなかった回
今回のサブタイトルは「前夜」。大会の前夜であると同時に、バレる前の最後の夜でもあったと思う。
夜絵家での交渉は、押し通しには成功したが解決はしていない。母は「ゲームは関係ないのよね」と確認したうえで送り出しており、その前提が崩れた時に何が起きるかは、まだ何も描かれていない。
うまいのは、母を悪役にしなかったことだ。娘の友人を歓迎し、勉強を頑張ったことを喜び、しおりを見てパンケーキの話をする。この人を騙しているという感触が残るからこそ、許可が下りた瞬間も素直に喜べない。
綾の「これで問題はなくなった」という言い方も、よく考えると何も解決していない。問題が消えたのではなく、先送りされただけである。
最後に立った、ガイル使い
そして幕切れがgekidoの配信だった。「ランクマ100連勝するまで寝ません」という企画の最中に、「最近よくランクマに潜ってやがる、ちょっと小生意気なガイル使い」が話題に上がる。
帝王と呼ばれる人物が「こいつは100連勝できるかどうかは五分ってところだな」と評し、「エボジャパンで」という言葉のあとに「面白いな、そいつはよ」と続けた。そして場面が変わり、「亜里沙ちゃん、ご飯行きましょう」と呼ばれる少女が映って終わる。
名前と配信で話題になっていた相手が同一人物かどうかは、今回は明言されない。ただ、大会の直前にこの並びを置いた以上、次回以降の対戦相手として立ったことは間違いないだろう。
第3話で珠樹、第4話で母、そして今回でライバル。この作品は毎回きちんと一枚ずつ壁を足してきている。エボジャパン本番がどこまで描かれるのか、次回が楽しみだ。




















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