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ララが割った窓は十万円だった。江万の「働きや。うちの掟や」で、ララと茉里の職探しが始まる。二十社落ちてようやく拾ってくれたのは、城のようなケーキ店。だが任されたのは洗い物ばかりで、店長の言い分は「仕事っちゅうのは拷問や」。焦ったララは、押してはいけないボタンに手を伸ばしてしまう。それでも辞めると言えなかった理由と、ララが自分でたどり着いた答え、そしてラストに現れた姉のリサまでを追う。




「働きや。うちの掟や」
十万円の窓と、新しいイヤホン
開幕から容赦がない。江万がララに突きつけるのが「あんたマリが学校行ってる間、何もしてへんやないの」「あんたが壊した窓、十万したで」である。十万、と繰り返すララに、続けて出るのが「働きや。うちの掟や」。「掟? そんなものあったの」と返されての「今できたんや」が可笑しい。
矛先は茉里にも向く。小遣いをねだっていた件である。新しいイヤホンが欲しいという訴えは「知りません」「欲しかったら自分で稼いでき」で一蹴された。人魚の姫も女子高生も、同じ一言で並べて追い出されるのがいい。
背中を押したのは茉里の父だった。「ええこともあるで」と前置きして「僕は働いてるときに妻と出会うたんや」と言う。ここでララの目の色が変わる。「じゃあ王子様とも出会える」。父の「どうやろう」という気のない相槌をよそに、「やるわ。私、働く」と決まってしまった。
動機がずれているのに前へ進んでしまうのが、この作品のララらしいところである。働くこと自体に興味があるわけではなく、出会いの手段として受け取っている。その動機のずれが、後半でそのまま彼女を追い詰めることになる。
二十社落ちて、たどり着いた城
まず立ちはだかったのが履歴書だった。ララは「文字書くん初めて」で、茉里がつきっきりになり、仕上がったのは朝である。江万の評は「まあ頑張るのはええことや。せやけど本番はここからやな」。
その本番が壊滅的だった。ララの自己紹介が「私はララ、王家のプリンセス」。茉里は茉里で「部活優先なんで週一だけの感じで」と条件を出し、ララは「働いたこと一度もないわ」「時給は高ければ高いほど良くて」と正直に積み上げていく。
結果は当然の不採用で、本人だけが納得していない。「私に働いて欲しくないのかしら」「私は受かると思ってたのに」。江万は諦めず「まだまだ次探しに行くで」「仕事なんてごまんとある」と連れ回す。
道中で挟まる父の場面が良い。仕事道具を見せてもらったララが「そのボタンを押すだけの仕事?」と言い、「嘘よ」と疑うと、父はカメラを渡してこう説明する。「シャッターを押せば、目の前の景色を写真に残せる」「失敗してもスマホみたいには消せへんけどな」。そして「これで好きなもん撮ってみ」と持たせた。
その帰りに見つけたのが、城のようなケーキ店である。「ケーキ! 私、ケーキ作ってみたいわ」「それにこんな素敵なところなら王子様に見せたいよ」。ここまでで受けた面接は二十社ほど。押すだけのボタンと、押してはいけないボタンが、同じ回の中に並べて置かれているのが実にうまい。
「仕事っちゅうのは拷問や」
洗い物も、ケーキを作る大事な工程
面接で店長が食い下がる。「なんで応募してくれたん」に「甘いものが大好きで応募しました。世界で一番頑張ります」と答えると、「好きなだけじゃ辞めちゃう子多いねんな」と返される。他に経験はと聞かれて「面接に通ったことなくて」、どのくらい受けたのかと聞かれて「二十個くらい」。店長の呆れ声が「そんだけ受けたら受かるやろ、普通」だった。
それでも採用が決まる。決め手になったのが、副題にもなっている「ケーキのためなら死ねます!」である。配属は「茉里さんは私と一緒に売り場、ララさんはキッチンな」。
ところがキッチンで待っていたのは洗い物だった。「ケーキ作らないの?」という問いへの答えが「洗い物もケーキを作る大事な工程や」。素直に「そうなのね、頑張るわ」と受けたところへ「まだまだ洗い物くるで」が飛んでくる。皿の山が減らない画は、地上の労働の入口として身も蓋もなくて良い。
言い直された忠告
しびれを切らしたララが直訴する。「そろそろケーキを作らせて欲しいの」。「洗い物も大事な仕事や言うたやろ」と返され、「でもこれ、とってもしんどいわ」とこぼしたところで出るのが「そうや、それが仕事や」「仕事っちゅうのは拷問や」だった。
ララの独白が「私、何やってるのかしら」。魔女のほうも容赦なく「まったくだな。すべき試練を忘れるな」「どうだ、王子は見つかりそうか」と急かしてくる。答えは「よくわからないわ」だった。
ところが店長は、あとで自分の言葉を取り消す。楽しそうに作業する背中を見たララが「私も早く作ってみたいわ。店長ばかり楽しそうなんだもの」と言い、「仕事は拷問だって」と口にすると、返ってきたのが「仕事は拷問やない、楽しいもんや」「手伝いたいんやったら手伝わせたる」。
そこから新商品作りに付き合わされる。作るのは桃のタルトで、「これ剥いて」「クリームは配合が大事や」「違うな」「全然ちゃう」と試行錯誤が続く。退勤時の「お疲れさま、助かってんで。ララさんがしっかり働いてくれてて」まで含めて、拷問という言葉がだんだん形を変えていくのが分かる。
押してはいけないボタン
七万円と、「大きな仕事がしたいの」
楽しくなってきたところで、ララの焦りが顔を出す。「何日働いたんだろう」「早く本当の愛を見つけなきゃいけないのに」「お姉ちゃん、どうして会いに来てくれないの」。
給料の話がそれを加速させた。今月いくらもらえるのかと聞くと「このペースやったら七万ぐらいちゃう」。ララは「江万さんが言ってた十万にしたいの」と食い下がる。店長の答えは真っ当だった。「まずは目の前の仕事をしっかりやることや」「一つずつ積み上げて大きい仕事ができるようになったら、時給も上げたるで」。
だがララが拾ったのは「大きい仕事」の四文字だけだった。積み上げるという部分が、いまの彼女には最も遠い。海に帰る道も、姉に会う道も、時間をかけて待つという形をしていないからである。
触ってしまったボタン
オーブンの前で止められる。「ララちゃん、オーブンはまだ早いわ」に対し、返したのが「お願い、大きな仕事がしたいの」。そして父のカメラを思い出したように言う。「あれ、見たことあるわ。このボタンを押すんでしょ」。
止める声が具体的だった。「このボタン押し間違えたら全部台無しや。絶対触ったらあかん」。それでも「あなたの仕事を教えてほしいの」と食い下がり、「今はあかん、今度な」といなされる。「このままじゃダメなのに、私」という独白のあと、手が伸びた。
問い詰められての答えが「ごめんなさい。止めなきゃいけないと思って」。押すだけで景色が残るボタンと、押したら全部が消えるボタンを、ララは同じものだと思っていた。父が「失敗してもスマホみたいには消せへんけどな」と言い添えていたのが、ここで別の意味になって返ってくる。
誰も責めなかった翌朝
後始末が始まる。就業時間を超えると渋る空気のなか、ララが「あの、私がなんとかするわ。ケーキも作り直すし」と申し出るが、店長は「ララちゃん、俺にも責任あるから」と引き取り、周囲には「いつも通りサポートしてくれたらそれでええ」と告げた。
同僚に「何焦ってるんや、ララさん」と聞かれて、ようやく本音が出る。「江万さんに働けって言われて」「ここだけが私を雇ってくれて」「どうして働いてるのか分からなくなって」「王子様に出会わなきゃいけないのに」。返ってきたのは「辞めたかったら辞めてええんやで」だった。
その晩、ララは辞めると決める。茉里の「失敗したから辞めるん?」に「そうじゃないの」と答え、「お金はどうするん」「おばあちゃん、また怒るで」と心配されながら、「今日で最後」と胸に決めて店へ向かった。
ところが言い出せない。「店長」「何や」「私」と切り出したところで遮られる。「いや、ほんま大変やったで、あの後」から始まって、「あんなんよくあるし大丈夫よ」「石山なんかもっとひどいミスするしな」「よう焦がしてた」「そうそう、あんたクリームよく混ぜへんから」と、話は勝手に同僚の失敗談へ流れていく。しまいには「そろそろ歓迎会せんとね」まで出た。責める言葉が一つも出てこないまま、辞表の切り出し口がふさがれてしまう。
「ケーキのためなら死ねます!」まとめと考察
知れば知るほど、もっと知りたくなる
家では江万が「一生懸命働いたんやろ」「無駄遣いすんな」と短く言うだけである。怒って働かせた側が、稼いできたことについては多くを語らない。この距離感が心地よかった。
茉里が「それで、どうすんの? 店辞めるって言ってたけど」と水を向ける。ララの答えが、この回の到達点だった。「私、ずっと前から、あなたたちのこと、人間たちのことを知りたかったんだわ」。
続きが良い。「洗い物も皮むきも大変だけど、あなたたちを知れば知るほど新しい姿が見えて、そしてまた、もっと知りたくなる」「今はこの気持ちが、私が探す本当の愛に繋がってるんだって」。茉里の「じゃあ、店は辞めへんってこと?」には「とりあえず」としか答えない。言い切らないところまで含めて誠実である。
ここで効いてくるのが、店長の忠告が二度あったことだ。拷問だと言われた仕事を、ララは楽しいものとして受け取り直したわけではない。洗い物も皮むきも大変だと、はっきり言っている。大変なままで、それでも知りたいと思えたというのが答えになっている。王子を探すために始めた仕事が、王子を探すことそのものの意味を書き換えた回だった。
そして最後に姉が現れる。「ずっと、会いたかった」「待っていたわ、あなたが蘇るのを」。リサは自分の姿について「この醜い姿で、あなたに会いたくはなかった」と言い、ララが薬を飲んだことを咎める。「あなたは特別なプリンセス。その光によって私たちを救うもの」「なのにどうしてあなたは、また薬を飲んでしまったの」。
ララが「私も家族を救いたいって思ってる。そのために、私は人間と結ばれなくてはならない。魔女がそう言ったの」と返すと、姉の言葉が硬くなる。「二百年前、あなたは知ったはず。人魚と人間が愛し合うなんて、できるわけないの」「人魚と人間が愛し合うなんて許さない」「あなたには必要ない。あの家も、あの娘も」。ララの「娘?」に答えは返らず、直後に響くのが「ララちゃん、おかえり」である。せっかく手に入れた居場所と、その家の娘が、そのまま次回の的として名指しされた。働くことで愛に近づいた回の終わりに、その愛を否定する側が来る。並べ方が実に意地悪だった。




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