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第8話「煮込み&イクラ『私とあの子、どっちを選ぶの!?』米『両方とも大好きだ!』」は、王都へ向かう一行が火山と温泉の街メルロワに立ち寄る回だ。ところが名物の調味料が品薄で、楽しみにしていた料理がお預けになる。そこへ源泉の魔物を討伐してほしいという依頼が来るのだが、暴食の卓がそれを受ける理由が食べ物だった。そして締めに、この街の古い言い伝えがそのまま効いてくる。




名物が「お預け」になり、そのまま討伐依頼につながっていく
第8話は、王都へ向かう一行が火山と温泉の街メルロワに立ち寄る回だ。第7話でヴィルが三度も出発を引き延ばしていたので、ようやく動き出したことになる。ところが着いた先で待っていたのは、楽しみにしていた名物が食べられないという知らせだった。
この回の作りで感心したのは、食べられないという小さな不満が、そのまま魔物の討伐依頼という大きな話につながっていくところだ。グルメ回と戦闘回が別々に置かれるのではなく、一本の線でつながっている。しかもその線を引いたのが、パーティーの誰かの食欲だという点が徹底している。
温泉を煮詰めて作る調味料が、品薄になっていた
街に着く前から、アリアたちは名物の話で盛り上がっている。ヴィルの説明では、それは「温泉のお湯を煮詰めて作った調味料」で、この街の名物だという。前に来たときアリアがはまったのが、その調味料を添えた虫料理だった。
ところが店に入ると、その調味料が品薄で出せないと言われる。代わりに出てくるのはハーブ塩を添えたものだ。楽しみにしていたものが一段階だけ下がるという、日常でもよくある形の落胆になっているのが上手い。全部食べられないのではなく、いちばん食べたかった組み合わせだけが抜ける。
「探求がなければ、おいしいものとの出会いもない」
落ち込むアリアに、リンがかける言葉が良かった。「くよくよするのはやめましょう、アリアさん」から始まって、「あらたな味の探求だと思いましょう」「探求がなければ、おいしいものとの出会いもないんですから」と続く。無かったものを惜しむ話を、これから見つける話に切り替えている。
面白いのは、これに対するエドの反応だ。「俺よりリンちゃんの言葉の方が響いてる」とぼやく。妻をなだめる役を取られたという嫉妬なのだが、同時にリンの言葉がこのパーティーでどれくらいの重みを持っているかの説明にもなっている。実際、出てきたハーブ塩の料理はきちんとおいしくて、探求のほうが正しかったことになる。
依頼を受ける理由が、最後まで食べ物だった
ギルドから持ちかけられるのは、源泉に住み着いた魔物の討伐だ。条件はかなり悪い。ギルドマスターは「うちの所属の冒険者はすべて返り討ちにされたのよ」と認めているし、この街には腕のいい冒険者が揃っているという前提も本編内で確認される。勝てなかった相手に、外から来たパーティーが挑むという話だ。
それを踏まえた相談の場で出てくる理由が、まったく釣り合っていない。リンにあれを食べてほしい、という一言に「あれは本当に美味しいですからね」「一度味わってほしいよね」と全員が乗り、ヴィルが「ではこの依頼受けよう」と締める。命の危険がある依頼を、味の話だけで決めている。
リンが「いやいやいや、そんな理由で受けないでください」と止めるのが正しい反応で、実際この場でいちばんまともなのは彼女だ。ただ、パーティーの名前が暴食の卓である以上、これ以上に一貫した決め方も無いのだと思う。第3話から一度もぶれていない。
第7話の「そういうわけじゃないぞ」が、今回は自分から出てくる
第7話でいちばん笑ったのは、ヴィルが王都行きを引き延ばし続ける流れだった。朝市で、教会で、ギルドで、三度も理由を作っては出発を遅らせ、そのたびにリンから「やっぱり王都に行くのは気が進みませんか」と突っ込まれ、「いやいや、そういうわけじゃないぞ」と否定する。本人だけが認めないという形の反復だ。
「王都行きが遅れるのは俺にとっても好都合だからな」
今回、同じ状況になったときのヴィルの言い方が変わっている。「もしかしたらこの件は聖女召喚とも関係があるかもしれない」と依頼を受ける理屈を並べたあと、続けて「王都行きが遅れるのは俺にとっても好都合だからな」と自分から言う。そして「冗談だ」と付け足す。
これは笑いどころだが、構造としては大きな変化だと思う。第7話では三度とも否定していたことを、今回は自分から口にしている。そのうえで冗談ということにして引っ込める。言わないままごまかすのと、言ってから冗談にするのとでは、後者のほうが一歩だけ正直だ。三回も同じ突っ込みを受ければ、先回りしたくもなるのだろう。
「誰かが反対したら断るつもりだった」
もうひとつ、この人の言い方が変わる場面がある。味の話だけで依頼を受けたあと、リンに止められたヴィルが答えるのが「まあ、あんな話を聞いたら放ってはおけない」だ。続けて「しかし難しい依頼なのは確かだから」「誰かが反対したら断るつもりだった」と明かす。
つまり本当の理由は最初から別にあって、食べ物の話は表に出しただけだった。しかも反対する余地はきちんと残していた。第7話でも、教会の相談を引き受けるときに「今困っている人の力になる方が大切なんじゃないか」と言っていたので、この人の判断はいつも同じところに着地している。建前が軽いだけで、中身はまっとうなリーダーなのだ。
リンが「本当にこんな決め方でいいんですか」と念を押し、それでも「皆さんが行くというのであれば私はついて行きますけど」と続けるのも良かった。納得はしていないが、置いていかれるつもりも無い。第3話で正式加入してからの距離の詰め方が、こういう一言に出る。
脚本と絵コンテが、第7話と同じ組み合わせだった
気になって公式サイトのスタッフ表記を確認したところ、第8話の脚本は杉原研二、絵コンテは前澤大樹で、これは第7話とまったく同じ組み合わせだった。第7話の反復ギャグが今回そのまま拾われているのは、偶然ではなさそうだ。
二話つづきで同じ書き手が担当すると、こういう前回の伏線を回収するのではなく、前回の癖をそのまま伸ばすという書き方ができる。ヴィルの引き延ばしは物語の本筋ではないので、普通なら次の話で忘れられてもおかしくない。それを覚えていて、しかも同じ形で繰り返さずに一段階ずらしてくるのは丁寧だと思った。
目撃報告が食い違うこと自体が、手がかりになっている
依頼を受けたあとの下調べが、この回のもうひとつの見どころだ。資料に書かれていることの矛盾から、相手の正体を割り出すという流れになっている。戦わずに情報だけで一歩進む場面は、この作品では珍しい。
「ボスって複数いるんですか」
リンが持ち出すのは、資料に載っているボスの目撃報告がばらばらだという疑問だ。「ボスって複数いるんですか」という素直な問いに、セノンが答える。「いや、パーティー内でも見えているものが違いますから」。そこから、源泉にいるのは幻覚を使う相手だという結論が出る。
ここが良いのは、報告が食い違っていること自体を情報として扱っている点だ。ふつうなら資料の不備として片づけるところを、食い違いのパターンから相手の能力を逆算している。しかも気づいたのはリンで、答えを出したのはセノンだ。戦闘に出ない二人の会話が、そのまま作戦になっているのが気持ちいい。
「地元の神社に魔物が住み着いたら嫌だもんね」
依頼の重さも、ここで一段上がる。ヴィルの説明では、源泉のあるメルロワ火山の頂上付近は神域にあたる。この街には古い言い伝えがあって、要約するとアリアが言うとおり「ドラゴン様と巫女が出会った大事な場所だから、むやみに踏み込んだらダメだよ」ということになる。
それを受けたリンの一言が「確かに、地元の神社に魔物が住み着いたら嫌だもんね」だ。異世界の神域を、日本の神社に置き換えて理解している。この作品のリンはいつもこうやって、自分の言葉に引き寄せてから納得する。調味料に地元の味噌を持ち出すのと同じ手つきで、信仰の話まで扱っているのが面白い。
徒歩5時間が、1時間になる
ギルドマスターからの注意は「体力配分に気をつけてください」で、源泉までは起伏を繰り返しながら5時間歩くことになると告げられる。それに対してヴィルの返事が「それは多分大丈夫だ」というだけなのが可笑しい。
種明かしはもちろんキャンピングカーで、リンの見立てでは「徒歩で5時間なら、おそらく1時間くらいで行けると思いますよ」。この作品の主人公のスキルは、戦闘力ではなく移動と生活の質そのものだと、こういう場面で分かる。役立たずと言われて追放されたスキルが、依頼の可否を左右している。今回は車での移動場面がしっかり描かれていて、そこも嬉しかった。
まとめ|副題の「両方とも大好きだ!」が、この回の全部を説明している
今回の公式サブタイトルは「煮込み&イクラ『私とあの子、どっちを選ぶの!?』米『両方とも大好きだ!』」という長いものだ。選べと迫られて、選ばずに全部取るという宣言になっている。この回で起きたことは、全部この形をしていた。
答えるのが米だという構造が効いている
野営の夕食は、魔物の肉と野菜の煮込みと、釣った魚から取れた黄金のイクラだ。リンの実況が「赤身があふれて濃厚な旨味が口いっぱいに広がるのに、臭みはみじんもない」と続き、決め手が「臭みをご飯がしっかりと受け止め、さらにイクラの塩味がご飯の甘さを引き出す」になる。
つまり煮込みとイクラのどちらを選ぶかという問いに、米が両方受け止めると答えている。副題が三者の掛け合いの形になっているのは、そのまま食べ方の説明だったわけだ。おかずを競わせるのではなく、下に敷いた米がどちらも成立させる。この作品の食事の描き方が、副題一行に圧縮されていると思った。
「リンがいなかった頃は地獄だった」
移動中の雑談で、パーティーの過去の食事事情が語られる。「リンがいなかった頃は地獄だった」から始まって、「下手したらクエストこなした晩のご飯が一番のクエストだったりしましたからね」「いやすぎて、最近は日帰りの依頼しかしなくなってたもんね」と続く。
これは笑い話の形をしているが、内容は重い。食事がまずいという理由だけで、受ける仕事の範囲が狭まっていたということだからだ。飯番が一人加わったことで、このパーティーは泊まりがけの依頼を受けられるようになった。だから「もうリンは欠くべからざるパーティーメンバーだ」も「我々にとってリンは天からの贈り物です」も、誇張ではなく実務の話になっている。
そう考えると、今回わざわざ危ない依頼を受けたのも筋が通る。食べ物のために遠出できるようになったパーティーが、食べ物のために遠出している。動機と能力が同じ場所から出ているので、無茶に見えて実は一貫している。
古い言い伝えが、そのままラストの答え合わせになる
山中での食事も、リンらしい作り方だった。蒸気の吹き出す穴を蒸し器の代わりに使い、ソースには「私の地元の醸造所さんの田舎味噌」と「これまた地元温泉名物の七味唐辛子」を合わせる。本人の言葉で「今回の料理は、異世界と私の地元の温泉コラボってことになりますかね」だ。訪れた土地の名物が食べられなかった回に、自分の土地の温泉の名物を持ち出しているのが効いている。
そしてラストだ。「待て、リン、一人で出るな」「ここは魔物が出るんだぞ」と止められた直後に、リンが温かい湯の中で「ちょっとイオウ臭いけど、すごく気持ちいいんだけど」とつぶやいている。危ないと言われた場面と、のんきな感想が同時に流れる。そこへ古めかしい言葉づかいの声が届き、「随分と泥臭い娘じゃ」で第8話が終わる。
誰の声かは明かされないが、直前に説明された言い伝えを踏まえれば、読み方はひとつに絞られてくる。むやみに踏み込んではいけない場所で、乙女が何かに出会うという筋書きは、この街が古くから語り継いできたものだった。公式のあらすじも締めくくりに「これがまさかあんなことになろうとは、誰も思わなかったのです」と書いている。食べたい一心で登った山で、伝承のほうが先に待っていたわけだ。次回、この出会いがどちらに転ぶのかを見届けたい。











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