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第8話「確実に負ける」は、綾が憧れのプロゲーマーgekidoと、美緒が禍腐餌悪霊と当たる回だ。ただしこの副題は誰かに投げつけられた罵倒ではなく、綾が自分の勝ち目を自分で正確に見積もった結論である。それを本編は、綾のことを何ひとつ知らない観客のたった一言で否定してみせる。そして夕と珠樹の対戦も並行して動き、珠樹が格ゲーを続けている理由がついに語られる回でもあった。




副題「確実に負ける」は、綾が自分に下した見立てだった
第8話のサブタイトルは「確実に負ける」という、身も蓋もない一言だ。誰かに投げつけられた罵倒ではない。対戦を控えた深月綾が、自分の勝ち目を自分で見積もった結果である。この見立てが、この回のあいだじゅう試され続ける。
アバンの最後に置かれる「この対戦、私はまず勝てないだろう」
アバンでは前回の続きとして、gekidoと禍腐餌悪霊の決着が語り直される。カフェオレのミスについて実況が「いくらトレモを重ねてもミスをなくすのは難しい」「どんな上級者でも、相手が強ければ強いほどミスが増えます」と分析し、gekidoが「中足合戦という相手の土俵にあえて立った上で、真っ向から壊してしまった」と締める。
その分析を聞いた綾の内心が「この対戦、私はまず勝てないだろう」で、続いて画面に出るのが「確実に負ける」だ。相手の強さを正確に理解できる人ほど、自分の負けも正確に見えてしまうという構造になっている。無知ゆえの怯えではなく、分かるがゆえの結論だ。
「負ける戦いだからこそ、何かを持ち帰りたい」
OP明けの独白がいい。「負けると分かっている戦いに、どんなモチベで臨めばいいんだろう」「なら私はこの大会で何を目指すんだろうって」と自問し、そこで思い出すのが仲間の言葉だ。「てゃ先輩はこういうことを言ってたんだ」「知ったふうなことを言ってしまった」と自分を振り返っている。
そこから出る答えが「たとえ負けるとしても」「いや、負ける戦いだからこそ」「何かを持ち帰りたい」「明日に生かしたい」だ。勝ち負けの外側に目的を置き直しているわけで、格ゲー作品としてはかなり誠実な回答だと思う。強敵に当たったときの「奇跡を起こす」でも「せめて一矢」でもなく、次に使える材料を取りに行くと言っている。
憧れの相手を、呼び捨てにしている
綾がgekidoをどう見ているかの説明も面白かった。「私はさ、gekidoがまさに憧れの存在だったよ」に続くのが「自分の中で存在がでかすぎて、逆に呼び捨てになっちゃうぐらい」だ。美緒が「イチロー現象ですね」と返し、綾が「そんな言葉はない」と切り捨てるやり取りも軽くて良い。
背景として語られるのが「ストフォーに夢中だった小学生の頃、親に登録してもらって配信を見てた」という一言だ。子どもの頃に配信で見ていた相手と、いま同じ台に着いている。第4話のアバンで描かれた、強すぎて友達がいなくなった綾の過去を思うと、この舞台に立っていること自体がかなり長い道のりの先にある。
観客の一言が、副題と正面からぶつかる
この回の構成でいちばん唸ったのがここだ。綾が内心で「確実に負ける」と結論しているのに、外から見た綾はまったく逆に見えている。しかもそれを言うのが、綾のことを何ひとつ知らない通りすがりの観客たちである。
「負けると思ってる奴の顔じゃねえんだ」
試合前、観客は「gekidoの対戦見たいよな、みんな」「あれ、対戦相手女だ」「対戦終わったらサインもらい行くわ」という調子で、完全にgekido目当てだ。ところが試合が動くと空気が変わる。綾が先にラウンドを取り、実況が「あのgekidoさんが釣られるほどの際どい手前落ち」と驚く。
そこで観客の一人が言うのが「そして何よりこの表情だ」「負けると思ってる奴の顔じゃねえんだ」だ。続けて「誰だか知らねえけど、この女子高生、gekidoさんに本気で勝つつもりじゃん」「面白え」となる。内心の見立てと、顔に出ているものが完全に食い違っている。そしてこの回は、外から見えているほうを正解として扱う。
「やる前に負けること考えるバカいるかよ」
その流れで飛び出すのが「やる前に負けること考えるバカいるかよ」だ。プロレスの名文句をもじった軽口なのだが、置かれている位置がずるい。副題「確実に負ける」への、直接の返答になっている。しかも言っているのは事情を知らない他人で、綾には聞こえていない。
つまりこの回は、副題を本編の中で否定してみせるという作りをしている。負けを見積もることと、負けるつもりで戦うことは別だ、という区別がここで立つ。綾は勝ち目を正しく数えたうえで、それでも取れるものを取りに行っている。だから顔つきが崩れない。
破れかぶれではないと、実況が保証している
それを裏づけるのが実況の解説だ。綾の置き攻めについて「これは大ダメージこそ見込めないものの、相手の防御周りの情報を引き出しやすい選択肢」と説明し、「つまり積極的に仕掛けていくが、相手が相手だからと破れかぶれでワンチャン引こうってわけではない」と結論する。
これは「何かを持ち帰りたい」という独白の、そのままの実行だ。大きな一発を狙うのではなく、相手の情報を引き出す手を選んでいる。宣言と行動がきちんと一致しているのが気持ちいい。もっとも、対するgekidoについては「臨機応変に対応し、最後には相手を破壊する」「2先や3先という短い対戦でも、gekidoさんが安定して勝っている理由がそれだ」と説明されてしまうのだが。
緊張の描き方が、二人でまったく違う
同じ「プロと当たる」状況でも、綾と夜絵美緒の反応がまるで違うのが今回の面白いところだ。片方は相手を知りすぎていて震え、もう片方は相手を知らないのに肩書きだけで震えている。
「プロゲーマーという肩書きにガンビビりしています」
美緒の「めちゃくちゃ緊張してきました」に対して、仲間から「ついさっき、お前緊張に強いタイプとかほざいてなかったか」「緊張に弱いタイプだよ、お前は」と突っ込みが入る。第7話で緊張しない自慢が出ていたので、その回収でもある。
白状の仕方も美緒らしい。「知らねえ奴ですが、プロゲーマーという肩書きにガンビビりしています」だ。相手を知らないと認めたうえで、肩書きに怯えていると言う。返ってくるのが「正直な点だけは評価したい」で、褒めているようで全然褒めていない。この二人の距離の詰め方は、いつもこの温度で安定している。
震えを震えでパリィできないか、という冗談
震える手を見せ合う場面で出るのが、震えを震えで受け流せないか、という格ゲーらしい冗談だ。相手の攻撃を受け流す技の名前をそのまま持ち出している。緊張を技術で処理しようとしてみせるのが、この作品の登場人物らしくて笑ってしまった。もちろん無理だと即答される。
そのあと綾が言うのが「緊張で震えるっていうのもさ、意外と悪くないもんだね」だ。震えを止めようとするのではなく、震えていること自体を肯定している。憧れの相手と当たれる場に自分がいる証拠なのだから、たしかに悪いものではない。ここで綾の側の緊張も、同じ画面で処理されている。
「テスト勉強が嫌すぎて吐いてた時の方が、今の50倍は震えてたよ」
美緒を落ち着かせるために綾が持ち出すのが、第4話の一件だ。「大丈夫だって、ミオ」「テスト勉強が嫌すぎて吐いてた時の方がさ、今の50倍は震えてたよ」。美緒の「決めゼリフっぽく言うようなことではなくないですか」という返しも正しい。
ただ、内容としてはこれ以上ない励ましだと思う。プロと当たる緊張よりも、テスト前の震えのほうが大きかったと過去の実測値で示しているからだ。しかもその震えを、美緒は乗り越えて全教科突破している。抽象的な精神論ではなく、本人の実績を根拠にしているのが効く。
美緒の強さは「怖さを知らない」ことでできている
美緒とカフェオレの試合は、実況と解説が試合後に振り返る形で語られる。ここでの分析が、この作品がずっと描いてきた美緒の異常さを、初めて言葉で説明している。今回いちばん読み応えのある部分だった。
「あんな無邪気な連射はできないはずなんで」
最初、会場は美緒を完全に見誤っている。解説の言葉で「格ゲーどころかゲーム自体やらなそうっつーか、いい教育受けてそうな、そんなオーラがすごかったんで」だ。そして試合が始まると波動拳を連射しはじめ、「おいおいおい、何発ってんだよマジで」となり、その場の全員が「あー、この子、不戦勝とかくじ運でここまで上がってきたんだなって」と判断する。
ところが解説はそこから、なぜそれが異常なのかを説明する。飛ばれた瞬間に技を出していると「対空どころかガードもできないわけで」、だから「怖いはずなんで、弾を打つって根本的に」。結論が「あんな無邪気な連射はできないはずなんで」だ。下手だから連射できるのではなく、怖さを知っていたら連射できないという逆転になっている。
「ないはずなんですよ、弾打ちのうまさなんてもの」
解説はさらに踏み込む。「対空もだけど、この子めちゃくちゃ弾打ちうまいな」と言ったあとで、自分で否定するのだ。「ないはずなんですよ、弾打ちのうまさなんてもの」。経験則や状況判断はあるにしても、と前置きしたうえで、美緒がやっているのは「純粋に相手が飛んでこない時だけ弾を打つ」ことだと指摘する。
そんな能力があるとするなら、と続けて出てくる言葉が「シックスセンス、オカルトスキル」だ。技術として説明できないので、超常現象として片づけるしかないという投げ方が最高に格好いい。第3話から積み上げてきた「美緒はなぜか強い」という描写が、専門家の口から「説明がつかない」と認定された瞬間だと思う。
「俺とは全く違うところでスト6をやってるらしい」
決定打になるのが、カフェオレ側の敗因分析だ。コツコツ積み上げた体力有利が、飛びを一度通されただけで消える。そこでカフェオレがこぼすのが「自分を信じきれなかった」で、解説はこれを「シックスセンスでは飛びが来ることを分かっていたのに、理性を優先してしまった、そんなニュアンス」と読む。
そして締めが「どうやらこの子は、俺とは全く違うところでスト6をやってるらしい」「それが分かった瞬間でした」だ。勝った負けたではなく、そもそも同じゲームをしていないという結論になっている。プロが積み上げた理屈の側が、直感に負けた場面をこれだけ丁寧に説明してくれるのは、この作品ならではだと思う。
同じ会場で、四つの対戦が同時に動いている
今回は綾と美緒だけでなく、犬井夕と一ノ瀬珠樹の対戦も並行して進む。四人が別々の台で、それぞれ別の相手と当たっているという贅沢な回だ。そして残る二つのうち片方が、この作品がずっと引っ張ってきた謎の答え合わせになっている。
夕と藤宮亜里沙が、いきなり当たる
夕の対戦相手が、第6話・第7話でさんざん場を荒らした藤宮亜里沙だった。夕が「やっぱりそうか」と気づき、亜里沙のほうも相手が誰かを確認して短く「勝負」と言う。会場で一度こじれた相手と、そのまま画面の中で当たることになるのは、第7話で亜里沙が言った「冷静になってみれば、画面の中で殴り合う必要も機会もない」への皮肉な返答でもある。
開幕から亜里沙が弾を抜けて笑い、いつもの調子で煽ってみせる。ただ夕は第7話で「私、緊張ってほとんどしないんだよね」と言っていた人物で、格ゲー歴も長い。煽りがいちばん効かない相手を引いた可能性があるのが面白いところだ。この対戦の続きは次回に持ち越された。
珠樹が格ゲーを続けている理由が、ついに明かされる
第4話で珠樹は「追いつきたい人がいるんです。その人に私を見てほしいから格ゲーをしています」と言い、その相手は第7話まで名指しされないままだった。今回、珠樹が姉と向き合う場面でそれが語られる。「姉さんはすごい」「昔からそうだったよね」「勉強もピアノもゲームも、姉さんは何だって上手で」と積み上げたあとの答えがこれだ。
「姉さんと遊ぶのは楽しかった」「二人で同じものを見て」「同じことに怒って」「いつだって同じ時に笑って」──そして「私は今も、あの頃のお姉ちゃんと遊ぶために格ゲーをやっているの」。追いつきたいのではなく、もう一度一緒に遊びたかったという答えだった。返ってくるのが「何それ」の一言だけなのが、また重い。
「もしかして、何も成長してないのかな」
試合中の珠樹の内心が痛い。「あんなにトレモやって対戦やって」「あんなに立ち回り考えて」「あんなにできることが増えて」「あんなにみんなと練習したのに」と積み重ねたあとに来るのが「もしかして、何も成長してないのかな」だ。
第3話でトレモに覚醒し、第4話で動機を語り、第5話から大会に備えてきた積み上げが、ここで一度まるごと疑われている。綾が「確実に負ける」と見積もって顔を上げていられるのに対し、珠樹は同じ負けに折れかけている。同じ回に並べられると、この差がはっきり見えてしまう。
まとめ|「確実に負ける」が、最後は反対側に立っている
この回は、副題の一言をいろいろな角度から検算していく作りになっていた。綾は自分で「確実に負ける」と言い、観客に否定され、実際にgekidoから一本を取る。そして終盤、その言葉が今度はまったく別の場所に置き直される。
カフェオレは、自分の侮りを自分で止める
今回いちばん株を上げたのはカフェオレかもしれない。試合前、内心では明らかに侮っている。格ゲーが持ち上げられる風潮に触れて「こういうチャラついた女までもがのこのこやってきやがる」「勝負の場によ」とまで言う。
ところが、そこから自分で自分を叩き直す。「油断こいてんじゃねえぞ」「相手が誰だろうと関係ねえ」と切り替え、「ルーザーズには落ちちまったがよ」「このままプールを泳いで泳いで、またあいつに牙が届くとこまで行かなきゃならねえ」と自分の目的を確認する。侮りを自覚して撤回する場面をきちんと描いているのが誠実で、第7話で見せた「あの日、お前に思わされちまったんだよ」という執念とも地続きだ。
「てめえをなめねえって、この俺の判断」
その判断が正しかったことは、試合が証明してしまう。カフェオレは1セットを落とし、解説からは「あのカフェオレが、プレイヤー名も知らない謎の美少女にセットを取られた」と言われる立場になる。侮らなかったからこそ、その先まで戦えているとも言える。
そして終盤、有利を握り返したところで出るのが「名前も知らねえガキ」「てめえをなめねえって、この俺の判断」「なかなか正しかったかもしんねえな」だ。相手を認める言葉が、相手を仕留める直前に置かれている。敬意と殺意が同じ台詞の中に同居していて、この人の格好よさが一番よく出た場面だと思う。
「終わりだ」で第8話が終わる
最後の状況説明が容赦ない。「両者SAゲージはMAX」「どっちもSA一発で死ぬ体力か」と言ったあとに「だけど女の子はもう体力ドット」「ドライブゲージも少ない」と続く。ガードしてもゲージが削られ、ゼロになれば体力が直接減る仕組みまで丁寧に説明されるので、美緒に逃げ場が無いことが数字で分かる。
そこでカフェオレの「終わりだ」が入って、第8話は終わる。冒頭で綾が自分に下した「確実に負ける」という見立てが、最終盤では美緒の側の状況説明としてそのまま成立しているという配置だ。副題を一周させて、綾では否定し、美緒では突きつけるところで切る。次回、美緒がこの言葉をどう裏切るのかが見どころになる。

























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