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お礼だから納得だと言い、ただの雨宿りだと言い張り、服が乾くまでと引き止める。第8話のエルナは、最後まで本音に名目を貼りつけて過ごしている。一方で、街の子どもが数えたお姉ちゃんの人数は終盤で意味が裏返り、出涸らしという悪評の一部が、誰かのために払われた実費だったことが分かる。そして翌日、まったく同じ支払いがエルナ本人へ向く。第8話「雨宿り」を読み解く。




お礼だと分かった瞬間に、「納得だわ」と返している
誘い文句が二段構えになっている
第8話は、冒険者のリンフィアがフィーネの護衛につくところから始まる。「リンフィアは腕が立つ。俺たちがいない間、何も心配はいらないだろう」というアルノルトの紹介に、フィーネが「アル様が選ばれた方です。何も心配なんてしません」と返す。留守中の体制が、ここでひとまず固まる。
その流れでアルノルトがエルナに「この後空いてるか」と声をかける。エルナの返しが早い。「なあに。デートにでも誘うつもりかしら」に対して、アルノルトは「うん、そんなところだな」と一度受けてから「フィーネをかくまってくれたお礼に、食事でもと思ってな」と続ける。先に肯定してから、種明かしをする二段構えになっている。
受けたエルナの返事が「お礼なのね。それなら納得だわ」だった。納得という言葉は、腑に落ちたという意味と、そういうことにしておくという意味の両方に取れる。この回はずっと、二人が本音に名目を貼りつけながら進む。最初の一往復でそのやり方が示されている。
「昼飯だけのつもり」が丸一日になる
待ち合わせたエルナは服を選び直したうえで帽子をかぶってくる。アルノルトが「その帽子、認識阻害の魔道具か」と見抜き、「似合ってるな。帽子も服も」と言う。エルナは「当たり前でしょ」で受けるが、この帽子は変装の道具であると同時に、近衛騎士の隊長が一日だけ自分の肩書きを外すための道具でもある。
市場でエルナが「ちょうどよかったわ。帝都を見て回りたいと思ってたから」と言い出し、アルノルトが「いや、昼飯だけのつもり」と抵抗する。エルナの言い分は「この機会に懐かしい場所を巡りたいの。帝都をゆっくり見て回る機会って最近なかったから」。アルノルトが「この全権大使の任務は大変そうだもんな」と気遣うと、返ってきたのは「それが騎士としての私の務めよ」だった。
昼食の店選びにも同じ性格が出る。アルノルトが「お礼なんだし、もっとちゃんとしたところを想定してたよ」と言うと、エルナは「そういうお店は時間がかかるじゃない。せっかくの1日なのにもったいないわ」と返す。エルナが選んだのは、いい店ではなく長い時間だった。この一言だけで、彼女がこの日に何を求めていたかが分かってしまう。
5話ぶんの因縁に、初めてエルナ側の言い分が出る
いじめられていた場所に、二人で立っている
エルナが最初に連れて行ったのは、路地のような一角だった。「覚えてる。ここでアルがいじめられてたのよね」。第3話の時点で、二人の因縁は幼いアルノルトが助けられた出来事から始まったと語られていた。その現場に、当事者二人が並んで立っているのがこの場面である。
エルナの記憶では「アルは泣いてたし」となっていて、アルノルトが「おい待て、記憶を改ざんするな。俺は泣いてないぞ」と抗議する。ここでアルノルトが出す訂正が具体的だ。「その時は泣いてない。その後お前が稽古と称して俺をいじめた時に泣いたんだ」。助けられたことではなく、助けられた後のほうが痛かったと言っている。
「立派な王子になってほしかっただけよ」
これに対するエルナの返答が、この作品で初めて出てきたエルナ側の言い分だった。「いじめてないわよ。アルに立派な王子になってほしかっただけよ。心配だから、せめて護身術くらいはって」。アルノルトの受けは「あれで護身術のつもりだったのか」で終わるが、動機が心配だったという一点は、これまで一度も語られていない。
重要なのは、その心配が最初から鍛えるという形でしか出てこなかったことだ。守りたいという気持ちを、守るのではなく強くするほうへ変換する。第3話で彼女が自ら皇帝に願い出てアルノルトの担当騎士隊に就いたのも、同じ形をしている。七歳のときのやり方が、そのまま今の職務の選び方になっている。
悪ガキの証言が、この回でいちばん長い伏線になる
数えられてしまった「お姉ちゃん」
街の子どもがアルノルトを見つけて、余計なことを言う。「今日はお胸の大きいお姉ちゃんじゃないんだね」「黒髪のお姉ちゃん」「その前には茶色の髪の毛だった」「あとは、えっと、髪の毛の短いお姉ちゃんだっけ」。締めが「いろんなお姉ちゃんと歩いてるから覚えてないや」である。
言い方が悪意ではなく、単なる目撃報告なのがきつい。子どもは数えているだけで、しかも数え切れていない。エルナが「ちょっとアル、どういうこと」と食いつくのも当然で、この時点では視聴者にも女遊びの証言として届く。
はぐらかしたまま昼食に入る
アルノルトは子どもたちを「ほら、元気に遊んでこい」と追い払い、エルナの「ホール、説明してくれるわよね」に対して「とりあえず飯だな」でかわす。ここで説明しないことが、この回の設計そのものになっている。
昼食、甘味、広場でのかけっこと話題は移り、「俺が歩けなくなるまで走らされたな」「それはアルの体力がなさすぎたからでしょ」というやり取りまで挟まる。証言は棚上げされたまま雨が降り出し、説明が回収されるのは、この後の密室の中になる。
「騎士に二言はない」が、入りたくない場所へ自分を縛る
雨宿り先が、思い出の宿ではなくなっていた
雷雨に降られて「どこかで雨宿りするか」となったとき、エルナが向かった先は宿屋だった。「昔よく遊びに行ったでしょ」「あそこなら名前を出せば入れてもらえるはずだもの」と、子どものころの土地勘で走っている。
止めたのはアルノルトのほうだ。「悪いことは言わないからやめておけ」を二度繰り返しているのに、エルナは「それとも何かまずいことでもあるのかしら」「私は行くと言ったら行くわ。騎士に二言はないのよ」で押し切る。アルノルトが最後に選んだのが「まあいい。見たほうが早い」で、説明ではなく現物を見せることにした。
逃げ道を用意したのはアルノルトのほうだった
現物は、カップル限定のいわゆる愛の宿に変わっていた。アルノルトの「ほら、他のところ行くぞ」に対して、エルナの返事が「入るわ」である。理由が「二言はないもの」の一点しかない。
ここでアルノルトが「聞かなかったことにしてやるから」と逃げ道を差し出しているのが効いている。断言を撤回していいと言われて、エルナは「だめよ。騎士という言葉を使った以上は絶対に入るわ」と拒否し、「これはただの雨宿りよ」と名目を貼りつけて中へ入る。誇りが、行きたくない場所へ本人を押し込んでいる。
この構図は前半の帽子と対になっている。肩書きを外すために帽子をかぶってきた人が、肩書きを理由にして退けなくなる。一日だけ騎士をやめに来たはずが、いちばん騎士らしい理由で泥沼に入っていくという皮肉が、雨宿りの入口に置かれている。
譲り合いの理由が、二人とも相手の評判だった
「私のせいでアルがバカにされるのは嫌」
濡れた服を乾かすため、風呂をどちらが先に使うかでもめる。「エルナ、俺は外に出てるから入っていいぞ」に対して「いいわよ、私が外に出るから。騎士だもの」。譲り合いなのに、譲る中身が逆になっている。
アルノルトの理由は「女にそんなことさせられるか」と「廊下で一人待ってるって、ここは他の客に見られるんだぞ。何を言われるか」。エルナの理由は「そんなのアルも一緒でしょ。私のせいでアルがバカにされるのは嫌」。二人とも、自分の恥ではなく相手が悪く言われることを先に心配している。落としどころが「片方が入ってる間、片方が見なければいいだけでしょ」というエルナの提案なのも、いかにも彼女らしい力技だった。
先に入ったアルノルトは、すぐ出てくる。「早いのね」「ゆっくり入ってられるかよ」。前回、彼がアムスベルグ家の風呂場で溺れかけたと自分で言っていたことを覚えていると、この短さは照れだけの話ではないようにも見えてくる。
「私が思うのよ」
アルノルトが「そんなに恥ずかしいなら、初めから宿に入らなきゃいいだろうに」と正論を投げると、エルナの答えがこの回の芯に触れる。「一度でも騎士としての言葉を破ったら、今までの言葉も薄っぺらくなるじゃない。誓いとか、覚悟とか」。
アルノルトは「少なくとも俺はそうは思わんよ」と否定する。それに対する返しが「私が思うのよ」だった。彼女の意地は、他人にどう見られるかではなく、自分が自分の言葉を信じられるかどうかの問題だった。誰も見ていなくても割に合わないことをやる理由が、ここで一行にまとめられている。
そのうえでアルノルトが「それで泣いてちゃ世話ないな」と茶化し、エルナが「泣いてないわよ」と返す。昼間の回想でやっていた泣いた泣いていないのやり取りが、立場を入れ替えて戻ってくる。同じ言葉を二度使って、子どものころと今をつなげている。この回が絵コンテから原画まで監督が一人で担当したと言われているのも、会話の間だけで持たせるこういう場面が続くからだろう。
「誰と来たの?」の答えが、悪ガキの証言を裏返す
一日を買って、自由にさせている
エルナが投げた質問はまっすぐだった。「だいたい、アルはなんでここが愛の宿になったって知ってたの? 誰と来たの?」。昼間の子どもの証言と、この宿を知っていることが、彼女の中で線でつながっている。
アルノルトの答えは、身の潔白の主張ではなかった。娼婦として生きるしかない女性が、たまには羽を伸ばせるようにと、一日を買って自由にさせているのだという。愛の宿に連れて行くという名目を使っているのはそのためだった。「もちろん、それで何かが解決するとは思っていないけど、やらないよりはマシだろ」と付け足すところまで含めて、彼はこの活動を善行として売り込んでいない。
エルナの心配は当然のものだ。「でも、女遊びをしているって噂にでもなったら、アルの評判が悪くなる一方よ」。返事が「いいさ、彼女たちが喜んでくれているから」。出涸らし皇子という評判の一部は、こうやって代金として払われていた。昼間の子どもの証言は、目撃としては正しく、意味としては正反対だったことになる。
「服が乾くまでいましょう」
エルナがさらに「辛くないの?」と聞く。アルノルトの答えが「一人なら辛いかもな。けど、俺は一人じゃない。ちゃんと俺を認めてくれている人たちはいる。お前もそうだろ」だった。エルナの返事は「ずるいわよ」のひと言だけである。
ずるいというのは、認めてくれている人の中に自分を数え入れられたことへの反応だ。ここで初めて、彼女は今日一日の名目を外された側になる。お礼だから納得だと言い、ただの雨宿りだと言い張ってきた人が、正面から味方として数えられている。
そのあとアルノルトが「そろそろ行くか」と言うと、エルナが「もうちょっと」「服が乾くまでいましょう」と引き止める。最後まで理由を服に預けているのが徹底していて、しかも締めの一言が「こうして子供の頃みたいに二人きりで遊ぶの、久しぶりだったわね」だった。遊びという言葉が出た時点で、名目はもう半分はがれている。
同じ理屈が、その日のうちにエルナ本人へ向く
見送りに来た第二皇子の言い分
翌日、レオナルトが全権大使、アルノルトが全権大使補佐として、ロンディネ公国へ向けて出発する。見送りに来た第二皇子エリクは「外務大臣としての職務で来たまでだ」と前置きしたうえで、「私にとって価値があるなら悪いようにはしない」と言う。
アルノルトが「まるで自分が皇帝かのような言い回しですね」と突くと、返ってきたのは「私が次期皇帝だ。お前たちはもちろん、ゴードンやザンドラがどう足掻いても、この事実は変わらない」だった。第7話でザンドラの計画を横取りしたばかりの相手に、いちばん強い陣営が正面から釘を刺している。旅立ちの見送りが、そのまま牽制になっている。
「お前は俺のフリをしてここで休んでろ」
船が出ると、エルナが体調を崩して船室で寝込む。部下には見せられない姿だという彼女に、アルノルトが自分の部屋を明け渡して「お前は俺のフリをしてここで休んでろ」と言う。
エルナは「そのようなことをすればまた殿下の評判が」と止める。返事が「構わないさ、今更変わらないから」だった。前夜に宿で語っていた理屈が、翌日そのままエルナ本人に対して使われている。しかも甲板では「アルノルト殿下は船酔いだってよ」「まったくあの出涸らしは」という声が上がっていて、評判が下がる音まで聞こえてくる。
構図として残酷なのは、前夜に評判が悪くなる一方だと心配していた本人が、今度はその原因になっていることだ。エルナは自分が守りたかったものを、自分が守られることによって減らしている。彼女の「ずるいわよ」が、ここでもう一度効いてくる。
理由を言わない公女
航路上でアルバトロ公国の軍船に会談を求められる。名乗り出たのは公女で、「エヴァとお呼びください」と自ら短く呼ばせ、隣の公子ジュリオを弟として紹介する。ロンディネ公国の隣国でありながら帝国とは疎遠、という説明が同時に入る。
エヴァの用件は「進路を変えていただきたいのです」の一点で、ロンディネ行きそのものは止めないという。理由を問われて返ってきたのが「できれば言いたくありません。あなたや帝国を信用できないのです」だった。信用できないと面と向かって言い、それでも要求だけは通そうとしている。
帝国側の判断が早い。理由が出ないまま「進路変更だ。遠回りでロンディネに入る」と決め、日数がかかるという反論にも「構わないさ。食料や水には十分余裕を持っているし、多少の遅れはロンディネも目をつむってくれるさ」で押し切る。ここでも構わないという同じ言葉が使われているのが芸細かい。そして遠回りに入った船を、自然のものではない嵐が襲う。エヴァが言えなかった理由の輪郭が、断られなかったからこそ次のカットで見えてくる。
まとめ|副題「雨宿り」が指しているもの
雨がやんだら終わる時間だった
副題は宿の名前でも告白の言葉でもなく、雨宿りである。雨宿りは目的地ではないし、居座る場所でもない。やんだら出ていくことが最初から決まっている時間のことだ。
この日の二人がやっていたのは、まさにそれだった。お礼、ただの雨宿り、服が乾くまで。期限つきの言い訳を重ねることでしか成立しない時間で、翌朝には全権大使の出発が待っている。エルナが「もうちょっと」と言った相手は、アルノルトではなく雨だったのかもしれない。
出涸らしという評判の値段
もうひとつ、この回は出涸らし皇子という呼び名の内訳を一段掘っている。無能を演じているという設計は初回から示されていたが、今回わかったのは悪評の一部が演技ですらなく、誰かのために払われた実費だったということだ。子どもが数えたお姉ちゃんの人数は、その領収書のようなものだった。
そのうえで、船の上で彼はもう一枚同じ支払いをする。相手は、前夜にその支払い方を心配してくれた本人である。デート回に見せかけて、この主人公の一番の癖を二度続けて見せた回だった。アルバトロ公国の兄妹と海の異変という新しい火種も置かれ、次回からは完全に外交編に入っていく。雨がやんだ後の話がどうなるのか、続きを待ちたい。




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