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第6話のサブタイトルは「峠の霊/ジェットババア」、今回も二本立て。夜の峠でずぶ濡れの女性を乗せた車内で、カムイが世間話のように切り出す。「事故といえば、この峠道は出るらしいですね。峠の霊」。後半はビキニ姿のシヅカを囮にしたジェットババア軍団とのチェイスで、最後は新しい怪異がひとつ増えて終わる。




ちょうど休憩しようとしていたんですよ
ふもとまで乗せていただけますか
前半は「峠の霊」。雨の夜の峠道で、カムイとシヅカの車にずぶ濡れの女性が声をかけてくる。「すみません、ふもとまで乗せていただけますか」。返事は「もちろんです」で、あっさり後部座席に迎え入れてしまう。
乗り込んだ女性の第一声が良い。口に出したのは「大丈夫ですか」に対する「ええ」だけなのに、内心では「なにこの形容しがたい匂いは」と引いている。怪異を祓う側の車が、乗せた怪異にドン引きされている。
この時点で立場が読めなくなるのが今回の面白さだった。拾われた側が獲物のはずなのに、拾った側の車内が先に不気味なのである。前話は珍しく1話でひとつの怪異を追う構成だったが、今回はふたつの怪異を続けて片付ける二本立てに戻っている。前半が密室の会話劇、後半が全速力のカーチェイスと、見せ方まできれいに振り分けられていた。
こんな夜は事故が怖いですからね
車が動かないことを不審がって「発車しないんですか」と聞くと、返ってくるのが「ちょうど休憩しようとしていたんですよ。こんな夜は事故が怖いですからね」。事故を起こしに来た相手に、事故が怖いと言って聞かせている。
女性のほうも察しはついていて、「なにこいつら、私の正体に気づいてる」と身構える。それでも「でも大丈夫。いざとなっても私は車体をすり抜けて逃げられる」と自分に言い聞かせるのだった。曇った窓ガラスに手形が浮かび、外から車体の軋む音が聞こえ始めるのはこのあたりで、怖がらせている側がいちばん落ち着かない。
すり抜けて逃げられるという最後の切り札は、この回で一度も使われない。退路を先に塞いでおいてから世間話を始めるのが、この事務所のやり方だった。
当然、お前だけじゃない。お前で、今日は6人目だ
事故といえば、この峠道は出るらしいですね
カムイが切り出すのは、雑談の顔をした宣告だ。「事故といえば、この峠道は出るらしいですね。峠の霊」。そこから解説が入る。通りがかった車をヒッチハイクし、事故に追い込む悪霊で、その姿は肌が青白く、髪が長いと言われている。
説明を終えたあとの一言がとどめだった。「そういえば、あなたも随分と濡れているようだ」。雨に濡れていると思っていた姿が、そのまま特徴の照合になる。女性は「もう無理。限界。逃げる。ここから逃げる」と取り乱すが、返ってくるのは「安心してください。ちゃんとお送りしますよ」である。
送るという言葉が二重になっているのが意地悪で良い。ふもとまで送るという約束を、まったく別の意味で果たそうとしている。取り乱す相手へ「今さら命乞いとは見苦しいな」と冷たい声が飛ぶあたりで、この車に乗った時点で勝負がついていたことがはっきりする。
他の峠の霊たちより、注目されたかっただけなの
追い詰められた女性の言い訳が、今回いちばんの見どころだった。「やっているのって私だけじゃないでしょ。みんなやってるのに」。それに対する答えが「当然、お前だけじゃない。お前で、今日は6人目だ」。つまりこの夜、峠の霊はすでに5人片付いている。
「往生際の悪いやつだな」と切り捨てられてもまだ粘る。「他の峠の霊たちより、注目されたかっただけなの。事故を起こして有名になれば、他の連中にマウント取れるっていうか」。さらに「私のことを言いふらしてもらいたいから」「人は殺してないし」「だから私、悪い悪霊なんかじゃ」と続くのだから、動機がまるごと承認欲求である。
悪霊の同業者間に序列があって、目立った者が上に立てる。怖い話のつもりで見ていたら、急に見覚えのある構図になってしまった。言い分を並べ終えた彼女がどうなったかは、シヅカの「カオス!」というひと言がすべてを説明していた。峠の霊役は夏和小さんで、追い詰められてからの畳みかけが良かった。
運転はうちがやる! 小娘はきちっとしとけばいい!
驚異的な速度で車を追いかける老婆の怪異
後半は「ジェットババア」。「来てる、来てる」という声とともに、後ろから迫ってくる。解説によれば驚異的な速度で車を追いかける老婆の怪異で、彼女に追い抜かれた車は事故を起こすと恐れられている。
運転席のシヅカは「死…死んじゃう!」と早々に限界を迎える。前半が密室でじわじわ詰める話だったのに対して、後半はいきなり全速力になるのが構成として気持ちいい。
ハンドル握ると性格変わるって言うやろ
そこで割って入るのがお市だった。「やかましい! 運転はうちがやる! 小娘はきちっとしとけばいい!」。そして「恐れられたうちのドラテク、見せたる!」と宣言して運転を代わる。百年以上を人形として過ごしてきた付喪神が、なぜか峠の走り屋の口調になっている。
シヅカの反応も正しい。「てか、誰?」「どうしちゃったの? お市ちゃん」と本気で戸惑うと、「ハンドル握ると性格変わるって言うやろ」と平然と返され、「顔まで変わってたよ!」と突っ込むことになる。
ここで挟まる解説もおかしかった。ジェットババアにはダッシュババア、ハイパーババア、120キロババア、100キロババア、ホッピングババアなどの亜種が存在するという。速度で名前が分かれているのが雑で、しかも実在の噂を並べているのがずるい。
百年以上を人形として過ごし、しまわれ忘れられ捨てられての一生だったと嘆いていた付喪神が、ハンドルを握った途端に声も顔も別人になる。第3話で見せた悲哀とのギャップが効いていて、居候として置いてもらっている今のほうが、はるかに生き生きしているのが伝わってきた。
せやから、色ごとなど、もってのほか
なるほど、だからカムイさんはこれを着ろって言ったのか
チェイスの最中、お市が「小娘がこんな卑猥な姿で若さを見せつけたら、やっこさんらもえらい怒るやろな」と言い出す。そこでシヅカがようやく気づく。「なるほど、だからカムイさんはこれを着ろって言ったのか」。運転席に座らされていたのはビキニ姿で、要するに走る囮だった。
「おとり役が私の仕事だと言っても、あんまりだ…」というぼやきが本当にその通りで、毎回この人は仕事の範囲を超えた格好をさせられている。囮を務めるだけでも大変なのに、若さを見せつけるところまでが業務に含まれているのがひどい。
人の噂で生まれたときから老婆の姿や
お市の説明で、この作戦の理屈が分かる。「ジェットババアたちは、人の噂で生まれたときから老婆の姿や。怪談の舞台となる道路を離れたこともあらへん。せやから、色ごとなど、もってのほか」。生まれてから一度も噂の外へ出たことがない相手だから、若さと色気がいちばん効く。
そこへ「待たせたな。始めるぞ」とカムイが現れる。ババアの側から「ええもん見たわい」という感想がこぼれ、ネットではジェットババアのほうが若返ってしまったという反応が複数出ていた。祓われるどころか得をしている。
怪異を怖がらせて追い払うのではなく、その怪異に足りていないものを与えて満足させてしまう。この作品の除霊はいつもこの形で、今回はそれが軍団規模になっただけだった。
「峠の霊/ジェットババア」まとめと考察
これが後に語り継がれる、誕生の瞬間であった
締めのナレーションが最高だった。「これが後に語り継がれる、峠のずぶ濡れ金髪フルチン男の怪、誕生の瞬間であった」。怪異を片付けに来たはずのカムイが、その場で新しい怪異としてこの峠に登録されてしまう。
しかもこの落ちは、前半と繋がっている。峠の霊は「私のことを言いふらしてもらいたい」と言っていた。有名になりたくて事故を起こしていた彼女が消えた直後に、まったく望んでいない形で有名になる男が生まれるのである。
噂で生まれた者は、噂から出られない
二本立てを貫いているのは、噂で生まれた怪異は噂の外へ出られないという一点だった。峠の霊は他の霊にマウントを取るために事故を起こし、ジェットババアは生まれたときの姿のまま道路から離れられない。どちらも人の口が作った枠の中で身動きが取れなくなっている。
だから今回の除霊は、力で祓う形になっていない。前半は言い分を全部吐き出させてから、後半は噂のせいで手に入らなかったものを見せて、どちらも本人が納得した状態で終わらせている。祓うというより、聞いてやっているのに近い。
キャストは怪異役が峠の霊=夏和小さん、ジェットババア=荒井さん。レギュラーはカムイが杉田智和さん、耳塚シヅカが碧乃梨心さん、お市がM・A・Oさんという並びで、今回はとくにお市の落差と、峠の霊の言い訳が長引くほど声が崩れていくところに耳がいった。
そのうえで最後に新しい噂を置いていくのだから、この人はこの峠の怪異を減らしたのか増やしたのか分からない。祓う側が供給源になっているという落ちが、笑いながらいちばん腑に落ちる終わり方だった。




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