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「疑いながらでもいいから、俺のそばにいろ」…玲夜の言葉を胸に登校した柚子を待っていたのは、花嫁だと露見した教室の大騒ぎだった。さらに昼休み、透子の口から玲夜に婚約者がいると知らされてしまう。動揺を抱えたまま始まったバイト先で柚子が目にしたのは、玲夜と秘書・高道の揺るぎない信頼関係。そして帰宅した玲夜が差し出したのは、18年分の誕生日プレゼントだった。第5話「ライバルは有能秘書」を振り返る。




疑いながらでもいい
「不安になったらそうやって言葉にしろ」
前回の続きから幕が開く。「お前は俺の花嫁だ。この先一生俺のものだ」と言い切る玲夜に、柚子はまだ怯えている。「でも玲夜も、あの人みたいに簡単に心変わりしちゃったら」…かつて自分を捨てた元恋人と重ねてしまうのだ。返ってきたのは「しないと言っているだろ」「俺はお前を簡単に捨てた両親や男とは違う。お前に男がいたというだけでも嫌なのに、そんなゴミと比較されるのは不愉快だ」…柚子が「怒っているというより、まるで拗ねてるみたい」と内心で受け止めるのがおかしい。そして今回いちばんの名台詞が来る。「疑いながらでもいいから、俺のそばにいろ」「不安になったらそうやって言葉にしろ。何度だってその不安を取り除いてやる。いつか柚子が俺を知って、信じられるまで」…不安を消せと迫るのではなく、抱えたままでいいと言う。ここが玲夜の妙に誠実なところである。
バイトの件も、ここで着地する。「バイトをしたいなら俺の仕事を手伝ってくれ」「それが学費の代わりと思えば、柚子も少しは気が楽になるだろ」…勝手にバイトを辞めさせておいて何を、とも思うが、柚子の「自分で稼ぎたい」という気持ちに配慮した落としどころではある。「いつか無条件で信じられる日が来るのかな。ただただ目の前の人の愛情に包まれて、その愛情を純粋に信じることができる日が」…柚子の願いは、まだ願いのままだ。
教室騒然、そして写真の出どころ
数日ぶりの教室は「何も変わってないはずなのに、なんだかひどく懐かしい」。変わってしまったのは自分だけだと、柚子は思い知る。そこへ透子が「柚子が花嫁に選ばれたのよ。鬼の」とあっさり暴露して、教室は大騒ぎになった。「マジなの!?」「うそ、しかも鬼なの!?」「相手はイケメン?」「写真はないの?」…持っていないと答える柚子の横で、透子が「私あるわよ」。なぜ本人より友人が持っているのか。「昨日帰る時にこっそりと、代わりに柚子の写真を渡すことで快く撮らせてくれたわ」…玲夜と裏取引をしていたのである。東吉の「いつの間にそんな取引を」が全視聴者の心の声だった。
ちなみに柚子について登校していた子鬼たちは、教師に「学校にペットを持ってきちゃいかん」と注意されつつ、「連れてきてしまったものは仕方ないな。おとなしくしてるんだぞ」であっさり黙認されている。「子鬼ちゃんたちの可愛さの前では、先生もただの人になっちゃうってわけね」…ネットでも「小鬼がペット扱い」「先生も甘い」と笑いが起きていた。休み時間ごとの質問攻めで柚子はへとへとだが、「きっかけを作ったのは誰だよ」という東吉の突っ込みつき。
婚約者・鬼山桜子と、花嫁という謎
花嫁が現れたら、婚約は白紙になる
昼休み、話は思わぬ方向へ転がる。柚子が鬼龍院の家でよくしてもらっていると聞いて安心した透子が、何気なく「若様はほら、婚約者もいるから」と漏らしたのだ。「婚約者?」「絶世の美女の上に才色兼備。鬼の一族の中でも人気が高い」「鬼山桜子って人」…柚子は固まる。「玲夜に婚約者。誰もそんなこと一言も」「花嫁なんて言われているけど、婚約者がいるなら私は必要ないんじゃ」。
慌てて訂正に入ったのが東吉だ。「透子、お前が変な言い方するから、こいつ勘違いしてるだろうが」…そこから語られる設定が丁寧だった。まずあやかしは基本あやかしとしか結婚しない。次期当主ともなれば、一族が話し合いで伴侶を決める。そうして選ばれたのが筆頭分家・鬼山の令嬢である桜子で、理由は「年齢が釣り合う一族の女の中で一番霊力が高い」から。そして肝心なのがここだ。「けれど、花嫁が現れた場合は花嫁が優先される」…本当に? と食い下がる柚子に、東吉が自分の例を差し出す。「俺にも前は婚約者がいたんだぞ。けど透子が現れて、その話は白紙になった」…とはいえ柚子の不安は消えない。「玲夜は何も教えてくれない」「私一人が花嫁のことをよく分かっていない」。
「私も玲夜を愛したい」
続く花嫁談義が、この作品の土台を教えてくれる。柚子の「花嫁は女の人だけなの? 人間の男の人も選ばれたりしないの?」という素朴な疑問に、東吉の答えは身も蓋もない。「あやかしの女ってのは男よりシビアなんだよ。大事なのは強い霊力と資産。霊力皆無の人間の男は眼中にないわけ」…「たくましいわね」と透子。さらに核心はこうだ。「花嫁自体がいまいち分かっていないことが多いからな。どうして霊力もないのに強いあやかしを産めるのか。相手の霊力を高めることができるのか。そもそもなんであやかしは一目見て花嫁だと理解するのか」「みんな、花嫁はそういうものって理解しているだけだ。理由なんて誰も知らない」…誰も知らないものを根拠に、自分の一生が決まっている。柚子の心細さの正体が、ここではっきりする。
そのうえで柚子が辿り着く独白が、今回の芯である。「そもそも正直、愛とか恋とかはよく分からない」…元恋人と付き合ったのも「好きになってくれたのが嬉しくて、告白されて舞い上がって」で、「そう考えると私も誠実じゃなかった」と省みる。「私はずっと誰かに愛されたいと願っていた。そして玲夜と出会った。このまま玲夜の愛に身を任せればいい、そう囁く自分もいる。けど、できるなら私も玲夜を愛したい」…受け取るだけの側から、返す側へ。この一行があるかないかで、ラストの意味がまるで変わってくる。
ライバルは有能秘書
高道からの「お願いしたい仕事」
バイト初日、柚子が足を踏み入れたのは巨大企業鬼龍院グループの社長室だ。「私にはいつも優しいのに、社員さんには冷たく厳しい」…政府高官からの会食の誘いも「断っておけ」で一蹴である。そんな中、秘書の高道が柚子に声をかけた。「少しお話ししたいことが」…何か失敗しただろうかと身構える柚子に告げられたのは、意外な依頼だった。「実は一つお願いしたい仕事がありまして」「玲夜様と共に休憩をしていただきたいのです」。
理由がまた玲夜らしい。「玲夜様は放っておくと延々と仕事を続けてしまうお方。これまで何度もお体を大切にしてほしいとお願いしておりましたが、なかなか聞き入れていただけませんでした」…そして、「柚子様と一緒なら休憩を取ってくださるようです」。ここで柚子は思い当たる。「もしかして、ずっと私を見ていたのって…」…冒頭で「あんまりよく思われてない?」と怯えていた視線の正体は、監視ではなく観察だったわけだ。実際、この日も三時間まったく休憩なし。柚子が「そろそろお茶でも入れようか」と動く前に、高道が完璧なタイミングで茶を運んでくる。「ナイスタイミングです、高道さん」「お褒めに預かり恐縮です」…昼食を買いに行こうとすれば、これも先回りされ、しかも「片手でつまめるものにしてあります」。柚子が「予知能力でもあるのかな」と疑うのも無理はない。
熟年夫婦のような二人
極めつけが、二人の呼吸である。玲夜の「あれの件どうなった」だけで用件が通じ、「その件でしたら高道」「こちらですね」で資料が出てくる。柚子の見立てはこうだ。「まるで長年連れ添った熟年夫婦のような二人。すごすぎて私にはとても真似できない」「他人に無関心な玲夜だけど、高道さんにだけはちょっと違う。ただの社長と秘書という関係じゃなく、それ以上の絶対的な信頼関係というか」…そして漏れるのが「私も高道さんのように玲夜の役に立ちたい」。副題「ライバルは有能秘書」の意味がここで回収される。恋敵ではなく、目標として越えたい相手という意味でのライバルなのだ。ネットでは早速「秘書の高道さんと玲夜を妄想し始める柚子、やっぱりおもしれー女」と面白がられていた。
高道の側も、柚子をきちんと見ている。「柚子様のおかげで、玲夜様もきちんと休憩を取られるようになりました。それに穏やかになったと社内でも評判ですよ」…一方で、「やっぱり花嫁が働くのは良くないんでしょうか」という問いには容赦がない。「ええ、私は反対です。花嫁は基本大事にされるので、働かせることはありえません。大切な花嫁を養う財力もないのかと、他の家から侮られますからね」…玲夜の「余計なことを言うな」で話は打ち切られるが、続く一言がまた重い。「周囲には、俺が柚子を無理やり連れてきていると言っている」…体裁の悪さを全部自分で引き受けているのである。「でも玲夜の迷惑になってない?」「問題ない。柚子と一緒にいられるからな」、そして「私を甘やかしすぎだと思う」には「柚子を甘やかすのが俺の特権だ。他に譲る気はない」。ちなみに祖父母の家に行く許可をもらう場面では、「お願いするときは」…とキスでおねだりという玲夜の一方的な決まりごとが発動している。
覇王のような、子供
そしてもう一つ、高道の側の物語が短く挿し込まれる。「あの日、鬼龍院玲夜様に出会って、私の人生は変わった」…当初の彼は完全に不服だった。「なんで僕が、初等部に入ったばかりの子供に仕えないといけないんだ」「鬼龍院の当主とは何度か面識がある。あんななよなよした男の息子なんて、正直期待できない」。ところが対面した瞬間、評価が反転する。「綺麗な血のように赤い瞳。陰りのある大人びた表情。全身から漂う凄まじい霊力。まるで覇王のような威圧感」…「今日からよろしく」と告げる小学生を前に、彼は姿勢を正して名乗った。「荒鬼高道です、玲夜様」。柚子が越えたいと願うあの信頼関係は、こうして始まっていたのだ。ネットでも「高道さんも柚子と同じで、玲夜と出会って人生変わったんだな」としみじみする声が上がっていた。
「ライバルは有能秘書」まとめと考察
18年分の誕生日と、頬へのキス
帰宅した玲夜が「色々選んでいたら遅くなった」と抱えていたのは、大量のプレゼントだった。まず手渡された一つ目には、こう添えられている。「柚子、1歳の誕生日おめでとう。柚子がこの世界に生まれてきてくれて、本当に嬉しい。玲夜より」…そこから二歳、三歳と続くのだ。「もう、おしゃべりも上手になっただろうな」「わがままは言えているか」「いよいよ小学生。優しい柚子だから、すぐにたくさん友達ができるはずだ」「もう中学生か。柚子の制服姿はきっと可愛いだろう」「高校入学おめでとう。卒業まで健やかに過ごせることを願ってる」「柚子に似合う香水を調合してもらった。もうじき会えるな」…出会う前の柚子の17年を、玲夜は想像だけで祝っていた。そして最後の箱に添えられるのが、「これは18歳の今のお前に。もっと早く迎えに行けなくてすまない」。
この贈り物への反応が、今回いちばん割れたところだろう。「祝ってもらえなかった分の誕生日をまとめて祝う発想はちょっと狂気じみてる」「出会ったばかりの男が18年分を想像で語った手紙付きで渡してくるの、いくらイケメンでも…」と引く声がある一方で、「玲夜なりに柚子のネグレクトを癒そうとした結果なので嫌いじゃない」「他人の愛を信じられない柚子には、これぐらいがちょうどいいのかもしれない」という擁護も多かった。実際、柚子の受け止めは後者に近い。「誕生日なんて家族には祝ってもらえなかった。だからいつも一人で祝っていた。寂しくて」…だからこそ、「18年分の私が喜んでる」なのだ。愛が重いのは間違いないが、その重さでちょうど埋まる穴が空いていた、という描き方は理にかなっている。
そして幕切れが良かった。「玲夜に何かお返ししたい」「私が買えるものなんてたかが知れてるけど」と申し出た柚子に、玲夜が求めたのは「じゃあ、お礼のキスが欲しい。頬じゃなく唇に」。固まる彼女を見て「困らせてすまない。柚子が喜んでくれたらそれでいい」と引き下がる…その直後、柚子は自分から頬にキスをした。前回は言葉を封じられる側だった彼女が、今回は自分の意思で返したのである。玲夜の「唇はもう少しだな。楽しみにしている」も含めて、二人の距離の詰め方が丁寧だ。締めの独白は「まだ信じられない。私なんかのすることで喜んでくれる誰かがいること」「玲夜の笑顔を見ると、くすぐったくて嬉しくて温かい。この気持ちをなんて言うんだろう」…名前をまだ知らないその感情こそ、柚子が「私も玲夜を愛したい」と願った先にあるものだろう。次にその名前を彼女が見つけるとき、この物語は大きく動くはずだ。




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